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第一章:最弱伝説:始動
第0話:「プロローグ」
しおりを挟む俺は最弱だ、今年もいつもの様に召喚者昇級試験を受けたが、受け始めてからすべての成績は『F』だ。
『F』というのは最低成績だ、すなわち合格する見込みさえない。
それに俺の夢は、勇者に仕えて色々な所を『冒険』して『魔王』を倒す。
という夢を抱いていたのだが、今は最初の街から出る事も出来ない程弱い。
この俺が唯一召喚出来る魔物、それは「スライム」だけ。
どうしてまたスライムだけなんだよ。
俺はそんな事を、召喚士昇級試験会場の入り口で、不合格が書かれた紙を持って佇んで思っている。
――家に帰って練習しよう
自然に歩みを進める足が重い。
家系は全員名高い召喚士、なのにどうして俺だけこんなにも弱くなってしまったんだろうか。
もしかすると、俺は実の子供ではないのか?それか神の気まぐれで遺伝子に些細な間違えが生じてしまったのか?
そんな事、考えていたら豪華な家に着いた。
大きな門の中央部分には家紋が描かれ、その横には護衛の者が立っている、家に至るまでの中庭はそれを貫く様にして石畳が引いている。
俺が自慢できると言えば、「家」と「家系」ぐらいしかないな。
いや、待て。その家系に俺は含まれてなかったら…やめよう、これ以上考えても暗くなるだけだ。
例え本当の子供では無かったらそれは、それで納得が出来る。
そんな考えを遮る様にして門番が話掛けて来た。
「お帰りなさいませ、今回のテストは如何ほどでしたか? 」
毎年、毎年こんな事を訊かれたらさすがに俺も辛い。
悪気は無くて訊いて来るのを分かっている分、余計だ。
「…ダメだった」
「左様でございましたか…来年はきっと受かりますよ」
「うん…」
この会話自体が既に辛い、門番の言う通りだ。来年こそは昇級試験に受かって見せる。
俺は自室の部屋に立っている洋服掛けに、黒地に襟淵だけが金色、そして左袖には階級を示す「赤い三本線」
右腕には家紋が描いてるローブを掛けた。
そして訓練室に向かった。この部屋は周りの部屋と比べ、召喚した「魔物」に対抗できるような作りになっている。
例え、その魔物が暴れても、この部屋からは出れない。
建設時に魔導士に頼んで、特殊な保護魔法を掛けて貰った鉄製の扉だ、窓も同じだ。
部屋の中央部分には腰ぐらいの鉄製の柵が、正方形に組まれており、その中に魔物を召喚する。
訓練室の隅の方には本棚が置かれており、ここで本を読みながら勉強に励むことが出来る。
貴重な文献だ、仮に壊されても「複製魔法」で作られたコピーだから大丈夫だ。
俺も「召喚士」じゃなくて「魔導士」の方が良かったかな…
でも俺みたいな能力の無いものは結局、どこの職業についてもうまくは行かないだろう。
そろそろ召喚しようか。
そう思い本棚に向かった、手に取ったのは俺のご先祖様が書いた。
「召喚教本」
最近、この本を見つけてからというもの、とても分かりやすくて重宝している。
俺は本を開き、目次を見た。
ここで気になるものを見つけた。目次には「魔物」の名前が普通は載っているのだが、今見つけているのはすべて
「???」になっている。
俺は気になり、そのページを開いてみた。
召喚方法は意外と簡単だ。これは俺でもなんとか出来そうだな。
俺はこの時、昇級試験の科目である。「ゴブリン」のページを開くつもりだったが、今ではこの「???」を召喚したい好奇心が俺を支配している。
俺は書いている召喚図を掌にそっと当てて、体に覚えさせる。
そして体に覚えさせた後は、今度は図形を間違えることなく記憶する。
(よし、これで整った)
俺は部屋の中央部分に行き地面に手を当てて、念を込める。
次第に手が青白い光を放ち、そこで手を離す。
地面には掌サイズの先ほどの「図形」が光を弱い明滅を繰り返した後に、光続ける。
(成功した!)
そして、召喚する魔物の大きさに合わせて図形は急速に広がった。
徐々に地面から現れる。
ん?なんだこれは?
地面から出て来たのは、腰まで垂らした黒髪に赤い眼をした美女だった。
それに背が高い。
「私を召喚したのは誰かしら?」
俺は驚きのあまり言葉を発せずに、後ずさりするしかなかった。
美女はこちらに視線を向けると、にじり寄るかの様に一歩、また一歩と歩みを進める。
とうとう背中が壁に当たってしまった。
「あなたかしら?私を召喚したのは」
「は、はい…」
まるで舐め回す様に俺を見ると美女はこう言った。
「ふ~んよろしくね…私は『魔王』」
そう微笑み掛ける美女に、俺は視線を合わせる事が出来なかった。
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