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第十三話「新たなる鼓動」
第三章「この手がつかむもの」・⑥
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※ ※ ※
「ぐっ、うぅぅ・・・ッ‼」
全身に伝わる激しい震動を、デスクにかじりついて耐える。
一度は全ての頭を落とされたNo.021が、唐突な復活を遂げてから──僅か、数分。
<うぅ・・・うっ・・・・・・>
<ルアアアァァア・・・・・・>
No.011とNo.009は、再び放たれた熱線に薙ぎ払われ、地に伏し・・・
残った<ジャッカロープ>1号機も、そのついでとばかりに破壊されてしまった。
<<<アアアァァァハハハハハハハハッ‼>>>
そして、今・・・ヤツが狂ったように吐き散らかす紫色の炎によって、横浜の街は見るも無惨な焦熱地獄へと変わり果て・・・
オープンチャンネルには、戦士たちの悲鳴が響いていた。
暴れ回る巨体と、崩れ落ちる高層ビルが、何度も何度も地面を揺らす。
脳と臓とがシェイクされ続け、司令室には、誰かが吐いた吐瀉物の放つツンとした悪臭が漂っていた。
『っの野郎ォオオッッ‼』
<圧縮砲>の冷却が完了した<アルミラージ・タンクⅡ>から、水色の稲妻が発せられる。
しかし・・・昨日と同様、通常のメイザー光線はあまり効果がないようだった。
次いで、横浜湾で待機していた<モビィ・ディックⅡ>ならびに自衛隊のイージス艦から、連続して発射されたミサイルがNo.021の元に到達する。
・・・が、こちらもやはり、数多の爆風にたじろぐ素振りすら見せない。
通用するのはやはり・・・圧縮メイザー光線のみか・・・!
<<<アアアァァアアハハハハハハハッ‼>>>
と、そこで、No.021は、壊すものすら少なくなってきた景色の中に・・・それを見つける。
三つの頭の鼻先は・・・残された<ジャッカロープ>2号機へと、向けられていた。
「クソッ・・・‼」
サブモニターには、チャージ完了まで150秒とある。・・・間に合いそうにもない。
護衛部隊の持つ装備はあくまでNo.022に対してのものであり、現状で唯一ヤツの注意を引けそうな「メイザー・ブラスター」も・・・
それを持つ班との連絡は、既に途絶えていた。
もはや・・・食い止める手段はないのか・・・・・・‼
<<<アアアアアアァァァァァハハハハハハハハッ‼>>>
そして・・・No.021の中央の口から放たれる火炎が、<ジャッカロープ>と、それに随伴する護衛部隊の者たちを飲み込まんとした・・・
その、瞬間───
<───グオオオオオオオオオォォォォォォッッ‼>
唐突に現出した、巨大な白い光が・・・紫色の火炎の前に立ち塞がった。
高エネルギー反応探知の警告音が鳴り響く中──
私は、確信を持って、その名を呟く。
「ナンバー・・・セブン・・・ッ‼」
直後、光はネイビーの巨竜へと姿を変え・・・浴びせかけられた炎を、左腕で払った。
どうやら・・・身を挺して、<ジャッカロープ>を守ってくれたらしい。
「・・・ッ! やはり、右腕が・・・・・・」
すぐさまNo.021に攻撃を仕掛けたNo.007には・・・あるべきはずの右腕が、欠けていた。
いくらその体躯に共通する意匠があるとは言え、No.020やNo.021とは違って・・・ヤツは、超再生能力など持ってはいないのだろう。
・・・・・・しかし、それでも・・・No.007は、果敢にNo.021へと立ち向かってゆく。
左腕を地面に突き刺し、体内の熱を移した礫を浴びせかけ──
それが効かないと判れば、相手の攻撃を躱しながら、黒い外殻を尻尾で打ち据え──
それも無駄だと判れば、腕の鎧の尖った部分に熱を集め、それを刃のように使ってNo.021の首を斬り裂こうと突っ込んでいく───
「・・・・・・」
結果として・・・その全ては、通用しなかった。
No.021の巨大な腕で、あるいは首の一振りで、No.007の身体は軽々と吹っ飛ばされてしまう。
気が付けば、ネイビーの鎧は早くも傷だらけになってしまっていた。
だが、それでも・・・No.007は、立ち向かってゆく。
何度でも、立ち上がって──
決して、諦める素振りを見せずに。
「・・・・・・どうして・・・どうしてお前たちは・・・・・・ッ!」
無意識のうちに、握った拳から血が滲んでいた。
「───キリュウ隊長」
そこで、静まり返っていた司令室に、私の名を呼ぶ声が響く。
振り返れば、マクスウェル中尉が・・・真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「・・・・・・どうか・・・お心のままに」
「・・・ッ‼」
そして、言葉少なに・・・背中を押してくれる。
全く・・・どうにも・・・こういう所は、敵わないな。
「・・・・・・すまない、中尉・・・後を任せる‼」
「アイ・マムッ!」
即座に席から立ち上がり──ヘルメットを手に、テントの外へと走った。
「出撃るぞ‼ テリオッ‼」
『──お待ちしておりました。いつでもどうぞ』
No.021目掛けて駆けていると、無人の<ヘルハウンド>が追いかけてくる。
停車させる暇すら惜しんで、そのままシートへ飛び乗った。
『・・・お姉さま・・・っ!』
アクセルを回した所で、右耳にサラの声が届く。
私の身を案じてくれているのだと、すぐに判った。
・・・だが、内心では不安でいっぱいだろうに・・・・・・
『・・・・・・あの黒いのに・・・一発キツいのをお見舞して下さいましっ‼』
彼女は、そんな気持ちを飲み込んで、明るく送り出してくれた。
「フッ・・・了解・・・だッ!」
その気遣いが、ただただ・・・有り難い。
私という存在は、皆に支えられてここにいるのだと・・・改めて、思う。
「待っていろ・・・No.007・・・・・・」
だから、私は・・・私に出来る事を──私に出来る精一杯の事を、やるんだ・・・!
「──お前は・・・ひとりではない・・・ッ‼」
※ ※ ※
<<<アアアアアァァアアアハハハハハハハハッッ‼>>>
<グオオオオオオォォォォォォォォッッ‼>
巨大な右腕の一撃を食らって──クロの身体は宙を舞い、高層ビルへと叩きつけられる。
・・・あの子がここに現れてから・・・もう、何度となく繰り返されてきた光景だ。
<くっ、クロ・・・・・・>
あまりにも、痛々しい。視ていられない。
今すぐ・・・目を逸らしたい。
・・・・・・けれど、決して「やめて」だなんて言う事は出来なかった。だって───
<オオオオォォ・・・・・・グオオオオオオオオォオッッ‼>
何度となく打ちのめされても・・・・・・クロは、立ち上がるから。
自分の力を呪い、一度は勇気を見失っていた・・・あの子は・・・・・・
<そうする事を・・・選んだ・・・のよね・・・‼>
言いながら、必死に力を絞り出し、瓦礫の中で身体を起こす。
・・・きっといま鏡を見たら、私の右瞳はほとんど真っ赤になっているに違いない。
なのに・・・不思議と、心は落ち着いていた。
「絶対に諦めない」って・・・ずっとそれだけを考えているあの子の前で、情けない所は見せられない──
そんな意地が、「赤い私」を抑え付けたままでいる。
<グルル・・・ルアアアアァァアア・・・ッ‼>
そして、「負けていられるか」とばかりに・・・カノンも、必死に起き上がろうとしていた。
体中傷だらけで、息も絶え絶えだけれど、その眼に宿る闘志は衰えていない。
<グオオオオオオオオオオォォォォォォッッ‼>
と、そこで再び、クロが雄叫びを上げながら、ラハムザードへと向かって行った。
<<<───アアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハハハッッ‼>>>
すると・・・ラハムザードが、一際大きな嗤い声を上げる。
次いで、左右の頭が中央の首の根元へと噛み付いて・・・熱線の発射準備に入った。
<いけない・・・っ‼ それを食らっちゃダメよ! 躱してっ!>
慌てて声をかけると、クロは頷き、行動に移る。
その場で地面に左腕を突き刺し、礫を投擲──
相手を牽制してから、全速力で廃墟と化した街を駆けて、ラハムザードの背後へと回り込んだ。
──けれど───
<アアアアアァァァアアハハハハハッッ‼>
中央の首は、鎌首をもたげたまま・・・自分の外殻を無理やり破壊しながら、強引に背後を向く。
直後──放たれた紫色の熱線が、クロの身体を直撃した。
<グオオオオオオオオオオオオオオオッッ⁉>
激しい熱と光が、束となってネイビーの巨体を襲う。
私やカノンのように、抵抗する術を持たないクロは・・・そのまま、廃墟の中に屹立する、一際背の高い建物へと叩きつけられてしまう。
<・・・‼ あれ、は・・・っ‼>
それは、ラハムザードが「星望」形態となるために根城にしていた──ランドマークタワーだった。
既に、見る影もない程に崩壊してしまっていたけれど・・・問題はそこではない。
<<<<<───キャハハハハハハハハハ‼>>>>>
その建物の中には・・・ラハムザードから零れ落ちたルリムスが、大量に巣食っていたのだ。
巨大な瓦礫と化した塔の各部から、黒い染みのようなものが漏れ出すと・・・
それらは少女のように笑いながら、満身創痍のクロへと殺到していく。
<グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ‼>
そして、ネイビーの鎧へと、黒い染みが到達した途端───
あの子の全身から、紫色の炎が噴き上がった。
<そん・・・な・・・・・・っ‼>
・・・クロはかつて、ルリムスに取り付かれ、その身を焼かれながら怪獣へと変わったのだと、ハヤトは話してくれた。
・・・今、あの子は・・・自ら記憶を封印する程に辛かった出来事と・・・同じ痛みを味わわされているんだわ・・・‼
<離れっ・・・なさいっ‼>
自分の身体を起こす前に・・・「赤の力」で、何とかルリムスを引き剥がそうとする。
けれど、オリカガミと戦った時と同じく、液体のようになっているそれを、まとめて取り除く事は出来ず・・・
次々にビルから零れ落ちてくる分を、堰き止めるので精一杯だった
<オオオオオオオオオォォォォォォォ────ッッ‼>
既に自らの熱で鎧を融かし始めていたクロに、紫の炎が燃え移ってしまった事で・・・
あの子の全身は、瞬く間に赤熱化してしまう。
その姿はまさに・・・以前クロから聞いた、初めて怪獣になった時の様子そのものだった。
<クロ! 一度退いて! このままじゃ・・・!>
おそらく、後もう少しすれば・・・あの子の身体は熱に耐えきれずに、崩壊を始めてしまう。
そうなる前に──と、慌てて声をかけて───
<・・・・・・・・・>
<・・・えっ・・・?>
一瞬だけ、こちらに目を向けたクロの思考を視て・・・思わず、絶句する。
───「このまま、戦います」──ですって・・・・・・⁉
<グオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼>
そして、クロは・・・わざわざ私に伝えた通りに・・・咆哮を伴い、立ち上がった。
その背には、びっしりとルリムスが取り付いたままだ。
噴き上がる紫の炎も、間違いなくその身を蝕んでいる。
・・・それでも、聡明なあの子が・・・そうすると言う事は───
<・・・・・・何か、考えがあるのね・・・・・・‼>
<<<アアアアアアァァァァァァアアハハハハハハッ‼>>>
真っ赤になって、少しずつ融け落ちていく自分の身体を引きずりながら・・・なおも向かって来るクロを前に・・・
ラハムザードは、再び嗤い声を上げる。
そして、もはや熱線は必要ないと判断したのか・・・三つの口から、火炎を放った。
<させない・・・っ‼ この一撃だけは・・・絶対に通してみせるっ‼>
すかさず、赤の力を限界まで引き出し──右の首を、強引に上方へと逸らす。
先程と同じく抵抗されるけれど・・・絶対に離すものかと、私は全ての意識を集中させた。
<グルアアアアアァァァァァァッ‼>
さらに、いつの間にか起き上がっていたカノンが・・・左の首へと、稲妻を放つ。
・・・当然、あの子には、クロの考えは届いていない。
けれど、きっと・・・・・・今は言葉なんて、要らないのよね。
<アハハハハハハハハハ───ッッ‼>
残る首は、一つ・・・けれど、そこから放たれる炎の勢いは、衰えを見せない。
あと、ほんの少し・・・すんでの所にまで近づいたクロは・・・そこで、立ち止まってしまう。
・・・・・・あと・・・一歩でいい・・・! あと、一歩でいいのよ・・・・・・!
<お願いっ‼ 届いてぇ・・・っ‼>
思わず、叫んだ・・・その瞬間───
一条の光線が・・・空を、切り裂いた。
「────行けッ‼ ヴァニラスッッ‼」
声の主は、アカネだったのだと───
あの子の放った光線が、ラハムザードの中央の頭を、精確に撃ち抜いてみせたのだと───
全てを理解したのは・・・クロが自身の右腕を大きく振り上げた、その後の事だった。
<グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッッ‼>
次いで、雄叫びと共に、肘から先を失ったクロの右腕は───
彼女の目の前にあった・・・ラハムザードの胸部へと、強引に突き入れられる。
<<<アアアァアァァアアアッッ⁉ アハハハハハハハハハハハハッッ⁉>>>
それは、間違いなく・・・嗤い声ではない、「悲鳴」だった。
いったいクロは、何をしようとしているのか・・・・・・
激痛によって、ほとんど本能で戦っている状態の思考を、正確に視る事は出来ない。
・・・そして・・・誰もが息を呑んだ、その、直後───
<オオオオオオオオオオオオォォォォォッッ‼>
クロが、黒い外殻に溶接されたかのようになっていた右腕を・・・勢い良く引き抜く。
<なっ・・・⁉>
すると、驚くべき事に・・・失われていたはずの右腕が──再生していた。
ただ、その腕には、元のそれと比べて大きな違いが一つある。
──肘から先が、漆黒の鎧へと変わっていたのだ。
<<<アアアァァ⁉ アアァアハハハッ⁉ ハハハハァァアッ⁉>>
予感と共に目を向ければ──やはり。
大きく後退したラハムザードの左胸は・・・その一部が、大きく欠けていた。
<・・・・・・っ!>
・・・まさか、自分と同質──
いえ、言うなれば・・・今の自分の基となった身体を持つラハムザードから・・・直接肉体を奪い取ったというの・・・⁉
思わず、唖然としてしまったけれど──驚くのは、まだ早かった。
<グオオオオオオオオオオォォォ───ッッ‼>
クロが、一際大きな咆哮を上げると・・・
新たに手に入れた右腕の先と、背中に取り付いていたルリムスたちにまで、クロ自身が放つ「熱」が伝わり・・・
その漆黒の表面を、真っ赤なエネルギーが包み込む。
そして、それを合図に・・・クロの身体に、「変化」が起こった。
<こ、これは・・・っ‼>
突然、あの子の裡から出て、あの子の身体をも焼き尽くさんとしていた熱が・・・
ライジングフィストを放つ時と同じように・・・みるみるうちに、右肩の一点に集約し始める。
そして、右肩の外殻が、バキン‼と音を立てて、左右に開くと──
集まったエネルギーは、真っ赤な炎の姿を取って体外へと放出され・・・
それに合わせて、クロの全身は、徐々にネイビーの色合いを取り戻していく。
<まさか・・・! 自分の「熱」を・・・制御したというの・・・⁉>
今の行為は──間違いなく、「排熱」だ。
クロは・・・怪獣となったその時から、常にあの子自身を苦しめ続けていた能力を・・・今、遂に克服したんだわ・・・‼
さらに──赤色の炎に包まれていた巨体は・・・ただ元に戻るわけではなかった。
「! ヤツの姿が・・・変わってゆく・・・!」
同じ事に気が付いたアカネが、驚愕と共に呟く。
自身に取り付いた大量のルリムスと、ラハムザードから奪い取った肉体は──
クロの姿を、力を・・・新たなものへと「進化」させていく。
<やっぱり・・・あの子は・・・ヒーローね・・・!>
それは、死闘の中で生まれた──勝利への可能性そのものだった。
<グオオオオオオオオオオオオォォォォォ─────ッッッ‼>
「ぐっ、うぅぅ・・・ッ‼」
全身に伝わる激しい震動を、デスクにかじりついて耐える。
一度は全ての頭を落とされたNo.021が、唐突な復活を遂げてから──僅か、数分。
<うぅ・・・うっ・・・・・・>
<ルアアアァァア・・・・・・>
No.011とNo.009は、再び放たれた熱線に薙ぎ払われ、地に伏し・・・
残った<ジャッカロープ>1号機も、そのついでとばかりに破壊されてしまった。
<<<アアアァァァハハハハハハハハッ‼>>>
そして、今・・・ヤツが狂ったように吐き散らかす紫色の炎によって、横浜の街は見るも無惨な焦熱地獄へと変わり果て・・・
オープンチャンネルには、戦士たちの悲鳴が響いていた。
暴れ回る巨体と、崩れ落ちる高層ビルが、何度も何度も地面を揺らす。
脳と臓とがシェイクされ続け、司令室には、誰かが吐いた吐瀉物の放つツンとした悪臭が漂っていた。
『っの野郎ォオオッッ‼』
<圧縮砲>の冷却が完了した<アルミラージ・タンクⅡ>から、水色の稲妻が発せられる。
しかし・・・昨日と同様、通常のメイザー光線はあまり効果がないようだった。
次いで、横浜湾で待機していた<モビィ・ディックⅡ>ならびに自衛隊のイージス艦から、連続して発射されたミサイルがNo.021の元に到達する。
・・・が、こちらもやはり、数多の爆風にたじろぐ素振りすら見せない。
通用するのはやはり・・・圧縮メイザー光線のみか・・・!
<<<アアアァァアアハハハハハハハッ‼>>>
と、そこで、No.021は、壊すものすら少なくなってきた景色の中に・・・それを見つける。
三つの頭の鼻先は・・・残された<ジャッカロープ>2号機へと、向けられていた。
「クソッ・・・‼」
サブモニターには、チャージ完了まで150秒とある。・・・間に合いそうにもない。
護衛部隊の持つ装備はあくまでNo.022に対してのものであり、現状で唯一ヤツの注意を引けそうな「メイザー・ブラスター」も・・・
それを持つ班との連絡は、既に途絶えていた。
もはや・・・食い止める手段はないのか・・・・・・‼
<<<アアアアアアァァァァァハハハハハハハハッ‼>>>
そして・・・No.021の中央の口から放たれる火炎が、<ジャッカロープ>と、それに随伴する護衛部隊の者たちを飲み込まんとした・・・
その、瞬間───
<───グオオオオオオオオオォォォォォォッッ‼>
唐突に現出した、巨大な白い光が・・・紫色の火炎の前に立ち塞がった。
高エネルギー反応探知の警告音が鳴り響く中──
私は、確信を持って、その名を呟く。
「ナンバー・・・セブン・・・ッ‼」
直後、光はネイビーの巨竜へと姿を変え・・・浴びせかけられた炎を、左腕で払った。
どうやら・・・身を挺して、<ジャッカロープ>を守ってくれたらしい。
「・・・ッ! やはり、右腕が・・・・・・」
すぐさまNo.021に攻撃を仕掛けたNo.007には・・・あるべきはずの右腕が、欠けていた。
いくらその体躯に共通する意匠があるとは言え、No.020やNo.021とは違って・・・ヤツは、超再生能力など持ってはいないのだろう。
・・・・・・しかし、それでも・・・No.007は、果敢にNo.021へと立ち向かってゆく。
左腕を地面に突き刺し、体内の熱を移した礫を浴びせかけ──
それが効かないと判れば、相手の攻撃を躱しながら、黒い外殻を尻尾で打ち据え──
それも無駄だと判れば、腕の鎧の尖った部分に熱を集め、それを刃のように使ってNo.021の首を斬り裂こうと突っ込んでいく───
「・・・・・・」
結果として・・・その全ては、通用しなかった。
No.021の巨大な腕で、あるいは首の一振りで、No.007の身体は軽々と吹っ飛ばされてしまう。
気が付けば、ネイビーの鎧は早くも傷だらけになってしまっていた。
だが、それでも・・・No.007は、立ち向かってゆく。
何度でも、立ち上がって──
決して、諦める素振りを見せずに。
「・・・・・・どうして・・・どうしてお前たちは・・・・・・ッ!」
無意識のうちに、握った拳から血が滲んでいた。
「───キリュウ隊長」
そこで、静まり返っていた司令室に、私の名を呼ぶ声が響く。
振り返れば、マクスウェル中尉が・・・真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「・・・・・・どうか・・・お心のままに」
「・・・ッ‼」
そして、言葉少なに・・・背中を押してくれる。
全く・・・どうにも・・・こういう所は、敵わないな。
「・・・・・・すまない、中尉・・・後を任せる‼」
「アイ・マムッ!」
即座に席から立ち上がり──ヘルメットを手に、テントの外へと走った。
「出撃るぞ‼ テリオッ‼」
『──お待ちしておりました。いつでもどうぞ』
No.021目掛けて駆けていると、無人の<ヘルハウンド>が追いかけてくる。
停車させる暇すら惜しんで、そのままシートへ飛び乗った。
『・・・お姉さま・・・っ!』
アクセルを回した所で、右耳にサラの声が届く。
私の身を案じてくれているのだと、すぐに判った。
・・・だが、内心では不安でいっぱいだろうに・・・・・・
『・・・・・・あの黒いのに・・・一発キツいのをお見舞して下さいましっ‼』
彼女は、そんな気持ちを飲み込んで、明るく送り出してくれた。
「フッ・・・了解・・・だッ!」
その気遣いが、ただただ・・・有り難い。
私という存在は、皆に支えられてここにいるのだと・・・改めて、思う。
「待っていろ・・・No.007・・・・・・」
だから、私は・・・私に出来る事を──私に出来る精一杯の事を、やるんだ・・・!
「──お前は・・・ひとりではない・・・ッ‼」
※ ※ ※
<<<アアアアアァァアアアハハハハハハハハッッ‼>>>
<グオオオオオオォォォォォォォォッッ‼>
巨大な右腕の一撃を食らって──クロの身体は宙を舞い、高層ビルへと叩きつけられる。
・・・あの子がここに現れてから・・・もう、何度となく繰り返されてきた光景だ。
<くっ、クロ・・・・・・>
あまりにも、痛々しい。視ていられない。
今すぐ・・・目を逸らしたい。
・・・・・・けれど、決して「やめて」だなんて言う事は出来なかった。だって───
<オオオオォォ・・・・・・グオオオオオオオオォオッッ‼>
何度となく打ちのめされても・・・・・・クロは、立ち上がるから。
自分の力を呪い、一度は勇気を見失っていた・・・あの子は・・・・・・
<そうする事を・・・選んだ・・・のよね・・・‼>
言いながら、必死に力を絞り出し、瓦礫の中で身体を起こす。
・・・きっといま鏡を見たら、私の右瞳はほとんど真っ赤になっているに違いない。
なのに・・・不思議と、心は落ち着いていた。
「絶対に諦めない」って・・・ずっとそれだけを考えているあの子の前で、情けない所は見せられない──
そんな意地が、「赤い私」を抑え付けたままでいる。
<グルル・・・ルアアアアァァアア・・・ッ‼>
そして、「負けていられるか」とばかりに・・・カノンも、必死に起き上がろうとしていた。
体中傷だらけで、息も絶え絶えだけれど、その眼に宿る闘志は衰えていない。
<グオオオオオオオオオオォォォォォォッッ‼>
と、そこで再び、クロが雄叫びを上げながら、ラハムザードへと向かって行った。
<<<───アアアアアアアアアアアアアアハハハハハハハハハッッ‼>>>
すると・・・ラハムザードが、一際大きな嗤い声を上げる。
次いで、左右の頭が中央の首の根元へと噛み付いて・・・熱線の発射準備に入った。
<いけない・・・っ‼ それを食らっちゃダメよ! 躱してっ!>
慌てて声をかけると、クロは頷き、行動に移る。
その場で地面に左腕を突き刺し、礫を投擲──
相手を牽制してから、全速力で廃墟と化した街を駆けて、ラハムザードの背後へと回り込んだ。
──けれど───
<アアアアアァァァアアハハハハハッッ‼>
中央の首は、鎌首をもたげたまま・・・自分の外殻を無理やり破壊しながら、強引に背後を向く。
直後──放たれた紫色の熱線が、クロの身体を直撃した。
<グオオオオオオオオオオオオオオオッッ⁉>
激しい熱と光が、束となってネイビーの巨体を襲う。
私やカノンのように、抵抗する術を持たないクロは・・・そのまま、廃墟の中に屹立する、一際背の高い建物へと叩きつけられてしまう。
<・・・‼ あれ、は・・・っ‼>
それは、ラハムザードが「星望」形態となるために根城にしていた──ランドマークタワーだった。
既に、見る影もない程に崩壊してしまっていたけれど・・・問題はそこではない。
<<<<<───キャハハハハハハハハハ‼>>>>>
その建物の中には・・・ラハムザードから零れ落ちたルリムスが、大量に巣食っていたのだ。
巨大な瓦礫と化した塔の各部から、黒い染みのようなものが漏れ出すと・・・
それらは少女のように笑いながら、満身創痍のクロへと殺到していく。
<グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ‼>
そして、ネイビーの鎧へと、黒い染みが到達した途端───
あの子の全身から、紫色の炎が噴き上がった。
<そん・・・な・・・・・・っ‼>
・・・クロはかつて、ルリムスに取り付かれ、その身を焼かれながら怪獣へと変わったのだと、ハヤトは話してくれた。
・・・今、あの子は・・・自ら記憶を封印する程に辛かった出来事と・・・同じ痛みを味わわされているんだわ・・・‼
<離れっ・・・なさいっ‼>
自分の身体を起こす前に・・・「赤の力」で、何とかルリムスを引き剥がそうとする。
けれど、オリカガミと戦った時と同じく、液体のようになっているそれを、まとめて取り除く事は出来ず・・・
次々にビルから零れ落ちてくる分を、堰き止めるので精一杯だった
<オオオオオオオオオォォォォォォォ────ッッ‼>
既に自らの熱で鎧を融かし始めていたクロに、紫の炎が燃え移ってしまった事で・・・
あの子の全身は、瞬く間に赤熱化してしまう。
その姿はまさに・・・以前クロから聞いた、初めて怪獣になった時の様子そのものだった。
<クロ! 一度退いて! このままじゃ・・・!>
おそらく、後もう少しすれば・・・あの子の身体は熱に耐えきれずに、崩壊を始めてしまう。
そうなる前に──と、慌てて声をかけて───
<・・・・・・・・・>
<・・・えっ・・・?>
一瞬だけ、こちらに目を向けたクロの思考を視て・・・思わず、絶句する。
───「このまま、戦います」──ですって・・・・・・⁉
<グオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼>
そして、クロは・・・わざわざ私に伝えた通りに・・・咆哮を伴い、立ち上がった。
その背には、びっしりとルリムスが取り付いたままだ。
噴き上がる紫の炎も、間違いなくその身を蝕んでいる。
・・・それでも、聡明なあの子が・・・そうすると言う事は───
<・・・・・・何か、考えがあるのね・・・・・・‼>
<<<アアアアアアァァァァァァアアハハハハハハッ‼>>>
真っ赤になって、少しずつ融け落ちていく自分の身体を引きずりながら・・・なおも向かって来るクロを前に・・・
ラハムザードは、再び嗤い声を上げる。
そして、もはや熱線は必要ないと判断したのか・・・三つの口から、火炎を放った。
<させない・・・っ‼ この一撃だけは・・・絶対に通してみせるっ‼>
すかさず、赤の力を限界まで引き出し──右の首を、強引に上方へと逸らす。
先程と同じく抵抗されるけれど・・・絶対に離すものかと、私は全ての意識を集中させた。
<グルアアアアアァァァァァァッ‼>
さらに、いつの間にか起き上がっていたカノンが・・・左の首へと、稲妻を放つ。
・・・当然、あの子には、クロの考えは届いていない。
けれど、きっと・・・・・・今は言葉なんて、要らないのよね。
<アハハハハハハハハハ───ッッ‼>
残る首は、一つ・・・けれど、そこから放たれる炎の勢いは、衰えを見せない。
あと、ほんの少し・・・すんでの所にまで近づいたクロは・・・そこで、立ち止まってしまう。
・・・・・・あと・・・一歩でいい・・・! あと、一歩でいいのよ・・・・・・!
<お願いっ‼ 届いてぇ・・・っ‼>
思わず、叫んだ・・・その瞬間───
一条の光線が・・・空を、切り裂いた。
「────行けッ‼ ヴァニラスッッ‼」
声の主は、アカネだったのだと───
あの子の放った光線が、ラハムザードの中央の頭を、精確に撃ち抜いてみせたのだと───
全てを理解したのは・・・クロが自身の右腕を大きく振り上げた、その後の事だった。
<グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッッ‼>
次いで、雄叫びと共に、肘から先を失ったクロの右腕は───
彼女の目の前にあった・・・ラハムザードの胸部へと、強引に突き入れられる。
<<<アアアァアァァアアアッッ⁉ アハハハハハハハハハハハハッッ⁉>>>
それは、間違いなく・・・嗤い声ではない、「悲鳴」だった。
いったいクロは、何をしようとしているのか・・・・・・
激痛によって、ほとんど本能で戦っている状態の思考を、正確に視る事は出来ない。
・・・そして・・・誰もが息を呑んだ、その、直後───
<オオオオオオオオオオオオォォォォォッッ‼>
クロが、黒い外殻に溶接されたかのようになっていた右腕を・・・勢い良く引き抜く。
<なっ・・・⁉>
すると、驚くべき事に・・・失われていたはずの右腕が──再生していた。
ただ、その腕には、元のそれと比べて大きな違いが一つある。
──肘から先が、漆黒の鎧へと変わっていたのだ。
<<<アアアァァ⁉ アアァアハハハッ⁉ ハハハハァァアッ⁉>>
予感と共に目を向ければ──やはり。
大きく後退したラハムザードの左胸は・・・その一部が、大きく欠けていた。
<・・・・・・っ!>
・・・まさか、自分と同質──
いえ、言うなれば・・・今の自分の基となった身体を持つラハムザードから・・・直接肉体を奪い取ったというの・・・⁉
思わず、唖然としてしまったけれど──驚くのは、まだ早かった。
<グオオオオオオオオオオォォォ───ッッ‼>
クロが、一際大きな咆哮を上げると・・・
新たに手に入れた右腕の先と、背中に取り付いていたルリムスたちにまで、クロ自身が放つ「熱」が伝わり・・・
その漆黒の表面を、真っ赤なエネルギーが包み込む。
そして、それを合図に・・・クロの身体に、「変化」が起こった。
<こ、これは・・・っ‼>
突然、あの子の裡から出て、あの子の身体をも焼き尽くさんとしていた熱が・・・
ライジングフィストを放つ時と同じように・・・みるみるうちに、右肩の一点に集約し始める。
そして、右肩の外殻が、バキン‼と音を立てて、左右に開くと──
集まったエネルギーは、真っ赤な炎の姿を取って体外へと放出され・・・
それに合わせて、クロの全身は、徐々にネイビーの色合いを取り戻していく。
<まさか・・・! 自分の「熱」を・・・制御したというの・・・⁉>
今の行為は──間違いなく、「排熱」だ。
クロは・・・怪獣となったその時から、常にあの子自身を苦しめ続けていた能力を・・・今、遂に克服したんだわ・・・‼
さらに──赤色の炎に包まれていた巨体は・・・ただ元に戻るわけではなかった。
「! ヤツの姿が・・・変わってゆく・・・!」
同じ事に気が付いたアカネが、驚愕と共に呟く。
自身に取り付いた大量のルリムスと、ラハムザードから奪い取った肉体は──
クロの姿を、力を・・・新たなものへと「進化」させていく。
<やっぱり・・・あの子は・・・ヒーローね・・・!>
それは、死闘の中で生まれた──勝利への可能性そのものだった。
<グオオオオオオオオオオオオォォォォォ─────ッッッ‼>
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