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第2章 カルト教団
13.毛玉でショ?
しおりを挟むはぁっ、はぁっ、苦しい……。
助けて、誰か……。熱いよ……。
息が、息が苦しい……。
「ぶはっ!!」
あまりの息苦しさにハルは目を覚ます。目を覚ましたのに視界は真っ暗だ。あれ、ここはハンスの家のベッドの上だったよね?
重くて熱くてそして息苦しい。仰向けに寝ていたハルの顔の上になにやらでかい毛玉が乗っている。
顔の上のそれを両手でむんずと掴みゆっくりと引き剥がそうとするが、なんだかがっちりと顔を掴まれているようだ。柔らかくて暖かいプニプニした肉球のような感触にむにっと頬を挟まれている。それでも無理矢理引き剥がすと毛玉が声をあげる。
『なんだよぉ、まだ眠いから起こさないでよぉ……』
「……」
寝ぼけて開ききらない目で両手で抱え上げた塊を見る。んー、小さい仔犬に見えるこれは何だろう。両手でふにふにと揉むとふわふわでもふもふであったかい。
ああ、まだ夢を見てるのか。もうひと眠りしようと思って胸にぎゅーっと抱いてみる。
「おやす……zzz」
『……ぶはぁーっ! 苦しいっ、放せっ!』
煩くて再び目が覚める。胸に抱いた枕が騒いでいるようだ。んー……これなんだっけ……。目を擦って胸元のそれをよく見る。
「毛玉……?」
『毛玉じゃないっ!』
窓からはもう既に明るい朝の光が差し込んでいる。今日もいい天気のようだ。
30センチくらいの青銀色の毛玉がハルの胸から脱出してトコトコ歩き、毛布の上に鎮座して思いっきり踏ん反り返る。仕方ないので上半身だけ起こして目の前の毛玉に向き合う。
『……ゴホン。我は獣神の眷属にして森の王者、そして偉大なる守護獣でもある青銀の魔狼フェンリル様が分身。お前がハルで間違いないか?』
毛玉が金色の瞳をきらきらさせながら仰々しく尋ねてくる。
フェンリル様の分身ってことか。どう見ても小さい仔犬だ。踏ん反り返ってるけど可愛いね。まだ眠いけど相手してあげないと拗ねちゃう……?
「うん、わたしがハルだヨ。君の名前ハ?」
『我の名はまだない。ハルに我が名づけの名誉を授けよう。森中に響き渡り全ての獣が恐れ戦き平伏すような勇猛な強者に相応しい名を付けるのだ』
毛玉がなんだか難しいことを言ってる。名前つけてほしいくせに踏ん反り返って尊大な態度を崩さない。
「んゥー……わたしあんまり難しいこと言われても分かんないけど、つまり格好いい名前をつければいいんでショ?」
『うむ。我は疾風の銀狼とか駆天の聖狼とかいうのがいいぞ』
「それ、名前っていうより二つ名みたいなものでショ?」
『そ、そうなのか?』
「うン。名前って言ったらほら、そうだなぁ、チビとカ」
『……嫌だ』
毛玉が不満げにそっぽを向く。チビ可愛いのに。
「えぇー、我儘だナァ。ポチはどウ?」
『……』
「えー、これも駄目なノ? 毛玉。銀。青。コロ」
『ハル……お前、ネーミングセンスがないな』
毛玉が自分のことを棚に上げて呆れたように言う。失礼な子だなぁ。
「疾風のなんとか言う子に言われたくないヨ。フェンリル様の分身だかラァ……フェン……リル。リルは?」
『リル……うーん』
「ああ、豆みたいにちっちゃいからマメリルにしよウ!」
『マメリル……? ぇ~……。全然格好良くないし、威厳がないじゃないかぁ……』
毛玉はとても不満そうだ。はいもうマメリル決定。異論は受けつけません。
「そんなことないヨ。これからの世の中はゆるふわ愛され狼の時代だヨ」
『えっ、そうなの?』
毛玉がぱっと顔をこちらへ向ける。いい食いつきだ。
「うん、その疾風のなんとかいう痛い名前よりモテるヨ」
『えっ、モテるの!?』
「うん、モテモテ」
ハルの言葉を聞いて毛玉は何やら考え込んだあと、大きく頷いてハルに告げる。
『し、仕方ない。マメリルでいいよ。別にモテたいからじゃないぞっ!』
「それじゃあ、君は今からマメリルね」
ハルの言葉にマメリルは割と満足げだ。どうやら納得してもらえたようだ。よかった。
そういえばフェンリル様の分身がここへ何しに来たんだろう?
「ところでマメリルは、なんでわたしの所へ来たノ?」
『ボク……我はフェンリル様の命でハルを守りに来たのだ』
「……守られに来たの間違いじゃなくテ?」
ハルの言葉を聞いて、マメリルはぷんすこ怒りだして足元の毛布を前足でてしてしと何度も叩いた。
『馬鹿にするなっ! ボクはこう見えても強いんだぞっ! おやじ様の分身だからな! 平伏せっ!』
なんだこの子面倒くさいけど可愛い……。この妙に虚勢を張っているところが堪らない。
「分かったよ、マメリル。ハルを守ってネ。これからよろしくネ」
小首を傾げてにっこり笑ってよろしくすると、マメリルは得意げに鼻を鳴らして鎮座したままさらに踏ん反り返る。
『ボクに任せろ! ずっとお前を守ってやるから安心していいぞ!』
そう言ったあと踏ん反り返りすぎてころんと後ろに転がったのは見なかった振りをしてあげた。
こうしてマメリルはハルのお供になった。
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