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第6章

79.決着

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「もうお前なんかに誰も傷つけさせはしない。」

 ディアボロスをしっかりと見据え断言する。もう誰も苦しませない。もう誰にも涙を流させない。
 奴と向き合い、必ず倒すと決意を新たにする。

「図に乗るなよ、小娘っ!」

 再び地上に降り立ったディアボロスはそんなセシルの態度に激昂して叫んだ。
 そして奴はこちらへ向けて先程よりも数段強い闇の刃を放つ。
 それを見ても少しも脅威を抱かない。そんなものじゃダメージを受けないことが分かっているからだ。
 奴から放たれた闇の刃に対しさらに強力な光の波動をドーム状に放って全てを相殺した。そして再びディアボロスを冷然と見据える。

「な、なんだと……?」

 ディアボロスは目の前で起こったことを信じられずに愕然とする。自分の渾身の闇魔法がたかが聖女の光魔法であっさりと打ち消されるなど思いもしなかったのだろう。
 次はこっちの番だ。遠慮なく全力でいかせてもらう。

「今度はこっちから行くよっ!」

 左手を地面に着け意識を集中させる。すると土の精霊の力により手元からディアボロスへ向けて地面が次々と棘状に盛り上げっていく。そしてそれが奴の真下へ届いたとき、地面が奴を突き上げるがごとくひと際高く隆起した。
 だがディアボロスは突然真下から大きく自分を貫くがごとく突き出てきた硬い岩を素早く横へ飛んで躱す。
 セシルはすかさず目の前に隆起した地面の棘に左手を当てた。硬化したその棘から直径3メートルほどの岩弾を丸く削りだす。そしてそれに灼熱の炎を纏わせたあと左手を奴へ向けてかざし、それを発射した。

 ディアボロスはそれをも簡単に躱しニヤリと笑う。

「こんな鈍い攻撃が当たるかッ!」

 そしてそのままこちらへ勢いよく突進してきた。
 だがディアボロスは僅かに異常を感じて後ろを振り返る。そしてようやく気づいた。
 奴は一瞬驚いて目を瞠る。
 躱したと思った巨大な炎の岩弾はその弾道を変えディアボロスを追ってきたのだ。そう、炎の追尾弾だ。

「小癪な。このまま当ててやろう!」

 ディアボロスはそのままセシルに向かって突進し、岩弾をセシルに当てようとぎりぎりで進路を変えた。
 だが岩弾も奴に追随しその進路を正確に変える。

 やがてディアボロスは逃げることをやめ、炎の岩弾に正面から向き合う。そして両腕を広げてそれを受け止めた。
 岩弾の炎が奴を包むがその程度の炎がその体を蝕むことはない。

「フン。こんな物消し飛ばしてやる」

 ディアボロスは笑いながらそのまま球を破壊しようと両手に闇の魔力を集める。

 セシルはそんなディアボロスを冷然と見つめながらかざしていた左手をきゅっと握りしめる。と同時に奴が受け止めていた炎の岩弾は一瞬激しく輝き轟音とともに爆発した。
 金属よりも硬い岩の欠片が炎を纏ったまま爆散しディアボロスの体を切り裂き、刺し貫く。

「がハッ……!!」

 その爆発の圧倒的な破壊力は闘技場全体を揺るがすほどの威力だった。
 ディアボロスはその衝撃で後ろへ吹き飛ばされ何が起こったのか分からないと言わんばかりに一瞬茫然とする。
 だが間もなくはっと我に返る。その両腕は爆発により肘から先が無くなっていたのだ。己の腕を見て呟く。

「一体なんだ……この威力は……。」

 セシルは間髪を入れずに、愕然とするディアボロスの頭上に巨大な氷柱を作り、それを真下へ落とした。自身を覆う大きな影に気づき真上を見るがもう遅い。

「うおおおオォーーーッッ!!」

 ディアボロスは悲鳴とともに巨大氷柱の下敷きになりそのまま地面へ深々と突き刺さった。
 倒せたとは思っていない。奴がまだ生きているのがセシルには分かる。まだ奴の邪悪な気配が残っている。セシルは一瞬とて気を抜くつもりはない。そして集中を切らさぬままその氷柱をじっと観察した。

 しばらくすると巨大な氷柱が縦に真っ二つに割れた。その左右に分かたれた氷壁の間からシュウゥと蒸気が上がり、その下からディアボロスがゆっくりと浮上してきた。
 流石に先程の攻撃は無敵の悪魔にも効いたらしい。その姿はもはや満身創痍といった感じで、その表情からはもはや怒りは感じられない。困惑と驚愕の色を浮かべている。そしてなにやらぶつぶつと呟いているようだ。
 ディアボロスは高度を上げながら傷ついた自身の体と腕を再生していく。

 それを確認してセシルは次の行動へと移る。風の精霊の力で自身に風を纏わせ地面から浮き上がる。そしてディアボロスと同じ高度まで上がった。
 セシルは奴と向き合い静観する。
 そんなセシルを見て奴は初めてその顔に恐れの色を浮かべる。そして呟くように問いかける。

「一体お前は何なんだ……? 聖女じゃないのか……?」
「聖女じゃないよ。聖女の孫だけどね」

 ディアボロスはカッと目を見開き両手を左右に開いた。その掌から漆黒の靄が長く伸びる。そして片手に一本ずつ漆黒の剣を作りだした。
 そして嘲るような笑みを浮かべながらセシルに問う。

「お前は近接攻撃が苦手だったなぁ?」
「そうかもね」

 セシルも手の中に1本だけ虹色の剣を作り出す。それを持ってディアボロスに向かって構える。
 すると間髪入れずに2本の漆黒の剣を携えて奴がこちらへ突進してきた。もはや後がないと言わんばかりの鬼気迫る表情だ。言葉ほど余裕がある訳ではなさそうだ。

 セシルはというとディアボロスの表情を冷静に観察するほどの余裕がある。怒りも悲しみも確かに胸の中にあるのに頭が恐ろしく冷えているのだ。
 奴の交互に繰り出される2本の剣戟を簡単に捌くセシルに、奴はその顔に焦燥を滲ませ呟く。

「なぜ、なぜだ……なぜ当たらん! 人間ごときにィッ!」
「……こっちからいくね」

 高速で繰り出される2本の剣戟の合間を縫ってセシルが剣を振り降ろす。
 ディアボロスはその動きなんとか反応し2本の剣を交差させてセシルの斬撃を防いだ。

「ぐうゥッ……!」
「もっとしっかり防がないとこのまま斬っちゃうよ」

 セシルの斬撃を防ぎながらじりじりと後ろへ後ずさるディアボロス。それは力や速度で押し負けているために他ならない。
 このままでは後がないと思ったのか、奴は体の中心に魔力を集中させ始めた。そして虹の剣を両手に持つ2本の剣で防ぎながら、セシルへ向かって胴から闇の波動を至近距離で発射した。

 ディアボロスの動きを予測していたセシルは、光の精霊の力により具現化した光の盾を瞬時に作りだしてその波動を打ち消す。

「まさか……そんな……」

 ディアボロスはその表情に再び恐怖の色を浮かべる。目の前の存在を信じられないといった顔で凝視する。
 そしてセシルはその大きな光の盾をそのまま奴に力いっぱいぶつける。

「か、はッ……」

 ディアボロスは大きな光の盾をぶつけられた衝撃でバランスを崩し後ろへよろめいた。その目からはもはや戦意が窺えない。
 よろめく奴の前でセシルは虹の剣を振り上げる。

「ケントの痛みはこんなもんじゃない」

 振り上げた剣に怒りを込めてディアボロスの胴を目がけて振り下ろす。奴は慌てて漆黒の剣を交差させてそれを防ごうとするが、虹の剣が奴の剣ごとその体を叩き斬る。
 破壊された漆黒の剣が闇の靄となって空中に霧散した。いまやディアボロスは無防備にその体を曝け出している。もう半分意識が飛びかけているようにも見える。
 それを見てセシルはもう一度大きく剣を振り上げる。

「仲間はもっと傷ついた」

 再び振り下ろした剣でディアボロスの体を斬る。そしてさらに剣を振り上げる。

「殺された街の人はもっと苦しんだ!」

 セシルは再び虹の剣を力いっぱい振り下ろしディアボロスの体を袈裟掛けに斬りつけた。
 こんなので仇が取れたわけじゃない。これから涙を流す人がたくさんいるんだ。
 セシルの最後の一撃を受けてディアボロスはふらふらとしている。今にも落ちそうだ。

「『千刃竜巻トルネードエッジ』!」

 無数の風刃が巨大な竜巻となってディアボロスを巻き込みその体を切り刻む。もはや奴はなすすべなくその刃の渦に身を任せている。
 そしてぼろきれのようになったディアボロスの胸の中心深くから、ようやく漆黒のコアが現れた。

「お前は……再び私を、封じ込めようと、いうのか……?」
「そんなことはしない」

 そして再びルーンの言葉がセシルの記憶の中から蘇る。


『お姉ちゃん、悪魔は聖女の神聖魔法に弱いんだよ』


 そしてディアボロスに告げる。

「封じ込めたりなんかしない。貴方はここで倒しきる。……『聖光剣ホーリーブレード』」

 目の前に無数の光の剣が現れて舞う。そして左手をディアボロスの漆黒のコアへ向けると同時に一斉に無数の神聖な光の剣をそこへ放った。

 それを見てディアボロスは諦めの表情を浮かべた。
 次の瞬間無数の聖なる剣が漆黒のコアに突き刺さる。
 そしてディアボロスの体は神聖な光に包まれ一瞬街中を照らさんばかりに眩く輝いて爆散した。
 その破片は全てが漆黒の靄となって霧散する。奴が居たそこにはもう何も残っていなかった……。

 セシルはゆっくりと地上へ向かって降りていく。そしてその両足を静かに地面へ着けた。
 これで全部終わったよ。ケント、すぐに会いに行くからね。



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