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第六話「狙われた翼 前編」
第一章「来訪」・⑧
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※ ※ ※
『さて、この時間は本来、お天気情報をお届けするところですが、本日は、緊急ニュースをお伝えいたします』
朝日が、カーテンを透かしてリビングに差し込んでくる。テレビからはお馴染みのニュースキャスターの声が流れてきて、一日の始まりを感じさせる。
世間一般では爽やかなはずの朝・・・なぜか僕だけは、頭がくらくらしていた。
・・・まぁ単純に寝不足と・・・何より、この状況のせいだ。普段通りで居られるはずもない。
『インドネシアにあるサイクラーノ島で、新たな「ジャガーノート」が発見された模様です。しかも、同時に二体。未確認ではありますが、そのうちの一体は、先立って、ここ、日本の横須賀で目撃されたとの情報も入ってきています』
テーブルには、ご飯を食べ終わって元気を出したものの、相変わらず不機嫌そうな顔で睨んでくるカノンと、正反対にキラキラした眼差しを向けてくるクロの二人。
そして、視線の先に立っているのは・・・僕と、隣に立つもうひとりの少女。
「え、えーっと・・・それじゃあ・・・・・・」
「───改めて。自己紹介するわ」
初めて聴くはずなのに──今日だけで、何度も聴いた声が、鼓膜を震わせた。
「私の名前はティターニア。・・・ついでに、この姿の時は「ティータ」って呼んでもらう事にするわ。皆、よろしくね」
───そう。彼女の思いついた「良い事」とは、これだ。
地球にいる間はクロやカノンと同じように、シルフィの力で「擬人態」になって過ごす──
とんでもない提案だったけど、その場に居たクロの勢いに押し切られる形で、了承してしまったのだ。
『さらにこの蝶のようなジャガーノートは、暴れていた他のジャガーノートを鎮め、JAGDの隊員の命を助けたという現地報道も入ってきています』
テレビからは、つい数時間前に起こっていた出来事が、早速ニュースとして流れていた。
最近は、本当に情報が拡散されるのが早いなぁ。
「・・・んん? なんでハネムシが箱の中にもいんだ・・・?」
画面には、怪獣をなだめるティターニアさんが映っている。カノンは、テレビとこちらとを見比べながら、頭の上に疑問符を浮かべていた。
・・・彼女の前では、どちらも同じ存在に見えるんだな・・・・・・。
視線を追うついでに、ティターニア・・・ティータさんの姿を改めて観察してみる。
「ふふっ。なかなか良いセンスしてるじゃないシルフィ。この姿、素敵だわ♪」
『そりゃど~も~』
やる気のない返事をするシルフィ。・・・まだちょっと警戒してるのかな?
他方、そんな様子を気にかけず、ティータさんはその場でくるりと回ってみせる。
アルビノ・・・と言えば良いんだろうか。長い髪も睫毛も白く、着ているドレスまで真っ白。
そのせいか、怪蝶の姿の時と同じ、左右で色の違う瞳と触覚と──そして、背中についた大きな翼とが、余計に色鮮やかに見える気がする。
元から「声」の印象は可愛らしかったけど・・・この姿では、少女というか幼女というか・・・小学校三、四年生くらいの年頃の、華奢な体つきになっている。
しかし、纏っている神秘的な空気感は元のままで、どこか底知れない雰囲気を感じさせる。
「よっ、よろしくお願いしますっ! ティータちゃん!」
クロが、跳ねるように椅子から立ち上がり、その小さな身体に駆け寄った。
「うふふ。よろしくね、クロ」
ティータさんの方も、笑顔でクロを迎え入れ、自然な動作でその頭を撫でてみせる。
「ふ、ふあぁ・・・っ!」
撫でられるのが好きなクロは感動しつつ──すぐに真っ赤になって、煙を立て始めた。
「──おっと。危ない危ない。貴女のその特性には要注意ね」
「・・・・・・はぅ」
言いながらぱっと手を離され、クロはしょんぼりしてしまった。
「ごめんなさいね。思った以上に力が制限されてて、自分の身体がどこまで耐えられるか判らないのよ。思考も少し読みづらくなってるし」
肩をすくめて、クロに謝罪した。
・・・やっぱり彼女に触れ続けるには、シルフィの力が必須・・・って事か。
「カノンも、よろしくね?」
落ち込んでしまったクロを慰めていると、ティータさんはカノンにも声をかけていた。
「ケッ! アタシは角も持ってねぇヤツとよろしくするつもりはねーよ! 失せなハネムシ」
・・・しかし、予想通り、カノンはにべもない態度だ。
「ちょっと無愛想な子なんです!」・・・なんてフォローを入れようとしたところで──
ティータさんの笑顔が引きつったのが見えて・・・背筋が凍った。
「そう・・・そ~れ~じゃ~あ~~」
わざとらしく一言一言を伸ばしたかと思うと──彼女の左の瞳がぎらりと怪しく光った。
「アァン? 一体何しようってん──へぼァッッ‼」
カノンが何か言いかけたところで、二つの角が赤い光に包まれ──
次の瞬間、彼女の角が、頭ごとテーブルの天板にしたたかに打ち付けられた。
「ちょっ⁉ ティータさん⁉」
「あら。私の力だってバレちゃったわね」
本人は全く悪びれる様子もない。
「てンめぇぇえええッ‼ 何しやがんだッッ‼」
木製テーブルにめりこんだ角を引き抜くと、カノンが勢いよく立ち上がって威嚇する。
「あら。せっかく貴女も角ナシにして仲間に入れてあげようと思ったのに、結構頑丈なのね? もう一回やってあげてもいいわよ?」
・・・あっ。これ思った以上にキレてるな。
「上等だァハネムシィ・・・‼ 表出ろゴルアァッッ‼」
「か、カノンちゃんっ! おっ、落ち着いて下さいぃっ!」
「嫌ねぇ野蛮なトカゲって。あ、ハヤト。喉乾いたわ。何か用意してくれないかしら?」
叫ぶカノンと、必死に抑えるクロ・・・そして、既に我関せずといった調子のティータさん。
『なんだか、すごいのが来ちゃったね~?』
シルフィが、まるで僕の気持ちを代弁したかのように呟く。
だから僕は──ありのまま、思った事を口にした。
「・・・・・・・・・同じ事を、君と出会ってから毎回思ってるよ」
・・・波乱の毎日は、ますます加速するみたいだ。
~第二章へつづく~
『さて、この時間は本来、お天気情報をお届けするところですが、本日は、緊急ニュースをお伝えいたします』
朝日が、カーテンを透かしてリビングに差し込んでくる。テレビからはお馴染みのニュースキャスターの声が流れてきて、一日の始まりを感じさせる。
世間一般では爽やかなはずの朝・・・なぜか僕だけは、頭がくらくらしていた。
・・・まぁ単純に寝不足と・・・何より、この状況のせいだ。普段通りで居られるはずもない。
『インドネシアにあるサイクラーノ島で、新たな「ジャガーノート」が発見された模様です。しかも、同時に二体。未確認ではありますが、そのうちの一体は、先立って、ここ、日本の横須賀で目撃されたとの情報も入ってきています』
テーブルには、ご飯を食べ終わって元気を出したものの、相変わらず不機嫌そうな顔で睨んでくるカノンと、正反対にキラキラした眼差しを向けてくるクロの二人。
そして、視線の先に立っているのは・・・僕と、隣に立つもうひとりの少女。
「え、えーっと・・・それじゃあ・・・・・・」
「───改めて。自己紹介するわ」
初めて聴くはずなのに──今日だけで、何度も聴いた声が、鼓膜を震わせた。
「私の名前はティターニア。・・・ついでに、この姿の時は「ティータ」って呼んでもらう事にするわ。皆、よろしくね」
───そう。彼女の思いついた「良い事」とは、これだ。
地球にいる間はクロやカノンと同じように、シルフィの力で「擬人態」になって過ごす──
とんでもない提案だったけど、その場に居たクロの勢いに押し切られる形で、了承してしまったのだ。
『さらにこの蝶のようなジャガーノートは、暴れていた他のジャガーノートを鎮め、JAGDの隊員の命を助けたという現地報道も入ってきています』
テレビからは、つい数時間前に起こっていた出来事が、早速ニュースとして流れていた。
最近は、本当に情報が拡散されるのが早いなぁ。
「・・・んん? なんでハネムシが箱の中にもいんだ・・・?」
画面には、怪獣をなだめるティターニアさんが映っている。カノンは、テレビとこちらとを見比べながら、頭の上に疑問符を浮かべていた。
・・・彼女の前では、どちらも同じ存在に見えるんだな・・・・・・。
視線を追うついでに、ティターニア・・・ティータさんの姿を改めて観察してみる。
「ふふっ。なかなか良いセンスしてるじゃないシルフィ。この姿、素敵だわ♪」
『そりゃど~も~』
やる気のない返事をするシルフィ。・・・まだちょっと警戒してるのかな?
他方、そんな様子を気にかけず、ティータさんはその場でくるりと回ってみせる。
アルビノ・・・と言えば良いんだろうか。長い髪も睫毛も白く、着ているドレスまで真っ白。
そのせいか、怪蝶の姿の時と同じ、左右で色の違う瞳と触覚と──そして、背中についた大きな翼とが、余計に色鮮やかに見える気がする。
元から「声」の印象は可愛らしかったけど・・・この姿では、少女というか幼女というか・・・小学校三、四年生くらいの年頃の、華奢な体つきになっている。
しかし、纏っている神秘的な空気感は元のままで、どこか底知れない雰囲気を感じさせる。
「よっ、よろしくお願いしますっ! ティータちゃん!」
クロが、跳ねるように椅子から立ち上がり、その小さな身体に駆け寄った。
「うふふ。よろしくね、クロ」
ティータさんの方も、笑顔でクロを迎え入れ、自然な動作でその頭を撫でてみせる。
「ふ、ふあぁ・・・っ!」
撫でられるのが好きなクロは感動しつつ──すぐに真っ赤になって、煙を立て始めた。
「──おっと。危ない危ない。貴女のその特性には要注意ね」
「・・・・・・はぅ」
言いながらぱっと手を離され、クロはしょんぼりしてしまった。
「ごめんなさいね。思った以上に力が制限されてて、自分の身体がどこまで耐えられるか判らないのよ。思考も少し読みづらくなってるし」
肩をすくめて、クロに謝罪した。
・・・やっぱり彼女に触れ続けるには、シルフィの力が必須・・・って事か。
「カノンも、よろしくね?」
落ち込んでしまったクロを慰めていると、ティータさんはカノンにも声をかけていた。
「ケッ! アタシは角も持ってねぇヤツとよろしくするつもりはねーよ! 失せなハネムシ」
・・・しかし、予想通り、カノンはにべもない態度だ。
「ちょっと無愛想な子なんです!」・・・なんてフォローを入れようとしたところで──
ティータさんの笑顔が引きつったのが見えて・・・背筋が凍った。
「そう・・・そ~れ~じゃ~あ~~」
わざとらしく一言一言を伸ばしたかと思うと──彼女の左の瞳がぎらりと怪しく光った。
「アァン? 一体何しようってん──へぼァッッ‼」
カノンが何か言いかけたところで、二つの角が赤い光に包まれ──
次の瞬間、彼女の角が、頭ごとテーブルの天板にしたたかに打ち付けられた。
「ちょっ⁉ ティータさん⁉」
「あら。私の力だってバレちゃったわね」
本人は全く悪びれる様子もない。
「てンめぇぇえええッ‼ 何しやがんだッッ‼」
木製テーブルにめりこんだ角を引き抜くと、カノンが勢いよく立ち上がって威嚇する。
「あら。せっかく貴女も角ナシにして仲間に入れてあげようと思ったのに、結構頑丈なのね? もう一回やってあげてもいいわよ?」
・・・あっ。これ思った以上にキレてるな。
「上等だァハネムシィ・・・‼ 表出ろゴルアァッッ‼」
「か、カノンちゃんっ! おっ、落ち着いて下さいぃっ!」
「嫌ねぇ野蛮なトカゲって。あ、ハヤト。喉乾いたわ。何か用意してくれないかしら?」
叫ぶカノンと、必死に抑えるクロ・・・そして、既に我関せずといった調子のティータさん。
『なんだか、すごいのが来ちゃったね~?』
シルフィが、まるで僕の気持ちを代弁したかのように呟く。
だから僕は──ありのまま、思った事を口にした。
「・・・・・・・・・同じ事を、君と出会ってから毎回思ってるよ」
・・・波乱の毎日は、ますます加速するみたいだ。
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