私が猫になってから

フジ

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1人の主婦の人生の終わり

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※なかなか暗めです。




そんな日常が終わりを迎えるなんて思わなかった。
その日は、いつにもなく身体がだるくて何をしても晴れなかった。でも熱はなく風邪の症状もないため、いつものように動いた。育児と家事は待ってはくれないもので。

その日は暑くて、過去の記録を更新するほどの暑さだった。横断歩道で、買い物袋を下げて信号待ちをしていた時。

今週末に公園に遊びに行く予定で、その時にお弁当を持っていこうと思い色々と買い込んだ。ズシィ…と重さがかかり、スーパーの袋が手に食い込んで何度も持ち返していた。
これでも薬局は寄らなかったからマシだ、と自分を励ました。


横に珈琲ショップがあり、アイスドリンクの旗がはためき、思わず入りそうになるのを律した。
ダイエット中だったのを思い出したから。それでこの暑い中、自転車にも乗らず歩いてきたのだ。
ここで飲んだら意味が無い、でも飲みたい…


ダメだ、家に帰って、デトックスウォーターでも飲もう…と美味しいと感じないが身体にはいい飲み物を思い浮かべて、ため息をついた。


帰ってからの家事の段取りを頭の中で考えながら、交差している信号が赤になるのをボーと見る。


パ、と目の前の信号が青に変わる。
また袋を持ち替えて、横断歩道を歩き出した。







あの時、買い込まずに軽快に歩けていたら。
あの時、自転車に乗っていたら。
あの時、薬局に寄っていたら。
あの時、ダイエットとか関係なく珈琲ショップに入っていたら。

世の中は、上手くいっているようで、理不尽なことばかりだった。

それが多数ある選択肢の中から最悪のケースになっただけのことで。あらゆる人がそのように取捨選択をして、このケースに至ってしまった。

自分で考えて行動した結果巻き込まれたのだが、どうして、という想いは必然的に出てくるのが人間だったー。










ふわふわと浮いてる気がする。
手を見ようとしても、そんなもの無くて。
えっと思い鏡を見ても、そこには何も無く。

ここは病院のように見えた。個室で鏡の前にー。


(夢?どういうことなのーえっと私は買い物をして、それからー、それからー)

思い出そうとしていると、医師らしき白衣を着た人がペンライトを消して、聴診器も外したのが見えた。
なぜかその姿に目が吸い寄せられて、ふらふらと近寄る。その人が身体をずらし、そして目に飛び込んできたのは自分の姿。

声にならない声が部屋に響く。

どうなっているのか。わからない、思い出せない。

このチューブと包帯、ガーゼだらけの自分は自分なのかー。



「残念です、」
と医師が夫にそう伝えてるのが見えた。

夫は泣きじゃくり、私の身体に縋り付いて呻いた。
なぜ、なぜ妻なんだ、と聞こえた。私はにいる!と耳元で叫ぶも、夫は聞こえてなかった。

(どうしてよ!)

とにかく不安で、大きな哀しみが胸を潰す。
ここにいる、私はここにいるよ、と夫を抱き締めた。


それに夫は何も反応を示すことはなかったー。




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