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ガツンとそれは、黒の癖のついた髪の毛に当たった。
令嬢と並んでも変わりない身長のその人は不運にも、その令嬢の後ろに移動して私のペンダントにぶつかってしまったのだ。

それがかなりの勢いだったのか、少しつんのめってしまった。


その私の声に振り返った令嬢は、その人が近いことに驚き声を上げてしまう。


ザワザワとあたりは騒然として、私はどうしようと一瞬だけ迷うが、元はといえば私のペンダントが原因だから、私が悪いんですと声を上げようとした。

すると、その人は振り返り指を唇に当てた。

それだけで私は動けなくなる。
この人はから。

「すみません、驚かせてしまって」

王子の荷物をお届けしようとして、つまづいただけなのです。すみません、と周囲と王子に向かって物静かに伝えた。
アーディ王子の許可を取り、近寄って何やら物を渡した。そしてすぐにその人だかりから遠のき、礼の姿勢を取る。

それだけで令嬢達は不審者ではない事がわかり落ち着きを取り戻すも、王子の不機嫌な顔は直らなかった。


それは、この人に注目を邪魔されたからだろう。


「おい、お前」

王子がその人に顔を上げさせ、そして「不幸を周りに撒き散らすな」「あいつの周りにいると不幸になる」と言ってまたファンの人達に愛想を振りまき、こっちを二度と見なかった。




私はそれを聞いて腹わたが煮えくりかえった。


そりゃ、私が1番悪い。
それはものすごく反省している。

でも、でもさ!王子も、何か持ってきてくれたんだからありがとうの1つも言えないの?そんな親切な人に不幸を撒き散らすな、って酷すぎる


しかもきっと2人は初対面だ。
王子は気にくわない人以外はアディと呼ばせており、さっきこの人はアーディ王子と言った。
でも王子は初めはこの人の顔を見ても何も感情を表していなかった。

それが綺麗な礼に、数人の令嬢がその人に見惚れていたのが気に食わなかったのだろう。

だから、あんな仕打ちをしたー。

王子の一言は周囲にとって効果は絶大だ。
だから、王子は慎重に喋らなければいけないのにー。

さっきの言葉は、あの人のこれからの学校生活を地に叩きつける言葉だった。

さっそくも令嬢がその人を避ける様子がある。
私がその人に私がいけなかったんです、と言っても、何のこと?と気まずげに避けられた。
周りの人も同じだ。


これでは、明日にでも広がるだろう。

ー不幸を呼ぶ人だと。

王子の一言で、だ。


あまりの仕打ちに持っていたペンダントを怒り任せに王子の頭に振りかぶって投げた。

今度は狙いを付けて。

前世は社会人のソフトボールクラブに所属しておりコントロール抜群のピッチャーだ。


沽券にかけても絶対外さない。
私のせいで、と後悔の念が入っているため、絶対外さない、と自信があった。

そしてそれは綺麗な直線を描き頭に当たり、王子は怒り狂った。犯人を探そうも周り中ファンだらけで人が沢山いたからしなも何が当たったかわからないみたいで、文句を言いながらキョロキョロして周りを困らせている。

ふふ~ん、いい気味…と少しだけスカッとしたも、すぐにポツンと立っているその人に駆け寄った。


その人も私を見ていた。

その様子に怒っていると思い
「ごめんなさい!」
と勢いよく頭を下げた。

「私の不注意なのに、庇ってくれてありがとうございます。…それと、アーディ王子から睨まれてしまって本当にすみません!どんなお詫びでもします、本当にすみません!」

私がペンダントを飛ばした張本人で、この人に庇ってもらい、挙げ句の果てにこの人は王子に睨まれてしまった。

そのことは重く心にのしかかり、もうこの人の奴隷にでも何でもなる、何でもする!と頭を下げ続けて決心した。

下げ続けて下げ続けて、相手が何の反応もない事に不安になって少しだけ様子を伺ってしまう。

そしてバチィっと目があってしまい、あわわわ、こっち見てた!とまた頭を下げた。

どうしよう、すっごい怒ってるよ…と泣きそうになっていたら頭上で噴き出す声がした。

「ふ、っはは」

恐る恐る顔を上げると、口元で手を握り笑いをこらえている人と目があった。
何か笑うところはあったのだろうか。

「あの、…」
「あはははっ君、すごいね、」
「え?」
「あの王子に、一発食らわせたでしょ…あんな事もうしたら駄目だよ」

可愛いくてそれでいて勇敢なレディ、僕のためにありがとう、と笑った。


その笑っている顔に、






「お友達になってください!」
と、叫んでいた私は間違っていないと思う。



それが王子と不幸を振りまくと言われる少年との出会い。


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