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第九話「運命の宿敵 前編」
第二章「JAGD地底へ‼ ファフニール発進せよ‼」・⑧
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『なッ⁉ どっ、どういう事ですのッ⁉』
サラの悲鳴じみた声が、右耳に届く・・・が、それが彼女のものだとすぐには判らない程に、私の全身は上下左右に振り回されていた。
テリオのサポートがあってなお、凸凹の激しいこの道では車体が大きく揺れ、姿勢を維持するのにも一苦労だった。
<ギュオオオオオオオオオオオ────‼>
一方・・・つい先程そうしてみせたように、暴走する<ファフニール>は轟音を響かせながら悪路を難なく進み、刻一刻とこちらへ迫っていた。
そもそもの大きさが違う上に、出ているスピードに差があり過ぎる・・・!
『だ、ダメです・・・! 止まりません・・・っ‼』
カルガー少尉と共に<ファフニール>のコックピットにいるルクシィ少尉も、悲痛な叫びを上げた。
システムが完全に乗っ取られているらしい。
・・・ジャガーノートと戦って死ぬならまだしも、JAGDの兵器で死ぬのは御免だ・・・‼
『テリオッ! <ファフニール>のシステムをハッキングなさい‼』
そこで、サラがテリオに直接指示を出す。──成程! その手があったか・・・!
『了解──ですが、間に合いません』
・・・テリオの言葉通り・・・気づけば、岩石を瞬時に砂粒へと変えてしまう巨大なドリルが、すぐ背後まで迫っていた。
回転の風圧が、背筋を切り裂くように撫ぜる。
───万事休すか・・・‼ 思わず歯噛みした、その瞬間───
『・・・ですので、まずはこの場を乗り切ります』
この窮地にあってなお、抑揚なく告げたテリオの声と共に、<ヘルハウンド>の車体がぐるりと反転し、<ファフニール>と相対した。
そして──あろう事か、<ヘルハウンド>は全速力で前進を始めたのである。
「なッ・・・⁉」
貴様、私を殺す気か‼ と、言いかけて・・・刹那、その意図を察した。
<ファフニール>の車体は、両側のユニットが前方に迫り出した凹字型──
つまり、今まさに私をミンチに変えようとしている左右のドリルには、コックピットブロックの分だけ隙間が空いているのだ。
距離のある状態で突っ込めば、即座に回頭され、敢え無く螺旋運動に巻き込まれていただろうが・・・目と鼻の先まで迫った今なら、この空間に進入する事が出来る・・・!
『マスター。ウイリーのご準備を』
隙間へと入り込むと・・・<ファフニール>は一瞬その動きを止め、左右のキャタピラを互い違いに動かして左のユニットをこちらにぶつけて来ようとする。
──しかし、こちらの動きの方が少し早かった。
ウイリーの姿勢で持ち上がった前輪は、コックピットブロックの鼻先にかかって──強引に<ヘルハウンド>の車体を引っ張り上げると、<ファフニール>の胴体の上へと導いた。
『・・・キリュー少佐、ホントに不死身ダタのネ・・・・・・』
ピン少尉の唖然とした声を聞き流しつつ・・・そのまま<ファフニール>の右側のユニットへ乗り移り、疾走──
後部から飛び降りて、どうにか背後を取る事に成功する。
「テリオ! ハッキングはどうだ!」
『既に開始しています・・・あと30秒お待ち下さい』
頭ではAI相手に急かしても仕方ないと判ってはいても、さすがに気持ちが逸った。
そうこうしている間に、<ファフニール>は旋回を続け、再びこちらへ鼻先を向けようとしている。
面倒過ぎる事態に愚痴の一つも叫びたくなったところで───
───ビキッ‼
だだっ広い空間に、突然、乾いた音が響く。
そして、「何の音だ?」と口にするよりも早く──大地に、裂け目が入った。
「なっ、なにが起きたんだッ⁉」
裂け目は瞬く間に広がり、地面はめくれ・・・途端に地中へと沈んでいく。
走り続けていた<ヘルハウンド>の車体は、どうにか巻き込まれずにこの現象の影響下を脱したが・・・
旋回に手間取っていた<ファフニール>は、その巨体のすぐ下で起きた地割れに巻き込まれ、車体の後部から地面にめり込むように沈み始めた。
「これは・・・流砂か・・・⁉」
地面が沈んでいく怪奇現象の正体・・・それは、このすぐ下に存在していた砂の海が原因だったのだ。
流動する砂は、<ファフニール>を私達から遠ざけるように運んでいく。
よく見れば・・・広々とした砂の海には傾斜がついており、それがすり鉢状の大きな窪みであると判った。流れる砂は、その最下部に向かって落ちていたのだ。
───まるで、蟻地獄のように。
「待っていろカルガー少尉! ルクシィ少尉! すぐに助け──」
まずは<ファフニール>のシステムをテリオに掌握させなくては・・・そんな思考をめぐらせながら、オープンチャンネルに呼びかけていた、その時───
<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>
耳をつんざく警告音が、腕の端末から鳴り響いた。
「高エネルギー反応・・・ッ! No.005かッ⁉」
弱り目に祟り目とはこの事だな・・・! 思わず歯噛みしたところで──
『た、隊長・・・! このパターンは──新種ですッッ‼』
悲鳴混じりの柵山少尉の報告に、背筋が凍る。
そして、その直後・・・蟻地獄の底から、巨大な影が飛び出して来た───
<ルシャアアアアアアアアァァァッ‼>
咆哮と共に姿を現したのは───
全長20メートルの<ファフニール>よりも大きな・・・ジャガーノートの「頭」だった。
『とっ、頭部だけであの大きさ⁉ 本体は一体どれだけ巨大なんだッ⁉』
次いで、「頭」が口を開けると、その内部から大蛇のような舌が這い出て来る。
「──まずいッ‼」
気付いた時には、時既に遅く・・・
舌は素早い動きで<ファフニール>へと這い寄り、巻き付いて、瞬時に車体を拘束してしまう。
『いっ・・・‼ いやああああぁぁぁぁ───ッッ‼』
そして、カルガー少尉の悲鳴と共に・・・<ファフニール>は、蟻地獄の中心へと引き摺り込まれていった───
~第三章へつづく~
サラの悲鳴じみた声が、右耳に届く・・・が、それが彼女のものだとすぐには判らない程に、私の全身は上下左右に振り回されていた。
テリオのサポートがあってなお、凸凹の激しいこの道では車体が大きく揺れ、姿勢を維持するのにも一苦労だった。
<ギュオオオオオオオオオオオ────‼>
一方・・・つい先程そうしてみせたように、暴走する<ファフニール>は轟音を響かせながら悪路を難なく進み、刻一刻とこちらへ迫っていた。
そもそもの大きさが違う上に、出ているスピードに差があり過ぎる・・・!
『だ、ダメです・・・! 止まりません・・・っ‼』
カルガー少尉と共に<ファフニール>のコックピットにいるルクシィ少尉も、悲痛な叫びを上げた。
システムが完全に乗っ取られているらしい。
・・・ジャガーノートと戦って死ぬならまだしも、JAGDの兵器で死ぬのは御免だ・・・‼
『テリオッ! <ファフニール>のシステムをハッキングなさい‼』
そこで、サラがテリオに直接指示を出す。──成程! その手があったか・・・!
『了解──ですが、間に合いません』
・・・テリオの言葉通り・・・気づけば、岩石を瞬時に砂粒へと変えてしまう巨大なドリルが、すぐ背後まで迫っていた。
回転の風圧が、背筋を切り裂くように撫ぜる。
───万事休すか・・・‼ 思わず歯噛みした、その瞬間───
『・・・ですので、まずはこの場を乗り切ります』
この窮地にあってなお、抑揚なく告げたテリオの声と共に、<ヘルハウンド>の車体がぐるりと反転し、<ファフニール>と相対した。
そして──あろう事か、<ヘルハウンド>は全速力で前進を始めたのである。
「なッ・・・⁉」
貴様、私を殺す気か‼ と、言いかけて・・・刹那、その意図を察した。
<ファフニール>の車体は、両側のユニットが前方に迫り出した凹字型──
つまり、今まさに私をミンチに変えようとしている左右のドリルには、コックピットブロックの分だけ隙間が空いているのだ。
距離のある状態で突っ込めば、即座に回頭され、敢え無く螺旋運動に巻き込まれていただろうが・・・目と鼻の先まで迫った今なら、この空間に進入する事が出来る・・・!
『マスター。ウイリーのご準備を』
隙間へと入り込むと・・・<ファフニール>は一瞬その動きを止め、左右のキャタピラを互い違いに動かして左のユニットをこちらにぶつけて来ようとする。
──しかし、こちらの動きの方が少し早かった。
ウイリーの姿勢で持ち上がった前輪は、コックピットブロックの鼻先にかかって──強引に<ヘルハウンド>の車体を引っ張り上げると、<ファフニール>の胴体の上へと導いた。
『・・・キリュー少佐、ホントに不死身ダタのネ・・・・・・』
ピン少尉の唖然とした声を聞き流しつつ・・・そのまま<ファフニール>の右側のユニットへ乗り移り、疾走──
後部から飛び降りて、どうにか背後を取る事に成功する。
「テリオ! ハッキングはどうだ!」
『既に開始しています・・・あと30秒お待ち下さい』
頭ではAI相手に急かしても仕方ないと判ってはいても、さすがに気持ちが逸った。
そうこうしている間に、<ファフニール>は旋回を続け、再びこちらへ鼻先を向けようとしている。
面倒過ぎる事態に愚痴の一つも叫びたくなったところで───
───ビキッ‼
だだっ広い空間に、突然、乾いた音が響く。
そして、「何の音だ?」と口にするよりも早く──大地に、裂け目が入った。
「なっ、なにが起きたんだッ⁉」
裂け目は瞬く間に広がり、地面はめくれ・・・途端に地中へと沈んでいく。
走り続けていた<ヘルハウンド>の車体は、どうにか巻き込まれずにこの現象の影響下を脱したが・・・
旋回に手間取っていた<ファフニール>は、その巨体のすぐ下で起きた地割れに巻き込まれ、車体の後部から地面にめり込むように沈み始めた。
「これは・・・流砂か・・・⁉」
地面が沈んでいく怪奇現象の正体・・・それは、このすぐ下に存在していた砂の海が原因だったのだ。
流動する砂は、<ファフニール>を私達から遠ざけるように運んでいく。
よく見れば・・・広々とした砂の海には傾斜がついており、それがすり鉢状の大きな窪みであると判った。流れる砂は、その最下部に向かって落ちていたのだ。
───まるで、蟻地獄のように。
「待っていろカルガー少尉! ルクシィ少尉! すぐに助け──」
まずは<ファフニール>のシステムをテリオに掌握させなくては・・・そんな思考をめぐらせながら、オープンチャンネルに呼びかけていた、その時───
<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>
耳をつんざく警告音が、腕の端末から鳴り響いた。
「高エネルギー反応・・・ッ! No.005かッ⁉」
弱り目に祟り目とはこの事だな・・・! 思わず歯噛みしたところで──
『た、隊長・・・! このパターンは──新種ですッッ‼』
悲鳴混じりの柵山少尉の報告に、背筋が凍る。
そして、その直後・・・蟻地獄の底から、巨大な影が飛び出して来た───
<ルシャアアアアアアアアァァァッ‼>
咆哮と共に姿を現したのは───
全長20メートルの<ファフニール>よりも大きな・・・ジャガーノートの「頭」だった。
『とっ、頭部だけであの大きさ⁉ 本体は一体どれだけ巨大なんだッ⁉』
次いで、「頭」が口を開けると、その内部から大蛇のような舌が這い出て来る。
「──まずいッ‼」
気付いた時には、時既に遅く・・・
舌は素早い動きで<ファフニール>へと這い寄り、巻き付いて、瞬時に車体を拘束してしまう。
『いっ・・・‼ いやああああぁぁぁぁ───ッッ‼』
そして、カルガー少尉の悲鳴と共に・・・<ファフニール>は、蟻地獄の中心へと引き摺り込まれていった───
~第三章へつづく~
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