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再会編
4.違和感の正体
しおりを挟む実に6日ぶりに現れたクラウディアが部屋へ2人の見知らぬ女性を連れてきた。 この1週間のうち彼女と食事をしたのは最初の1日だけだった。顔を見たのは6日ぶりだな。その間は屋敷のどこへ行っても見かけなかった。どこかへ外出していたのか? パルウの取引先とか……?
彼女が連れてきた女性たちは服装から察するに1人は護衛兵、1人は侍女といったところか。
「彼女たちに貴方の身の回りのお世話をさせるわね。デリアとヘラよ」
クラウディアはそう言って二人を紹介した。
護衛兵は赤い髪を後頭部の高い位置で束ね目はエメラルドグリーン、肌は日焼け気味で顔立ちは整ってはいるが吊り目で少しきつめの印象だ。
侍女のほうは後ろで三つ編みにした黒髪と琥珀色の瞳でそばかすがあり眼鏡をかけている。割と地味な印象だ。
「デリアと申します。今日からジークハルト様を護衛させていただきます。よろしくお願いします」
デリアのほうは少々所作ががさつだ。傭兵崩れといったところだろうか。少し硬くぶっきらぼうな喋り方だ。
「ヘラと申します。今日から身の回りのお世話をさせていただきます」
ヘラのほうは下級貴族だったのだろう。所作がそれなりには綺麗だ。だが喋り方が少しおどおどして自信なさげな様子が見える。
2人とも恐らくクラウディアの配下だろうな。素性の知らないものを不用心にジークハルトの傍に置くことはしないだろう。味方に引き込めれば心強いのだが。
「よろしく頼む」
そう言うと二人は頭を下げその場を離れた。デリアは部屋の扉の外へ。ヘラは一度部屋を出ていった。
さて昼の食事は済んだし敷地の探索でもするか。
あれから調べてみたら屋敷の敷地はぐるりと高い塀に囲まれておりまるで要塞のようだ。そして流石に門の外には腕の立ちそうな傭兵が配備されている。
逆に考えると門から出なければどこへ行ってもいいということだな。
部屋から出るとデリアが後をついてくる。ああ、これはちょっと都合が悪いな。
「あー、君はずっと私についてくることになってるのかな?」
「はい、そのように指示されております。私のことはお気になさらないでください」
彼女がきりっとした顔で話す。気にするなと言ってもさすがにこの状態で探索するのは無理があるな。彼女のことでも聞いてみるか。
「デリアは元はどこかの騎士だったのか?」
「いえ、私は傭兵をしておりました」
もしフリーの傭兵ならクラウディアに忠誠を誓ってるというわけではないのかな?
「金で雇われて今の仕事を引き受けたのか?」
「申し訳ありません。お答えしかねます」
「そうか、立ち入ったことを聞いてすまなかった」
「いえ、滅相もありません。こちらこそ失礼しました」
硬いな。こういうタイプの女性は周囲には居なかったな。何とか味方に引き入れられないだろうか。恐らく金で雇われたんだろうと思うが。傭兵は大体そうだ。
「暇なら手合わせでもしないか?」
「っ……!」
なんだ? そんなに驚くことか? デリアは一瞬ジークハルトの言葉に驚き目を見開いた。だがすぐに表情を戻して堅い口調で答える。
「申し訳ありませんが、武器をお渡ししないように指示されております」
「そうか、そうだろうな」
そのままついてくる彼女を尻目に屋敷の入口から出て庭を歩き回る。気になっていたのはその面積だ。この屋敷の大きさにしては庭が狭いのだ。屋敷の周囲は高い塀で囲まれているのだが、裏のほうの塀には門ではなく厳重に施錠がしてある鉄の扉がある。そして屋敷の裏になぜか違和感を感じるのだ。その原因が分からない。
ここ何日かは屋敷の裏の調査に時間を費やしていた。この違和感の正体は何だろう。端から端まで散歩がてら歩いてみる。ただ高い塀が立っているだけなのだが。
庭には薔薇が植わっている。庭師でもいるのだろう。綺麗に手入れされている。だが残念ながら今は春だ。薔薇の季節はもう少し先だ。
こうして薔薇を見ているとうちの屋敷の庭を思い出す。去年はフローラと薔薇を見たな。何事もなければもうすぐ帰れるところだったのに。
そうして端まで歩いて気がつく。屋敷の塀の傍には一定間隔で木が植えられている。勿論塀よりは低くありふれた木だが割と枝ぶりが広がる品種だ。だから屋敷の横の塀の側の木は塀から3メートルは離してある。
だがそのまま塀沿いに裏のほうへ向かって歩くと、一番端の木は裏の塀から1メートルほどしか離れていない。そのため枝が窮屈そうに塀の内側に折れ曲がったまま茂っている。本来の庭に合わせて塀が建てられたのならば、このように木が植えてあるのは不自然だ。
この塀の向こうにも庭が続いている……? 本来の大きな庭をこの高い塀で不自然に区切ってあると考えると腑に落ちた。
違和感の正体は分かったが、だからといって塀を越えて確かめることはできない。痒い背中に手が届かない気分だ。
これはどうにかして確かめたいな。
ジークハルトはそう考えて昼下がりの散歩を終えた。
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