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第4章 真紅の宝玉
50.侵入開始だヨ
しおりを挟む路地裏で、酒場からついてきた男たちを5分ほどで撃退したあと急ぎ追跡を再開する。
標的の男の匂いを辿り追いかける。すると彼はまだそれほど離れてはいなかった。
ようやく追いついて様子を見てみたが、彼は路地裏で起こった異常事態には気づいていないようだ。それを知って安堵し小さく息を吐く。
マメリルはというと、姿を消したままハルについてきている。
『追いついてよかったね、ハル』
「うん、このままアリスの所へ行ってくれるといいんだけド」
速度を緩めないままマメリルに応える。
標的の男は手にランタンの灯りを持っている。お陰でどこにいるかとても分かりやすい。
ハルのほうはというと足元は完全に暗闇に覆われているが、夜目も鼻も利くので何ら問題はない。
ずっと物陰に隠れながら10メートル以上離れて男の尾行を続ける。
男に追いついてから路地裏を10分程歩くと、彼は路地に面した古い石造りの2階建ての民家に到着した。そして正面の扉から中へ入っていく。
建物の入口が開かれたときには灯りが漏れなかった。その様子から察するに入口付近に人はいなさそうだが、正面からは入らないほうがいいと判断する。
そして様々な匂いの入り混じるその建物の中に、確かに記憶にあるアリスの匂いが存在するようだ。
「アリスがこの建物の中にいると思ウ。もしくは彼女の匂いを強く発する何かかもしれないけド」
『怖いこと言わないでよ、ハル』
男の入っていった建物を見据えたままアリスの匂いのことを報せると、マメリルは何か不吉な想像をしてしまったようだ。ハルの言葉に不安げな声音で答えた。
そして彼女の匂いは建物の2階の奥の方からするようだ。建物の形を外見で大雑把に把握する。窓にバルコニーやベランダはないがとっかかりがあるので壁を登るのに問題はない。
「行くネ」
『りょーかい』
合図をするとマメリルが肩に乗っかったのが分かった。
クリスの執務室のバルコニーに忍び込むときもそうだけど、肩に乗ったマメリルはおよそ体重というものを感じさせない。
そしてどんなに激しい動きをしようと決して落ちない。ときどき足に鍵爪でも付いているんじゃないかと思うことがある。
ハルは目標の2階奥を目指し、まずは目的の建物とその隣の建物の間の隙間に入り込む。その隙間には何だか正体の分からないゴミが散乱して異常に汚い。住民たちが窓からゴミを投げ捨てているんじゃないだろうか。
その汚さに辟易しながらもその足場へ立ち、膝を曲げて力を溜め地面を強く蹴り上げる。そして両脇の外壁を蹴った反動を利用して一気に屋根へと駆け上る。
そして目的の建物の屋根の上に到着した。屋根は民家によくある三角屋根だ。
古そうな屋根なので音がしやすいかもしれない。細心の注意を払いながら低く身を屈め、匂いの強いほうへと屋根の上を静かに歩く。
少し移動すると、路地の反対にある裏側の2階の窓から薄明かりが漏れているのが見えた。そこからアリスの匂いを最も強く感じる。
だが屋根から降りないと中に居るかどうかは分からない。
窓には足場がないのでどうしようかと一瞬考え、屋根の上に下半身を引っかけたまま、上半身を逆さまにして窓の中を覗き見た。
ハルが着けている黒髪のウィッグはしっかりと装着されており、落ちそうな様子はない。
「どれどレ……」
逆さまの視界から窓の中を覗き込む。
窓の中は薄暗く蝋燭1本程度の灯りしかないようだ。だがハルには見えた。部屋の奥で小さく震えているアリスの姿が。
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