3 / 7
三、勇者
しおりを挟む
アランは本当に最低な男だ。だけど幼いころからずっと優しくしてくれた、かけがえのない友人でもある。私は涙を拭いながらアランの家を出た。
翌日学校で会ったとき、アランは何事もなかったかのようにニコニコと笑いながら声をかけてきた。しかも信じられないことに私の肩に手を置いてくる。流石にこの態度には殺意が湧いた。悔しいから表情に出さないよう感情を抑える。
「ねえ、アリスと一緒にいたのを見て悲しかった?」
アランがなんだか楽しそうに尋ねてくる。何を言っているのだろう。恋人に裏切られたんだから当り前じゃないか。頭が沸いているんじゃないのか。
「……うん」
「そっかあ」
アランはそう言って嬉しそうに笑う。信じられない。どういう神経をしているんだか。頭に来たので、肩に置かれたアランの手を払ってニコリと笑った。
「触らないで」
そう言うと余計に嬉しそうにアランが笑う。一体何を考えているのか理解に苦しむ。
「ああ! ローズに嫉妬してもらえるなんて最高だよ……!」
ついていけない。もう触れられるのも嫌だ。
あれ以来アランの家に行くことはなくなった。女の子と一緒のところを見たくなかったから。ただ学校では普通に会話を交わす。
アランは私がいるところで、これ見よがしに女の子といちゃつく。私にもしょっちゅう触れようとしてくるけど、絶対に触れさせない。
アリスの次によく見かけるようになったのは金髪の美少女イザベルだ。アランが私の前でイザベルの肩を抱く。それでも無視するとイザベルの頬にキスを落とす。
私が何の反応も示さないのが面白くないのか、アランはその度に私の手を無理やり引っ張ってキスをしてこようとする。
私はその度にアランを引っ叩いて逃げる。アランは大きく目を見開いて信じられないと言ったような表情を浮かべる。アランとキスをするなんて絶対に嫌だ。
十五才のときに王都で薬屋を営む商家に奉公に出されることになった。両親と友人に別れを告げて王都へ向かう。旅立つときに馬車の窓から外を見ると、息を切らした様子のアランが馬車の後ろのほうに立っているのが見えた。
「ああ、そういえばアランには言ってなかったっけ……。私が王都に行くこと、ヴェロニクから聞いたのかな」
ヴェロニクは私の仲のいい友人だ。そしてアランの数多いガールフレンドの一人でもある。
王都に移り住んでからは平穏な日々を過ごした。商家のご夫婦はとても優しい。好きなだけ勉強させてくれる。薬を扱う仕事だったので、自然と薬学の知識も身に付けることができた。
王都に移り住んで一か月くらいしたころ、アランが王都へ向かったという便りをヴェロニクから貰った。神殿の宣託で勇者に選ばれたらしい。
故郷の町は勇者を生んだ町として大いに盛り上がり、町全体で祝福しつつアランを送り出したそうだ。
それがなぜこんなことになっているのか。
「またローズと一緒にいることができて嬉しいよ」
満面の笑みでアランが私の手を握る。とても嬉しそうだ。
「そう」
「これからもよろしくね」
「……」
なんとアランは、私が魔王討伐パーティに同行しないと旅に出ないと言って駄々をこねたらしい。お陰でお世話になっていた商家から、泣く泣く人身御供に出されることになった。
翌日学校で会ったとき、アランは何事もなかったかのようにニコニコと笑いながら声をかけてきた。しかも信じられないことに私の肩に手を置いてくる。流石にこの態度には殺意が湧いた。悔しいから表情に出さないよう感情を抑える。
「ねえ、アリスと一緒にいたのを見て悲しかった?」
アランがなんだか楽しそうに尋ねてくる。何を言っているのだろう。恋人に裏切られたんだから当り前じゃないか。頭が沸いているんじゃないのか。
「……うん」
「そっかあ」
アランはそう言って嬉しそうに笑う。信じられない。どういう神経をしているんだか。頭に来たので、肩に置かれたアランの手を払ってニコリと笑った。
「触らないで」
そう言うと余計に嬉しそうにアランが笑う。一体何を考えているのか理解に苦しむ。
「ああ! ローズに嫉妬してもらえるなんて最高だよ……!」
ついていけない。もう触れられるのも嫌だ。
あれ以来アランの家に行くことはなくなった。女の子と一緒のところを見たくなかったから。ただ学校では普通に会話を交わす。
アランは私がいるところで、これ見よがしに女の子といちゃつく。私にもしょっちゅう触れようとしてくるけど、絶対に触れさせない。
アリスの次によく見かけるようになったのは金髪の美少女イザベルだ。アランが私の前でイザベルの肩を抱く。それでも無視するとイザベルの頬にキスを落とす。
私が何の反応も示さないのが面白くないのか、アランはその度に私の手を無理やり引っ張ってキスをしてこようとする。
私はその度にアランを引っ叩いて逃げる。アランは大きく目を見開いて信じられないと言ったような表情を浮かべる。アランとキスをするなんて絶対に嫌だ。
十五才のときに王都で薬屋を営む商家に奉公に出されることになった。両親と友人に別れを告げて王都へ向かう。旅立つときに馬車の窓から外を見ると、息を切らした様子のアランが馬車の後ろのほうに立っているのが見えた。
「ああ、そういえばアランには言ってなかったっけ……。私が王都に行くこと、ヴェロニクから聞いたのかな」
ヴェロニクは私の仲のいい友人だ。そしてアランの数多いガールフレンドの一人でもある。
王都に移り住んでからは平穏な日々を過ごした。商家のご夫婦はとても優しい。好きなだけ勉強させてくれる。薬を扱う仕事だったので、自然と薬学の知識も身に付けることができた。
王都に移り住んで一か月くらいしたころ、アランが王都へ向かったという便りをヴェロニクから貰った。神殿の宣託で勇者に選ばれたらしい。
故郷の町は勇者を生んだ町として大いに盛り上がり、町全体で祝福しつつアランを送り出したそうだ。
それがなぜこんなことになっているのか。
「またローズと一緒にいることができて嬉しいよ」
満面の笑みでアランが私の手を握る。とても嬉しそうだ。
「そう」
「これからもよろしくね」
「……」
なんとアランは、私が魔王討伐パーティに同行しないと旅に出ないと言って駄々をこねたらしい。お陰でお世話になっていた商家から、泣く泣く人身御供に出されることになった。
21
本作をお読みいただき、ありがとうございます!
この作品は『カクヨムWeb小説短編賞2019』応募作品です。
お楽しみいただけたら、カクヨムでも応援していただけるとかなり嬉しいです!
本作のカクヨムリンクは(σ・∀・)σ コチラ
ご感想、ご意見、このキャラクターが好き! などのメッセージをいただけますと、筆者は大変励みます。
時間の許す限りは返信もさせていただきます。
これからも読者様に喜んでいただけるお話を書いていきたいと思います。応援、よろしくお願いします。
■お知らせ■
新作をカクヨムコンにエントリーしました。応援をいただけると大変喜びます!
異世界恋愛ファンタジー。ファンタジー要素濃い目です。
『黒のグリモワールと呪われた魔女 ~婚約破棄された公爵令嬢は森に引き籠ります~』
■春野こもものアルファポリス掲載中の小説はこちら■
この作品は『カクヨムWeb小説短編賞2019』応募作品です。
お楽しみいただけたら、カクヨムでも応援していただけるとかなり嬉しいです!
本作のカクヨムリンクは(σ・∀・)σ コチラ
ご感想、ご意見、このキャラクターが好き! などのメッセージをいただけますと、筆者は大変励みます。
時間の許す限りは返信もさせていただきます。
これからも読者様に喜んでいただけるお話を書いていきたいと思います。応援、よろしくお願いします。
■お知らせ■
新作をカクヨムコンにエントリーしました。応援をいただけると大変喜びます!
異世界恋愛ファンタジー。ファンタジー要素濃い目です。
『黒のグリモワールと呪われた魔女 ~婚約破棄された公爵令嬢は森に引き籠ります~』
■春野こもものアルファポリス掲載中の小説はこちら■
お気に入りに追加
941
あなたにおすすめの小説

いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています


(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

婚約破棄した令嬢の帰還を望む
基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。
実際の発案者は、王太子の元婚約者。
見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。
彼女のサポートなしではなにもできない男だった。
どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる