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第二章 ロウと一緒(現在)
二十五、ロウの事情
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ロウはしばらく何かを考えたあとに、ポツリポツリと話し始めた。
「僕はゾエスト王国の第一王子なんだ」
「は? 王子様?」
「うん。本当の名前はロウェルっていうの」
「ロウェル……」
ロウが王子様……。確かにここに逃げてきたときの服はボロボロだったけど、貴族が着ているような質のいい服だった。
新聞に書いてたけどゾエスト王国って……
「ゾエストの王太子候補は第二王子が有力だって新聞で読んだけど。第一王子は体が弱くて病床にあるって……あれ嘘?」
私の言葉にロウが苦笑する。
「体が弱い、か。確かに幼いころから何度も暗殺されかけてたから。毒で寝込んだこともよくあったね」
「……なんだって?」
こんな子供を排除しようとするなんて信じられない。
「毒、闇討ち、事故に見せかけてとか……」
「……よく今まで生きてたね」
「自衛の手段は身に付けてるから」
「でも子供なんだからっ……」
こんな幼い子どもが、どんなに殺伐とした日々を送ってきたことだろうと思うと胸が痛くなる。
「あの、えと……」
「うん?」
「ううん……。ここに逃げ込む前に僕を追っていたのは第二王子の派閥の暗殺者なんだ」
「派閥……そんなもののために殺されかけたっていうの?」
「うん。僕は側妃の子なんだ。第二王子は正妃の子で僕の派閥よりも強い。このままいけば王太子になる僕が邪魔なんだろうね」
「酷い……」
「うん、酷いよね」
命より大事なものがあるわけない。王太子だか王だか知らないけどそんなもののために人を殺そうとするなっての。胃の上の辺りがムカムカする。
「ロウは国王になりたい?」
「うーん……。国民が幸せに暮らせるなら誰が国王でもいいけど、もしそうじゃないなら僕が何とかしたいと思うかも。今はまだ父の治政だからね」
なんていい子なんだろう。ロウが国王になったらゾエストはきっと平和な国になるよ、うん。
でも命の危険に曝されてまでって思ってしまう。私が甘いのかな……。
「ねえ、ロウ。君さえよければずっとここにいなよ」
「え?」
「ここにいれば安心だよ。命は何より大事なんだから、生き延びたらきっとチャンスは巡ってくるよ」
「……本当にいいの?」
「いいに決まってる。あ、そうだ。ロウに紹介したい子がいるんだ。こっちに来て」
私は首を傾げるロウの手を引いて畑へと連れていくことにした。畑へ行く前に家の外へ出た瞬間、ロウが驚いたように声をあげた。
「う……わ……。本当に森の中だ……。窓から見て知ってはいたけど、実際に外に出てみると街なんて欠片も見えない。周りは木ばっかりだ」
ロウが目を丸くして周りを見渡している。凄く驚いているようだ。
「うん、だから言ったでしょ。あの店の扉だけが違う場所に繋がるんだよ」
「そう、だね……。うん。なんか実感できた」
ロウがしみじみと呟く。私は畑に向かって呼びかけた。
「ムーさん、新しい同居人が来たから紹介するよ。出てきてー」
畑に向かって叫ぶ私を、ロウが不思議そうな目で見る。
しばらくすると寝ぼけまなこのムーさんが光と一緒に現れた。
「ふわあぁ~……。うん、この子だ~れ?」
ムーさんを見てロウが驚いたように目を瞠って固まった。騎士のベルトホルトさんと同じようなリアクションに少し笑ってしまった。
私はムーさんにロウの紹介を始める。
「うんとね、この子はロウェルっていうの。ゾエスト王国の王子様だよ。この家に匿うことにしたから、ムーさんも守ってあげてね」
「うん、分かった~」
ムーさんの返事を聞いてほっとする。受け入れてもらえてよかった。ここは私だけの家じゃないから。
次にロウのほうを向いてノームさんの紹介をする。
「ロウ、この子は大地の精霊ノームさんだよ。この家と森の管理人?みたいなものなのかな? 仲良くしてあげてね」
「精霊……さま……。あっ、ロウェルと言います。お世話になります」
やっぱりこの世界の人たちにとって精霊は特別な存在みたいだ。精霊と言った途端に、ロウが恐縮したように身構えた。
「ボクはノームだよ~。さまは要らないよ~。よろしくね~、ロウ」
「よろしくお願いします、ノーム……さん」
何この可愛いツーショット。写真にとって額に飾りたい。眼福眼福。
顔には出していないつもりだけど、心の中では萌えまくってしまった。だって二人とも可愛いんだもの!
ムーさんを居間へ呼んで私たちは三人で話をすることにした。ロウをここに匿うって宣言したけど、よく考えてみたらロウは本当にここに隠れていることを望んでいるんだろうか。急に心配になってきた。
「ねえ、ロウ。さっきはここにいなよって言ったけど、何かやりたいことがあったりする?」
「あ……、うん。実は僕は呪いにかかっていて……」
「の、呪い!?」
えっ、初耳なんだけど……。なんだろう、呪いって。藁人形に五寸釘とか……? それともファンタジー的な呪いのアイテムを装備して外れなくなっちゃったとか?
そんなことを考えながら、この世界は本当に異世界なんだなとつくづく思った。
「僕はゾエスト王国の第一王子なんだ」
「は? 王子様?」
「うん。本当の名前はロウェルっていうの」
「ロウェル……」
ロウが王子様……。確かにここに逃げてきたときの服はボロボロだったけど、貴族が着ているような質のいい服だった。
新聞に書いてたけどゾエスト王国って……
「ゾエストの王太子候補は第二王子が有力だって新聞で読んだけど。第一王子は体が弱くて病床にあるって……あれ嘘?」
私の言葉にロウが苦笑する。
「体が弱い、か。確かに幼いころから何度も暗殺されかけてたから。毒で寝込んだこともよくあったね」
「……なんだって?」
こんな子供を排除しようとするなんて信じられない。
「毒、闇討ち、事故に見せかけてとか……」
「……よく今まで生きてたね」
「自衛の手段は身に付けてるから」
「でも子供なんだからっ……」
こんな幼い子どもが、どんなに殺伐とした日々を送ってきたことだろうと思うと胸が痛くなる。
「あの、えと……」
「うん?」
「ううん……。ここに逃げ込む前に僕を追っていたのは第二王子の派閥の暗殺者なんだ」
「派閥……そんなもののために殺されかけたっていうの?」
「うん。僕は側妃の子なんだ。第二王子は正妃の子で僕の派閥よりも強い。このままいけば王太子になる僕が邪魔なんだろうね」
「酷い……」
「うん、酷いよね」
命より大事なものがあるわけない。王太子だか王だか知らないけどそんなもののために人を殺そうとするなっての。胃の上の辺りがムカムカする。
「ロウは国王になりたい?」
「うーん……。国民が幸せに暮らせるなら誰が国王でもいいけど、もしそうじゃないなら僕が何とかしたいと思うかも。今はまだ父の治政だからね」
なんていい子なんだろう。ロウが国王になったらゾエストはきっと平和な国になるよ、うん。
でも命の危険に曝されてまでって思ってしまう。私が甘いのかな……。
「ねえ、ロウ。君さえよければずっとここにいなよ」
「え?」
「ここにいれば安心だよ。命は何より大事なんだから、生き延びたらきっとチャンスは巡ってくるよ」
「……本当にいいの?」
「いいに決まってる。あ、そうだ。ロウに紹介したい子がいるんだ。こっちに来て」
私は首を傾げるロウの手を引いて畑へと連れていくことにした。畑へ行く前に家の外へ出た瞬間、ロウが驚いたように声をあげた。
「う……わ……。本当に森の中だ……。窓から見て知ってはいたけど、実際に外に出てみると街なんて欠片も見えない。周りは木ばっかりだ」
ロウが目を丸くして周りを見渡している。凄く驚いているようだ。
「うん、だから言ったでしょ。あの店の扉だけが違う場所に繋がるんだよ」
「そう、だね……。うん。なんか実感できた」
ロウがしみじみと呟く。私は畑に向かって呼びかけた。
「ムーさん、新しい同居人が来たから紹介するよ。出てきてー」
畑に向かって叫ぶ私を、ロウが不思議そうな目で見る。
しばらくすると寝ぼけまなこのムーさんが光と一緒に現れた。
「ふわあぁ~……。うん、この子だ~れ?」
ムーさんを見てロウが驚いたように目を瞠って固まった。騎士のベルトホルトさんと同じようなリアクションに少し笑ってしまった。
私はムーさんにロウの紹介を始める。
「うんとね、この子はロウェルっていうの。ゾエスト王国の王子様だよ。この家に匿うことにしたから、ムーさんも守ってあげてね」
「うん、分かった~」
ムーさんの返事を聞いてほっとする。受け入れてもらえてよかった。ここは私だけの家じゃないから。
次にロウのほうを向いてノームさんの紹介をする。
「ロウ、この子は大地の精霊ノームさんだよ。この家と森の管理人?みたいなものなのかな? 仲良くしてあげてね」
「精霊……さま……。あっ、ロウェルと言います。お世話になります」
やっぱりこの世界の人たちにとって精霊は特別な存在みたいだ。精霊と言った途端に、ロウが恐縮したように身構えた。
「ボクはノームだよ~。さまは要らないよ~。よろしくね~、ロウ」
「よろしくお願いします、ノーム……さん」
何この可愛いツーショット。写真にとって額に飾りたい。眼福眼福。
顔には出していないつもりだけど、心の中では萌えまくってしまった。だって二人とも可愛いんだもの!
ムーさんを居間へ呼んで私たちは三人で話をすることにした。ロウをここに匿うって宣言したけど、よく考えてみたらロウは本当にここに隠れていることを望んでいるんだろうか。急に心配になってきた。
「ねえ、ロウ。さっきはここにいなよって言ったけど、何かやりたいことがあったりする?」
「あ……、うん。実は僕は呪いにかかっていて……」
「の、呪い!?」
えっ、初耳なんだけど……。なんだろう、呪いって。藁人形に五寸釘とか……? それともファンタジー的な呪いのアイテムを装備して外れなくなっちゃったとか?
そんなことを考えながら、この世界は本当に異世界なんだなとつくづく思った。
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