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第一章 異世界に来ました(一年前)
二十、ジュワっとカレーパン
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朝起きて早速カレーパンを作ることにする。中身のカレーは昨夜のうちに作っておいた。
パン生地の材料は小麦粉、砂糖、塩、バター、ドライイーストだ。これをボウルに入れて水を入れて捏ねて、纏まってきたら台に移して、掌の下のほうで伸ばして折ってを繰り返しながら捏ねる。グルテンの薄い膜ができたら捏ね終わりだ。
生地をボウルに入れて一次発酵させる。あとはボウルを湿度の多い温かいところに置いておくだけだ。
「要は乾燥させないように温かくすればいいんだよね」
日本では発酵器なるものもあるが、ハルの家にはなかったので天板が入る大きさのトロ箱を使っていた。トロ箱というのは発泡スチロールの蓋つきの箱だ。大きな魚が入っているあれである。
一次発酵のときはトロ箱に熱湯の入ったマグカップとボウルを一緒に入れておいた。二次発酵のときは成形した生地を天板に載せてトロ箱に入れ、空いてる所に熱湯の入ったマグカップを置いておいた。季節で調整する必要はあるけれど。
中の温度はイーストさんが喜ぶ温度、三十度前後くらいでいい。でもこの世界にはトロ箱がないから……
「オーブンの天板にボウルを載せて、下のほうに熱湯のカップを置いておこう」
薪オーブンだから保温性はない。今は結構冷えるし、カップは多めに置いておくことにしよう。途中で開けたら一気に温度が下がっちゃうからね。温度管理ができないのが残念だけど。
一次発酵をしている間に、朝受け取りに行ってきたできたばかりのゴム判を紙袋に押していく。ぺったん、ぺったん……。
「ウメ~~」
何をしているのだろうと興味深そうに近付いてきたムーさんが、きらきらと目を輝かせて私の手元を見ている。
「なにそれ~! おもしろそ~。ボクもやりた~い」
「ああ、うん、言うと思ってた。助かるよ。掠れないようにうまく押していってね」
「分かった~」
何か心配だなぁ。こういうのって大体最初は上手くできないんだよね。そうだ、新聞紙で練習させればいいじゃん。
「ムーさん、ほら、こっちの紙に……」
「わぁ~い! 面白~い!」
ぺったん、ぺったん、ぺったん……。一足遅かった。すでにムーさんは楽しそうに紙袋にゴム判を押している。
……喜んでもらえて何よりだ。上手くできるか心配だったけど、ムーさんは私より上手にゴム判を押している。何となく負けた気分だ。でもこんなふうに仕事を手伝ってもらえるなんてとても助かる。
「手伝ってくれて、ありがとう。ムーさん」
「どぉいたしまして~」
紙袋はムーさんに任せてパン生地を見てみる。いい感じに生地が膨れている。上手く発酵が済んだみたいだ。
生地を取り出して軽く手で押してやる。中のガスを抜いたら四十グラムくらいに分割する。生地を傷めないようにナイフで切る。
分割した生地を、切り口を中にしまい込むようにして丸める。グルテンの膜を破らないように優しく扱う。そして台の上に並べて上から固く絞った布をかけて休ませる。ベンチタイムというやつだ。
二十分くらいしたら丸い生地を棒で伸ばしてカレーを載せていく。そして半分に折ってしっかりと閉じていく。
「なんかちょっと餃子づくりっぽい」
ああ、餃子も今度作ってみたいなぁ。でも味の濃いオカズにはやっぱりご飯が欲しい……。米、ぷり~ず……。
成形したものをさっと水にくぐらせて表面にパン粉を付けていく。パン粉はどうしたかって? 作っておいたパンを細かく摩り下ろせばパン粉の出来上がりだ。別に勿体なくなんかないんだからね……。
天板に渇いた布を敷いて、その上にパン粉だらけのブツを並べていく。全て並べたら上に布をかけてしばらく置いて発酵させる。中身が多いカレーパンは皮が少し膨れればいいので時間は短くてもいい。三十分くらいだ。
ひと回り大きく膨れたら、ブツを油で揚げていく。いい感じの狐色になったら完成だ。
「じゅわっとカレーパンの出来上がり!」
「わあっ、ボクも食べていい?」
「いいよ。ムーさんはいっぱい手伝ってくれたもんね」
「やった~!」
ムーさんがすごく嬉しそうだ。そんなムーさんを見ると私も嬉しい。ムーさんがカレーパンに一口齧りついて目をきらきらさせる。
「なにこれ~。昨夜食べたカレーよりも美味しい~」
「カレーは二日目が美味しいと言いますからね」
とはいえ、時間停止の魔法のストッカーに置いていたから作り立てと変わらないんだけど。やっぱり商品にするから衛生的には時間を置かずに仕上げたい。
「そうなんだ~。外がカリカリしてるのもジュワってするのも美味しいね~」
「喜んでくれてよかった。これならこの世界の人にもいけるかな?」
「いけるいける~」
ムーさんの返事が軽すぎてあまり信用できないけれど、作ったものは売るしかない。カレーパン作りを繰り返して、お昼前までには五十個のカレーパンが出来上がった。
移動販売をしないといけないかと思っていたら、今朝、野菜屋のおばさんが露店の屋台の貸し出しを申し出てくれた。とてもありがたい。さすがに肩に吊るして歩くのはつらいと思っていたから。
実は昨日の夜のうちにクリームパンとバターロール、ココアクッキーと胡桃入りパウンドケーキも作っておいた。屋台が借りれるならたくさん売ったほうがいいよね。
「それじゃあ、露店販売に出かけてくる」
「いってらっしゃ~い」
私はたくさんのパンとお菓子を紙袋に入れて店を出た。
――いざ出陣!
パン生地の材料は小麦粉、砂糖、塩、バター、ドライイーストだ。これをボウルに入れて水を入れて捏ねて、纏まってきたら台に移して、掌の下のほうで伸ばして折ってを繰り返しながら捏ねる。グルテンの薄い膜ができたら捏ね終わりだ。
生地をボウルに入れて一次発酵させる。あとはボウルを湿度の多い温かいところに置いておくだけだ。
「要は乾燥させないように温かくすればいいんだよね」
日本では発酵器なるものもあるが、ハルの家にはなかったので天板が入る大きさのトロ箱を使っていた。トロ箱というのは発泡スチロールの蓋つきの箱だ。大きな魚が入っているあれである。
一次発酵のときはトロ箱に熱湯の入ったマグカップとボウルを一緒に入れておいた。二次発酵のときは成形した生地を天板に載せてトロ箱に入れ、空いてる所に熱湯の入ったマグカップを置いておいた。季節で調整する必要はあるけれど。
中の温度はイーストさんが喜ぶ温度、三十度前後くらいでいい。でもこの世界にはトロ箱がないから……
「オーブンの天板にボウルを載せて、下のほうに熱湯のカップを置いておこう」
薪オーブンだから保温性はない。今は結構冷えるし、カップは多めに置いておくことにしよう。途中で開けたら一気に温度が下がっちゃうからね。温度管理ができないのが残念だけど。
一次発酵をしている間に、朝受け取りに行ってきたできたばかりのゴム判を紙袋に押していく。ぺったん、ぺったん……。
「ウメ~~」
何をしているのだろうと興味深そうに近付いてきたムーさんが、きらきらと目を輝かせて私の手元を見ている。
「なにそれ~! おもしろそ~。ボクもやりた~い」
「ああ、うん、言うと思ってた。助かるよ。掠れないようにうまく押していってね」
「分かった~」
何か心配だなぁ。こういうのって大体最初は上手くできないんだよね。そうだ、新聞紙で練習させればいいじゃん。
「ムーさん、ほら、こっちの紙に……」
「わぁ~い! 面白~い!」
ぺったん、ぺったん、ぺったん……。一足遅かった。すでにムーさんは楽しそうに紙袋にゴム判を押している。
……喜んでもらえて何よりだ。上手くできるか心配だったけど、ムーさんは私より上手にゴム判を押している。何となく負けた気分だ。でもこんなふうに仕事を手伝ってもらえるなんてとても助かる。
「手伝ってくれて、ありがとう。ムーさん」
「どぉいたしまして~」
紙袋はムーさんに任せてパン生地を見てみる。いい感じに生地が膨れている。上手く発酵が済んだみたいだ。
生地を取り出して軽く手で押してやる。中のガスを抜いたら四十グラムくらいに分割する。生地を傷めないようにナイフで切る。
分割した生地を、切り口を中にしまい込むようにして丸める。グルテンの膜を破らないように優しく扱う。そして台の上に並べて上から固く絞った布をかけて休ませる。ベンチタイムというやつだ。
二十分くらいしたら丸い生地を棒で伸ばしてカレーを載せていく。そして半分に折ってしっかりと閉じていく。
「なんかちょっと餃子づくりっぽい」
ああ、餃子も今度作ってみたいなぁ。でも味の濃いオカズにはやっぱりご飯が欲しい……。米、ぷり~ず……。
成形したものをさっと水にくぐらせて表面にパン粉を付けていく。パン粉はどうしたかって? 作っておいたパンを細かく摩り下ろせばパン粉の出来上がりだ。別に勿体なくなんかないんだからね……。
天板に渇いた布を敷いて、その上にパン粉だらけのブツを並べていく。全て並べたら上に布をかけてしばらく置いて発酵させる。中身が多いカレーパンは皮が少し膨れればいいので時間は短くてもいい。三十分くらいだ。
ひと回り大きく膨れたら、ブツを油で揚げていく。いい感じの狐色になったら完成だ。
「じゅわっとカレーパンの出来上がり!」
「わあっ、ボクも食べていい?」
「いいよ。ムーさんはいっぱい手伝ってくれたもんね」
「やった~!」
ムーさんがすごく嬉しそうだ。そんなムーさんを見ると私も嬉しい。ムーさんがカレーパンに一口齧りついて目をきらきらさせる。
「なにこれ~。昨夜食べたカレーよりも美味しい~」
「カレーは二日目が美味しいと言いますからね」
とはいえ、時間停止の魔法のストッカーに置いていたから作り立てと変わらないんだけど。やっぱり商品にするから衛生的には時間を置かずに仕上げたい。
「そうなんだ~。外がカリカリしてるのもジュワってするのも美味しいね~」
「喜んでくれてよかった。これならこの世界の人にもいけるかな?」
「いけるいける~」
ムーさんの返事が軽すぎてあまり信用できないけれど、作ったものは売るしかない。カレーパン作りを繰り返して、お昼前までには五十個のカレーパンが出来上がった。
移動販売をしないといけないかと思っていたら、今朝、野菜屋のおばさんが露店の屋台の貸し出しを申し出てくれた。とてもありがたい。さすがに肩に吊るして歩くのはつらいと思っていたから。
実は昨日の夜のうちにクリームパンとバターロール、ココアクッキーと胡桃入りパウンドケーキも作っておいた。屋台が借りれるならたくさん売ったほうがいいよね。
「それじゃあ、露店販売に出かけてくる」
「いってらっしゃ~い」
私はたくさんのパンとお菓子を紙袋に入れて店を出た。
――いざ出陣!
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本作をお読みいただき、ありがとうございます!
お知らせです!
過去編のエピソードを追記させていただきました。
そのため、現代編の『パンとお菓子の店すきま家』と『魔法の手』を一旦非公開とさせていただきました。過去編のエピソードの投稿が全て終わりましたらすぐに公開させていただきます。
5話までお読みの読者様には大変紛らわしい思いをさせてしまって申し訳ありません。
大幅な構成の変更となりますが、どうかご容赦くださいませ。
なお、本編のあらすじには変更はありませんのでご安心ください。
時間のあるときに書き溜めていた小説を、一話ずつ公開していきます。
ストックが切れるまでは毎日投稿させていただきます。
ご感想、ご意見、このキャラクターが好き! などのメッセージをいただけますと、筆者は大変励みます。
時間の許す限りは返信もさせていただきます。
これからも読者様に喜んでいただけるお話を書いていきたいと思います。応援、よろしくお願いします。
■こちらも連載中■
異世界で恋愛とお菓子作り 『嫌われたいの ~好色王の妃を全力で回避します~』
■春野こもものアルファポリス掲載中の小説はこちら■
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