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第6章

77.連携攻撃 <ケント視点>

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 俺はディアボロスの間合いに入り超加速を維持したまま剣戟を次々に繰り出す。奴は光のエンチャントを施されたホーリーツヴァイハンダー改に押され徐々に後ろへ後ずさる。
 今や速度で上回る俺の剣戟に度々傷つきながらも回復を繰り返すディアボロス。
 突然後ろからセシルの声がする。

「『聖光球ホーリースフィア』!」

 剣戟の合間にセシルから放たれた無数の光の玉が俺の背後からディアボロスに襲いかかる。背中に当たった分は打ち消されるが、それでも余りあるほどの無数の聖光球が悪魔の体を蝕む。

「どうだ、光の剣と光の玉のミックス味は?」
「ぐッ!」

 ディアボロスはよほど俺の攻撃が煩わしかったのだろう。剣と魔法から逃れるために体を浮かび上がらせ上空へと飛び上がる。
 俺は上空へ逃げたディアボロスを睨め上げる。これじゃ近接攻撃が届かない。

 だが背後で密かに詠唱を開始していたワタルがようやく特大魔法を行使しようとしていた。

「『聖光柱ホーリーレイ』!」

 ワタルの詠唱とともに飛び上がったディアボロスの頭上に光の正円が広がった。そしてそこから無数の光線が地面へ向けて発射される。その範囲は奴を中心として俺の立っている所まで届くほどの広さだ。
 だが奴は半身を光線に焼かれながらも辛うじて範囲外へ逃げて避けた。そして俺に向かって叫ぶ。

「くはっ! ……私がこんな物でやられるかっ!」
「危ないケントさん、避けてっ!」
「ケントっ!」

 ワタルとハイノの叫びが響く。ディアボロスを襲った光線が俺の上にも振りかかろうとしていたのだ。
 彼らの声が聞こえたが俺は動かない。魔法無効化で打ち消すことができるのでそのままでも別に支障はないが……。

「無効化なんて勿体ないことするかよっ!」

 俺は大剣をバットのように持ちかえ、それに纏わせた光のエンチャント効果を利用し俺の目の前に振ってきた聖光柱をディアボロスの方へ打ち返した。そう、まるで野球のバッティングのごとく!
 寸でのところで逃げ果せていた奴に、俺の打球、もとい光線がヒットする。これが俺のホームランだっ!

「ぐあああぁーーーッ!!」

 すでに半身を光線で焼かれていたディアボロスは俺の打ち返した光線で完全にその身を焼かれる。
 満身創痍のディアボロスが憤慨して叫ぶ。

「この私が……お前らのような……ゴミカスどもにィーーッ! 許さん、許さん、許さんッ!」

 激昂した奴が何やら呟く。

「私の本当の力を思い知るがいい……」

 突然ディアボロスの体が2つに分かれたかと思うとそのうちの1体はエメリヒだった。
 ディアボロスから分かれた意識を失ったエメリヒがそのまま上空から落下する。ここからだとかなり遠い。
 だが俺は加速ができる。落ちてくる彼に向かって突進した。間に合えっ!
 地面に激突する寸前で俺の伸ばした腕がかろうじてその体に届いた。そしてなんとか受け止めることができた。ほっ、よかった……。
 どうやら全力で戦うためにエメリヒが邪魔だったらしい。それで彼の体を放棄したのだろう。散々利用した挙句に要らなくなったらポイか。いかにも悪魔らしいな。

「フハハ……。ようやく全力を出せるぞ……」

 ディアボロスは全身に魔力を集め始めた。奴は何かするつもりだ。咄嗟に抱えていたエメリヒを次の攻撃に備えて背後に置き庇う。

「ハアッ!!」

 次の瞬間奴は体の中心に集めた高濃度の魔力を弾けさせ、全方位へ闇の刃を放つ。闘技場全体に届くほどの範囲攻撃だ。
 魔法無効化によって俺の体を盾にした分は打ち消された。背後のエメリヒもどうやら無事だ。だが他の仲間はどうなった!?

 他の3人は即座に自らに防御結界シールドプロテクトを張った。だがあっという間に結界が消し飛びかなりのダメージを受けたようだ。
 やはりエメリヒを捨てたあとの奴の魔法攻撃力が今までの比ではない。

「ぐ……」
「かはっ……」
「ハ、ハイノさん、ワタルさん……大丈夫、ですか……?」

 一番ダメージの少なかったセシルが、ハイノとワタルの状態を確認しながら2人に生命力回復ヒールを施す。
 結界である程度は防いでいたので全て被弾したわけではないが傷が酷いようだ。奴の闇の魔法は魔力と体力を奪ってしまう。

「……『生命力回復ヒール』」
「すまん……」
「ありがとう……」

 傷は塞がったようだがやはり体力の消耗が激しいようだ。よくも仲間をやってくれたな、ディアボロス……!

 すぐにディアボロスに向き直りその間合いに入るべく勢いよく駆け出す。
 再び周囲の景色がゆっくりと流れる。瞬時に奴の間合いに入り大剣でその胴を横一文字に薙ぎ払う。
 俺の大剣で奴の胴がすっぱりと分断された。奴はその顔に苦痛に満ちた表情を浮かべている。それを見て勝利を確信した。よしっ!

「フッ」
「っ……!?」

 気がつくと奴の顔にはいつものにやけた笑みが浮かんでいた。そしていつの間にか奴の分断された上半身の掌から伸びた5本の指の1本が俺の胸を貫いていた。



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