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第十三話「新たなる鼓動」
第三章「この手がつかむもの」・③
しおりを挟む「あれが・・・ティターニア!」「本当に存在したのか・・・!」
「知名度」があるお陰か、自衛隊・在日米軍問わず、皆がヤツの名前を呟いていた。
全く・・・良くも悪くも目立つヤツだ・・・・・・
「総員! 事前の説明通り、今回No.011は殲滅対象外だ! No.021に集中しろ‼」
オープンチャンネルに呼びかけながら、No.021の現在位置を確認する。
黒い巨体は、こちらがNo.022の相手に手間取っている最中に、<ジャッカロープ>まであと少しの位置にまで接近していた。
急ぎ、指示を飛ばす。
「松戸少尉! C班に射撃座標とタイミングを!」
本来であれば、既にB・Dの二班による射撃が行われているはずだったのだが・・・致し方あるまい。
頭部以外への攻撃が無意味なのはほぼ間違いないのだ。基本的には一発しか撃てない「メイザー・ブラスター」の弾を無駄にしてしまう方がよっぽど損失だろう。
『カウント! 3、2、1・・・発射ッ‼』
『射線算出完了、誤差修正──歪曲フィールド、展開します』
先程と全く同じやり取りを経て、放たれた一撃は空中で屈折──
No.021の中央の頭部へと向かうが───
『・・・ッ⁉ だ、ダメだ! 外れたッ!』
オープンチャンネルに届いたC班からの報告を受けて、落胆した雰囲気が漂ってしまう。
・・・だが、一度の失敗で立ち止まってしまう訳にはいかない。
『テリオ! 行動パターン記録! シミュレーションの精度を上げますわよ‼』
『了解です。マザー』
すると、そんな気持ちを後押しするように・・・右耳にはサラとテリオの声が響く。
三つの首を無軌道に動かし続けるNo.021の頭部に、屈折した光線を直撃させる──
そんな離れ業を実現させるべく、サラは徹夜でヤツの行動シミュレータを用意してくれたのだ。
「まだだ! E班! 射撃準備!」
その献身に答えるべく、己を鼓舞しつつ指示を飛ばす。
<全く・・・好き放題に撒き散らしてくれちゃって・・・お返しするわっ‼>
同時に、街の至る所で、赤い光に包まれたNo.022が空中へと舞い上がると──
それらが、弾丸のようにNo.021に向かって殺到した。こちらの意を汲んだのか、狙って顔面を狙ったようだが・・・大した質量がないために、足止めにもなっていない。
『3、2、1・・・発射ッ‼』
『射線算出完了、誤差修正──歪曲フィールド、両機とも展開します』
だが、一瞬でも目をくらましてくれたのには助かった。
お陰で、<ジャッカロープ>から2キロ手前の地点にて・・・
歪曲フィールドによって二度屈折した光線は、遂に、No.021の左右の頭部を一気に貫いてみせたのである。
<アアアアァァアアアハハハハハハ・・・‼>
すると、つられて左右の首も力を失くして放り出される。
唯一残った中央の首が上げる嗤い声には、一瞬戸惑いが滲んだように聴こえた。
・・・・・・だが、少しだけ遅かったようだ。
左右の頭部はいまだ再生しておらず、間違いなくダメージは与えられているものの・・・
その巨体の勢いはもはや、止まる気配がなかったのだ。
「クッ! 間に合わな──」
<・・・いえ、間一髪・・・セーフね>
悔しさのあまり歯噛みしたその時、No.011の声がして───
<───グルアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼>
次いで、映像中継用ドローンのマイクが、雷鳴のような大轟音を拾った。
見れば・・・突如として出現したNo.009が、No.021の横合いから突進を仕掛け──
自身より大きな漆黒の巨体を、勢いよく跳ね飛ばしてみせたのである。
<アアアアアァァアアハハハハハッッ⁉>
そして、車道のアスファルトをめくり上げながら滑走したNo.021は・・・居並ぶ建物をドミノのように倒しながら・・・数キロ先で、ようやく静止する。
<ジャッカロープ>は・・・無事だ・・・!
<グルアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼>
昨日の雪辱を晴らしたNo.009は、再び雷鳴のような咆哮を上げてから・・・フン‼と大きく鼻を鳴らしてみせた。
オープンチャンネルに、歓声が上がる。
「さすがだ・・・レイガノン・・・ッ‼」
この時ばかりは、冷静では居られなかったのだろう。
思わず隣でガッツポーズをしたマクスウェル中尉の姿を見て、自然と口角が上がった。
「・・・・・・!」
だが・・・同時に、気づいてしまう。
No.009とNo.011の身体には、いまだ昨日の激戦の傷跡が生々しく残っていたのだ。
さすがに、昨日の今日では完全な回復は出来なかったらしい。
<あら。心配してくれてるの?>
「・・・・・・ほざけ」
こそこそ話をするかのように耳元で聴こえた声へ、小声で悪態を返した。
・・・立場上、私はヤツらと共闘する訳にはいかない。あくまで、その存在を利用するだけだ。
だが、あの昆虫は、私のそんな考えなど当然読んでいるはずなのに・・・
それでも、No.021を倒すために、我々に協力するために・・・傷だらけの身体で、この戦場へと赴いたのだ。
・・・ふと・・・先程砂浜で出会ったクロさんとの会話が、脳裏を過る。
「お前たちは・・・どうして───」
そして、ついつい・・・余計な質問が口から零れそうになり───
「・・・ッ‼ な、No.021の高エネルギー反応が・・・増大していますっ‼」
それを・・・松戸少尉の悲鳴じみた声が、遮った。
※ ※ ※
「なっ、なんだ・・・⁉」
つい今しがた、水色の光線に頭を二つ破壊された上、カノンに跳ね飛ばされ──
大ダメージを負ったはずのラハムザードが・・・土煙の中で、ゆらりと立ち上がる。
・・・影の輪郭から察するに、まだ左右の頭部は再生出来ていないようだ。
やっぱり・・・今がチャンスなんじゃないか・・・⁉
と、自分に言い聞かせて、早鐘を打つ心臓を落ち着かせようとしていると───
<───アアアアアアァァァアアハハハハハハハハ‼>
残った中央の首が、再びあの嗤い声を上げる。
「──がっ・・・⁉ うっ、ぐっ、ああああああぁぁぁあああ・・・っ‼」
すると、まるでそれが、何かの合図だったかのように・・・突然、僕の心臓に激痛が走る。
『ハヤトっ⁉』
間違いなく、昨日散々味わったのと、同種の感覚ではあったけれど・・・
いま感じているのは、昨日とは比較にならない程に激しい痛み──いや、「熱」だった。
心配してくれるシルフィの声も、唐突に、遠くなって──
代わりに・・・あの嗤い声だけが・・・まるですぐ近くにいるかのように、耳に届く。
<<<アァアアァアアァアアアハハハハハハハハッッッ‼>>>
僕は苦しさのあまり、球体の内部で這いつくばりながら・・・霞がかってゆく視界の中に、かろうじてラハムザードの姿を捉える。
晴れていく土煙の向こうで──その漆黒の巨体は、「変化」を遂げていた。
「・・・・・・炎の・・・つば、さ・・・・・・?」
薄れゆく意識の中・・・僕は、この死闘がまだ始まったばかりなのだと・・・悟った。
※ ※ ※
<<<───アァアアァアアァアアアハハハハハハハハッッッ‼>>>
「・・・ッ⁉」
突如としてスピーカーから響いた嗤い声に、急ぎモニターへと目を向けると・・・
「これ・・・はっ・・・⁉」
そこには・・・既に、左右の頭部を再生し───
さらに、その背中から、三対の火柱を噴き出しているNo.021の姿があった。
紫色に光るそれらは・・・まさに、「炎の翼」と表現する他ない。
<そんな・・・! 「星道」から無理やり力を引き出しているとでも言うの・・・⁉>
さしものNo.011も、この現象は予想外だったらしい。
<気をつけて! 今のラハムザードは・・・本来の姿に近付きつつあるわ!>
相変わらず、意味不明の単語を踏まえた婉曲表現だらけの忠告だが・・・
とにかく、ヤツの逆鱗に触れてしまった事は確からしい。
<<アァァアアアアァァアアハハハハハハッ‼>>
すると・・・ヤツは、怒りのあまり頭に血が上り過ぎたのか──突然、輪を描くようにして、左右の首を大きく外回りに振ると──中央の首の根元へ、上下から噛み付いた。
正面から見れば・・・「8」の字を横に倒したように見える状態だ。
「・・・? また首を噛みちぎって投げるつもりか・・・?」
昨日の狂気じみた攻撃を思い出して、身震いするが・・・しかし。
紫色の「眼」の先にいるNo.009までは、かなりの距離がある。
どうにも・・・違和感があった。
<アアアアアアアアアァアァアアアアハハハハハハハッッ‼>
すると・・・口の塞がっていない中央の頭部が、一際大きな嗤い声を上げるのと同時に──
漆黒の体表に、紫色をした血管のような模様が浮かび上がる。
次いで、その所々から発した怪光が・・・みるみるうちにヤツの中央の首へと集まっていく。
───まるで──No.007が、自身の右手に熱を集中させる時のように───
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