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もし私が辛いなら
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あの人が帰った後、私はすぐお父様の元へ向かった。
今日のパーティはあの人が出席しないということを伝えないといけない。
部屋の前に来て、お父様付きの執事に入っても大丈夫かしらと尋ねる。
初老の執事から返ってきたのは入室の了承ではなく、私は大丈夫なのかと心配の声だった。
この人はお父様が若い時にどこからか引き抜いたらしく、産まれた時からこの家に仕えていた。
私の顔色を見たら何があったのかくらい想像できるはず。
「私は大丈夫です、先ほどメイドにも伝えましたが、今日のパーティにユーリ様は来られなくなりました。料理や挨拶の順番など…色々と変更になりますので、バタバタさせてしまいますわね」
ーさっき昨日考えたプランを渡したけれど必要無さそうね。多分お父様にも昨日の時点で報告はしていると思いますし…あの人も先程お父様に謝罪しに行くと仰っていたし…
昨日、メイドからあの人は出席出来ないかもしれないと聞かされた時は半信半疑で、どのような理由があっても私を選んでくれると思っていた。
だって、そのパーティは今後の私達にとって重要なことだったから。
「ふふ、そんなはずはないのに」
思わず口から溢れると、執事は自分に向けて発した言葉を聞き逃したと思い、聴き返してくれた。何でもないの、と伝えるとまた心配された。
「そうですか…お嬢様、私達はみんなお嬢様の味方でございます…正直、ユーリ様はーーー」
「おやめなさい。私の婚約者です」
少し声を潜めて眉をしかめる執事に、毅然とした言い方でその先を突っぱねると驚いた様子だったもののすぐに失礼しました、と頭を下げられた。
幼い頃から私のことを知っているこの人からしたら私の状況は心配するわよね…
いつもは家と当主に忠実で、慌てている姿など見たこともない執事が、私のために口を滑らすのは、あまり見たくなかった。
「ごめんなさい…あなたの気持ちはすごく嬉しいわ…でも信じたいのよ、信じると決めたの」
そうよ、こんなことでくじけてはダメ。
あの人を信じると決めたのは、わたくしなんだからー。
わたくしがきめたことなのだから、あのひとをあいするって。
ワタクシガー…
振り切るようにお父様入ります、と声をかけて扉に手をかけた。
廊下で控えていたメイドが嗚咽を漏らしたのが聞こえた気がするが、もう、扉は閉まっていたー。
※
「そうか、やっぱり来ないか」
お父様は私が入ってくると大きめなソファに、横になりなさい、と仰ってくれた。
少しだけ目眩がしていた私はその言葉に甘えて、横になるとすぐに部屋にいたメイドがハーブティを入れてくれた。部屋にカモミールの匂いが充満しそれだけでも、乱れた気持ちを整える効果があった。
「はい、お止めできず申し訳ございません」
横になった私の頭を撫でながら、お父様はいいんだよ、と優しく言ってくれた。
「お前は何も悪くないよ」
「でも、」
ー私にもっと魅力があったら。私がもっとあの人の好みの女性だったら。私がもっと。
「自分のことを責めるのはやめなさい」
冷たいタオルを持ってきてくれるかい、とお父様がメイドに伝えるのが聞こえた。
冷たいタオル?と不思議に思っていると、お父様が目元をすくった。
「泣くほど辛いのかい」
え…私は泣いてなんかーー
「すまないね、もっと向こうに慎重に話を聞いて入ればよかった。お前は悪くないんだ。父が全て悪いと思ってくれないか?」
「そんなこと…思えませんわー」
震える声で答えると、耳まで熱いものが流れてきた感触がした。
「あら、あら…泣いてなど………ー…っ…」
私は、泣いているのかしらと思うと次々に涙が溢れてきた。泣くつもりはなかったのに。
なぜかしら。止まらない…
頭は冷めているのに、目だけが熱いー。
お嬢様、失礼します。とメイドが優しく目元に冷たいタオルを置いてくれる。
「すまない」
色んな事に対して、あまりにも言いたいことがあり、それを言葉にできずただ涙にかわっていく。後から後から出てきて耳が詰まっているような感覚になって、そうするともう止まらなかった。
「本当にすまない…」
周りのメイドが泣いている声がする。その雰囲気に負けてしまい、
う…く…と嗚咽を漏らしてしまう。
お父様の手の優しさが心に沁みる。
すまないという言葉は一緒でも、込めた思いが違うと全然違うものに聞こえるのね、と思ったー。
今日のパーティはあの人が出席しないということを伝えないといけない。
部屋の前に来て、お父様付きの執事に入っても大丈夫かしらと尋ねる。
初老の執事から返ってきたのは入室の了承ではなく、私は大丈夫なのかと心配の声だった。
この人はお父様が若い時にどこからか引き抜いたらしく、産まれた時からこの家に仕えていた。
私の顔色を見たら何があったのかくらい想像できるはず。
「私は大丈夫です、先ほどメイドにも伝えましたが、今日のパーティにユーリ様は来られなくなりました。料理や挨拶の順番など…色々と変更になりますので、バタバタさせてしまいますわね」
ーさっき昨日考えたプランを渡したけれど必要無さそうね。多分お父様にも昨日の時点で報告はしていると思いますし…あの人も先程お父様に謝罪しに行くと仰っていたし…
昨日、メイドからあの人は出席出来ないかもしれないと聞かされた時は半信半疑で、どのような理由があっても私を選んでくれると思っていた。
だって、そのパーティは今後の私達にとって重要なことだったから。
「ふふ、そんなはずはないのに」
思わず口から溢れると、執事は自分に向けて発した言葉を聞き逃したと思い、聴き返してくれた。何でもないの、と伝えるとまた心配された。
「そうですか…お嬢様、私達はみんなお嬢様の味方でございます…正直、ユーリ様はーーー」
「おやめなさい。私の婚約者です」
少し声を潜めて眉をしかめる執事に、毅然とした言い方でその先を突っぱねると驚いた様子だったもののすぐに失礼しました、と頭を下げられた。
幼い頃から私のことを知っているこの人からしたら私の状況は心配するわよね…
いつもは家と当主に忠実で、慌てている姿など見たこともない執事が、私のために口を滑らすのは、あまり見たくなかった。
「ごめんなさい…あなたの気持ちはすごく嬉しいわ…でも信じたいのよ、信じると決めたの」
そうよ、こんなことでくじけてはダメ。
あの人を信じると決めたのは、わたくしなんだからー。
わたくしがきめたことなのだから、あのひとをあいするって。
ワタクシガー…
振り切るようにお父様入ります、と声をかけて扉に手をかけた。
廊下で控えていたメイドが嗚咽を漏らしたのが聞こえた気がするが、もう、扉は閉まっていたー。
※
「そうか、やっぱり来ないか」
お父様は私が入ってくると大きめなソファに、横になりなさい、と仰ってくれた。
少しだけ目眩がしていた私はその言葉に甘えて、横になるとすぐに部屋にいたメイドがハーブティを入れてくれた。部屋にカモミールの匂いが充満しそれだけでも、乱れた気持ちを整える効果があった。
「はい、お止めできず申し訳ございません」
横になった私の頭を撫でながら、お父様はいいんだよ、と優しく言ってくれた。
「お前は何も悪くないよ」
「でも、」
ー私にもっと魅力があったら。私がもっとあの人の好みの女性だったら。私がもっと。
「自分のことを責めるのはやめなさい」
冷たいタオルを持ってきてくれるかい、とお父様がメイドに伝えるのが聞こえた。
冷たいタオル?と不思議に思っていると、お父様が目元をすくった。
「泣くほど辛いのかい」
え…私は泣いてなんかーー
「すまないね、もっと向こうに慎重に話を聞いて入ればよかった。お前は悪くないんだ。父が全て悪いと思ってくれないか?」
「そんなこと…思えませんわー」
震える声で答えると、耳まで熱いものが流れてきた感触がした。
「あら、あら…泣いてなど………ー…っ…」
私は、泣いているのかしらと思うと次々に涙が溢れてきた。泣くつもりはなかったのに。
なぜかしら。止まらない…
頭は冷めているのに、目だけが熱いー。
お嬢様、失礼します。とメイドが優しく目元に冷たいタオルを置いてくれる。
「すまない」
色んな事に対して、あまりにも言いたいことがあり、それを言葉にできずただ涙にかわっていく。後から後から出てきて耳が詰まっているような感覚になって、そうするともう止まらなかった。
「本当にすまない…」
周りのメイドが泣いている声がする。その雰囲気に負けてしまい、
う…く…と嗚咽を漏らしてしまう。
お父様の手の優しさが心に沁みる。
すまないという言葉は一緒でも、込めた思いが違うと全然違うものに聞こえるのね、と思ったー。
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