間違えた勇者 ~本当に好きなのはお前だけって言葉、信じられる?~

春野こもも

文字の大きさ
上 下
6 / 7

六、壊れたもの

しおりを挟む
「ごめん、よく聞こえなかった」
「ローズ、俺と結婚して!」
「嫌」

 アランがぽかんと口を開けたまま、唖然とした表情を浮かべている。何か変なことを言っただろうか。いや、言ってない。

「空耳か……」
「空耳じゃないよ」
「お前、俺のこと好きだよね?」
「好きだよ」
「じゃあ……!」
「友人として」
「……はぁ? 何言ってんの!? あいつか? レアンドルのせいか!」

 アランが逆上したように肩をいからせて詰め寄ってきた。なぜここでレアンドルさんが出てくるんだ。

「何言ってんの。レアンドルさんは関係ないでしょ?」
「浮気すんなって言ったローズが浮気してこれ!? 俺たち恋人同士だよね!?」
「そんなのとっくの昔に別れてるじゃん」
「え……」

 どうやらアランは理解が追いつかないようで、言葉を詰まらせた。以前からどうも噛み合わないと思っていたけれど、どうやらお互いの気持ちに齟齬があるみたいだ。この際はっきりさせておこう。

「前にあんたがアリスとイチャついてたときに、私言ったよ。ちなみにあんたの家の執事さんが証人だから」
「なんて……?」
「『もう終わりだね。あんたのこと好きだった。でももう幼馴染に戻るね』って。そしたらあんた、『うん、じゃあね』って了承したじゃん」
「そんなの聞いてない……」

 あのときのアランは目の前のアリスに夢中だったもんね!

「イチャイチャに夢中だったから気付かなかったんじゃない? そもそも三年も前の話だし、結局アランとつきあってたのって一週間にも満たないし」
「嘘だ……」
「嘘じゃないよ。大体あんたが浮気しないからって言ったんだよ。しかもあんたがその約束を持ち出すなんて、自分で地雷踏んでどうするの。約束を破ったのはあんただけだから」
「あんなの本気じゃないから浮気じゃない。いつだって本当に好きなのはお前だけだ」

 カチンときた。本当に好きなのはお前だけ? それって、それなりに好きな女の子が他にいるから出てくる言葉だよね。
 やっぱりアランのことは一生理解できない。

「私はね、私のことだけを見てくれて、私のことだけを大切に思ってくれる人じゃないと駄目なの。誰にでも優しい人は嫌なの。そんな人はどんなに好きでも受け入れられないの」
「それならそうと最初からっ……!」
「最初に言ったよね。『浮気したらすぐに別れる』って。本気じゃないから浮気じゃないって? 馬鹿じゃない? あんたとアリスが仲よくしてるのを見て、どれだけ悲しかったと思ってるの? ずっとあんたを信じてたから、心が壊れそうだった」
「そんな……。俺はただ、お前が好きでいてくれるって実感が欲しかったから……」

 声を荒げながら告げた私に、アランが愕然としながら呟いた。こっちはあのときのことなんて思い出したくもないのに。

「へぇ、私はあんたの自己満足のために泣かされて傷つけられたんだ……。あんたが愛してるのは自分のことだけなんじゃないの?」
「違う! 自信がなかったんだよ。お前が本当に俺を好きなのか」
「……ちゃんと恋してたよ。アリスのときに粉々に砕け散ったから、初恋の欠片は一つ残らずお墓に埋めた。あのときに全部終わったの」
「俺はお前に嫉妬してもらうために……」

 女の子と仲良くしたのを全部私のせいみたいに言っているけど、アラン自身も楽しんでたのを私は知っている。元々女の子が好きなことも。

「だったら無駄だったね。アランは私にとってあのときから友だちでしかない」
「そんなこと言わないで! ねえ、ローズ。もう一度チャンスをくれよ。今度こそ、絶対に、悲しませるようなことはしないから」

 アランが懸命に訴えてくる。きっと本心からの言葉だろう。……今は。
 だけど、私の恋心はあのときに砕け散って永遠になくなった。一度死んだものは生き返らない。同じように、アランに対する恋心が蘇ることはないと断言できる。

「ねえ、アラン。今までいろいろ間違ったかもしれないけど、これから間違えなければいいんだよ。私はもう無理だけど、きっとこの先またアランの大切な人が現れる。そのときに間違えないようにするための勉強だったんだよ」
「そんなの駄目だ。幼いころからローズだけを見てたんだ。側にいた女は全部お前に振り向いてもらうための手段でしかない。これからだって他に好きな子なんて絶対できない。俺はローズじゃないと駄目なんだよ!」

 アランが目にいっぱいの涙を溜めて切実に訴えてくる。きっと嘘はないんだろう。どう言ったら分かってもらえるだろう。

「それは都合がいいんじゃないですか?」

 中庭で話していた私たちの会話に突然別の声が割り込んできた。やってきたのはレアンドルさんだった。
しおりを挟む
本作をお読みいただき、ありがとうございます!
この作品は『カクヨムWeb小説短編賞2019』応募作品です。
お楽しみいただけたら、カクヨムでも応援していただけるとかなり嬉しいです!

本作のカクヨムリンクは(σ・∀・)σ コチラ

ご感想、ご意見、このキャラクターが好き! などのメッセージをいただけますと、筆者は大変励みます。
時間の許す限りは返信もさせていただきます。

これからも読者様に喜んでいただけるお話を書いていきたいと思います。応援、よろしくお願いします。

■お知らせ■
新作をカクヨムコンにエントリーしました。応援をいただけると大変喜びます!
異世界恋愛ファンタジー。ファンタジー要素濃い目です。

『黒のグリモワールと呪われた魔女 ~婚約破棄された公爵令嬢は森に引き籠ります~』

春野こもものアルファポリス掲載中の小説はこちら
感想 15

あなたにおすすめの小説

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。 実際の発案者は、王太子の元婚約者。 見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。 彼女のサポートなしではなにもできない男だった。 どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

処理中です...