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第一章 異世界に来ました(一年前)
十八、紙袋と新聞
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紙袋の注文をするために雑貨店へやってきた。相変わらず店内がごちゃごちゃしている。今地震が来たら棚の下敷きになって死ぬ自信がある。
「こんにちは」
「いらっしゃい。ああ、この間の……」
お兄さんが私の顔を見て思い出してくれたようだ。にっこりと笑ってくれた。
「梅といいます。ここにお店用の紙袋って置いてますか?」
「既製品でよければ安くで置いてるよ。小袋十リム、中袋二十リム、大袋三十リムだ」
「あのー……店の名前を印刷してもらったらどれくらいかかりますか?」
ウメは思い切って尋ねてみた。さっき野菜を売ったので、所持金が五千リム以上はある。
「んー、印刷する袋の数で単価は変わるけど、いくつ必要なの?」
「えと、とりあえず中袋を三百くらいかな……」
「インク一色でいいんだよね。それだと……単価百二十リムかな」
――うっ、たかっ!
「ひゃくっ。三百個だと三万六千リム……無理。数を減らすのは……」
「図版を作るのにコストがかかるからね。減らしても単価が高くなるだけだよ」
思ったよりも素敵なお菓子屋さんの紙袋への道は遠そうだ。でもお店の名前は入れたい。どうしたらいいんだろう……
腕を組んでうーんうーんと唸っていたら、お兄さんが声をかけてきた。
「そんなに量がいらないんだったら、スタンプ台を買って手作業でゴム判を押せばいいんじゃない?」
「ゴム判? いくらでできるんですか?」
「うちで請け負ってるのは大体二千リムからだね。シンプルな内容なら最低金額でしてあげるよ。時間は二日くらい貰うことになるからね」
「シンプルです、シンプル! よろしくお願いします!」
「ハハッ。その代わりお得意さんになってね。……はい、これに原稿書いて」
「ありがとうございます!」
原稿はお店の名前と隙間の入り口の場所を書いておいた。私は原稿を書きながらお金の計算をしてみた。
スタンプ台が五百リムだから、ゴム判加工と合わせて二千五百リムか。お金全部使いきりたくはないから……中袋八十枚を足すと四千百リムだ。これなら千リムとちょっとは残るから大丈夫だ。
「オレンジ色のスタンプ台とゴム判の加工と中袋八十枚ください」
「全部で四千百リムだ」
「……はい、どうぞ」
「……ちょうどだね、ありがとう。これ、ゴム判の引換券ね。明後日には出来上がるようにするから券を持っておいで」
「分かりました。ありがとうございます。また来ます」
お客さんが来るかどうかも分からないのに印刷なんて無謀だった。しかも最低三百枚からじゃないと印刷してくれないんだって。
なんだかこの先もずっとゴム判でいい気がしてきた。ゴム判の原稿には簡単に隙間の入り口の場所を書いておいたから、また食べたいと思ったら来てくれると思う……多分。
「あ、あと新聞だ! 忘れるところだった」
うっかり新聞を買うのを忘れるところだった。危ない危ない。
一度通りに出ようとしてたけど、引き返して雑貨店のお兄さんに聞いてみることにした。
「お兄さん、新聞ってどこで買えるか知りませんか?」
「配達だったらこの先の酒屋さんの向こうに新聞屋さんがあるから聞いてみな」
「ありがとうございます!」
雑貨店を出てそのまま酒屋を通り過ぎて新聞販売所みたいな所へ入ってみた。紙とインクのいい匂いが漂っている。
「こんにちは……」
「いらっしゃい」
中には気難しそうな、ハンチング帽をかぶった小太りのおじさんがカウンターの内側に座っていた。
「新聞欲しいんですけど」
「百リム」
「はい」
百リムを払ってそこに置いてあった束から一部手に取った。毎日買いに来るのも面倒臭い。配達を頼めないだろうか。
「配達は……いくらかかるんですか?」
「一か月三千リム」
おじさんが仏頂面のまま答えた。思ったよりも安い。これなら頼みたいかも。明日の野菜を売ったお金で頼めるかもしれない。
早速おじさんに明日からの新聞配達を頼んでみた。おじさんに場所を説明すると、明日新聞を持っていったときに集金すると告げられた。
明日の野菜を売る前に来られても困るので、明後日からの配達でいいですと言ったら、集金は明後日でいいと言われた。おじさんは思ったよりも親切な人だった。
「これで明日から新聞読める。情報を集めて魔女の居場所を探さないとね」
日本で馴染みの深い童謡を口ずさみながら、私は家路を辿った。
家に帰りつくとムーさんがぷーっとほっぺを膨らませていた。どうしたのだろう。
「ウメ~。もう六時だよ~。遅いよ~。お腹空いたよ~」
「あー、ごめんごめん。すぐに支度をするから」
世の中のお母さんたちの気持ちが分かった気がする。そして海翔のことを思い出した。何かというとお腹が空いたって言ってたっけ。思い出すとなんだか目頭が熱くなってくる。もう会えないんだなと思ってしまうから。
「カレーパン作るから中身のカレーを作るよ」
「かれ~? お野菜いっぱい~?」
「パンに入れるから大きくは切らないけど野菜をいっぱい入れるね」
「やった~!」
私はカレーパンの中身作りに取りかかることにした。
「こんにちは」
「いらっしゃい。ああ、この間の……」
お兄さんが私の顔を見て思い出してくれたようだ。にっこりと笑ってくれた。
「梅といいます。ここにお店用の紙袋って置いてますか?」
「既製品でよければ安くで置いてるよ。小袋十リム、中袋二十リム、大袋三十リムだ」
「あのー……店の名前を印刷してもらったらどれくらいかかりますか?」
ウメは思い切って尋ねてみた。さっき野菜を売ったので、所持金が五千リム以上はある。
「んー、印刷する袋の数で単価は変わるけど、いくつ必要なの?」
「えと、とりあえず中袋を三百くらいかな……」
「インク一色でいいんだよね。それだと……単価百二十リムかな」
――うっ、たかっ!
「ひゃくっ。三百個だと三万六千リム……無理。数を減らすのは……」
「図版を作るのにコストがかかるからね。減らしても単価が高くなるだけだよ」
思ったよりも素敵なお菓子屋さんの紙袋への道は遠そうだ。でもお店の名前は入れたい。どうしたらいいんだろう……
腕を組んでうーんうーんと唸っていたら、お兄さんが声をかけてきた。
「そんなに量がいらないんだったら、スタンプ台を買って手作業でゴム判を押せばいいんじゃない?」
「ゴム判? いくらでできるんですか?」
「うちで請け負ってるのは大体二千リムからだね。シンプルな内容なら最低金額でしてあげるよ。時間は二日くらい貰うことになるからね」
「シンプルです、シンプル! よろしくお願いします!」
「ハハッ。その代わりお得意さんになってね。……はい、これに原稿書いて」
「ありがとうございます!」
原稿はお店の名前と隙間の入り口の場所を書いておいた。私は原稿を書きながらお金の計算をしてみた。
スタンプ台が五百リムだから、ゴム判加工と合わせて二千五百リムか。お金全部使いきりたくはないから……中袋八十枚を足すと四千百リムだ。これなら千リムとちょっとは残るから大丈夫だ。
「オレンジ色のスタンプ台とゴム判の加工と中袋八十枚ください」
「全部で四千百リムだ」
「……はい、どうぞ」
「……ちょうどだね、ありがとう。これ、ゴム判の引換券ね。明後日には出来上がるようにするから券を持っておいで」
「分かりました。ありがとうございます。また来ます」
お客さんが来るかどうかも分からないのに印刷なんて無謀だった。しかも最低三百枚からじゃないと印刷してくれないんだって。
なんだかこの先もずっとゴム判でいい気がしてきた。ゴム判の原稿には簡単に隙間の入り口の場所を書いておいたから、また食べたいと思ったら来てくれると思う……多分。
「あ、あと新聞だ! 忘れるところだった」
うっかり新聞を買うのを忘れるところだった。危ない危ない。
一度通りに出ようとしてたけど、引き返して雑貨店のお兄さんに聞いてみることにした。
「お兄さん、新聞ってどこで買えるか知りませんか?」
「配達だったらこの先の酒屋さんの向こうに新聞屋さんがあるから聞いてみな」
「ありがとうございます!」
雑貨店を出てそのまま酒屋を通り過ぎて新聞販売所みたいな所へ入ってみた。紙とインクのいい匂いが漂っている。
「こんにちは……」
「いらっしゃい」
中には気難しそうな、ハンチング帽をかぶった小太りのおじさんがカウンターの内側に座っていた。
「新聞欲しいんですけど」
「百リム」
「はい」
百リムを払ってそこに置いてあった束から一部手に取った。毎日買いに来るのも面倒臭い。配達を頼めないだろうか。
「配達は……いくらかかるんですか?」
「一か月三千リム」
おじさんが仏頂面のまま答えた。思ったよりも安い。これなら頼みたいかも。明日の野菜を売ったお金で頼めるかもしれない。
早速おじさんに明日からの新聞配達を頼んでみた。おじさんに場所を説明すると、明日新聞を持っていったときに集金すると告げられた。
明日の野菜を売る前に来られても困るので、明後日からの配達でいいですと言ったら、集金は明後日でいいと言われた。おじさんは思ったよりも親切な人だった。
「これで明日から新聞読める。情報を集めて魔女の居場所を探さないとね」
日本で馴染みの深い童謡を口ずさみながら、私は家路を辿った。
家に帰りつくとムーさんがぷーっとほっぺを膨らませていた。どうしたのだろう。
「ウメ~。もう六時だよ~。遅いよ~。お腹空いたよ~」
「あー、ごめんごめん。すぐに支度をするから」
世の中のお母さんたちの気持ちが分かった気がする。そして海翔のことを思い出した。何かというとお腹が空いたって言ってたっけ。思い出すとなんだか目頭が熱くなってくる。もう会えないんだなと思ってしまうから。
「カレーパン作るから中身のカレーを作るよ」
「かれ~? お野菜いっぱい~?」
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私はカレーパンの中身作りに取りかかることにした。
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