恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十話「運命の宿敵 後編」

 第三章 「雷王対雷王‼ 誇りをかけた戦い‼」・③

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 大量の砂塵を巻き上げながら──海面近くの獲物を捕らえる肉食魚を思わせる勢いで、ガラジンガーは大口を開けて地中から飛び出して来た。

 後部外殻の隙間から、ウォータージェットのように砂を噴き出している。

 地中で高速移動が出来た理由からくりはあれか・・・!

 勢い余って空中に飛び出した巨体が、真っ直ぐにガラカータナへ体当たりを仕掛ける。

 数万トンはくだらないであろう重量・・・直撃すればただではすまないが、しかし──

<ギャオオオオオロロロロロッッ!>

 背後を取られたはずのガラカータナは、この攻撃を予知していたかのように、既に迎撃体制を整えていた。

 渾身の力で振り回された鞭が、ガラジンガーの巨体を空中で叩き堕とす。

 想定外の反撃を受けて、ガラジンガーは声を上げる間もなく弾き飛ばされ──そして、何とも運の悪い事に、こちらへ向かって落ちてくる。

 勿論、平時であれば数百メートル先に落下するのは簡単に予測出来るのだが・・・

『うわあああぁぁあああぁッッ‼』

 それが、死と隣合わせの緊迫した状況となれば話は別だ。

 「巨大なモノが降って来る」恐怖に狼狽した<ドラゴネット>の運転手は、不注意にも距離を取ろうと走り出してしまう。

「止せッ! 今動いたら──」

 まずいと思った時には、一歩遅かった。

 直後、ガラジンガーが落下した衝撃で、砂の海が大きく波打ち・・・<ドラゴネット>は荒れ狂う地面に足を取られ、横転してしまった。

『なんて事・・・! 無事ですか⁉ 応答して下さいまし‼』

 九十度倒れた車体へサラが必死に通信を飛ばすが・・・一向に返事がない。

『・・・! そうですわ! 牽引ワイヤーで──』

「落ち着け! 怪我をしているかも知れないんだ! 不用意に動かしてどうする!」

 どうやら、さしものサラも動揺しているらしい。

 まずは乗員の安全を確かめる事が先決だと、<ヘルハウンド>を回頭させようとして──

<シュルルルルル・・・・・・ルシャアアアアアアアアアッッ‼>

 間近で響いた大轟音に、体が硬直してしまう。

 目を向けるとそこには、朦々と立ち込める砂煙と──

 そのとばりの向こうで、巨大なシルエットが今まさにのが見えた。

「なんだアレは・・・ッ⁉」

 砂塵の煙が晴れると・・・・・・驚くべき事に、ガラジンガーが

 ・・・否、よく観察すれば、頭頂にある「頭」のように見える部分は目のような模様が描かれているただの外殻で、鳴き声を上げる本来の口吻は、下半身の先端に付いている。

 今までの姿は、本当の頭部を覆い隠すために上半身を倒した状態だったのだ。

<ルシャアアアアアアアアアアアアアアッ‼>

 横から見ると「T」の字を逆さにしたような不可思議な姿に変わったガラジンガーは、出刃包丁のような形状の両腕──先程までは体側面の赤い光体上部を覆っていた部分だ──を振り回しながら、目前のガラカータナを威嚇する。

<ギャギャギャギャッ‼ ギャオオオロロロロロロッッ‼>

 対するガラカータナも・・・獲物と定めた相手からの殺意を嬉々として受け入れ、下卑た嗤い声にしか聴こえない咆哮を上げて応えた。

「こっちの都合も知らずに・・・! 闘争本能と食欲しか知らん野獣どもめ・・・ッ!」

 思わず恨み言が零れたが、文句を言っても何も始まらない。

 ・・・そうだ。どれだけの絶望が、理不尽に降り掛かってこようとも──

 それが、歩みを止めて良い理由にはならない・・・!

「ハウンド2! <ドラゴネット>乗員の救助に向かえ! 人命優先だ!」

『『アイ・マムッ!』』

 返事と共に、<グルトップ>が素早く発進する。

 そして、ほんの少しだけ思考して・・・彼らなら「実現可能」だと判断し、オープンチャンネルに向かって指示を出した。

「ハウンド3は私と共にヤツらを撹乱し、救助までの時間を稼ぐぞ!」

『アイ・マァム!』

『・・・! アイ・マムッ!』

 カルガー少尉が返事した後で、一拍遅れてルクシィ少尉の声が聴こえる。

「・・・行けるか? ルクシィ・・・いや、グプタ少尉」

 あえて、言い直すと──

『・・・はいっ‼ その名にかけて・・・必ず!』

 数時間前の彼とは別人としか思えない、頼もしい言葉が返ってきた。

 思わず口角が上がってしまったのを自覚しつつ・・・今一度気を引き締めてから、叫ぶ。

「行くぞ! 私について来いッ!」

 そして、アクセルを全開にして・・・私達は、二体のジャガーノートがしのぎを削る戦場へと、真っ直ぐに向かっていった───


       ※  ※  ※


<ゴアアァッ‼ ゴアアアアアァァッ‼>

 野太い声が、広大な空間のあちらこちらで反響しながら、カノンへと迫る。

<グルァァアアアアアアアッッ!>

 カノンは四方から迫るガラムたちを迎え撃とうと、その場でぐるりと回転し、大きく尻尾を振った。

 ブン‼と空を切り裂くような音と共に、飛びかかって来たガラムが数匹まとめて薙ぎ払われ、岩棚に衝突して瞬時に真っ赤な染みと化す。

 ・・・けれど、ガラムの数はあまりにも多い。

 続いてやってくるガラムは、カノンの背後からその体に取り付いた。

<ルアアアァァァァッ‼>

 すると、咆哮と共に、黒光りする装甲から水色の稲妻が迸る。

 ジグザグに周囲へ走る軌跡は、取り付いたガラムを弾き飛ばすバリアとなって、カノンを守っているのだ。

 が、しかし───

<ゴアアアァッ‼ ゴアアアアァッ‼ ゴアアアアアァッッ‼>

 それでもなお、全てのガラムを相手取るには足りない。

 水色のバリアも完全ではなく、次々に押し寄せる無数の黒い爪は、じわじわとカノンの体表に傷を付けつつあった。

<グルルルル・・・ッ‼ グルアアアアァァッッ‼>

 統率された群れという、初めて相手取る敵に苦戦を強いられながらも・・・カノンは何とかガラムたちを追い払おうと、尻尾を振るい、巨躯を揺らし、必死に抵抗する。

 カノンに何か状況を打開するヒントを与えられないものかと、周囲を見渡していると──

「えっ・・・?」

 ふと視界に入った光景に、ぞくっと体の芯が冷える感覚がした。

<オオオオォォォォ・・・・・・>

 手下に任せて、自分は高みの見物を決め込んでいるんじゃないかと思っていたレイバロンは、先程から場所こそ動いていなかったものの・・・

 両脚を大股に開き、仙椎せんついを高く上げ、あんぐりと口を開けたまま、顎を地面スレスレまで下げた、奇妙な体勢を取っていて──

 その姿はまるで・・・・・・

 ・・・脳裏には、紫の光の奔流に呑み込まれてしまったクロの姿がフラッシュバックする。

「カノン! 危険だッ! 今すぐ逃げてッ‼」

 当たって欲しくはない予感に急かされて、カノンへ必死に呼びかける。

 ・・・だけど、ガラムたちの相手に忙しいのか・・・それとも、最初から聞く気がないのか・・・

 緑色の巨体はその場で暴れるばかりで、離れる気配がない。

<オオオオオオオオォォォォォ・・・・・・!>

 そうこうしているうちに、レイバロンの背中の装甲はそれ自体が水色に発光を始め・・・蓄積しているエネルギーを今まさに放たんとしているのが見て取れた。

 反動を抑えるためなのか、四本の腕に備えられた八つの爪を、食い込ませるように地面に突き刺す。

『・・・カノン! そいつらにかまってる暇があったら早くそこから離れるんだ!』

 いつもは冷静なシルフィも、語気を強めて叫んだ。

 ・・・彼女がそこまで言うほど、これから来る攻撃は凄まじいものという事なのか・・・‼

「カノン・・・ッ! 早く逃げてってば! お願いだからっ‼」

<グルアアアアアアアアァァァァッッ‼>

 カノンは、完全に頭に血が上ってしまっている。開かれた瞳孔は、もはや自分の体に群がるガラムたちしか捉えていない。

 ・・・けれど、ガラムたちはただの「囮」なんだ・・・!

 全ては・・・・・・・・・‼

<バオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッ‼>

 そして、雷鳴のような轟音と共に・・・装甲の発光は極大に達し、思わず目が眩む程に輝いた直後───

 レイバロンの口腔から、水色の巨大な光線が発射された。

<グルアアアァァ・・・ッ⁉>

 瞳を刺す水色の光に、カノンはようやく自らの危機に気付き、振り返る。

 ──彼女の全身を呑み込まんとする程に巨大な光線は、既に目前にまで迫っていた。

<ゴアァッ・・・? ゴアアアアアアァァァ───>

 最初に犠牲になったのは、カノンの周りを取り囲んでいたガラムたちだ。

 水色の奔流の中に消える直前・・・茶色の体躯が、一瞬にして炭化するのを見てしまった。

<グルアアアアアアアアアアアアッッッ‼>

 すんでの所で光線に立ち向かう体勢を整えたカノンの体からは、対抗するように同じ水色の光が発して・・・洪水のように押し寄せる光を、何とかき止めようとする。

 2つのエネルギーがぶつかり合い、いくつもの光が飛び散って・・・それらに触れてしまったガラムを、立ちどころに丸焦げの「何か」に変えていく・・・

 僕は、せり上がってくる胃液を押し留めるので精一杯だった。

<グルルァ・・・‼ ルアアアアアアアアアアアアァァァッッ‼>

 そして・・・いつしか、趨勢は決しようとしていた。

 カノンの体を守るバリアは、レイバロンの放つ光線に耐えきれず、次第に勢いを失い、綻びを見せ始め──遂に────

<グルアアアアアアアアアアアアアァァァァァ────>

 緑の巨体は、眩い閃光の波に押し出され・・・・・・高く、宙を舞った。

「カノン───ッッ‼」

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