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第5章
60.報告と対策会議
しおりを挟む「それで、大丈夫だったのか?」
ルーンとノインに会った日の夜、宿に戻ってケントに今日一日の出来事を報告する。彼にはルーンがヌルであったことも話した。ルーンが悪魔憑きであるということも。
「うん、大丈夫だった。暗殺者が自分の判断で動かない限りは襲撃はないと思うけど、恨まれてないとは言えないから分からない。」
「それでその、セシルなりに出したのがその結論ってわけだ。」
「うん。」
セシルは盗賊の命を奪ってから、戦いたくないという気持ちと生き延びるためには仕方ないという気持ちとで葛藤を続け、もう人の命を奪わないと決めた。それをケントに強制するつもりはないが……。
「そうか……。うん、分かった。俺も命を奪わないようにするよ。確かに奪わなくても強くさえあれば何度でも迎え撃てばいいだけだものな。」
ケントは何やらすっきりとした顔をしている。
「ケント……。」
「もう何人もの命を奪ってしまったけどな。でも今さらってことはないさ。一人でも命を奪わないほうがいいに決まってる。その代わり俺たちはもっともっと強くならないとな。」
「うん、ありがとう……! わたし頑張るよ。」
ケントが同じ気持ちを持ってくれて嬉しい。何か自分に一本ぶれない何かが通った気がする。もう迷うことはないだろう。これからはきっと心も強く在れる。
「だが警戒は続けたほうがいいな。絶対に襲われないとは限らない。変装もセシルのはばれたみたいだしな。」
「うん。どうしてばれたんだろうなぁ……。」
「幻影も魔法だからな。見破る術でも持っていたんだろう。こうして見る分には全然分からないからな。」
ケントがセシルをじっと見る。あまり見られると恥ずかしくなる。
「うん。それとケントが言ってたマスター・ハイノって人のことだけど、おじいちゃんである可能性は確かにあるけど、聞いた情報だけでははっきりは分からないね。おじいちゃんじゃないならかなりの強敵になるだろうね。」
「そうだな。バルト将軍も敵わないって言ってたからな。まあバルトの力量がそもそも分からないが剣の腕では軍で一番らしいぞ。」
「ああ、ハヤテ号の……。言いくるめたの?」
「セシル、お前、人聞きが悪いな……。そもそもハヤテ号のことはばれてないからな。受け継いだんだよ、ゴットフリートを! 心の中でな。」
セシルの言葉を受けてケントが力説する。まあ仕方がないよね。ケントが逃げ延びるために必要だったんだから。王国という国に属した将軍の不運だと思って諦めてもらうしかないよね。
セシルはケントに尋ねてみる。
「その、マスター・ハイノは祭典に参加すると思う?」
セシルの問いかけにケントが腕を組んで唸りながら答える。
「うーん、バルトの話を聞いた限りではその可能性は低いだろうな。滅多に顔を見せないって言ってたし、わざわざ衆人環視の中姿を現すとは思えない。」
「そうだよねぇ。ぜひ会ってみたいんだけどなぁ……。祭典が終わったら勇者に会ってお願いしてみようか。会わせてくださいって。」
「簡単に会わせてもらえるとは思えないな。祭典でお披露目したら特に会いたい奴は山のように現れるだろうし、神殿もいちいち対応しないだろう。ワタルも有名人になるだろうしな。それに……。」
ケントが急に真剣な表情になり話を続ける。
「仮に会えることになったとしても必ずワタルの前にあいつが出てくる。エメリヒという神官だ。あいつに俺の正体がばれたら即殺しにかかってくるだろう。」
ケントの言葉を聞いて背筋が寒くなる。勇者に会おうとすることは相当危険なことのようだ。うーん……。
「それじゃあさ、聖女様に頼むのはどうだろう? ケントじゃなくてわたしだったら怪しまれないんじゃないかな? 勇者に会う口実を作るのは苦しいものがあるけど、聖女様だったら治癒をお願いするためだとか浄化のためだとかいろいろ理由がつけれるでしょ?」
「ふーむ、聖女か……。」
セシルの提案を聞いてケントがしばし考え込む。
「で、聖女様に会えたらきっと勇者の伝手でマスター・ハイノに会うことができると思うの。ううん、もしかしたら聖女様が直接面識があるかもしれないし、勇者を通さなくても会えるかも。」
「そうだな、悪くない案だな。無策で神殿に突っ込むよりいいかもしれないな。」
やった。ケントも賛成してくれた。やるべきことが決まったらあとは最善を尽くすのみだ。
祭典まであと2日。勝負はこれからだ。セシルはケントとともに聖女に会う口実を考えることにした。
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