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第2章 カルト教団
17.ツガイ、見つけタ
しおりを挟む「ツガイ、見つけタ」
ハルは少年を見て思わず呟く。旅立ってから大して時間も経たないうちに番と出会えたことに喜びを隠しきれない。彼と出会えた嬉しさで思わずにぱっと笑ってしまう。
バウム雑貨店のある建物の屋上から少年を見下ろす。彼は煌びやかな王族の端のほうに立っていた。
さらさらとした肩までの金髪に空色の瞳がすごく綺麗だ。背筋を伸ばして凛としている姿も好ましい。そして民衆を見る眼差しは慈愛に満ちてとても優しい。
目に焼きつけるために彼をじぃっと見る。ふと目が合った気がした。気のせいだと思うけどなんだかドキドキする。
なぜ彼にのみ目を引かれたのかは分からない。外見で見れば彼だけが特別美しいというわけではない。王族は皆美しい。
ただハルの本能が彼こそ番だと教えてくれたのだ。上手く表現できないけど彼を見ると全身がぞくぞくっとする。彼と直接会いたい。そして名前を教えてほしい。そして彼にも『ハル』って呼んでほしい。
だからといってあの人混みの中に飛び込んでいくことはできそうにない。あまりにも人が多すぎる。ロウが番以外の人間には気をつけるようにって言ってたし。
「理屈じゃないんだナァ……」
「ん、ハル姉ちゃん、何のこと?」
番に対して感じたことをふと呟くとハンスに不思議そうな顔をされた。あ、聞かれちゃった。恥ずかしいね。
「ううン。ねえ、ハンス。あの綺麗な人たちにはどうやったら会えるノ?」
王族を指さしてハンスに尋ねてみる。
「えっ!? 王族に会うのなんて無理だよ! 普段はお城に住んでるしこの国で一番偉い人たちなんだから」
「そうなんダ……」
ハルの質問にハンスはとても驚いたようだ。
彼らに近づくのはよっぽど大変なんだね。となると番に会うのはかなり難しそうだ。しょぼん……。せっかく見つけたのに会えないのかぁ。
「ハンス、あの一番右端にいるわたしよりちょっと年上の男の子は誰かナ?」
「うーんと、僕もあんまり詳しくないけど王子様だと思うよ」
「王子様かァ……」
『ハルの番が王子だとは難儀だな。諦めるのか?』
マメリルが珍しく憐れむような眼差しでハルを見る。
「ううん、諦めないヨ。だってせっかく番が誰か分かったんだもン。わたしを見てもらうまで頑張るヨ!」
『そうか、せいぜい頑張るだなっ。なんならボクが協力してやってもいいぞ』
ハルの言葉を聞いてマメリルが踏ん反り返って得意げに話す。
「協力っテ?」
『あの王子に会えるようにすればいいんだろ? 強引に道を切り開くんだよ。邪魔するものを排除しながらなっ』
「駄目。そんなことしたら嫌われちゃうヨ」
『ぇ~~』
マメリルの耳と尻尾がしょぼんと垂れた。そんな強引なことしたら王子様に嫌われちゃうでしょ。全く……。
きっとそのうちチャンスが来る。どうしても来なかったら多少無理してでも会いに行く。
でも今はハンスのお父さんとサラのお姉ちゃんのアリスを探しにいかないといけないから番の王子に会うのは後だ。
「ハルのツガイ、きっと迎えに行ク」
◆◆◆ <クリストフ視点>
建国祭の当日、第3王子クリストフは他の王族とともに王都の広場の式典会場へ足を運んでいた。あまり折り合いの良くない王太子ダニエルと顔を合わせるのが憂鬱だ。早く終わってほしい。
ファンファーレが鳴ったあと、陛下がステージに上がって開会の式典の挨拶を始める。広場に集まった人々の顔を眺める。老若男女様々な年齢層の人たちが集まっている。それぞれが期待に満ちた眼差しで陛下に注目している。
僕はこの人たちを笑顔にしたいと思っている。この広場にいる人たちを見ているとまるでこの国の縮図を見ているようだ。彼らの抱える様々な問題を解決する手助けがしたい。
ふと視界の上の方にきらきらとしたものが映った気がしてそちらを見てみる。広場の反対側の建物の屋上で誰かがこちらを見ているようだ。こんなに人が多いのだ。屋上から見る人もいるだろうと深くは考えず視線を前へ戻した。だがなんだかすごく視線を感じたので再び屋上を見た。
よく見るとそこにいたのは僕より少しだけ年下に見える少女だった。きらきらと視界の中で光って見えたのは、彼女の青銀色に光る長い髪が風に靡いて陽の光を反射していたからだろう。彼女の体は樺色の毛皮に包まれており、肌の露出が若干……いや、かなり多いようだ。
女性の狩人は皆ああなのか? 彼女を見ているとずっと幼い頃に出会った黒曜石の少女のことを思い出す。彼女はお腹も出していたっけ。可愛かったなぁ……。あの娘も狩人なら知り合いだったりしないかな?
それにしても屋上の少女に凄く見られている気がするな。気のせいか……?
そんなことを考えているうちに陛下の挨拶が終わったようだ。式典ももうすぐ終わる。彼女のお陰で憂鬱な式典があっという間に過ぎた。
あっ! 屋上の少女が髪を靡かせて立ち去ってしまった。
なんだか寂しい気持ちになるのは屋上の彼女と昔出会った少女を重ねたからなのか。だけどなんだか青銀色の子にはまた会える気がするな。あれだけ目立つのだもの。
式典がまだ終わってもいないのに、僕はなんとなく可笑しくなって笑ってしまった。
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