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普段着に着替えて、きつく締められたコルセットを脱ぐと新鮮な酸素が身体中に入ってきた。
パパッと化粧も整えられ、いつもの私になる。
メイド達が、妖精のような可憐さです、と褒め称えてくるが、さっきの暴言の傷はまだ癒えてない。
あなたさっき、お猿さんって言ってなかったっけ?
「もうそっちを見てもいいかな?」
メイドが下がったことにより、身支度が終わったと分かっているはずなのに、律儀に声をかけてくる。
「えぇ。…本当にごめんなさい、少し取り乱してしまいました」
ううん、大丈夫。と微笑むアランは前髪が少し長いが、その隙間から見える顔は超が付くほど美少年だ。執事が入れてくれたアールグレイを飲みながら、その笑顔をうっとりと見てしまう。
セバスが、あれが少しですか、さすがアラン様。と私をけなしているけれどアランが褒められているから、つい許してしまう。
きっとセバスもアランを挟めば私が怒らないとお見通しのはずだ。うん、間違いないけど。
メイドがクッキーを持ってきてくれ、飲み物と一緒にいただくことにする。早く婚約破棄のことをみんなに伝えたいが、今はクッキーを話題にしたい。だって、せっかくアランのために考えて考えて作ったクッキーだもの。
「アランもクッキーどう?あのね、ミラの出身の土地で売られているものなんですって。それをアラン用に作ってもらったの」
甘いもの苦手よね?これなら一緒に食べれるかなって思って。とえへへと笑う私に、みんなの笑顔が凍り付いた。
「な、なんていう愛くるしい生き物でしょうか」
「くるしい、胸が苦しいっ」
「私は目が潰れそうよ」
クッキーを持ってきてくれたメイドのミラとジェーンがそれぞれ目や胸を押さえた。
ちょっと待って、さっきの小芝居は終わったんじゃないの?なんでセバスも無言でしかも高速に眼鏡を拭き出してるのよ。
アランも眩しいものを見たように目を細めたかと思うと、年齢に合わない艶っぽい顔で笑った。
この顔をした時は要注意。何かイタズラされる!
「…色んな種類があるけどさ。どれが美味しいの?」
あれ?イタズラ、無し?そーだよね、もうアランも17歳だもん。クッキーに興味持ってくれて嬉しい!
ニコニコしてしまう。
「そうねぇ…やっぱりこの茶葉だけのプレーンなクッキーが、好き、」
そのクッキーを持ち上げた瞬間に、アランの黒い癖のある髪の毛が、私の手首に当たった。そして、指先の柔らかい感触も。ちゅ、と音を立てて離れた唇と、上目遣いで私を射抜いてくる目は笑っていなくて。
その顔は、少年ではなく、青年のそれでー。
顔が真っ赤になるのがわかる。
「ほんとだ、美味しいね」
「え、あ、」
「次は、この木苺が混ざったクッキーがいいな」
真っ赤にして食べられてしまった方の手を握り締めた。からかわないでと言いたいけれど、口は、はくはくと開くばかりで言葉にならない。
そんな私の心情を察しているのに、アランは首を傾げて、頬杖をついて追い討ちをかけてくる。
「フィー?」
だめ。
そんな声で呼ばないで。
そんな顔で微笑まないで。
もう一度、と言わないで。
心とは関係なしに、身体が動く。この部屋には執事もメイドもいるのに、2人しかいないみたいだ。
心臓がドキドキ言って、自分のなのに聴こえてくる。反対の手で胸をおさえてないと、飛び出してきそうだ。
それなのにクッキーをつまんでしまう私は、どうかしてしまってる。
微笑んでいるアランは何を考えているのか分からなくて。
どんどん顔が近づいてきて、思わずぎゅ、と目をつぶってしまった。
クッキーが唇に、当たる。
アランの息が指にあたり、身体がびくんっと揺れてしまい、その拍子にテーブルに落ちてしまった。
その過剰な自分の反応がとてつもなく恥ずかしくて、耳まで赤くなる。
「あ、」
目をとっさに開けると、アランがそのクッキーを手でつかみひょいと食べたところだった。
「ご馳走さま、でした」
その本当に嬉しそうな顔に、息苦しいほどのときめきを感じる。
ぼうっとする頭では回転が遅くなる。
一体、何にご馳走様と言っているのだろうか…って私は何をっ、クッキー!そうクッキーにご馳走様って言ったのよ!
「お礼は教えてくれたミラに…」
「いいえっ、お嬢様!私の方こそ、ご馳走様でした!!」
振り向くと、ミラがグッジョブ、と親指を立てていた。いや、自分で言うのもなんだけど、雇い主のお嬢さんですよ。その親指は不遜ですよ、まぁいいけど。
それより、なんでミラとジェーンは鼻血を出してるの?そのハンカチから見てもう出てる量スプラッターじゃない。それとなんでセバスは顔中に汗をかいてるの?眼鏡が曇ってるけど、見えてるの?
「「「お嬢様、何か?」」」
「は、ははは、」
聞きたかったけれど、なぜだか聞くのはやめとこうかな、って悪寒が走った。
パパッと化粧も整えられ、いつもの私になる。
メイド達が、妖精のような可憐さです、と褒め称えてくるが、さっきの暴言の傷はまだ癒えてない。
あなたさっき、お猿さんって言ってなかったっけ?
「もうそっちを見てもいいかな?」
メイドが下がったことにより、身支度が終わったと分かっているはずなのに、律儀に声をかけてくる。
「えぇ。…本当にごめんなさい、少し取り乱してしまいました」
ううん、大丈夫。と微笑むアランは前髪が少し長いが、その隙間から見える顔は超が付くほど美少年だ。執事が入れてくれたアールグレイを飲みながら、その笑顔をうっとりと見てしまう。
セバスが、あれが少しですか、さすがアラン様。と私をけなしているけれどアランが褒められているから、つい許してしまう。
きっとセバスもアランを挟めば私が怒らないとお見通しのはずだ。うん、間違いないけど。
メイドがクッキーを持ってきてくれ、飲み物と一緒にいただくことにする。早く婚約破棄のことをみんなに伝えたいが、今はクッキーを話題にしたい。だって、せっかくアランのために考えて考えて作ったクッキーだもの。
「アランもクッキーどう?あのね、ミラの出身の土地で売られているものなんですって。それをアラン用に作ってもらったの」
甘いもの苦手よね?これなら一緒に食べれるかなって思って。とえへへと笑う私に、みんなの笑顔が凍り付いた。
「な、なんていう愛くるしい生き物でしょうか」
「くるしい、胸が苦しいっ」
「私は目が潰れそうよ」
クッキーを持ってきてくれたメイドのミラとジェーンがそれぞれ目や胸を押さえた。
ちょっと待って、さっきの小芝居は終わったんじゃないの?なんでセバスも無言でしかも高速に眼鏡を拭き出してるのよ。
アランも眩しいものを見たように目を細めたかと思うと、年齢に合わない艶っぽい顔で笑った。
この顔をした時は要注意。何かイタズラされる!
「…色んな種類があるけどさ。どれが美味しいの?」
あれ?イタズラ、無し?そーだよね、もうアランも17歳だもん。クッキーに興味持ってくれて嬉しい!
ニコニコしてしまう。
「そうねぇ…やっぱりこの茶葉だけのプレーンなクッキーが、好き、」
そのクッキーを持ち上げた瞬間に、アランの黒い癖のある髪の毛が、私の手首に当たった。そして、指先の柔らかい感触も。ちゅ、と音を立てて離れた唇と、上目遣いで私を射抜いてくる目は笑っていなくて。
その顔は、少年ではなく、青年のそれでー。
顔が真っ赤になるのがわかる。
「ほんとだ、美味しいね」
「え、あ、」
「次は、この木苺が混ざったクッキーがいいな」
真っ赤にして食べられてしまった方の手を握り締めた。からかわないでと言いたいけれど、口は、はくはくと開くばかりで言葉にならない。
そんな私の心情を察しているのに、アランは首を傾げて、頬杖をついて追い討ちをかけてくる。
「フィー?」
だめ。
そんな声で呼ばないで。
そんな顔で微笑まないで。
もう一度、と言わないで。
心とは関係なしに、身体が動く。この部屋には執事もメイドもいるのに、2人しかいないみたいだ。
心臓がドキドキ言って、自分のなのに聴こえてくる。反対の手で胸をおさえてないと、飛び出してきそうだ。
それなのにクッキーをつまんでしまう私は、どうかしてしまってる。
微笑んでいるアランは何を考えているのか分からなくて。
どんどん顔が近づいてきて、思わずぎゅ、と目をつぶってしまった。
クッキーが唇に、当たる。
アランの息が指にあたり、身体がびくんっと揺れてしまい、その拍子にテーブルに落ちてしまった。
その過剰な自分の反応がとてつもなく恥ずかしくて、耳まで赤くなる。
「あ、」
目をとっさに開けると、アランがそのクッキーを手でつかみひょいと食べたところだった。
「ご馳走さま、でした」
その本当に嬉しそうな顔に、息苦しいほどのときめきを感じる。
ぼうっとする頭では回転が遅くなる。
一体、何にご馳走様と言っているのだろうか…って私は何をっ、クッキー!そうクッキーにご馳走様って言ったのよ!
「お礼は教えてくれたミラに…」
「いいえっ、お嬢様!私の方こそ、ご馳走様でした!!」
振り向くと、ミラがグッジョブ、と親指を立てていた。いや、自分で言うのもなんだけど、雇い主のお嬢さんですよ。その親指は不遜ですよ、まぁいいけど。
それより、なんでミラとジェーンは鼻血を出してるの?そのハンカチから見てもう出てる量スプラッターじゃない。それとなんでセバスは顔中に汗をかいてるの?眼鏡が曇ってるけど、見えてるの?
「「「お嬢様、何か?」」」
「は、ははは、」
聞きたかったけれど、なぜだか聞くのはやめとこうかな、って悪寒が走った。
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