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第3章 婚約破棄

30.マメリルと遊ボ

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 城で滞在させてもらう部屋でマメリルが部屋中を探索している。何か面白いものが見つかったのかな?

「何か面白い玩具が見つかっタ?」
『うーん、見つからないな。ハル、あれ出してよ!』

 マメリルが金色の瞳をきらきらさせながら期待に満ちた眼差しをこちらに向ける。そして青銀色の尻尾がせわしなく動いている。
 ああ、うん、あれね、あれ。出したくないのであえて知らない振りをする。

「あれっテ?」
『知ってるくせにっ! あれだよ、あれ! あの変な人形だよ!』

 マメリルがむきになって答える。はいはい、ハバネロ人形ね。ていうか気に入ってるくせに変な人形って……。
 だってマメリルに渡すと涎でべたべたにして歯形がいっぱいついちゃうでしょ。これはハルも気に入ってるんだからね。

「しょうがないナァ。ちょっとだけだヨ。あんまり強く噛まないでネ」
『うんっ! はやく、はやくっ!』

 マメリルがはぁはぁ言ってハルが人形を取り出すのを待っている。もう尻尾はちぎれんばかりに左右にブンブンと振られている。

「タッタラー! ハバネロ人形!」

 ……あ、これ前にやったね。

「いくヨ。そレッ!」

 バッグから取り出したハバネロ人形をポーンと投げるとマメリルがタッタッと駆け出しそれを空中で咥えてキャッチする。
 おお! 凄いね、マメリル!
 そしてそのままこっちに…………持ってこない。キャッチしたその場で両方の前足で抱え込むようにしてハグハグペロペロしている。

「ちょっト! 持ってきなヨ!」
『えぇー……だってなんか歯がうずうずするんだもん』

 マメリルが不服そうに口答えする。
 うん? そういえば兄弟が小さいとき、同じようなことを言って骨をカジカジしてた気がするな。そういうあれなの?
 うーん、お肉屋さんに行けば骨だけとか売ってくれるかな? 今度犬好きのオリバーに相談してみようかな。そういう犬の玩具もあるかもしれないし。

「マメリル、それ壊しちゃったらもう代わりの玩具はないからネ」
『はぁい……』

 マメリルが渋々人形を咥えて持ってくる。そしてハルの手に渡すと再びきらきらとした期待に満ちた眼差しで投げるのを待っている。
 仕方がないのでまた投げる。
 何度それを繰り返してもマメリルは飽きることがないようだ。ハルはそろそろ飽きてきたよ……。

『仕方ないなぁ……今度オリバーに玩具貰っといてね』
「へいへイ」

 洗面所でべたべたになったハバネロ人形を綺麗に洗う。
 排泄物は出ないけど涎は出るんだね。マメリルは霊力の塊だから涎も霊力なのかもしれないと思うと不思議だね。

 人形を洗って片付けたあとマメリルのお腹を撫でているとコンコンとノックの音がした。
 誰だろう、エマかな?

「ハル、僕だよ。迎えに来た」

 おお、クリスの声だ。そういえばそろそろそんな時間だね。また顔が見れると思うとちょっとドキドキする。

「どうゾ」

 そう答えると扉を開けてクリスが入ってきた。立ち上がって出迎えるとクリスはハルをじぃっと見たまましばらく固まってしまった。どうしたんだろう?

「クリス……?」
「あ……! ごめんっ。いや、綺麗だなと思って……」

 綺麗だって! 誰に褒められるよりも嬉しい! 番だからかな?
 でもなんだかクリスが真っ赤になって慌てている。うん、照れている?
 あっ、もしかしてこのウィッグのことかな? これ綺麗だよね。

「ありがとう、クリス。これプラチナブロンドっていうんだっテ。でもこのウィッグはダンスの前には取るように言われたんだヨ。汗掻いちゃうからっテ」
「いや、そうじゃなくて……ああ、うん、そうなんだ?」

 何だかごにょごにょ言ってるけどクリスってときどき挙動不審になるね。

「それじゃあ、夕食まであまり時間もないし講師の先生も待ってるからそろそろ行こうか」

 ようやく顔が赤くなくなったところでクリスが腕を差し出した。

「………?」

 うーんと? どうすればいいのか分からなくて思わず首を傾げてしまう。
 そんなハルの様子を見て最初クリスも首を傾げていたけど、すぐにニコッと笑って教えてくれた。

「ええと、女性は男性の腕に片手を添えて横を歩くんだよ。ほら、こうやって」
「んぅ!?」

 クリスがハルの手を取って自分の腕を握らせてくれた。ほおー。

「貴族の男性は貴族の女性をこうしてエスコートして歩くんだよ」
「そうなんダ……」

 エスコート! そんなのがあるのか。握手みたいなものなんだね。でもハルはそんなことしなくても1人で歩けるよ。

『そういうんじゃないんだよ。貴族の作法みたいなもんだ』
「へぇ、そうなんダ! マメリルは貴族のことも知ってるんだネ」
『まあなっ!』

 マメリルが鎮座したまま得意げに踏ん反り返っている。その尻尾は相変わらず嬉しそうにシャカシャカと動いてるけどね。あんまり踏ん反り返るとまた後ろに転がっちゃうよ。

「それじゃよろしくネ、クリス」

 クリスの腕に手を添えてにこりと笑うと彼は同じくにこりと笑ってハルに告げた。

「うん、任せて。ダンスの講師と一緒にマナーの講師にも来てもらってるから、ダンスのあと言葉遣いと貴族の作法を学ぼうね」
「……」

 ハルはこれから何時間もダンスとマナーと言葉遣いを叩きこまれることに戦慄する。そして練習に行く前から頭が真っ白になってしまった。



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