恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十話「運命の宿敵 後編」

 第三章 「雷王対雷王‼ 誇りをかけた戦い‼」・⑪

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◆エピローグ


「───成程。それは災難だったな」

 「地底世界」を脱出し、ようやくベースキャンプに戻ってきた直後・・・日本でもガラムの群れが大暴れしていたという驚くべき情報を、マクスウェル中尉から聞かされた。

『いえいえ。隊長こそ』

 激戦の後だろうに、まだまだ余裕そうな口ぶりはさすがと言った所だな。

「フッ・・・違いない。とにかく、よくやってくれた」

 最後にそう添えて通信を終えると・・・すぐ側で、ニヤケ顔のサラが立っていた。

「・・・なんだその顔は。殴って欲しいのか?」

「ぜひお願いしますっ‼ ──と、言いたい所ですが、明日は新製品の発表会がありますので、今日のところは涙を呑んで我慢致しますわ」

 ・・・それがなければ、嬉々として殴られたいとでも言うのか・・・?

 相変わらずどこまでが冗談か判らない女だな、と内心呆れ返っていると──

「愛の鉄拳を頂く機会は次に譲るとして・・・テリオから報告は受けておりましたが、久々にお会いして確信致しました。・・・お姉さま、表情が柔らかくなられましたね」

 突然真面目な顔をして、そんな事を言い出す。

 ・・・本当に、テンションの移り変わりが山の天気のようだな、サラは。

「そ、そうか・・・? 自分ではよく判らんな・・・・・・」

 どうにも気恥ずかしく、視線を逸らしてしまう。

「えぇ。・・・ようやく、出会えたのですね」

 しかし、サラはそんな態度を許さず・・・あくまで、真っ直ぐに告げて来る。

「お姉さまが背中を預けて、共に戦える──素晴らしい方々に」

 その純真な笑顔に、どうにも毒気を抜かれてしまう。

「やれやれ・・・さっきの仕返しのつもりか?」

「まさか。本心ですわ♡」

「どうだか。・・・だが、まぁ・・・そうだな。本当に、部下には恵まれたよ」

「! ・・・ふふっ。妬けますわね♪」

 サラはそう言ってクスクスと笑う。

 「部下に恵まれたのはお前もだろう」と言ってやろうかと思ったが・・・それを私の口から告げるのは無粋だな。

「そう言うな。妹じゃ役不足か?」

「とんでもない、光栄ですわ。血は水よりも濃いと言いますから」

「あぁ。それはテリオを見ればよく判る」

「まぁ! これは一本取られてしまいましたわね♡」

 つい先程、同じような台詞をテリオから聴いたのを思い出して、思わず溜め息が出る。

 判り切った事ではあったが、やはり・・・あの人工知能の生意気さは、親譲りらしい。

「! ・・・そろそろ私は外しますわ。それでは、御機嫌よう♪」

  と、そこで、突然サラが何かに気付いて身をひるがえす。

 視線を追って振り返ると・・・グプタ少尉がやや気まずそうな顔をして立っていた。

「どうした、少尉?」

「・・・あの・・・キリュウ少佐・・・これを。どうか、受け取って下さい」

 話しかけると、一転、真剣な顔つきに変わって・・・右手を差し出してくる。

「・・・・・・!」

 そこに握られていたのは、忘れもしない・・・グプタ中尉の、S&Wリボルバーだった。

「・・・兄の遺志を継いで、それを体現しているのはキリュウ少佐です。今日一日で思い知りました。・・・私には・・・これを持つ資格がありません」

 ・・・どうやら、彼に対して最初に感じた「生真面目そう」という印象は、寸分違わず正解だったらしい。

 帰路の途中でサラに聞いた所によれば、私への復讐心を糧に努力し、機動課に配属されたという話だから・・・良くも悪くも、一本気なんだろうな。

「気持ちは嬉しいが──それは中尉から、君に渡して欲しいと頼まれたものだ」

 それに、と付け足して・・・彼の目を見て真っ直ぐに、伝える。

「君がいなければ、<ファフニール>の制御プログラムは修正が効かず・・・最後の一撃は外れていただろう。「自信を持て」と言ったのは、世辞ではない」

「・・・!」

「今日、君は間違いなく<ドラゴネット>の運転手の彼を・・・一人の命を救ったんだ。君には既に──その銃を持つに足る資格がある。・・・胸を張れ! グプタ少尉!」

「・・・っ! は、はいっ‼」

 感極まった様子で・・・少尉は背筋を伸ばし、大きな声で返事をする。

 ・・・三年前、あの事件の後・・・すぐ第四分隊に飛ばされてしまったせいで、中尉の遺族へ直接あの形見を返せなかった事が、ずっと心残りだったが───

 彼の遺してくれたものは・・・しっかりと受け継がれているのだと・・・そう感じた。

「隊長! 少しよろしいでしょうか!」

 そこで、柵山少尉の声に呼ばれる。

 去り際に・・・グプタ少尉の肩をぽんと叩いた。

「・・・君はこれから、もっとたくさんの命を助ける人間になる。・・・期待しているぞ」

「っ‼ ・・・・・・ありがとう・・・ございました・・・っ‼」

 爽やかな返事を背中に受けて──私は、柵山少尉の元へ向かう。

 きっと今は、さしもの私も・・・柔らかい表情かおをしているはずだと・・・そう思った。


       ※  ※  ※


「・・・・・・んっ・・・んぅ・・・・・・」

 激戦から、一夜が明けて──布団から体を起こしたカノンの喉から、声が漏れる。

 昨夜の彼女は・・・久しぶりに、

「・・・・・・はら、へった・・・」

 どこかスッキリとした気分ながら、顔だけは不機嫌そうに・・・部屋を出て、廊下を歩き、リビングへ入ると───


「あっ、おはようカノン。今日もご飯できてるよ」

「カノンちゃん・・・! おはようございますっ!」

「おはよう、カノン。・・・あら? 今日は何だか機嫌良さそうね?」


「・・・・・・」

 いつも通り、食卓についたまま、笑顔で出迎えるハヤトとクロと、二人の隣で少し意地悪そうに笑うティータがいた。

 いつもなら、何もせず通り過ぎるだけのカノンだが───

「・・・・・・ん」

 と、一言ぶっきらぼうに返事をすると──指定席のソファではなく、ハヤトの隣の席に腰掛けた。

「「「えっ・・・?」」」

「・・・ンだよ?」

 三人が同じタイミングで絶句したのを見て、カノンは眉根を寄せる。

 ハヤトは「いや! 何でもないよ!」と誤魔化そうとして・・・

「・・・あっ・・・!」

 そこで、カノンのに気付いた。

 昨夜、止血が終わったために取り去ったはずの彼のTシャツの切れ端──詰まる所、ただの黒い布切れだが──それが、再び彼女の腕に巻かれていたのである。

 それは、捨てたものを彼女が拾った訳ではなく───

 彼女自身が無意識に、「この姿で在るべきだ」と思ったが故にあらわれたものであった。

「し、シルフィ! あれって・・・・・・」

『ハヤト~~それは聞いちゃダメなヤツでしょ~~?』

 すかさず理由を尋ねようとして、ハヤトはシルフィに小突かれる。

 一方、思考の視えるティータは、とても楽しそうに・・・隣に座るクロは、カノンが帰ってきてくれた事がただただ嬉しくて・・・二人とも、笑顔で彼女を見つめていた。

「あンだァそのニヤケヅラはァ‼ ケンカ売ってんのかァッ‼」

「ひうぅっ⁉ ご、ごめんなさいぃ・・・っ!」

 少しは大人しくなったように見えたカノンが牙を剥いた事で、クロの涙腺が緩む。

「まぁまぁ・・・ほら、ご飯できたよ!」

 いつもの光景ながら・・・それが戻ってきてくれたのを嬉しく思いつつ、ハヤトがカノンを抑えながらテーブルに朝ごはんを並べた。

 そして──各々のお皿を前にして、三人が手を合わせる。

「いただきますっ!」

「いただきます♪」

 カノンは、目をぱちくりさせ・・・隣にいるハヤトを見た。

「ほら、カノンも! ・・・受け入れる、でしょ?」

「・・・・・・ケッ!」

 少し悪戯っぽい言い方に、カノンは口をとがらせながら・・・

 顔だけは、いつも通り不機嫌そうに──手を、合わせた────


「────イタダキマス!」



                       ~第十一話へつづく~
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