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第6章

70.湧き上がる闇

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「ハイノさん、大丈夫ですか?」

 セシルはディアボロスによってザックリと肩を斬られたハイノに駆け寄る。
 先ほどの戦いの間に上回復薬ポーション魔力回復薬マジックポーションを服用し多少は回復することができた。
 ワタルのほうはエリーゼが治癒魔法を施している。やはり単なる外傷ではなく体力をも奪われているようで回復が捗らないようだ。

「『生命力回復ヒール』。」

 掌をハイノの肩の傷に当てる。温かい光が彼の傷を覆う。傷は塞がるがやはりかなり魔力と体力が奪われているようだ。

「う、すまないな……セシル。」

「えっ?」

 ぐったりとしながらハイノがセシルに礼を言う。
 自分は彼に名前を言っただろうか? エリーゼに告げたのを聞いていたということ?

「ハイノさんはもしかして……。」

 彼はセシルの言葉を聞いてにっこりと笑った。もっと話したい。きっと彼は……。
 もっと話を聞きたかったが今はそんな場合ではない。この戦いが終わったら彼とたくさん話したい。だけど今は地上へ出てしまったディアボロスを追わなければ。

「奴を追おう。ワタル、ケント、動けるか?」

「僕は何とか……。だけどケントさんは……。」

 ワタルが痛ましげにケントを見る。彼の傷は2人よりも深かった。ポーションで傷口は塞がったものの奪われた体力も相当なものだったのだろう。

「俺も、行く……。」

 ケントは大剣を床に突き立て杖代わりに立ち上がるが満身創痍で足取りもふらついている。すぐに戦闘に加わるのは無理だ。しばらく休むべきだ。
 とはいえハイノとワタルもまだかなり弱っている。だが追うしかない。街には祭典の翌日のためいつもよりも多くの人たちがいる。このままではディアボロスによる大量虐殺が始まってしまう。

「ケントさんは私が看てます。どうぞお先に行ってください。」

 エリーゼがそう言ってケントに肩を貸した。ケントが「すまない。」と言って彼女に寄りかかる。取りあえず彼のことはエリーゼに任せよう。

「私が援護します。皆さん、行きましょう。」

 セシルはそう言って、ハイノとワタルと大きく頷きあい急いで地上を目指す。





 ディアボロスは神殿をぶち抜いて飛び上がったあと、空中に浮かび上がり街を見下ろす。

「さあ、私を楽しませてくれ。いでよ、我が眷属たち。」

 ほくそ笑みながら両手を広げそう言うと、街中の地面から次々と黒い液体が湧き上がりその姿を小さな悪鬼に変える。無数の悪鬼が街中に現れた。まるで漆黒のゴブリンのようだ。

『ギャー、ギャー!』

「きゃあぁーー!」「うわっ、なんだっ!」「ひぃっ、く、来るなっ!」

 街のあちこちから悲鳴が沸き起こっている。それを聞きながら悪魔は嬉しそうに笑う。どうやらそのまま高みの見物を決め込むようだ。

 ハイノとワタルとともに神殿から出たセシルが見たのはその地獄のような光景だった。

「何ということだ……。」

 ハイノが呟く。ワタルはあまりにも凄惨な光景に愕然としてしまう。
 周りは阿鼻叫喚の渦だ。悪鬼に追われ襲われる人々。こと切れて既に動かなくなった人。隠れて震える人。勇敢にも立ち向かおうとする人。彼らを助けなければ!

「私は兵を動かすよう奴に頼んでくる。お前たちはなるべくたくさんの人々を避難させてくれ!」

 そう言ってハイノは城へ向かった。奴……誰だろう?
 ワタルは目の前で女性を追いかけていた悪鬼を背中から斬り払う。そこからは目についた悪鬼を片っ端から斬って斬って斬りまくる。

 セシルは重症の人を優先して治療しながら、魔法で悪鬼を駆逐していく。

「大丈夫ですか!? 『生命力回復ヒール』。」

「あ、あぁ……ありがとう……。」

 女性の傷の手当てをする。悪鬼の攻撃には体力を奪う効果はないようだ。普通に回復できる。だがこの数の多さは……。

「『風刃ウィンドエッジ』!」

『ギャアアァッ!』

 こちらへ襲いかかってきた悪鬼を風刃で撃退する。だがいくら倒しても埒が明かない。なぜなら……。

――コポコポ……

『ギャアッ!』『ギャッ、ギャッ』

 今もあちこちから湧き上がる黒い液体。そして次々と生まれてくる漆黒の悪鬼。このままでは本当に王都が悪魔に占領されてしまう。
 ワタルは剣と魔法で悪鬼を駆逐し続けている。とりあえず今はセシルも目の前に横たわるなるべく多くの怪我人を救い、次々と湧いてくる悪鬼を倒すことしかできなかった。



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