復縁マニュアル

復縁屋

SNS

　健は、希と別れてから、胸が苦しくて苦しくて、焦燥に駆られ、心が掻き乱された。
　常に希を思い出してしまう。相手はどんな男なんだろうと思考が止まらない。
　毎日、毎日、どろどろとした気持ちで、希にもう会えないという恐怖を感じていた。

　インターネットで、毎日【失恋】や【よりを戻す】と検索してみたり。
　失恋ソングを聴いたり、失恋物の映画を観たりして気を紛らわそうにも、その歌を聴いてるうちに、不思議なものでその歌に嫌悪感を抱くようにもなった。
　
　希と別れて5日が過ぎた頃だろうか、健が登録していた、LinksリンクスというSNSサイトを閲覧していた。
　このLinksというサイトは、日記などを書いたり、少なめの文字で呟けるSNSサイトだ。

　なんとなく、【失恋】などのカテゴリで日記や呟きを眺めていた。

　ふと、目に留まった単語があった。
　
　「復縁屋」

　呟きの内容を見る。

　「失恋で、相手を諦めきれないあなたに。あなたの復縁や将来の幸せを手助けします。依頼される方は、これまでの経緯と現在の状況を添えてメッセージをください。報酬は応相談となります。ただし、保証は致しかねます。」

　復縁か…詐欺かもしれない…そう思いつつも、ふと頼んでみたくなった。藁にもすがる思いで、その復縁屋のアカウントに、これまでの経緯や、現在苦しんでいる事を添えて、メッセージを送ってみた。

　翌日、Linksを開くと、復縁屋から返信が来ていた。

　（復縁屋です。復縁とは、非常に難しく、茨の道です。自分との戦いにもなります。どんな結果でも納得できますか？）

　健は急いで返信した。

　（覚悟はできています。恋人と復縁できるなら、なんだってやります。自分との戦いとは、どんな事でしょうか？）

　（分かりました。依頼されるということですね。自分との戦いとは、我慢して、相手に心を寄せるという事です。心を寄せるとは、相手からの反応がどんなものであっても、我慢して我慢して、相手の最善を願うこと。これができるように努力してください。）

　（依頼に対する報酬は、どれくらいですか？）

　（最初の面接は、美味しい食事を奢ってくれる程度でいいですよ。）

　（そんなので良いんですか？復縁できるなら、いくらでもご馳走します。お願いします。助けてください。）

　（分かりました。では2日後の夕食はいかがでしょうか？）

　健は、了解の旨伝え、復縁屋から待ち合わせ場所の指定を受けた。
　幸いにも待ち合わせ場所は、東京都内で比較的健の家から近い場所で助かった。

　それにしても夕食とは…復縁屋とはどんな人なのだろうか。
　健は、探偵事務所の様な体を想像していた。

　そして当日、健は、復縁屋との待ち合わせ場所に向かった。