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第4章 真紅の宝玉
46.魔竜ファフニール
しおりを挟む「おやじ、それは本当なのか?」
「ああ、どうも今人間たちの手元にあるようだ」
ここは王都より遥か西にある雲よりも高い山の頂にある洞窟だ。強い神威により他の生物は入ってはこれない。
そして目の前にいるのは深い鈍色の頑強な鱗を身に纏う竜神の眷属ファフニールだ。
俺は彼によって14才のときに異世界から召喚されたらしい。
らしいというのは俺の記憶の一部は欠如しているからだ。
召喚された際に記憶の一部が割れ、この竜が割れた記憶を己の眼に保管してくれていたらしいのだが。
俺はほとほと呆れてしまい、腕を組んでおやじに言い放つ。
「なんでまた片目を失うことになったのかねぇ……」
「うむ。まあ、いろいろあったのだ……」
おやじは隠しているつもりらしいが俺は知っている。
あの夜おやじは地上に降りて人間の貯蔵していた蔵の酒をこっそり全部飲み干した。そして酔って眠ってしまった隙に人間に片目を奪われたことを。
俺は生まれつき人の心が読める。そしてこの世界に召喚されておやじの加護を貰うことで人間よりも高い身体能力を得た。
お陰で下界に降りても、今まで傷ひとつ負うこともなく気儘に過ごしてきたのだ。
加護の影響でもとの黒髪黒目じゃなく、真っ白な髪と闇でも光るような緋色の瞳になっちまったがな。
ところがだ……。
「このままだとお前の記憶は永久に失われる……」
「ああ?」
「儂の片目を取り戻さないと……」
「……」
「儂が動くと目立つし……シンが取り戻してくれたら、その、嬉しい……」
高さが10メートルもあろうかというほどの大きな体躯を持ちながら、しょんぼりと肩を落とすおやじ。
どうやら俺はこのおやじのうっかりの尻拭いをする羽目になりそうだ。
少々うんざりするが、世話になってる恩もある。
それに俺の記憶の一部が誰かの手に渡ったまま永久に戻らないのも困るしな。
「チッ。しょうがねえなぁ。俺が取り戻してきてやるよ」
「本当か!? うむ、よろしく頼むぞ」
おやじの表情がぱぁっと明るく変わる。竜の表情は分かりにくいが、おやじとはかれこれ8年の長い付き合いだ。喜んでいることくらい手に取るように分かる。
なにが、よろしく頼むぞ、だ。
「……おやじはしばらく禁酒な」
「ぇぇー……」
おやじがさらに項垂れた。だがそのくらいは我慢してもらおうか。
おやじのために、俺は今からくそめんどくせえことをやらなきゃいけないんだからな。
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