恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
上 下
255 / 325
第十話「運命の宿敵 後編」

 第三章 「雷王対雷王‼ 誇りをかけた戦い‼」・⑨

しおりを挟む
「まずい・・・っ‼ このままじゃ・・・っ‼」

 本来であれば、莫大なエネルギーを蓄積するまではその場から動かない、隙だらけの技のはずだけど・・・

 今のカノンは、動けない格好の「的」だ・・・!

 既に、あの光線を弾き返すだけのバリアを展開する事が出来ないのは判っている。

『・・・・・・』

 隣で沈黙しているシルフィの表情は、固い。

   ───やれるだけの事は、やった。

   ───これ以上は、カノンに恨まれでも、彼女を逃がすべきだ

   ───カノンを苦痛から解放してあげたい。早く楽にしてあげたい。

 頭の中に浮かんでくるのは・・・そんな弱音ばかり。

 ・・・でも、その気持ちは僕のエゴであって・・・・・・決して、彼女の望みじゃない・・・ッ‼

「諦めちゃ───ダメだッ‼」

 握った拳から血が滴り・・・そこに弱気が溶けて、体から流れ出た。

 ──そうだ。まだ諦めちゃいけない・・・‼ だって───

<グルルル・・・‼ グルアアアァァ・・・ッ‼>

 実際に戦っているカノンはまだ・・・諦めていないんだ‼

 ・・・何か、ないか・・・! これまでのカノンの戦いを思い出せ・・・! そこに何かヒントがあるはずなんだ・・・!

 全く別の生物であっても、レイバロンとカノンは同じ力を持っているんだから、同じ弱点があったっておかしくは────

「・・・っ! ・・・・・・同じ、力・・・弱点・・・・・・」

 その時ふと、先程聞いたカノンの言葉が、脳裏に浮かび上がって来る。


  「ったく・・・思い返せば、本当にワケわかんねー事だらけだ・・・!」

  「起きたら急に何もかも小さくなってやがるし・・・体からビリビリは出るし──」


 ・・・そうだ。同じ力を持っていても・・・彼女は、自分の力を使

 そして、カノンの弱点・・・それは───


  「なっ・・・⁉ 角の部分にはバリアが無いのか・・・っ⁉」

 
 一番目立つはずの角に、バリアが張れていない事───

「もし・・・かして・・・・・・ッ‼」

 欠けていたピースが嵌まり、一つの事実が浮かび上がってくる。

 カノンは・・・意識的にあの力を使っている訳ではない。

 攻撃に対して意識を向けた時にだけバリアが発生したり、無我夢中になっている時に、体を稲妻が伝導う事はあっても・・・自分の「誇り」である角にはバリアを張らないように──

 無意識にあの力を「得体の知れないもの」として認識して、忌避しているんじゃないのか・・・・・・⁉

 だと、したら───!

「・・・カノンッ‼ 聞いてッ‼」

 声の限り、彼女に向かって叫ぶと───

 疲労によって瞼を半分下ろしながらも・・・未だ闘志を失ってはいない瞳が、応えた。

「カノン! 君のその力は・・・「ビリビリ」は、君の敵じゃない!」

 ・・・彼女自身は、稲妻の力をあてにはしていない。

 あの力はあくまで、怪獣になってしまう過程で偶然手にしたものなんだろう。

「それは──君の守りたいものを、守るための力なんだッ!」

 そして、カノンは特別な力があろうとなかろうと・・・いや、きっとそもそも怪獣であろうとなかろうと・・・

 成すべき事をするために・・・誰かを守るために戦うんだ。

 ・・・でも、今は───


「だから・・・恐れずに受け入れるんだ! 君の持つ「誇り」を・・・守るためにッ‼」


 きっとその力が・・・君を救ってくれるはずだから・・・!

<・・・ッ‼>

 目を見開いたカノンは、一瞬、迷ったような素振りを見せ───

<・・・・・・グルアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼>

 そして、それを吹っ切るように──強く・・・強く、叫んだ。

 すると・・・バチバチッ‼と音を立てて──

 二本の角の間に、細い稲妻がいくつも走り始める。

 同時に、カノンの背中の甲羅も、水色に発光し始めた。

『・・・! まさか・・・レイバロンと同じ技を・・・!』

 シルフィがはっとした表情を見せる。

 動けない状態でレイバロンに対抗するには・・・同じ技を使った上で、なおかつ相手を打ち破るしかない。

 ・・・カノンは、それを判ってるんだ。

<バオオオオオオ──バッ・・・ゴボォオッ・・・‼>

 先に光線のチャージを始めたレイバロンが有利かと思っていたけど・・・カノンの与えていたダメージは相当のものだったらしい。

 口の端と首元から血を流しながら、向こうも文字通り決死の気迫を以て、水色のエネルギーを高めていく。

 ───そして・・・・・・二体の装甲の放つ光は、ほとんど同時に極限に達する。

 「誇り」と「憎しみ」との戦いに──今、互いの最後の一撃が───放たれた!


<グルアアアアアアアアアアアアァァァァァァ────‼>

<バオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ────‼>


 カノンの角の間から、レイバロンの口腔から・・・巨大な光線が発射され、ぶつかり合う。

 バリア同士が接触した時とは比べ物にならない程の威力が、眼の前で衝突している。

 二つの光線から放たれる雷霆らいていは、周囲の岩石を弾き飛ばすだけでは飽き足らず、岩棚を削り、天井の各所を破壊し、地面に大きな亀裂を入れ──

 文字通り、地形を変えてしまっていた。

<グルアアアアアアアアァ────>

<バオオオオオオオオォォ────>

 自分で放っている光線の威力に、当人たちも耐えきれなくなり・・・徐々に、体が後退していく。

 カノンの踏ん張ろうとする肢からは、血が出ている・・・! でも───‼

「負けるなああぁぁっ‼ かのおおおぉぉぉんっっ‼」

<グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼>

 ・・・僕の声援に、応えようとしてくれた訳じゃないと思う。

 それでもカノンは・・・・・・最後の最後で・・・踏み止まってくれた。

<オオオオオオォォォォ───バオオォオッッ⁉>

 そして、ぶつかり合う光線の衝突点は・・・徐々に、レイバロンの方へと近づいていき・・・

<バオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ────>

 それが弾けた時・・・炸裂した稲妻は地面をめくり上がらせ、大穴を穿ち──

 最後まで、憎しみに満ちた叫びを上げながら・・・・・・紫色の巨体は、奈落へと消えて行った。

 ・・・宿敵の最期を見届けたカノンは・・・浅い呼吸を繰り返した後・・・・・・

<グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼>

 最後に、勝鬨かちどきを上げてから───光の粒子になって、空気に解けていく。

 ・・・その雄叫びは、勝利の喜びを表すものではなく・・・・・・

 今はもう会えなくなってしまった家族へと捧げる、弔いの一声だったような・・・・・・そんな気がした・・・・・・・・・

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

処理中です...