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第九話「運命の宿敵 前編」
第三章「戦慄‼ 地底世界の真の覇者‼」・⑦
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※ ※ ※
「・・・・・・はぁ・・・」
ふとした瞬間に、今日だけで何度目になるか判らない溜息が漏れ出てしまう。
『もぉ~辛気臭いなぁ~~』
キラキラと光る粒子の尾を引きながら、シルフィが突然どアップで視界に入って来る。
・・・数ヶ月前なら今ので驚いてひっくり返ってたけど、さすがにもう慣れた。
「だって・・・心配なものは心配なんだよ・・・」
ついつい口をとがらせつつ、黄金の瞳から視線を外した。
目を逸らした先で、壁掛け時計が目に入る。時刻は夜の7時半を差していた。
・・・つまり、クロたちに溜息ばかりの姿を見せるのが申し訳なくて、夕食後に自室に籠もってから、既に1時間が経っている事になる。
・・・本当に何にもしてなかったな・・・僕・・・・・・
「カノン・・・お腹空かせてるよね・・・きっと・・・」
窓の外はすっかり日が沈んでいて、一層心配になってしまう。
我が故郷とは言え、場所によってはこの時間でももう真っ暗だったりするしなぁ・・・
『ほんっと心配性だなぁハヤトは~。前にも言ったけど、擬人態の状態でもふつーの暴漢なら一発KOだから大丈夫だって~』
「・・・そういう問題じゃないんだってば・・・」
やっぱりどこかずれている妖精さんのお陰で、溜息が一回分増えた。
・・・・・・そして、遂に我慢の限界が訪れたのを自覚して──控えめに問いかける。
「ち、ちなみに・・・いまカノンってどこらへんにいるの?」
探しに行こう! とまでは言わずとも、せめて場所くらいは確認しておきたかった。
『・・・う~~ん・・・・・・今は~~・・・少し遠くに居るね』
目を瞑って、両手の人差し指をこめかみに当てながら、シルフィが答える。
・・・多分、このポーズに特に意味はないんだろうな・・・・・・
「遠くっていうと・・・山の方? 海の方?」
『うーんと、インドのあたりだね』
「・・・? 駅前のカレー屋って事?」
『まっさかぁ~』
「・・・えっ?」
『えっ?』
───それから、3回ほど同じ質問をして・・・・・・
ようやく大変な事態が起こっている事に気付いた僕は、大慌てでカノンの元へ送ってもらうようにお願いした───
※ ※ ※
「痛ってて・・・・・・なんだってんだ一体・・・・・・」
暗闇の中で、カノンは壁にぶつけた頭をさすっていた。
ガラムキング同士の争いによる震動は、彼女のいるこのコンテナまで及んでいたのである。
「・・・どうやら、外で小競り合いをしている者たちがいるようですね」
外どころか、目の前すら見えないはずの状況にも関わらず──謎めいた少女は、事もなげにそう口にする。
・・・が、カノンはそんな話に一切興味がなかった。
「ケッ! んな事より、その「アウベキモノ」とやらはいつになったら来んだよ!」
柳に風と受け流され続けながらも、カノンは少女への詰問を止めない。
「・・・・・・」
一方で、少女は遂に言葉を返す気を無くしたのか・・・急に黙り込んでしまう。
「いい加減アタシは腹減ってんだ! そもそもここがどこなのか──」
「───来ました」
カノンの文句を途中で遮って、少女の凛とした声が響いた。
「・・・・・・あん?」
「あなたが「会うべき者」・・・です」
そう告げるや否や──突如として、暗闇に光が差し込んだ。
少女が右手を振るい、不可思議な力でコンテナのドアを開いたのである。
「どうぞ。──「道」は今、繋がりました」
要人をレッドカーペットの上へと迎えるかのように、白く小さな手がカノンを導く。
──しかし、カノンはあぐらをかいたまま、動こうとはしなかった。
「・・・・・・てめぇが何も答えようとしねぇのはイヤってほど判ったが・・・最後にコレだけは答えろ。・・・てめぇはアタシに、何をさせてぇんだ?」
「・・・・・・」
少しの間、思案してから・・・少女は答える。
「前にも言った通り、あなたには「王」になって頂きたいのです。・・・ですが、今この時に、何をして頂きたいかという意味であれば──」
緑の光の差した青い瞳が、カノンの瞳を射抜く。
「───あの者に、打ち克って欲しいと・・・そう願っています」
「? ・・・アタシに・・・誰かと戦えってのか?」
「・・・と言うよりも、きっとそのようになるはずです。あの者は、あなたの───」
そこで再び少女は言葉を切って、虚空を見つめる。
「おっ、オイ! アタシの・・・なんだよ!」
寸止めを食らったカノンは、少女に詰め寄るが・・・
小さな唇が紡いだのは、彼女の求めている内容ではなかった。
「・・・あなたのお仲間も来られるのですね。これも、巡り合わせという事でしょうか」
そう言って少女は微笑みながら・・・トンッ、と音を立てて背中側に跳ぶ。
「ハァ? ナカマ・・・?」
なおも問いを重ねようとするカノンだったが・・・
再び少女が跳ねると──その体はコンテナの奥の闇に溶け、忽然と姿を消していた。
「・・・なっ⁉ ・・・・・・クソッ‼」
カノンは逃げられた事を悟って、苛立ちのままに地を蹴る。
すると、まるでそれが合図だったかのように──不可視の球体が、突如としてコンテナの内部に出現した。中には、ハヤトとシルフィの姿がある。
同時に、シャボン玉が膨らむように球体の壁が広がって、カノンの体を内部に取り込んだ。
「カノンッ! こんな所にいたんだね! 心配したよ・・・!」
ハヤトは目尻に小さな雫を浮かべながら、ほっと胸を撫で下ろす。
・・・しかし、そんな彼の態度も、今なお怒りと迷いの中にいるカノンにとっては、やはり到底受け入れ難いものだった。
「・・・・・・ハンッ! 何がシンパイだ! ザケんじゃねぇ! アタシは───」
そこまで言いかけて──カノンの体が、ぶるりと震えた。
それは、寒さから来るものではない。彼女の本能が、その五感に告げたのだ。
「・・・・・・何か、来やがる・・・!」
自身が「会うべき者」の、訪れを───
※ ※ ※
「クソ・・・ッ! どうする・・・どうすれば・・・‼」
焦燥のあまり、滝のように汗が流れる。跳ね続ける心臓も収まる気配がない。
何とかしてサラと少尉を救出しなければ・・・そんな考えだけが頭の中で空転し、一向にそのための方法をまとめられずに居た。
・・・洞窟内での通信は、<ドラゴネット>に搭載されている中継機によって行われていたが、現在、二人の持つ端末の反応は「信号なし」の表示になっている。
つまりこの穴の底は、電波すら届かない程に深い──という事だろう。
・・・そして、そんな所まで落ちてしまったとすれば・・・・・・既に・・・二人は・・・・・・
「き、キリュウ少佐っ!」
最悪の想像が頭を過ったところで、背後からカルガー少尉の声がした。
「じ、実はその・・・バーグちん・・・えと、ルクシィ少尉と連絡がつかなくて・・・!」
彼女も、バディの反応がロストしている事に気が付いて慌てているのだろう。
ここで起こった事をどう説明するべきかを迷いながら──ひとまず、事実だけを述べる。
「・・・・・・彼とサラは、この穴に落ちてしまったんだ・・・」
「えぇっ⁉」
驚き半分、戸惑いが半分といった表情で、カルガー少尉は真っ暗な穴へ目を向けた。
そして彼女が予想通り、「一体どうしてそんな事に・・・」と当然の疑問を口にした所で──
ひときわ大きな揺れが、体を襲った。
「・・・・・・はぁ・・・」
ふとした瞬間に、今日だけで何度目になるか判らない溜息が漏れ出てしまう。
『もぉ~辛気臭いなぁ~~』
キラキラと光る粒子の尾を引きながら、シルフィが突然どアップで視界に入って来る。
・・・数ヶ月前なら今ので驚いてひっくり返ってたけど、さすがにもう慣れた。
「だって・・・心配なものは心配なんだよ・・・」
ついつい口をとがらせつつ、黄金の瞳から視線を外した。
目を逸らした先で、壁掛け時計が目に入る。時刻は夜の7時半を差していた。
・・・つまり、クロたちに溜息ばかりの姿を見せるのが申し訳なくて、夕食後に自室に籠もってから、既に1時間が経っている事になる。
・・・本当に何にもしてなかったな・・・僕・・・・・・
「カノン・・・お腹空かせてるよね・・・きっと・・・」
窓の外はすっかり日が沈んでいて、一層心配になってしまう。
我が故郷とは言え、場所によってはこの時間でももう真っ暗だったりするしなぁ・・・
『ほんっと心配性だなぁハヤトは~。前にも言ったけど、擬人態の状態でもふつーの暴漢なら一発KOだから大丈夫だって~』
「・・・そういう問題じゃないんだってば・・・」
やっぱりどこかずれている妖精さんのお陰で、溜息が一回分増えた。
・・・・・・そして、遂に我慢の限界が訪れたのを自覚して──控えめに問いかける。
「ち、ちなみに・・・いまカノンってどこらへんにいるの?」
探しに行こう! とまでは言わずとも、せめて場所くらいは確認しておきたかった。
『・・・う~~ん・・・・・・今は~~・・・少し遠くに居るね』
目を瞑って、両手の人差し指をこめかみに当てながら、シルフィが答える。
・・・多分、このポーズに特に意味はないんだろうな・・・・・・
「遠くっていうと・・・山の方? 海の方?」
『うーんと、インドのあたりだね』
「・・・? 駅前のカレー屋って事?」
『まっさかぁ~』
「・・・えっ?」
『えっ?』
───それから、3回ほど同じ質問をして・・・・・・
ようやく大変な事態が起こっている事に気付いた僕は、大慌てでカノンの元へ送ってもらうようにお願いした───
※ ※ ※
「痛ってて・・・・・・なんだってんだ一体・・・・・・」
暗闇の中で、カノンは壁にぶつけた頭をさすっていた。
ガラムキング同士の争いによる震動は、彼女のいるこのコンテナまで及んでいたのである。
「・・・どうやら、外で小競り合いをしている者たちがいるようですね」
外どころか、目の前すら見えないはずの状況にも関わらず──謎めいた少女は、事もなげにそう口にする。
・・・が、カノンはそんな話に一切興味がなかった。
「ケッ! んな事より、その「アウベキモノ」とやらはいつになったら来んだよ!」
柳に風と受け流され続けながらも、カノンは少女への詰問を止めない。
「・・・・・・」
一方で、少女は遂に言葉を返す気を無くしたのか・・・急に黙り込んでしまう。
「いい加減アタシは腹減ってんだ! そもそもここがどこなのか──」
「───来ました」
カノンの文句を途中で遮って、少女の凛とした声が響いた。
「・・・・・・あん?」
「あなたが「会うべき者」・・・です」
そう告げるや否や──突如として、暗闇に光が差し込んだ。
少女が右手を振るい、不可思議な力でコンテナのドアを開いたのである。
「どうぞ。──「道」は今、繋がりました」
要人をレッドカーペットの上へと迎えるかのように、白く小さな手がカノンを導く。
──しかし、カノンはあぐらをかいたまま、動こうとはしなかった。
「・・・・・・てめぇが何も答えようとしねぇのはイヤってほど判ったが・・・最後にコレだけは答えろ。・・・てめぇはアタシに、何をさせてぇんだ?」
「・・・・・・」
少しの間、思案してから・・・少女は答える。
「前にも言った通り、あなたには「王」になって頂きたいのです。・・・ですが、今この時に、何をして頂きたいかという意味であれば──」
緑の光の差した青い瞳が、カノンの瞳を射抜く。
「───あの者に、打ち克って欲しいと・・・そう願っています」
「? ・・・アタシに・・・誰かと戦えってのか?」
「・・・と言うよりも、きっとそのようになるはずです。あの者は、あなたの───」
そこで再び少女は言葉を切って、虚空を見つめる。
「おっ、オイ! アタシの・・・なんだよ!」
寸止めを食らったカノンは、少女に詰め寄るが・・・
小さな唇が紡いだのは、彼女の求めている内容ではなかった。
「・・・あなたのお仲間も来られるのですね。これも、巡り合わせという事でしょうか」
そう言って少女は微笑みながら・・・トンッ、と音を立てて背中側に跳ぶ。
「ハァ? ナカマ・・・?」
なおも問いを重ねようとするカノンだったが・・・
再び少女が跳ねると──その体はコンテナの奥の闇に溶け、忽然と姿を消していた。
「・・・なっ⁉ ・・・・・・クソッ‼」
カノンは逃げられた事を悟って、苛立ちのままに地を蹴る。
すると、まるでそれが合図だったかのように──不可視の球体が、突如としてコンテナの内部に出現した。中には、ハヤトとシルフィの姿がある。
同時に、シャボン玉が膨らむように球体の壁が広がって、カノンの体を内部に取り込んだ。
「カノンッ! こんな所にいたんだね! 心配したよ・・・!」
ハヤトは目尻に小さな雫を浮かべながら、ほっと胸を撫で下ろす。
・・・しかし、そんな彼の態度も、今なお怒りと迷いの中にいるカノンにとっては、やはり到底受け入れ難いものだった。
「・・・・・・ハンッ! 何がシンパイだ! ザケんじゃねぇ! アタシは───」
そこまで言いかけて──カノンの体が、ぶるりと震えた。
それは、寒さから来るものではない。彼女の本能が、その五感に告げたのだ。
「・・・・・・何か、来やがる・・・!」
自身が「会うべき者」の、訪れを───
※ ※ ※
「クソ・・・ッ! どうする・・・どうすれば・・・‼」
焦燥のあまり、滝のように汗が流れる。跳ね続ける心臓も収まる気配がない。
何とかしてサラと少尉を救出しなければ・・・そんな考えだけが頭の中で空転し、一向にそのための方法をまとめられずに居た。
・・・洞窟内での通信は、<ドラゴネット>に搭載されている中継機によって行われていたが、現在、二人の持つ端末の反応は「信号なし」の表示になっている。
つまりこの穴の底は、電波すら届かない程に深い──という事だろう。
・・・そして、そんな所まで落ちてしまったとすれば・・・・・・既に・・・二人は・・・・・・
「き、キリュウ少佐っ!」
最悪の想像が頭を過ったところで、背後からカルガー少尉の声がした。
「じ、実はその・・・バーグちん・・・えと、ルクシィ少尉と連絡がつかなくて・・・!」
彼女も、バディの反応がロストしている事に気が付いて慌てているのだろう。
ここで起こった事をどう説明するべきかを迷いながら──ひとまず、事実だけを述べる。
「・・・・・・彼とサラは、この穴に落ちてしまったんだ・・・」
「えぇっ⁉」
驚き半分、戸惑いが半分といった表情で、カルガー少尉は真っ暗な穴へ目を向けた。
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