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第八話「記憶の淵に潜むもの」
第一章「銀色」・②
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「す・・・すごいです! ティータちゃん!」
開口一番、クロが目をキラキラさせながらティータに駆け寄る。
彼女が一層ティータに懐いているのは自明の理として・・・
『ほんとにすごいや~。今すぐ一流詐欺師になれそうだね~?』
「・・・うふふ♪ 褒め言葉と受け取っておくわ♪」
一方、どうにもこの二人の関係性はよくわからない。
ザムルアトラの件から少し経つけど、シルフィは最初に警戒していた頃の名残なのか、少しトゲのある言葉を選びたがる。
ティータの方も、元から飄々としていると言うか、あまり他人に踏み込ませないところがあるし・・・
まぁ、要するにお互い頑固なんだよね。
「・・・視えてるわよ、ハヤト」
ぎくぅっ‼
「あ、ありがとうティータ‼ 助かったよっ‼」
「どういたしまして。「止り木」の枝葉を守るのも私の仕事よ」
「なんてね」と口元に手を当ててクスクス笑い、ティータはふわりと振り返る。
彼女は僕を「止り木」だなんて言ってくれるけど、最近は留守の間にクロの相手をしてくれたり、こっちとしても大助かりだった。
本当にティータには頭が上がらない。
「───あ、そうだわ」
さて、冗談抜きにもう出る準備しなくちゃ! と決意したところで、ティータがポンと掌を合わせる。
こちらを向いた瞳は、何というか・・・いたずらな輝きを灯していた。
「折角だし、ハヤトの仕事振りを見学させて頂戴。クロから「ライズマンさんを演じているハヤトさんはすごくかっこいいんですよ」って聞いて気になっていたのよ」
たらり、とこめかみを汗が伝ったのが判った。
これ以上の心労は胃が耐えられないと、やんわり断ろうとして──
「ハヤトさんっっっ‼」
「え? あ、うん?」
クロが猛烈な勢いで迫ってきた。
「・・・・・・・・・ライズマンショー・・・行きたいです・・・っっっ‼」
「はっ、はい・・・・・・」
ち、近いよクロ・・・あと、熱い・・・熱いよクロ・・・物理的に・・・・・・
「それじゃあ決まりね♪ ほら、トカゲちゃんも地面に貼り付いてないで行くわよ~」
ティータの左瞳がぎらりと光ると、突っ伏していたカノンの体が宙に浮く。
当のカノンは完全に電池切れ状態のようで、文句も言わずに空中でぐったりとしている。
『これはもう、しょうがないんじゃない?』
「・・・・・・覚悟を決めるよ・・・」
みーちゃんが何とかフォローしてくれる事を願いながら、急ぎ支度に取りかかった。
※ ※ ※
「───申し送りは以上だ」
徹夜で仕上げた書類をマクスウェル中尉に手渡し、ふぅと一つ息を吐く。
「お疲れ様ですキリュウ隊長。・・・今日はお休みだというのに、災難でしたね」
腕時計型端末に目をやると、休日のスタートまではあと5分。ギリギリ間に合ったな。
「災難だったのは中尉もだろう。本当に大丈夫なのか?」
「えぇ。見た目ほど大した傷ではありませんから、ご心配なく」
そう言って微笑む中尉の頭には、包帯が巻かれている。先の戦闘で負った怪我だ。
副隊長が負傷している今、隊長である私が隊を離れるのはとても後ろ暗いのだが・・・
中尉から「構いませんから休んでください」としつこく言われ、根負けした恰好だった。
「これが仕事だからな。それに悪いのは全て・・・ジャガーノートだ」
書類からのぞく写真を、思わず睨んでしまう。
昨夜二十三時頃──
山梨県の野登洲湖から巨大生物が現れたと地元の警察経由で連絡があり、急ぎ駆けつけてみれば、体長40メートルの汚泥の塊が歩いている所に出くわしたのだ。
センサーの故障だったのか、目視確認できる距離でようやく高エネルギー反応が確認され、目標をジャガーノート「No.014」と認定し、対応に当たる事に。
目的もなく歩いているだけの様子だったが、進行方向に家屋──まぁ実際には空き家だったのだが──が認められたため殲滅を決定。
<グルトップ>と<アルミラージ・タンク>による誘導の後、「メイザー・ブラスター」で頭部を狙撃したところ、間もなく沈黙。
電磁波や放射線を通さない特異な体組織のせいでバイタルが確認出来ずにいるが、沈黙してから七時間が経過したため、本局の了解を得て一応は殲滅完了という判断となった。
・・・そして、現在。
最近発見された新種はNo.007らのせいで死体が残らなかったのもあり、貴重なサンプルを調べ尽くさんと、極東支局の研究課員が意気揚々と現地に向かっている。
「No.007の出現から、たった3ヶ月程度で更に7体の新種が確認された上、極東支局はその間に8回の交戦。・・・もはや、何かの呪いかと疑いたくなります」
「おいおい。疫病神本人に愚痴ってくれるな」
「キリュウ隊長は戦神も兼ねていらっしゃるではないですか」
「疫病神を否定されないのは悲しいところだな」
肩をすくめると、中尉が薄く微笑む。
以前は笑顔一つで唖然とさせてしまった程だったが、最近ようやく私の乏しい表情の変化を読み取ってもらえるようになったらしい。
「しかし、フィクションかリアルかを問わずに怪獣大国になりつつありますね、この国は。ネットでは日本にかけて「Jノート」というスラングまで生まれてしまったようです」
「・・・無理もない話だが、やはり世間にとっては遠い存在のまま、か」
明日にはヤツらのエサになっているかも知れない世の中だというのに、当事者意識の欠如も甚だしい!
・・・と言いたいところだが、むしろ、ついこの間までJAGDは世間に知られないように水面下で活動してきたのだ。
知られていない方が本来の理想に近いというのは・・・皮肉だな。
「以前秩父にNo.008が出現した時は、日本円が暴落するのではと危惧したのですが」
「私もだ。ただ、あの時はすぐにJAGDが存在を公にした事で、世間の関心が逸れた向きがあったように思う。それでも、少なからず悪影響はあるだろうと考えていたが・・・」
「No.011ですね」
「・・・あぁ」
No.013の事件が終わった後──
横須賀基地での戦闘は建造物に大きな被害が出た事もあって、大々的に報道された。
・・・だが、No.013の撃破後に起きた事や、卯養島での一件・・・つまり、No.011の暴走については外部へ情報を出さないよう通達があったのだ。
上から直接話があった訳ではないが、報道規制は相手を刺激しないためだろう。
詰まる所、本局ではNo.011を「対話可能な地球外知的生命体」として扱う事にしたらしい。
いつからJAGDはジャガーノートに下手に出るようになったんだ!と憤りを覚えたのは確かだが、慎重な判断が必要な対象だという事も判っている。
そして・・・そんな憤懣遣る方無い思いを抱えているうちに、「すかドリ」での一件に端を発したNo.011人気はいまや国内に知らぬ者はいないという規模に膨れ上がり、一大ブームとなっていたのだ。
あのただデカいだけの昆虫の人気が、だ。
「最近は柳の下のドジョウとばかりに「新種」の第一発見者になろうという者が後を絶たないようで、国内の観光業は好調とも聞きました。まだ報道されていませんが、No.014のニュースが出れば、更に拍車がかかるでしょう」
「世間の目がジャガーノートの危険性から逸れている現状は芳しくない。ヤツらをパンダか何かと勘違いしたままだと・・・いつか、取り返しのつかない事が起きるだろう」
と、そんな憂慮を遮るように、ピピピ、と短くアラームが鳴る。
促されて端末を見れば、時刻は朝七時。
久しぶりの休日のスタートだ。
「それでは、ゆっくりとお休みください。・・・・・・その・・・何というか・・・今度こそ・・・」
中尉が言葉尻を濁しながら渋面を作る。
「・・・言うな。自分でも判っている」
一度目はNo.002・・・二度目はNo.005・・・そして三度目はモンゴルでの一件と、隊長職に就いてからというもの、私の休日は尽く台無しにされてきたのだ。
先程の中尉の言葉を借りるなら、何かの呪いかと疑いたくもなる。
・・・まぁ、二度ある事は三度あると言うし、四度目こそは正直が出ると信じるしかない。
「とはいえ、気を遣って報告を控えるなんて事はないようにな」
「心苦しいですが、勿論です。何かあれば必ず連絡します」
「あぁ。・・・では、後を頼む」
「アイ・マム。改めて、行ってらっしゃいませ」
中尉が敬礼すると、司令室の皆も一旦作業の手を止め、わざわざ彼に倣う。
大袈裟だが、悪い気はしない。答礼し、司令室を後にした。
──さて、本来誘われているのは夜からだが、それまでに何かが起きる事も・・・というか、今までを考えれば何も起きない方が珍しいくらいだ。
ここはやはり、休日を少しでも満喫するためにも、先んじて現地で開催されているというイベントに行ってみるとしよう。
・・・だが、私のような血生臭い女は場違いだろうか? ・・・いやしかし、ハヤトの頑張っている姿を見てみたい気持ちも・・・い、いや! 変な意味ではなく、幼馴染としての好奇心というか! 決してやましい気持ちではなく、幼馴染間のからかい的な行為というか───
『マスター。今日は高エネルギーのセンサーを切っておきましょうか?』
「・・・・・・それより先に、お前のマイクをオフにしておけ」
突然右耳に届いた声に焦りを悟られないよう、ぶっきらぼうな返事をする。
『冗談はさておき、有事の際にはマクスウェル中尉に倣って遠慮なく休日終了の鐘を鳴らしますのでご安心を』
このAI・・・もはや当然のように私のオフについてくるつもりか・・・・・・
「・・・やれやれ。主人より任務に忠実なようで何よりだ」
今更ながら、プライベートで軍の備品である<ヘルハウンド>を乗り回すのは、内心あまり良い気分ではない。
・・・のだが、特例で軍の備品とするために「性能試験」というお題目を与えられている私は、半ば強制的に私用でもあのバイクを使わなければならないのだ。
要するに、起きている時間はずっと<ヘルハウンド>のテストパイロットと、テリオの自己学習の相手を同時にさせられているような状態だ。プライベートなどあったものではない。
・・・とは言え、最近はテリオと<ヘルハウンド>なしで任務に赴く事が想像しづらい程に、自分の一部になっているのもまた事実。
癪ではあるが、今度会ったらサラには百の文句の後に一度くらいは感謝する事にしよう。
『こちらの準備は万端ですので、いつでも出発できます』
「私は着替えもまだだ。準備が出来たら連絡する」
ちょうど自室に辿り着いたところで通信を終えつつ、クローゼットの扉を開ける。
・・・そういえば、私服でハヤトに会うのは久々だったな。少し考える事にしよう。
い、いや、決して自分をよく見せようというわけではなく、あくまで女性として最低限というか、せめて恥ずかしくない恰好をして行かねばという使命感であって──
・・・・・・などと、頭の中で言い訳を重ねながら、クローゼットの中身を掘り返していった。
開口一番、クロが目をキラキラさせながらティータに駆け寄る。
彼女が一層ティータに懐いているのは自明の理として・・・
『ほんとにすごいや~。今すぐ一流詐欺師になれそうだね~?』
「・・・うふふ♪ 褒め言葉と受け取っておくわ♪」
一方、どうにもこの二人の関係性はよくわからない。
ザムルアトラの件から少し経つけど、シルフィは最初に警戒していた頃の名残なのか、少しトゲのある言葉を選びたがる。
ティータの方も、元から飄々としていると言うか、あまり他人に踏み込ませないところがあるし・・・
まぁ、要するにお互い頑固なんだよね。
「・・・視えてるわよ、ハヤト」
ぎくぅっ‼
「あ、ありがとうティータ‼ 助かったよっ‼」
「どういたしまして。「止り木」の枝葉を守るのも私の仕事よ」
「なんてね」と口元に手を当ててクスクス笑い、ティータはふわりと振り返る。
彼女は僕を「止り木」だなんて言ってくれるけど、最近は留守の間にクロの相手をしてくれたり、こっちとしても大助かりだった。
本当にティータには頭が上がらない。
「───あ、そうだわ」
さて、冗談抜きにもう出る準備しなくちゃ! と決意したところで、ティータがポンと掌を合わせる。
こちらを向いた瞳は、何というか・・・いたずらな輝きを灯していた。
「折角だし、ハヤトの仕事振りを見学させて頂戴。クロから「ライズマンさんを演じているハヤトさんはすごくかっこいいんですよ」って聞いて気になっていたのよ」
たらり、とこめかみを汗が伝ったのが判った。
これ以上の心労は胃が耐えられないと、やんわり断ろうとして──
「ハヤトさんっっっ‼」
「え? あ、うん?」
クロが猛烈な勢いで迫ってきた。
「・・・・・・・・・ライズマンショー・・・行きたいです・・・っっっ‼」
「はっ、はい・・・・・・」
ち、近いよクロ・・・あと、熱い・・・熱いよクロ・・・物理的に・・・・・・
「それじゃあ決まりね♪ ほら、トカゲちゃんも地面に貼り付いてないで行くわよ~」
ティータの左瞳がぎらりと光ると、突っ伏していたカノンの体が宙に浮く。
当のカノンは完全に電池切れ状態のようで、文句も言わずに空中でぐったりとしている。
『これはもう、しょうがないんじゃない?』
「・・・・・・覚悟を決めるよ・・・」
みーちゃんが何とかフォローしてくれる事を願いながら、急ぎ支度に取りかかった。
※ ※ ※
「───申し送りは以上だ」
徹夜で仕上げた書類をマクスウェル中尉に手渡し、ふぅと一つ息を吐く。
「お疲れ様ですキリュウ隊長。・・・今日はお休みだというのに、災難でしたね」
腕時計型端末に目をやると、休日のスタートまではあと5分。ギリギリ間に合ったな。
「災難だったのは中尉もだろう。本当に大丈夫なのか?」
「えぇ。見た目ほど大した傷ではありませんから、ご心配なく」
そう言って微笑む中尉の頭には、包帯が巻かれている。先の戦闘で負った怪我だ。
副隊長が負傷している今、隊長である私が隊を離れるのはとても後ろ暗いのだが・・・
中尉から「構いませんから休んでください」としつこく言われ、根負けした恰好だった。
「これが仕事だからな。それに悪いのは全て・・・ジャガーノートだ」
書類からのぞく写真を、思わず睨んでしまう。
昨夜二十三時頃──
山梨県の野登洲湖から巨大生物が現れたと地元の警察経由で連絡があり、急ぎ駆けつけてみれば、体長40メートルの汚泥の塊が歩いている所に出くわしたのだ。
センサーの故障だったのか、目視確認できる距離でようやく高エネルギー反応が確認され、目標をジャガーノート「No.014」と認定し、対応に当たる事に。
目的もなく歩いているだけの様子だったが、進行方向に家屋──まぁ実際には空き家だったのだが──が認められたため殲滅を決定。
<グルトップ>と<アルミラージ・タンク>による誘導の後、「メイザー・ブラスター」で頭部を狙撃したところ、間もなく沈黙。
電磁波や放射線を通さない特異な体組織のせいでバイタルが確認出来ずにいるが、沈黙してから七時間が経過したため、本局の了解を得て一応は殲滅完了という判断となった。
・・・そして、現在。
最近発見された新種はNo.007らのせいで死体が残らなかったのもあり、貴重なサンプルを調べ尽くさんと、極東支局の研究課員が意気揚々と現地に向かっている。
「No.007の出現から、たった3ヶ月程度で更に7体の新種が確認された上、極東支局はその間に8回の交戦。・・・もはや、何かの呪いかと疑いたくなります」
「おいおい。疫病神本人に愚痴ってくれるな」
「キリュウ隊長は戦神も兼ねていらっしゃるではないですか」
「疫病神を否定されないのは悲しいところだな」
肩をすくめると、中尉が薄く微笑む。
以前は笑顔一つで唖然とさせてしまった程だったが、最近ようやく私の乏しい表情の変化を読み取ってもらえるようになったらしい。
「しかし、フィクションかリアルかを問わずに怪獣大国になりつつありますね、この国は。ネットでは日本にかけて「Jノート」というスラングまで生まれてしまったようです」
「・・・無理もない話だが、やはり世間にとっては遠い存在のまま、か」
明日にはヤツらのエサになっているかも知れない世の中だというのに、当事者意識の欠如も甚だしい!
・・・と言いたいところだが、むしろ、ついこの間までJAGDは世間に知られないように水面下で活動してきたのだ。
知られていない方が本来の理想に近いというのは・・・皮肉だな。
「以前秩父にNo.008が出現した時は、日本円が暴落するのではと危惧したのですが」
「私もだ。ただ、あの時はすぐにJAGDが存在を公にした事で、世間の関心が逸れた向きがあったように思う。それでも、少なからず悪影響はあるだろうと考えていたが・・・」
「No.011ですね」
「・・・あぁ」
No.013の事件が終わった後──
横須賀基地での戦闘は建造物に大きな被害が出た事もあって、大々的に報道された。
・・・だが、No.013の撃破後に起きた事や、卯養島での一件・・・つまり、No.011の暴走については外部へ情報を出さないよう通達があったのだ。
上から直接話があった訳ではないが、報道規制は相手を刺激しないためだろう。
詰まる所、本局ではNo.011を「対話可能な地球外知的生命体」として扱う事にしたらしい。
いつからJAGDはジャガーノートに下手に出るようになったんだ!と憤りを覚えたのは確かだが、慎重な判断が必要な対象だという事も判っている。
そして・・・そんな憤懣遣る方無い思いを抱えているうちに、「すかドリ」での一件に端を発したNo.011人気はいまや国内に知らぬ者はいないという規模に膨れ上がり、一大ブームとなっていたのだ。
あのただデカいだけの昆虫の人気が、だ。
「最近は柳の下のドジョウとばかりに「新種」の第一発見者になろうという者が後を絶たないようで、国内の観光業は好調とも聞きました。まだ報道されていませんが、No.014のニュースが出れば、更に拍車がかかるでしょう」
「世間の目がジャガーノートの危険性から逸れている現状は芳しくない。ヤツらをパンダか何かと勘違いしたままだと・・・いつか、取り返しのつかない事が起きるだろう」
と、そんな憂慮を遮るように、ピピピ、と短くアラームが鳴る。
促されて端末を見れば、時刻は朝七時。
久しぶりの休日のスタートだ。
「それでは、ゆっくりとお休みください。・・・・・・その・・・何というか・・・今度こそ・・・」
中尉が言葉尻を濁しながら渋面を作る。
「・・・言うな。自分でも判っている」
一度目はNo.002・・・二度目はNo.005・・・そして三度目はモンゴルでの一件と、隊長職に就いてからというもの、私の休日は尽く台無しにされてきたのだ。
先程の中尉の言葉を借りるなら、何かの呪いかと疑いたくもなる。
・・・まぁ、二度ある事は三度あると言うし、四度目こそは正直が出ると信じるしかない。
「とはいえ、気を遣って報告を控えるなんて事はないようにな」
「心苦しいですが、勿論です。何かあれば必ず連絡します」
「あぁ。・・・では、後を頼む」
「アイ・マム。改めて、行ってらっしゃいませ」
中尉が敬礼すると、司令室の皆も一旦作業の手を止め、わざわざ彼に倣う。
大袈裟だが、悪い気はしない。答礼し、司令室を後にした。
──さて、本来誘われているのは夜からだが、それまでに何かが起きる事も・・・というか、今までを考えれば何も起きない方が珍しいくらいだ。
ここはやはり、休日を少しでも満喫するためにも、先んじて現地で開催されているというイベントに行ってみるとしよう。
・・・だが、私のような血生臭い女は場違いだろうか? ・・・いやしかし、ハヤトの頑張っている姿を見てみたい気持ちも・・・い、いや! 変な意味ではなく、幼馴染としての好奇心というか! 決してやましい気持ちではなく、幼馴染間のからかい的な行為というか───
『マスター。今日は高エネルギーのセンサーを切っておきましょうか?』
「・・・・・・それより先に、お前のマイクをオフにしておけ」
突然右耳に届いた声に焦りを悟られないよう、ぶっきらぼうな返事をする。
『冗談はさておき、有事の際にはマクスウェル中尉に倣って遠慮なく休日終了の鐘を鳴らしますのでご安心を』
このAI・・・もはや当然のように私のオフについてくるつもりか・・・・・・
「・・・やれやれ。主人より任務に忠実なようで何よりだ」
今更ながら、プライベートで軍の備品である<ヘルハウンド>を乗り回すのは、内心あまり良い気分ではない。
・・・のだが、特例で軍の備品とするために「性能試験」というお題目を与えられている私は、半ば強制的に私用でもあのバイクを使わなければならないのだ。
要するに、起きている時間はずっと<ヘルハウンド>のテストパイロットと、テリオの自己学習の相手を同時にさせられているような状態だ。プライベートなどあったものではない。
・・・とは言え、最近はテリオと<ヘルハウンド>なしで任務に赴く事が想像しづらい程に、自分の一部になっているのもまた事実。
癪ではあるが、今度会ったらサラには百の文句の後に一度くらいは感謝する事にしよう。
『こちらの準備は万端ですので、いつでも出発できます』
「私は着替えもまだだ。準備が出来たら連絡する」
ちょうど自室に辿り着いたところで通信を終えつつ、クローゼットの扉を開ける。
・・・そういえば、私服でハヤトに会うのは久々だったな。少し考える事にしよう。
い、いや、決して自分をよく見せようというわけではなく、あくまで女性として最低限というか、せめて恥ずかしくない恰好をして行かねばという使命感であって──
・・・・・・などと、頭の中で言い訳を重ねながら、クローゼットの中身を掘り返していった。
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