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第十話「運命の宿敵 後編」
第一章「獰猛なる紫の雷王‼ 恐怖の地上侵攻作戦‼」・①
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◆第一章「獰猛なる紫の雷王‼恐怖の地上侵攻作戦‼」
「そっ・・・そんな・・・」
カノンが発した一言をすぐには呑み込む事が出来ず、息が詰まった。
「あの怪獣が・・・カノンの家族を・・・・・・」
視線の先で、紫色の巨大なティラノサウルスが、秩父で見た怪獣──ガラムキングを足蹴にしている。
・・・やっぱり、全身に纏っている「鎧」は、カノンのそれに酷似していた。
どうしてカノンの家族の仇が、カノンと同じ「鎧」を持っているんだ・・・?
「四本腕になってようが・・・今度こそ間違いねぇッ! あの眼のキズは、姉貴が殺された日にアタシが付けてやったキズだ! アイツだッ! アイツが目の前にいるんだッ‼」
カノンは先程から怪獣を睨んだまま、全身から稲妻を迸らせている。
今にも、本来の姿に──怪獣・レイガノンとなって、飛び出していきそうだ。
「そうだ・・・ヤツは仇なんだッ‼ 憎いんだッ‼ ぶっ倒してぇ・・・・・・はずなんだッッ‼」
しかし・・・実際には、彼女は先程から怪獣を睨んだままで、此処にいる。
「・・・だってのに・・・! どうして・・・ッ!」
歯を食い縛り、拳を握り締め、表情を憤怒の一色に染めながら──
「どうして・・・アタシの身体は動かねぇんだよ・・・・・・ッッ‼」
それでもカノンは、一歩も動けずに居た。
「・・・カノン・・・・・・」
本当の姿は巨大な怪獣で・・・人の姿であっても体中から雷を発する、僕なんかじゃ比べるのもおかしいくらいに強大な存在のはずなのに──
今、彼女の背中は・・・とても儚げで、小さなものに見えていた。
<バオオオオォォッ‼>
そこで、紫の怪獣が再び吼える。すると、その周囲にいた小型の怪獣──ガラムたちが即座に呼応して、カラスのような鳴き声で大合唱を始めた。
「あの怪獣が・・・ガラムたちの新しいボスなのか・・・⁉」
思わず耳を塞ぎたくなるようながなり声は、この薄ぼんやりと青く光る空間のあちこちで反響し、豪雨のようにこちらに降り注ぐ。
<ガアァッ‼ ガアアアァッ‼>
すると──僕たちの居るすぐ側の横穴から、突然、三体のガラムが飛び出して来た。
「なっ・・・⁉」
直後、六つの目玉がこちらを・・・つまり、アカネさんとその隣にいた女性を捉えると──
口の端から唾液を振り乱しながら、ガラムたちは二人に襲いかかった。
※ ※ ※
「きゃああああああッ‼」
「くっ・・・!」
一体どこに隠れていたのか・・・突如現れた三体のNo.005が、一斉に飛びかかってくる。
泣き出しそうなカルガー少尉を後方へ突き飛ばして逃しつつ・・・反動で左へ跳びながら、M9を引き抜いて──撃つ!
<ガアァッ⁉>
目玉に弾丸が命中した左端のNo.005は、体液を撒き散らしながら断末魔を上げた。
続け様に、着地してこちらに向き直った中央のNo.005に向けて、引き金を引く・・・が、こちらの姿勢が悪く狙いが逸れて、弾丸は左肩に当たる。
<ガアアアッッ‼>
No.005は爪を振りかぶりながら、強靭な脚力で一気に距離を詰めて来た。
「タクティカル・アーマー」も無しにあの爪を受けようものなら──私は一瞬で下ろしにされてしまうだろう。
咄嗟の判断で、上体は前に向けたまま、腰から倒れ込むようにして背後へ飛び退く。
「・・・ッ!」
そして、勢い良く振るわれた爪の一撃が空を切ったのを視認してから・・・脳天に向けて三連続で弾丸をお見舞いする。
今まさに私を屠らんとした爪と同じ素材で出来た弾頭は、分厚い頭蓋を抉じ開けて、No.005を瞬時に絶命せしめた。
仰向けの状態で、覆いかぶさるように降ってきた死体を蹴り飛ばす・・・
と、間髪入れずにカルガー少尉の再びの悲鳴がこだました。
「いやあああああッ‼ 来るなぁぁッ‼ 来るなああああぁぁぁッッ‼」
少尉は、銃を構える事も出来ずに腰を抜かしている。
いつの間にか距離が開いてしまっていたのに気付いて、慌てて立ち上がり、駆け出す──が、今まさにNo.005の爪はカルガー少尉を引き裂こうとしていた。
このままでは間に合わない・・・ッ‼
少尉に当たらないように祈りながら、M9の引き金を引こうとした、その時──
<ガアアアァァ──ッッ⁉>
視界の外から駆けて来た<ヘルハウンド>の車体が、No.005の身体を軽々と弾き飛ばした。
『──マスター。お待たせしました』
そして、右耳のイヤホンに抑揚のない声が届く。
お手柄だと褒めてやりたい所だったが・・・その前にカルガー少尉のもとへ。
「少尉、立てるか?」
「えっ? き、キリュウ少佐のバイク? でもあれ? 誰も乗ってな・・・あれっ?」
「このバイクは自律運転も可能なんだ。・・・ほら、一度深呼吸しろ」
恐怖と理解不能の現象でパニックに陥っている彼女を抱き起こそうとしたところで、端末が鳴動する。
表示されていたのは、柵山少尉の名前だった。
「キリュウだ。すまない。No.005に襲われていた」
『柵山で・・・ってえぇっ⁉ だ、大丈夫だったんですか・・・?』
「あぁ。何とかな。今からカルガー少尉と──」
「すぐに戻る」・・・と言いかけたところで、再び耳障りな声が鼓膜を震わせる。
<ガアァッ! ガアアァッ!>
振り向けば、こちらへ向かって駆けて来るNo.005の群れが見えた。数は少なく見積っても20体はいるだろう。
・・・しかも、秩父でNo.008と共に現れた「大型個体」の姿もある。
今の銃声と、仲間の断末魔が本隊を呼び寄せてしまったか・・・!
「総員、全速離脱! 打ち合わせ通りにポイントBまで後退して、一旦態勢を立て直す!」
端末へ叫びながら、腰を抜かしたままのカルガー少尉を無理やり引き起こした。
「少尉ッ! いつまで腑抜けているつもりだ! いま<ファフニール>を動かせるのは・・・君しか居ないんだぞッ!」
「・・・ッ! いっ、イエス・マムッ‼」
自らの肩に何が乗っているのか──それを即座に思い出して、彼女の瞳に光が戻った。
隊服の袖で涙を拭ってから、少尉は<ファフニール>のタラップへと駆ける。
その背中を見送りつつ・・・<ヘルハウンド>のヘルメットロックを解除し、チンストラップを留めてシートに跨った。
「さっきは助かった。「ブラスター」の充電は終わったのか?」
『いえ。途中で未確認の高エネルギー反応を探知しましたので、作業を中断してこちらに。充電ケーブルを外すのに手間取りました』
「・・・そうか」
軽口に返す余裕もなく・・・刻々と迫りつつあるNo.005の群れと・・・
その向こうで、高みからこちらを見下ろすジャガーノート──No.018の姿を一瞥する。
黄色い縁取りの、黒く重厚な「鎧」・・・その姿は、否応なくNo.009を彷彿とさせる。
『──マスター。たった今、マザーからの「宿題」が解けました』
と、そこで藪から棒にテリオが告げてくる。
・・・先程から何度か口にしていたものか。
『国家機密かと見紛うばかりの厄介なプロテクトでしたが・・・中身は、ネイト大尉たちが回収した例の組織が残したデータでした』
「・・・! 成程・・・」
解析には相当の手間がかかるからと、上層部の判断で外部の協力会社にデータを渡したと聞いていたが・・・サラのヤツが面白がってテリオに解かせていたわけか。
『このデータによれば、あのジャガーノートの名は──「レイバロン」。No.009と対を成す、もう一体の「雷王」・・・との事です』
「・・・雷王・・・レイバロン・・・」
「今こそ蘇れ‼ 雷王・「レイガノン」───ッッ‼」
聞き覚えのあるフレーズに、モンゴルで「灰色の男」が言っていた台詞を思い出す。
例の石版の欠けていた部分──No.009と相対する何者か──
その正体が、あのティラノサウルスのようなジャガーノートだと言う事なのか・・・?
と、「灰色の男」たちの目的にまで思考が及びそうになったところで──
<ゴアァッ! ゴアアァッ!>
大型個体の野太い鳴き声が、一瞬で私を現実へと引き戻した。
「そっ・・・そんな・・・」
カノンが発した一言をすぐには呑み込む事が出来ず、息が詰まった。
「あの怪獣が・・・カノンの家族を・・・・・・」
視線の先で、紫色の巨大なティラノサウルスが、秩父で見た怪獣──ガラムキングを足蹴にしている。
・・・やっぱり、全身に纏っている「鎧」は、カノンのそれに酷似していた。
どうしてカノンの家族の仇が、カノンと同じ「鎧」を持っているんだ・・・?
「四本腕になってようが・・・今度こそ間違いねぇッ! あの眼のキズは、姉貴が殺された日にアタシが付けてやったキズだ! アイツだッ! アイツが目の前にいるんだッ‼」
カノンは先程から怪獣を睨んだまま、全身から稲妻を迸らせている。
今にも、本来の姿に──怪獣・レイガノンとなって、飛び出していきそうだ。
「そうだ・・・ヤツは仇なんだッ‼ 憎いんだッ‼ ぶっ倒してぇ・・・・・・はずなんだッッ‼」
しかし・・・実際には、彼女は先程から怪獣を睨んだままで、此処にいる。
「・・・だってのに・・・! どうして・・・ッ!」
歯を食い縛り、拳を握り締め、表情を憤怒の一色に染めながら──
「どうして・・・アタシの身体は動かねぇんだよ・・・・・・ッッ‼」
それでもカノンは、一歩も動けずに居た。
「・・・カノン・・・・・・」
本当の姿は巨大な怪獣で・・・人の姿であっても体中から雷を発する、僕なんかじゃ比べるのもおかしいくらいに強大な存在のはずなのに──
今、彼女の背中は・・・とても儚げで、小さなものに見えていた。
<バオオオオォォッ‼>
そこで、紫の怪獣が再び吼える。すると、その周囲にいた小型の怪獣──ガラムたちが即座に呼応して、カラスのような鳴き声で大合唱を始めた。
「あの怪獣が・・・ガラムたちの新しいボスなのか・・・⁉」
思わず耳を塞ぎたくなるようながなり声は、この薄ぼんやりと青く光る空間のあちこちで反響し、豪雨のようにこちらに降り注ぐ。
<ガアァッ‼ ガアアアァッ‼>
すると──僕たちの居るすぐ側の横穴から、突然、三体のガラムが飛び出して来た。
「なっ・・・⁉」
直後、六つの目玉がこちらを・・・つまり、アカネさんとその隣にいた女性を捉えると──
口の端から唾液を振り乱しながら、ガラムたちは二人に襲いかかった。
※ ※ ※
「きゃああああああッ‼」
「くっ・・・!」
一体どこに隠れていたのか・・・突如現れた三体のNo.005が、一斉に飛びかかってくる。
泣き出しそうなカルガー少尉を後方へ突き飛ばして逃しつつ・・・反動で左へ跳びながら、M9を引き抜いて──撃つ!
<ガアァッ⁉>
目玉に弾丸が命中した左端のNo.005は、体液を撒き散らしながら断末魔を上げた。
続け様に、着地してこちらに向き直った中央のNo.005に向けて、引き金を引く・・・が、こちらの姿勢が悪く狙いが逸れて、弾丸は左肩に当たる。
<ガアアアッッ‼>
No.005は爪を振りかぶりながら、強靭な脚力で一気に距離を詰めて来た。
「タクティカル・アーマー」も無しにあの爪を受けようものなら──私は一瞬で下ろしにされてしまうだろう。
咄嗟の判断で、上体は前に向けたまま、腰から倒れ込むようにして背後へ飛び退く。
「・・・ッ!」
そして、勢い良く振るわれた爪の一撃が空を切ったのを視認してから・・・脳天に向けて三連続で弾丸をお見舞いする。
今まさに私を屠らんとした爪と同じ素材で出来た弾頭は、分厚い頭蓋を抉じ開けて、No.005を瞬時に絶命せしめた。
仰向けの状態で、覆いかぶさるように降ってきた死体を蹴り飛ばす・・・
と、間髪入れずにカルガー少尉の再びの悲鳴がこだました。
「いやあああああッ‼ 来るなぁぁッ‼ 来るなああああぁぁぁッッ‼」
少尉は、銃を構える事も出来ずに腰を抜かしている。
いつの間にか距離が開いてしまっていたのに気付いて、慌てて立ち上がり、駆け出す──が、今まさにNo.005の爪はカルガー少尉を引き裂こうとしていた。
このままでは間に合わない・・・ッ‼
少尉に当たらないように祈りながら、M9の引き金を引こうとした、その時──
<ガアアアァァ──ッッ⁉>
視界の外から駆けて来た<ヘルハウンド>の車体が、No.005の身体を軽々と弾き飛ばした。
『──マスター。お待たせしました』
そして、右耳のイヤホンに抑揚のない声が届く。
お手柄だと褒めてやりたい所だったが・・・その前にカルガー少尉のもとへ。
「少尉、立てるか?」
「えっ? き、キリュウ少佐のバイク? でもあれ? 誰も乗ってな・・・あれっ?」
「このバイクは自律運転も可能なんだ。・・・ほら、一度深呼吸しろ」
恐怖と理解不能の現象でパニックに陥っている彼女を抱き起こそうとしたところで、端末が鳴動する。
表示されていたのは、柵山少尉の名前だった。
「キリュウだ。すまない。No.005に襲われていた」
『柵山で・・・ってえぇっ⁉ だ、大丈夫だったんですか・・・?』
「あぁ。何とかな。今からカルガー少尉と──」
「すぐに戻る」・・・と言いかけたところで、再び耳障りな声が鼓膜を震わせる。
<ガアァッ! ガアアァッ!>
振り向けば、こちらへ向かって駆けて来るNo.005の群れが見えた。数は少なく見積っても20体はいるだろう。
・・・しかも、秩父でNo.008と共に現れた「大型個体」の姿もある。
今の銃声と、仲間の断末魔が本隊を呼び寄せてしまったか・・・!
「総員、全速離脱! 打ち合わせ通りにポイントBまで後退して、一旦態勢を立て直す!」
端末へ叫びながら、腰を抜かしたままのカルガー少尉を無理やり引き起こした。
「少尉ッ! いつまで腑抜けているつもりだ! いま<ファフニール>を動かせるのは・・・君しか居ないんだぞッ!」
「・・・ッ! いっ、イエス・マムッ‼」
自らの肩に何が乗っているのか──それを即座に思い出して、彼女の瞳に光が戻った。
隊服の袖で涙を拭ってから、少尉は<ファフニール>のタラップへと駆ける。
その背中を見送りつつ・・・<ヘルハウンド>のヘルメットロックを解除し、チンストラップを留めてシートに跨った。
「さっきは助かった。「ブラスター」の充電は終わったのか?」
『いえ。途中で未確認の高エネルギー反応を探知しましたので、作業を中断してこちらに。充電ケーブルを外すのに手間取りました』
「・・・そうか」
軽口に返す余裕もなく・・・刻々と迫りつつあるNo.005の群れと・・・
その向こうで、高みからこちらを見下ろすジャガーノート──No.018の姿を一瞥する。
黄色い縁取りの、黒く重厚な「鎧」・・・その姿は、否応なくNo.009を彷彿とさせる。
『──マスター。たった今、マザーからの「宿題」が解けました』
と、そこで藪から棒にテリオが告げてくる。
・・・先程から何度か口にしていたものか。
『国家機密かと見紛うばかりの厄介なプロテクトでしたが・・・中身は、ネイト大尉たちが回収した例の組織が残したデータでした』
「・・・! 成程・・・」
解析には相当の手間がかかるからと、上層部の判断で外部の協力会社にデータを渡したと聞いていたが・・・サラのヤツが面白がってテリオに解かせていたわけか。
『このデータによれば、あのジャガーノートの名は──「レイバロン」。No.009と対を成す、もう一体の「雷王」・・・との事です』
「・・・雷王・・・レイバロン・・・」
「今こそ蘇れ‼ 雷王・「レイガノン」───ッッ‼」
聞き覚えのあるフレーズに、モンゴルで「灰色の男」が言っていた台詞を思い出す。
例の石版の欠けていた部分──No.009と相対する何者か──
その正体が、あのティラノサウルスのようなジャガーノートだと言う事なのか・・・?
と、「灰色の男」たちの目的にまで思考が及びそうになったところで──
<ゴアァッ! ゴアアァッ!>
大型個体の野太い鳴き声が、一瞬で私を現実へと引き戻した。
応援ありがとうございます!
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