恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十一話「キノコ奇想曲」

 第一章「あるいはキノコでいっぱいの日」・④

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 何を以てそんな結論に達したのかが判らず、思わず叫ぶように聞き返してしまう。

 ティータは考えを纏めるためか・・・少し沈黙を置いてから、解説してくれた。

「まず・・・復活した段階で、あのキノコの怪獣は間違いなくさっきよりも思考に「具体性」が出ていたの。つまり──増えた後の方が、頭が良くなってるのよ」

「・・・!」

「増えた理由としては、ハヤトの危惧した通り、雷のせいでしょうね。おそらく・・・体組織が電気的な刺激を受けて活性化して、成長を促したんだと思うわ。偶然だけど、私の鱗粉と同じような効果をもたらしてしまったみたい」

 そこまで説明してから、ティータは結論を述べる。 

「そして、あの怪獣は多分──体全体が「脳」で、全ての個体同士が繋がっているんだわ」

「・・・あァン? どーゆーこった?」

 カノンは全くピンと来ていなかったけど・・・僕は何となく理解する事が出来た。

 昔、世界最大の「生物」はキノコの一種だと聞いた事がある。森の中に群生しているそれは、大きさにして東京ドーム200個分くらいの面積があったそうだ。

 もしあのキノコの怪獣同士が、、意思を伝達し合っているすれば──

 個体数・・・即ち脳の体積が増したから頭が良くなったというのは、充分頷ける。

「さすがハヤト。理解が早くて助かるわ♪」

 さて・・・いつもならこうして怪獣の事が判ったところで、どうやって相手を倒すのかを考えるところなんだけど───

「・・・あれ? でも今回って・・・・・・」

「・・・あぁ、確かに。それもそうね」

 僕の思考を視たティータも、同じ結論に至ったらしい。

 考えが間違ってない事を確信して・・・今まさにキノコの怪獣と一戦を交えようとしているネイビーの巨体に向かって、声をかけた。

「クロ! ライジングフィストだ!」

<? ・・・グオオオオオオォォォォォッッ‼>

 彼女はお願いした通り、すぐに右手を構えてくれた。

 全身に赤いラインが走って、それが一点へと集中していく───

 そう・・・彼女の体内に流れている・・・、だ。

<ピムウウゥンッ⁉>
<ピムムムッ⁉>
<ピピピイィッッ‼>

 ・・・当たり前だけど・・・キノコは高熱に弱い。焼けちゃうから。

 いくら巨大でも、それは変わらない。

 そして、怪獣たちは思考を共有している訳だから・・・1体が高熱を怖がれば、当然、全員が怖がってしまう。

 つまり──クロがライジングフィストを構えただけで、4体の怪獣は一瞬にして戦意を喪失してしまったのだ。

 ・・・思惑通りにいったとは言え、あまりの呆気なさに拍子抜けしてしまう。

<グオオオォォォォォッッ!>

「あ、クロ~! もういいわよ~! 向こうは降参みたいだから!」

<・・・・・・グルル・・・>

 る気満々だったクロが意気消沈したのを、申し訳ない気持ちで見届けた後──

 隣のティータが喉に手を当て、「キュルルル」と高い音を発しているのが聴こえた。

 おそらく、前にオラティオンと会話した時にやっていたやつだ。

<・・・・・・ピム?>
<ピムムム・・・!>
<ピピィッ! ピィムムンッ!>

 話しかけられた事に気付いて、キノコの怪獣が反応する。

 ・・・全員で思考を共有しているだけあって、皆一様に騒がしく動いていた。

 そして、数分の後──ティータがふぅと息を吐く。

「どうやらこの子たち・・・いえ、この子は、一種の仮死状態で眠っていたところを、クロとカノンの存在を察知して目覚めてしまっただけみたい。誰も存在に気付けなかったのは、生命活動が希薄になっていたのが原因のようね」

「そうだったんだ・・・何だか悪い事しちゃったね・・・」

 胸を撫で下ろしつつ、若干の罪悪感に苛まれた。

「それと、さっきの予想通り、この子は個体同士が見えないくらい細い糸・・・菌糸?と言ったかしら。それで繋がっている、一つの生命体で間違いないみたい」

 成程、と口にしたところで・・・俄に、怪獣に動きがあった。

<ムムムウ?>

 増えた3体のうち、最も小さな個体──先程から、他の個体よりも反応が鈍いように見えたものだ──が、所在なさげにしているクロへと近づいていったのだ。

<グオォ・・・ッ⁉>

 そして、クロが反応するより早く、そのネイビーの体に触れると───

<ムムムウゥ~~~~ッ‼>

 当然ながら、ゆびの先を火傷してしまったようで・・・・・・

 一つ目から大粒の涙を流しながら、慌てて退散していった。

「・・・でも、個々の反応には差があるように見えるね」

 同一の生物にしては──という素朴な疑問に、ティータが仮説を提示してくれた。

「そこはおそらく人格の差と言うより、個々の体に感情のどの部分がどれくらい分配されているか・・・の差じゃないかしら。あくまで予想だけれど」

 ティータは、焦げた部分をさすっている怪獣を見つめながら、少し微笑む。

「・・・やっぱり、悪意は視えないわね。どうやら怖がりながらも触ってケガをするあたり、あの個体には怪獣の「好奇心」の部分が強く表れているようね」

『ふ~~ん。キノコなのに変なの~~』

 するとシルフィがふわりと飛び回りながら、会話に入ってきた。

「あら。好奇心は生物にとって欠かせない要素よ? 危険に飛び込まなければ、何が危険かも判らない・・・学習する事こそ、知性ある者の喜びだわ」

『・・・そんなものかな~?』

 ティータの言う事はもっともだけど、シルフィは怪訝けげんな面持ちのままだ。

 まぁ・・・彼女は以前、クロに「真実から目を背き続けるのが悪い事だとは思わない」とか、「自分にとって良い事だけを覚えていればいいんだよ」とまで言ってたし・・・

 自分から危険な目に遭おうとする気持ちはイマイチ理解出来ない・・・いや、したくないんだろう。

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