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第五章:「大陸到着」

第59話 「成長する最弱」

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 あれから建物を離れた俺達は、冒険者ギルドを探した。

街が大きい為か、中々探すのに手間取ってしまった。

「それにしても街自体が大きいな」

「ふふっ、そうだな」

先程の暗い表情は消えて、普段の明るい表情に戻っている。

港から反対側の街の正門に、冒険者ギルドを見付けた。

看板には

『オルドヌング帝国随一の冒険者ギルド!』と書いている。

扉を開けて中に入ると、看板に書かれていた通り。

かなりの人で賑わっている。


俺達は受付カウンターにまで行き、少女に話し掛けた。
とても快活で笑顔が似合う。
髪は金髪のショートヘアで、かなり整った顔立ちだ。

「いらっしゃい!」

「少し伺いたい事があるんですが」

「はいっ!どうなさいましたか?依頼ですか?」

「いえ、大陸に聳え立つ塔についてなのですが…」

そう言うと彼女は先ほど元気が無くなると、辺りをキョロキョロと見渡すと
俺に耳元で囁いた。

(あの場所は辞めておいた方が良いと思います。幾多の猛者が諦める状況に追い込まれているんです)

彼女の言っている事は分かる、実際ファルシア程の『X線』が帰らざるを得ない状況に
なったんだ。
生半可な気持ちで攻略出来る場所では無いのは、重々承知だ。

「そこを何とか…」

「ううん…」

そう言って彼女は腕を組み、頭を傾げて考え込んでいる。

「行き方は教えますど…」

「けど?」

「実は最近戦争により、もしかすると塔周辺にも兵が集まり、立ち入る事が出来ないかも知れません…」

そうだったのか…
だが、何とかして立ち入る事は出来ないのだろうか。

「そしてどうやら塔の最上階には、何か凄い物があるって言う噂で…
 私達の国もそうですが、相手の国も躍起になり、上り詰めようとしているんです…」

――もしかしたら、戦争が有利に運べる物があるのではないかと――

そうだったのか。
だが、ここで諦める訳にはいかない。
それにどんな状況か実際に見に行ってみなければ。

「そうですか…」

「はい…ですがそれでも行くなら…確か西の隣国に向かうように行くと、砂漠の塔について知っている人も多いと思います…詳しくはそこの人達に訊くしか…」

「そうですか、わざわざありがとうございます」

「いえ、お気をつけて」

話を聞いた俺達は、冒険者ギルドを後にした。

「ふふっ、これからどうするんだ?」

そう言って微笑み掛けるバルバラに、頭を抱えた。

どうしようか。

「とりあえず、隣の国に向かい始めよう。
途中に街もあるだろう。」

「ふふっ、そうだな?」

そんな会話をしていたら、何やら後ろで呼び止める声が聞こえた。

――そこのお前!!

俺はそんな声に振り向くと、腰に剣を携えた一人の男性が立っていた。

「どこに行く?」

「隣の国まで…」

俺はそう答えて、前を向き直し再び歩き始めた。

「待て…お前あの術者大会に出ていただろう?」

男性の言葉に、俺は思わず足が止まった。

どうして知っているんだ?

「なぜそれを?」

男性は不敵な笑みを浮かべると話を始めた。

「あれだけの大規模な大会だ…他の国からでも見に来る者は居るだろう?」

――どうだ?お前の実力を持って我が国を勝利に導かないか?――

唐突な申し出に俺は驚き、思わずバルバラを見た。
バルバラも同じくこちらを見ると
静かに微笑んだ。

バルバラの表情に俺も微笑むと、首を横に振り断った。

「申し訳ないが、俺は最弱の召喚士だ。それに今は冒険の途中だ」

そう言って俺は再び歩き始めた時。

――考える事すらしないんだな…ならば考えれる様にしてやろう――

俺は咄嗟に振り向いた。

すると男性は、携えていた剣を抜き、俺の方に走って来た。

目を殺気立たせ、男性の雄たけびが耳に響く。
俺は後ろに下がって間合いを取った瞬間。

俺の顔を見て、嘲笑すると今度は剣先をバルバラの方に向け走り出した。

「危ない!!」

咄嗟に腕を伸ばしてバルバラの足元に手をかざした。

バルバラの足元には、今までに無い程の速さで、混ざり合った紋章が浮かび上がったのも刹那。

弾くような高い金属音が鳴った。

その紋章から出て来たのはファルシアと同じ『騎士』だが…
あの時の「騎士」とは違う…!?

そこには、『漆黒』の鎧を身に纏い、持っている剣は炎が刀身に絡まるかの様にして燃え盛っている。
そして鎧の肩の部分には、混ざり合った紋章が描かれている。

騎士は男性の斬撃を弾いた直後、剣を地に向けて振り払うとすぐさま構え直し。

男性を、追い詰める様に一歩づつ、にじり寄って行く。

――焔黒えんこくの騎士…!?――

にじり寄られている男性は先ほどの威勢は消え去り。
恐怖からか、剣を持っている手が震えている。

「こ、こんな物まで…」

そう言った瞬間。

焔黒の騎士は男性の剣を弾き飛ばし、首元に剣を突き付けた。
戦意消失した男性は、もう両手を上げる事しか出来ない。

その様子に俺は驚いて固まっていると、『何か』が頬をかすめていった。

振り向いた視線の地面には、先程男性が持っていた『剣』が地面に突き刺さっている

――もう良い!!――

声のする方を見ると、最初の少年兵士が老人を連れて立っていた。

「そいつを離してくれないだろうか?」

焔黒の騎士は俺を見つめると、それに答えるかのように俺は頷いた。
首元に突き付けた剣を下すと、再度剣を振り払って鞘に納めた。
そして足元に紋章が広がると、その中に姿を消して行った。

騎士が姿を消しても、未だに男性は動く事さえ出来ない。
しばらくして安堵からか、地面に力なくへたり込んでしまった。

「申し訳ない、私の部下が迷惑をかけた」

部下?
なら俺とバルバラを襲わせたのも、この少年の命令だろうか?

「全てお前の命令か?」

「いや、私は『をして来い』と言っただけだ、それ以上の事は知らない」

そう言って彼はとぼける仕草をした。

上官であるこの少年に、釘を刺しておけばこれから先、『安全』とは言い切れないが、しばらくは大丈夫だろう。

「俺は兵士にならない、それが答えだ。あとバルバラに手を出そうとしないでくれ」

「……」

少年は静かに俯いたまま、男性に近寄ると、怪我の確認をし始めた。

俺はその姿を尻目に、再びバルバラと歩き始めた。
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