恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
上 下
319 / 325
第十三話「新たなる鼓動」

 第三章「この手がつかむもの」・④

しおりを挟む
「・・・ッ‼ 各班緊急離脱‼ No.021から離れろッ‼」

 背筋に走った悪寒に急かされて・・・気が付けば、そう指示していた。

 ──「何かとてつもない攻撃が来る」と、本能で理解したのだ。 

「ラビット3‼ No.021の中央の首めがけて撃て‼」

『りょ、了解!』

 切り札たる一撃を易々と使う事に、気後れがないと言えば嘘になるが・・・

 今からNo.021がしようとしている攻撃は、そうまでしてでも止めなければならないと・・・私は直感した。

『発射・・・しますっ!』

 そして、鎌首をもたげるNo.021の中央の首へ向けて、一直線に放たれた水色の光線は──

 着弾の寸前で、ヤツの巨大な右腕によって防がれる。

「なっ・・・⁉ 見もせずに防御しただと・・・⁉」

 当然、威力は先程証明された通りで、右腕についた「眼」ともども、その体表を大きく抉り取る事には成功するが・・・

 貫通は敵わず、敢え無くすぐさま再生されてしまった。

<くっ・・・‼>

 こちらと同様に、今のNo.021にただならぬものを感じたのか、No.011は慌てた様子で街中の瓦礫を浮かせ、それらを流星群のようにぶつけていく。

 ・・・しかし、やはりダメージらしいダメージは与えられていない。

<グルアアアアアアァァァァアアッッ‼>

 一方のNo.009は、狙われているのが自分であるのを理解した上で、真っ向から受けて立つ事にしたらしく──

 雄叫びを伴い、No.021の正面から得意の突進を仕掛けた。

 ・・・周囲に展開している各班の撤退は、まだ完了していない。

 No.009が左右に移動せず、そのまま突進してくれたのは不幸中の幸いと言え──いや・・・まさか・・・理解した上でそうした・・・のか・・・?

 疑問に思いながら・・・答えはどこからも返って来ず──

 代わりに訪れたのは、モニターに映る景色全てを染める・・・紫色の、はげしい光だった。

<アアアァァァアアアハハハハハハハァァアア────ッッ‼>

 No.021の全身から中央の首へと集まっていた怪光は──その頭部、そして口腔を通じて、一気に体外へと放出される。

 ・・・それは、昨日見た「火炎」ではなく・・・「熱線」とでも言うべき、光の奔流そのものの形を取っていた。

<ッッ⁉ グルアアァァアアアアアアアアッ・・・‼>

 必然的に、ヤツの正面にいたNo.009は、この光の直撃を受ける事となったのだが──

 驚くべき事に・・・放たれた熱線は、展開された水色の障壁とぶつかり合った上で・・・No.009の突進の勢いを相殺するどころか、反対にその巨体を押し返してしまったのである。

<・・・! こ、ん、のぉ・・・っ‼>

 仲間の危機をいち早く察し、No.011は真っ赤な左瞳を光らせる。

 直後、No.021の中央の頭が赤い光に包まれ・・・その鼻先が上方へと向けられた。

 口腔から放たれる熱線も、つられて射線が逸らされた訳だが・・・しかし。

<アアアァアアハハハハァ───ッッ‼>

<くぅっ、うぅぅ・・・っ‼>

 どうやら・・・まだ全快でないNo.011の方は、パワー不足を起こしているらしい。

 赤い光の拘束から逃れようと、駄々っ子のように振られる首を抑えきれていないのが見て取れる。

 ・・・そして、十数秒に及んだせめぎ合いの末に・・・・・・

<・・・っ‼ きゃあああああああああああっっ‼>

 暴れ続けるNo.021の首が、運悪くNo.011の方へと向けられ──放たれ続けていた熱線は、その白磁の巨体を飲み込んでしまった。

 赤い光の障壁によって、何とか直撃は免れたようだが・・・

 その威力を殺し切る事が出来ず、No.011は突き飛ばされるようにして、背後の高層ビルへとその身を埋没する。

 ・・・皮肉にも、昨日の光景の繰り返しのようだ。

 さらに、不幸な事に───

「ッ‼ しまっ・・・」

 拘束を解かれたNo.021の首が、再びNo.009へと向けられる途中で──

 いくつかのビルと共に、<ジャッカロープ>の3号機がその光に薙ぎ払われてしまったのである。

『そん・・・な・・・っ‼』

 右耳に、顔を青くしているのであろうサラの、震えた声が届く。

 ・・・<ジャッカロープ>には、No.022からの攻撃を想定して、随伴する護衛部隊を付けていた。

 サブモニターに目を向けると・・・彼らの通信だけが、途絶しているのが判ってしまった。

<ルアアアアアァァァアアア・・・・・・ッッ‼>

 その死をいたいとまもなく──再び熱線に晒されたNo.009の叫びが、スピーカー越しに響き渡る。

 水色の障壁の輝きが瞬く間に失われていくのを見て、残された時間が少ない事を悟った。

 私は、全ての無力感と後悔を強引に飲み込み──端末に向かって叫ぶ。

「ハウンド2! ハウンド3! <圧縮砲ブラスター>だ! 今ならヤツの頭を正確に狙える‼」

『『『『アイ・マムッ‼』』』』

 最大の危機を、最大のチャンスへと変えられるのは・・・今この時をおいて他にない。

「ラビット1! <ジャッカロープ>の再充填まであとどのくらいだ!」

『残り・・・430秒です・・・!』

 やはり、こちらは間に合いそうにない、か・・・・・・

 あと少し、No.021を釘付けに出来ればと必死に頭を捻るものの、妙案は浮かばず・・・

 一方で、モニターの中では・・・水色の障壁が、遂に、消え失せようとしていた。

<ルルルァ・・・‼ ルアアァァアアアアァァァ・・・・・・‼>

 そして──緑の巨体が、熱と光の奔流に飲み込まれようとした、その時───

 突然、No.009の前方に・・・新たに赤い光の壁が現出する。

<──ハァ・・・ッ! ハァ・・・ッ! 時間稼ぎは・・・任せて頂戴・・・!>

 次いで、司令室に届いた「声」を聴いて・・・否応なく、全員が奮い立った。

『助かるぜ・・・! 惚れちまいそうだッ!』

 すかさず、竜ヶ谷少尉が吹っ切れた調子で軽口を放つ。

 ・・・モニターを注視すれば、No.021の首に残っていた紫の光も、見るからにその光量を失いつつあった。

 おそらく・・・熱線の照射も、もってあと数秒だろう。

「間に、合え・・・・・・ッ‼」

 願うように、祈るように・・・届くように・・・・・・

 食い縛った歯の隙間から、思わずそんな言葉が零れた──次の瞬間──


『──チャージ完了ッ‼ グプタ少尉! 真ん中のは任せたぜ‼』

『アイ・マムッ! カウント・・・3・2・1───ッ‼』


 ・・・そこからは、本当に一瞬の出来事だった。

 <ジャッカロープ>と同様に、細長く変形した<アルミラージ・タンクⅡ>のパラボラ部分から、鋭く放たれた二筋の光条は・・・

 それぞれが、狙った場所に迷いなく到達する。

 グプタ少尉の放ったものは、中央の頭部を──

 竜ヶ谷少尉の放ったものは、その首の根元に噛み付いていた左右の頭部を──

 ほとんど同時に、消し飛ばしてみせた。

<<<・・・・・・・・・・・・・・・>>>

 こうして・・・つい先程まで狂ったように嗤っていたそれらは、断末魔さえ上げずに沈黙した。

 根元を貫通した光線によって、中央の首はちぎれて落ち・・・

 残った左右の首も、その先端を失ったために、重力に従い項垂うなだれて・・・

 最後に、フッと全身の「眼」から光が消えると、黒い巨体は・・・大地に、倒れた。

『───っしゃああああっっ‼ ユーリャ! 見よったかっ‼』

『・・・うるさい』

 そして、いの一番に叫んだ竜ヶ谷少尉と、平時と変わらぬユーリャ少尉の声を合図に──

 オープンチャンネルには、属する組織の区別なく・・・皆の歓喜の声が溢れた。

「No.021の高エネルギー反応、減退していきます‼」

 油断は大敵だと水を差そうとした所で、松戸少尉から吉報が入る。

 思わず、力んだ身体がほぐれた感覚がしたが・・・あくまで、まだ終わりではない。

 残った<ジャッカロープ>2基による、最大出力の圧縮メイザー光線照射で以て、ヤツを完全に消し去るまで・・・油断は禁物だろう。

 そう考えつつ、サブモニターに目を向ければ、チャージ完了までの残り時間は200秒と出ていた。

 戦いの終わりを実感しつつ・・・ふと、頭に浮かんだ疑問が口から零れる。

「今のは・・・荷電粒子砲だったのか・・・?」

 その性質のせいか、はたまた、色合いのせいか・・・

 威力は段違いではあるが、先程の熱線に、No.013ザムルアトラが使っていた荷電粒子砲がだぶって見えていた。

『──いえ。発射直後から観測しておりましたが、磁場の類は計測されませんでした。現時点では、「何らかの熱エネルギーが収束・放射されたもの」・・・としか』

 すると即座に、テリオから解答・・・いや、考察が返って来る。

「成程・・・人類にとって、いまだ未知の現象・・・という事か・・・・・・」

 昨夜の時点で、誰かさんからNo.021とNo.022の放つ炎について「人智を超えた代物」だと説明を受けていたお陰か、良くも悪くも驚きは少なかった。

 一方で・・・隣の柵山少尉は、険しい顔をしたまま先程の映像とにらめっこをしている。

 こういう部分はやはり、研究課の人間という事なのだろうな。

『キリュウ隊長! <ジャッカロープ>1号機、チャージ完了致しました!』

 と、そこで、ラビット1より通信が入る。

「・・・よし。2号機のチャージ完了前に、No.021の胸部に照準を──」

 そして、つとめて冷静に指示を出そうとした、その瞬間。

『なんだ・・・あれは・・・・・・?』

 歓喜に湧くオープンチャンネルに・・・突然、震えた声が届く。

『真昼なのに・・・星が・・・・・・ッ‼』

 次いで聴こえたその言葉に、No.014オリカガミの一件が脳裏を過って・・・背筋が冷える。

「・・・ッ‼ まさか───」

 慌てて仮設司令室のテントから飛び出し、空を仰ぎ見ると──

 驚くべき事に・・・そこには・・・2つの太陽が、燦然と輝いていたのだ。

<そんな・・・⁉ 有り得ない・・・っ‼>

 No.011の愕然とした様子の声に、司令室は凍りつく。

 ・・・ほんの、ほんの2、3分前だ・・・・・・

 私達は・・・ギリギリの攻防を制して、何とか勝利を掴んだのだと・・・

 この辛く苦しい戦いに、ようやく終止符を打つ事が出来るのだと・・・そう信じていたはずなのに・・・・・・


<<<アアアアアアァァァァハハハハハハハハハッッ‼>>>


 天より降り注ぐ光を浴びて、たちまちに完全なる再生を遂げたNo.021は──

 そんな私達の僅かばかりの希望を・・・全てを、嘲嗤あざわらっていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi
SF
主人公の設定は、30年後の日本に住む一般人です。 異世界描写はひたすらリアル(現実の中世ヨーロッパ)に寄せたので、リアル描写がメインになります。 魔法、魔物、テンプレ異世界描写に飽きている方、SFが好きな方はお読みいただければ幸いです。 なお、完結している作品を毎日投稿していきますので、未完結で終わることはありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...