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第七話「狙われた翼 後編」
第三章「相対」・①
しおりを挟む●第三章「相対」
『・・・・・・・・・Unbelievable』
マクスウェル中尉の驚愕する声が、左耳に届いた。
・・・無理もない。
今、我々の前に広がる光景を──いったい誰が想像し得ただろうか。
No.007とNo.011がタッグを組んだだけでも困惑するには充分だったというのに・・・
今は、その隣にNo.009までもが加わり、三体のジャガーノートがNo.013に対峙しているのだ。
───平時なら、悪夢と疑うところだが・・・・・・
「・・・総員、戦闘準備ッ‼」
今は「最高」の結末のため・・・この状況、利用させてもらう・・・!
<グルルアアアアアァァァァッッッ‼>
最初に動いたのは、No.009だった。
雷鳴に似た咆哮と共に、真っ直ぐに突進していく。
しかし当然・・・No.012を前面に持つNo.013は、躱す素振りも見せず悠々と待ち構える。
No.007とNo.011は、駆けていくNo.009を慌てて追いかけるような動きを見せた。
ま、まさかヤツら・・・並び立っておきながら・・・連携が取れていないのか・・・⁉
二体の接触までは幾許もない。
No.012が両腕を開かされ、黒光りする巨大な二本の角が、その掌を貫こうとして───
<──ルルアアァァッ!>
衝突の寸前、No.009は大きな頭をグン!と勢いよく下げた。
同時に、二本の角もNo.012の掌ではなく、No.013の腹──地面と胴体との間に挿し込まれる。
<グルアアアアアアアアッッ‼>
再び、No.009が吼えた。
下げていた頭を戻すと、二本の角が担架の役割を果たしてNo.013の巨体を転倒させようと・・・ッ⁉
いや、違う!
「ま、まさかっ⁉」
<クキキキイイイイ─────⁉>
耳障りな駆動音が、あっという間に遠ざかる。
・・・驚くべき事に、No.009は勢いそのまま、No.012を乗せた鋼鉄の巨体を、放り投げてしまったのだ。
『ジャガノート2体分の質量をいとも簡単に・・・! なんて筋力なんだ‼』
柵山少尉が鼻息荒く感嘆する。
ヤツの戦う様子は、テリオの車載カメラが捉えたNo.010との戦闘記録を見ただけだったが・・・ここまでのパワーの持ち主とはな。
<キュルルルルル──ッ!>
間髪入れず、空中に放り出されたNo.013へ二色の翼が迫る。
狙いは、No.012の捕らわれている前部と、糸疣のついた後部を繋ぐ、「胴体」部分のようだ。
・・・この動きはやはり、訓練された連携ではなく、文字通りの即興に違いない。
今のも、No.011が無理やりNo.009に合わせたのだろう。
───しかし、先程のNo.007と同じく、ヤツらは間違いなく「共闘」している。
「全ユニット! いつでも撃てるようにしておけ!」
『『『『アイ・マムッ‼』』』』
混沌としつつあるこの戦場でなお、部下たちの士気は衰えてはいない。
勝機は・・・あの悪魔を倒す方法は・・・必ず此処に揃っているはずだ・・・!
<クキキキキキッ! カカカカカカッッ!>
地上から100メートルほど上空・・・
普通の生物であれば身動きの出来ない空間であっても、No.013には関係なかったようだ。
巨大な後脚をグルンと動かし、足裏を地表に向ける。
そして、No.011の翼が到達する寸前──足裏の噴射口から爆風を起こし、巨体を更に浮き上がらせた。
必然、胴体を狙っていた翼の切っ先には、宙吊り状態のNo.012が来る事になる。
<キュルルルルルッ!>
しかし、No.011もただでは終わらせない。
No.013の動きを察するや、体を咄嗟に横転させて翼の角度を逸らし、ぶらりと下がっていた鈍色の両前脚を真ん中から両断した。
<クキカカカカカッ・・・!>
反撃の暇を与えず、No.011は素早く距離を取る。
・・・だが、悔しがるような駆動音が漏れたのも束の間・・・糸疣の体表に多数の突起が生えてくると、あっという間にそれらが下向きのブースターに変形し、一斉に火を噴いた。
足裏のものと合わせて噴射されるいくつもの爆風が、十数万トンはありそうな巨体の落下を抑え、滞空させる。
まるでNo.012が気球に吊るされているような奇妙な格好だが・・・その体勢を保ったまま紫色の光を放ち始めた事で、真意が判った。
「ヤツめ・・・! 荷電粒子砲の雨を降らせるつもりか・・・ッ‼」
上空から拡散させるように光線を放てば、効率よく我々を殲滅させる事が出来る。
空中へ追いやった事が、裏目に出たというのか・・・!
「──ハウンド2ッ‼ No.013の糸疣にありったけブチ込め‼」
『アイ・マムッ‼』
今のヤツを固定砲台せしめているのは、糸疣から生えた多数のブースターだ。
あの部位を破壊出来れば、少なくとも今から放たれる攻撃は防げる・・・!
指示してすぐに爆音が轟き、<モビィ・ディックⅡ>から3発のミサイルが発射される。
No.013が光線を撃つ事に集中している今ならば──!
<クキカカカカカカカッ‼>
隙を突いたかに思えた攻撃だったが──しかし、読まれていた。
鉄の後脚の正面が変形し、縦一列に六つの砲身が生えてきて、発射された鉄球が全てのミサイルを撃ち落とす。
紫の光は・・・再び極限を迎えようとしている。思わず舌打ちした、その時────
<クキキイイィィッッ⁉>
突如、夜空を切って飛んできた「赤い何か」が、糸疣に直撃する。
紫の粒子が霧散して、鋼の巨体は姿勢を崩して墜落を始めた。
目標に当たって落ちてきた赤い弾丸の正体は・・・「フットボール競技場」の脇に設置されていた、アルミ製の「観客席」だ。
<グルルル・・・ッ!>
幅10メートル、高さ5メートルはあるそれを、赤熱させた上で投げつけたのは・・・当然、No.007だ。
右腕を振り切ったそのままのポーズで、落下していくNo.013を睨んでいた。
・・・強引な攻撃だが、効果的だった。
No.013がミサイルの迎撃に意識を向けている状態で、ヤツはその反対側から観客席を投げつけたのだ。
無策ではない、思考した上での行動・・・
No.007は、No.011とは違う意味で・・・やはり、どこか特別だ。
『隊長! テイラー大佐より入電です!』
No.013が墜落した衝撃に体を揺らされている中──松戸少尉が、待ちに待った人物の名前を口にした。急いで通信を回させる。
『──キリュウ少佐。連絡が遅れてすまない。遠巻きながら、状況はこちらでも確認している。そちらの被害はどうか』
「現状、人的被害及び装備への損害はありません!」
『了解した。民間人の避難誘導は、我々の方でも行っている。まだ完全には確認できていないが、避難はほぼ完了したと言っていいだろう』
一番聞きたかった情報が聞けて、ほんの少しだが安心した。
『・・・では、ここからが本題だ。───必要であれば、我々が諸君らを援護する』
「・・・⁉ 本国が許可したんですか⁉」
思わず、聞き返してしまう。
今迄は、ジャガーノートが出現する度に支援を要請こそすれ、微妙な立ち位置にある自衛隊も在日米軍も、それに応えてくれる事はなかった。
しかしまさか、よりデリケートな場所である横須賀基地内で、アメリカ軍が重い腰を上げるなど・・・
正直言って、最高責任者の口から聞いた今でも信じ難い。
『いいや、私の独断だ。本国は件の人工衛星騒ぎに掛かりきりのようでな。・・・だがこのままでは、返事が来る頃にはここら一体が荒野と化してしまっていても不思議はない』
・・・成程。合点がいった。
自分たちの装備が使えるうちに、売れる恩は売っておこうという実にアメリカ軍人らしい合理的な判断というわけだ──と、思ったのだが・・・
『我々も、第二の故郷を失いたくはない。それに・・・』
一度区切って、テイラー大佐はおそらく、笑いながら言った。
『まだ、翼の彼女に借りを返せていないんでね』
・・・どうやら、私は彼を見くびっていたらしい。
自省しつつ、つとめて大きく返事をした。
「了解しました! 是非、ご協力をお願いします!」
『了解した。せっかく人的被害の及ばないところに誘き出してくれたんだ。こちらも景気よく行こう。支援のタイミングは君に任せるぞ、キリュウ少佐』
「ありがとうございます」
<戦艦>モードへの変形を封じられている<モビィ・ディックⅡ>の残弾は、もはや無いに等しい。
大佐の申し出は、まさに渡りに舟だ。
『──マスター。差し出がましいようですが、作戦に関するアドバイスを』
そこで不意に、右耳にテリオの声が届く。
先程聞けずじまいだった事もあるし、今回は柵山少尉の生物知識も通用しないマシーンが相手だ。
今は、一つでも多く情報が欲しい。
・・・「最高」の結果を手に入れるための、ヒントが。
『ボカスカ撃ってくれたお陰で、しっかり観察できました。ほぼ間違いありません。No.013の荷電粒子砲・・・あれの正体は───』
そこで、テリオからもたらされたのは・・・衝撃の事実と、反撃のための手段だった。
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