恋するジャガーノート

まふゆとら

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第九話「運命の宿敵 前編」

 第三章「戦慄‼ 地底世界の真の覇者‼」・⑧

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「くっ・・・!」

 しゃがみ込んで揺れをやり過ごすと・・・ふと、遠くから聴こえるだけだったはずの唸り声が、すぐ近くまで迫っている事に気付く。

<<ガアアアァ! ゴオオオォォッ!>>

 耳障りな声の方に目を向ければ──そこには、二体のNo.008が見えた。

 段差が付いて棚状になっている巨大な岩壁の中腹で、大きな爪を振り回しながら取っ組み合っている。

 柵山少尉の報告通り、秩父で見た個体よりもやや小振りだ。

 二体はいま私達が居る場所よりも30メートルは高い位置にいるように見えるが・・・直線距離にすれば、2キロ程しか離れていないだろう。

 こちらからハッキリと見えるという事は、向こうもまた同じという事だ。

 <ファフニール>の巨体に気付いて、標的を我々に変える可能性も十分有り得る。

「・・・最悪の状況だな・・・・・・」

 サラたちの置かれている状況も現在位置も判らない以上、救出には相応の時間がかかる事が予想されるが、ジャガーノートが争い合うすぐ横で救出作戦を行うのは現実的ではない。

 ・・・・・・しかし、二人を置いていくなど・・・・・・!

<ガアァッ! ガアアァッ‼>

 残酷な決断を迫られ、歯噛みしたその時──カラスのような鳴き声が、鼓膜を震わせた。

 目を凝らせば・・・いつからそこにいたのか、十を超えるNo.005の群れが、二体のNo.008を取り巻くように佇んでいる。

「まさか・・・! 秩父の時のように我々を襲わせるつもりか・・・ッ⁉」

 ただでさえ未知のジャガーノートが跋扈しているこの状況で、ヤツらの大群に襲われれば、我々の生還率は著しく下がるだろう。

<ガアァッ‼ ガアァ─ッ‼ ガアアァ──ッ‼>

 No.005の群れが、大合唱を始める。・・・もはや、一刻の猶予もない・・・・・・!

「カルガー少尉! 即時撤退を──」

 すかさず振り返り、少尉に指示を出そうとして──

<ガアアアアァァゴオオオオォォォ───ッ‼>

 突然・・・No.008のものと思われる悲痛な叫びが、背中越しに聴こえた。

 今一度、背後に目を向けると──そこには、想像もしていなかった光景があった。

「No.005が・・・・・・No.008を襲っている・・・ッ⁉」

 秩父では、No.008の一声で統率された集団行動を取っていたはずのNo.005たちは、今──

 あろう事かの巨体に群がり、明確な殺意を以て黒い爪を掻き立てていた。

 ──まるで、天敵のスズメバチを蒸し殺すために集結するミツバチの群れのように。

 当然No.008も抵抗し、必死に体を震わせて振り落とそうとしたり、巨大な爪ではたき落とそうと試みてはいるが・・・

 数の暴力の前にはあまり効果を為していない。

<ガッ・・・アァァ・・・ゴオオォォ・・・・・・>

 そして、状況を飲み込めないうちに・・・全身の肉を削ぎ落とされ、意識を保つ事が出来なくなったのか・・・

 No.005たちに取り付かれていたNo.008は、力なく地面に沈んだ。

<ガアァッ! ガアアァッッ‼>

 すぐさま、薄ぼんやりと光る黄色い目玉たちは、残るもう一体のNo.008を見据えた。

 No.008も対抗するように、巨大な爪を前に出して構えようとする───が、しかし・・・・・・

<・・・ガゴォッ⁉>

 瞬間、No.008は顔を上げ、きょろきょろと周囲を見渡し始めた。

 まるで・・・何かに怯えているかのように。

<ガゴオオオォッ‼ ガゴオオオオオォォォッッ‼>

 そして、明確な「危機」を察したのか──No.008は、争っていた同族の死体に背を向けて、一目散に岩壁に開いた穴の中へと逃げ去っていった。

 ──同時に、これまで何度も感じてきた「嫌な予感」が、再び私の背筋へと訪れる。

「カルガー少尉! 今すぐ<ファフニール>へ戻るんだ!」

 少尉もまた、尋常ではない空気を察したのだろう。眦に小さな涙の粒を浮かべながら、無言でこくこくと頷き、後ずさり始めた。

 ───が、どうやら・・・少し遅かったようだ・・・・・・

 ズシン!と地面を踏みしめる音が鳴って、足元からビリビリと震動が伝わって来る。

 まともに歩く事も出来ず、地面に縛り付けにされている間にも・・・巨躯を知らしめる足音は少しずつ大きくなり、No.005たちはを迎えるために歓喜の咆哮を上げ───

 そして、遂に──「嫌な予感」の根源が、その正体を現した。

「ヤツが・・・No.005どもの新たな王か・・・・・・ッ‼」






<バオオオオオオオオオォォォォォォォッ‼>


       ※  ※  ※


「あの怪獣・・・・・・カノンに、似てる・・・?」

 カノンが球体の中に入った後・・・

 この不思議な空間が一体どこなのかを確かめようと、辺りを見回していたら・・・そこには、アカネさんの背中と───

 毒々しいまでの紫色の鱗に包まれた、ティラノサウルスのような怪獣がいた。

『・・・・・・確かに。全く違う怪獣のはずなのに・・・似てるね』

 シルフィも、僕と同じ感想を抱いたみたいだ。

 全身に纏った黒い「鎧」と、そこからそそり立つ巨大な「棘」──

 明らかに宿と判るそれを、紫の怪獣は持っていた。

 カノンと大きく違うのは、最も目立つ部分が頭の角ではなく・・・

 僕の知るティラノサウルスより一対多い腕の先端に付いた、鋭利な「爪」である所だろうか。

「・・・バカ・・・・・・な・・・・・・」

 そこで、後ろにいたカノンから震えた声が漏れる。

 振り返れば──彼女は目を見開いたまま、全身から小さな稲妻をいくつも迸らせていた。

「かっ、カノン・・・⁉」

 近づく事も出来ずに、その場に立ち尽くしてしまう。

「──あれは・・・銀色のとはちげぇ・・・・・・・・・ッ!」

 こちらは眼中にない様子で、カノンは紫の怪獣から目を離さないまま、拳を強く握る。

 同時に、放たれる青白い稲妻は一層その輝きを増し、周囲の空気を焦がす。

 カノンが本来持つパワーが・・・人の形というくびきを、今にも破ろうとしていた。

「あの眼のキズは・・・絶対に間違いねぇ・・・! ヤツは・・・・・・!」


「ヤツは───アタシの・・・・・・家族の仇だ・・・ッッ‼」


              ~後編へつづく~
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