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第2章 カルト教団
18.教団へ行こウ
しおりを挟むバウム雑貨店の建物の屋上で、番である王子を見つけてハルは驚いた。こんなに早く番を見つけることができるとは思っていなかったからだ。彼の姿を目に焼きつける。
「見つかってよかっタ。きっとまた会いに行ク」
『よかったな!』
「何が見つかったの、ハル姉ちゃん?」
ハンスが不思議そうに尋ねてくる。番のことは聞こえてなかったみたいだね。
「未来の旦那さんだヨ」
「えっ、そんなの分かるの? なんか凄いね」
ハンスがハルの言葉を聞いてびっくりした。これって凄いの?
皆自分の番が誰かすぐに分かるんじゃないのかな?
首を傾げつつ建物の屋上から降りて中へ入る。
1階の店先へ行って店番をしているサラにお礼を言う。彼女のお陰で番を見つけることができたし音楽を聴くこともできた。
「サラ、屋上に入らせてくれてありがとウ。凄く見晴らしがよかったヨ」
「そうですか、それはよかったです!」
お礼を言うとサラがにっこりと笑って答えた。
音楽を聴くことができた。そして偶然にも番を見つけることができた。彼女が屋上へ上がらせてくれなかったらきっと全部できなかった。そう思うと彼女に対する感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
その日は彼女の紹介してくれた宿屋でハンスと一緒に一晩泊まった。
翌日再びサラに会いにバウム雑貨店を訪れた。今日もサラのお父さんとお母さんは居ないようだ。日を改めたら会えると思っていたんだけどな。アリスのことをもっと詳しく聞きたかったんだけど問題の父親が居ないなんて。
「ところでアリスのことなんだけど居なくなったのっていつ頃なノ?」
サラにアリスの居なくなった経緯の詳細を聞いてみることにする。
「はい、もう1週間ほど前になります。アリス姉ちゃんはハバネロ教には全く興味がなかったのに、父さんに1回だけだからって言われて仕方なく教団へついていったんです。そしたらそのまま帰ってこなくて」
「そうなんダ。それは怪しいネ。ハンスはどう思ウ?」
「うん、そういうのリューベックでもよくあったみたいだよ。でも家族は騒いでないのに職場の人や友人が不審に思ってたみたいで、かなり噂になってた。行方不明は女性が多いみたい」
ハンスが忌々しそうに話す。そういえば彼の父親もお母さんを連れてこいって言われたんだったね。本当に目的は何だろう?
「サラは他に行方不明になった人のことは知らなイ? アリス以外二」
「うーん、そういえばお客さんが恋人が居なくなったって話してた気がします」
懸命に記憶を辿ってサラが教えてくれた。
恋人か……その人も教団に居るのかな?
「そっカ。サラのお父さんはやっぱりよく礼拝に行くノ?」
「はい……。店の売り上げも寄付してしまって困ってます。このままだと商売を続けることができないってお母さんが言ってます」
サラが悲しそうな顔でそう答える。
ここでもお金か……。ハバネロ教はそんなにお金を集めて何に使ってるんだろう? それにしてもサラの父親も家族から多くのものを奪っているみたいだね。
「なんで大人なのに分からないんだろう!? 家族皆で仲良く暮らすのが一番幸せじゃないか!」
サラの告白を聞いてハンスが憤慨する。きっと自分と重なってしまったんだろう。
「ハンス……」
『さっさと行って成敗しちゃおうぜっ、ハル!』
マメリルが前のめりに声をあげる。なんだかワクワクしてるように見える。
確かに一刻も早くハンスやサラの問題をどうにかしてあげたい。
「んー、成敗するかどうかは分からないけどちゃんと話してみないといけないネ。ハンスのお父さんともサラのお父さんとモ」
ハバネロ教の真実を究明する前に父親たちと話してもきっと納得してくれない。きっとサラの父親もそうだろうけど、彼らはハバネロ教を妄信している。今は何を言っても無駄だろう。究明した事実を目の前に突きつけるしか道はない。父親たちと話すのはその後だ。
ハンスは行きたがっていたけど、教団へ連れていっていいものか悩む。聞いた限りでは幼い子供には危ない気がするからね。
「ハンス、サラと留守番しとかなくていイ? 教団はわたしが行ってくるヨ」
「ハル姉ちゃん1人じゃ危ないよ」
「そうだけどわたしは平気。捕まったりはしないヨ」
「うう……ハル姉ちゃんも心配だけど、正直父さんも心配なんだ。ごまかしてごめんなさい」
ハンスがしょんぼりと項垂れてしまった。やっぱり父親が心配だったんだね。しょうがない。ハルが守ればいいか。
「分かっタ、一緒に行こウ!」
「ハル姉ちゃん、ありがとう!」
ハンスがほっとしたように笑って礼を言う。教団へ行って父親に会えるといいね。
「あの……姉をお願いします」
サラがそう言って深々と頭を下げる。勿論アリスのことも探ってくるよ!
「任せなさイッ!」
安心させるようにサラに笑って答えた。すると彼女もにっこり笑ってくれた。
それからハンスとマメリルと一緒に教団へと向かった。
広場から東へのびる通りをしばらく歩いていると、突然ハンスがある方向を指差して口を開いた。
「ハル姉ちゃん、あれ。入口の石板に『ハバネロ教本部』って書いてるでしょ。あの建物が教団の本部だよ」
「おお、あれがそうなんだネ」
ハンスに教えられた建物を見た。するとそれは森の近くにある村の教会が大きくなったような建物だった。でもあんまり綺麗じゃないし神様の気配も感じられない。
「入ってみるヨ」
建物の正面の大きな扉を開くとそこはあまり大きくない礼拝堂だった。奥に祭壇が置いてある。何人かの信者がお祈りと掃除をしているようだ。
まっすぐ祭壇のほうへ歩いていく。祭壇の前で他の信者の様子を見るが何というか皆表情が疲れ切っている。どうしたのだろう。
「これはこれは我がハバネロ教へようこそいらっしゃいました」
突然声をかけられたのでそちらへ振り向くと、そこには30才くらいで痩せた吊り目の神官風の男が立っていた。そして彼はその神経質そうな眼差しをこちらへ向けて笑みを浮かべていた。
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