137 / 325
第六話「狙われた翼 前編」
第一章「来訪」・⑦
しおりを挟む
<ジョー。この怪獣・・・ジャガーノートは、自分の子供を取り返そうとしていただけで、本来はおとなしい子なの。倒そうとしたら私が許さないからね>
岩陰から先頭に立って出てきた男性が、戸惑いつつもコクリと頷く。
<それと、この悪い子たちはちょっと借りてくわ。JAGDの極東支局に引き渡したいの。友好の証として、ね?>
ティターニアさんは首をちょいと動かして、未だに宙に浮かされたままの男たちを指した。
<それじゃあ私は行くわ。拾った命は、大事にしなさいよ>
・・・既に覚えのある強引さで話を進めたティターニアさんは、二色の翼を大きく羽撃かせ、優雅に夜空へと舞い上がった。
怪獣の親子が、彼女を見送るように鳴き声を上げる。
と、そこで・・・ジョーと呼ばれた隊員が、駆け出し、空に向かって叫んだ。
「まっ、待ってくれ‼ な、名前・・・っ! あなたの名前はっ⁉」
<───「ティターニア」よ。生きてるうちに私に会えた事を、光栄に思いなさい♪>
相変わらず女王様のような物言いだけど・・・どうにも様になっているから憎めない。
振り返りもせずに飛び去る巨大な翼を、球体が追いかけた。
<ハヤト、ついてきてるかしら?>
「は、はい・・・」
見えないはずなのに、こちらの動きを把握しているかのように話しかけてくる。
<そろそろ私の事、信用してもらえたかしら? ・・・貴方の、「力の源」の方に>
「っ!」
どうやら、僕の力でない事はとっくにバレていたらしい。
『・・・やれやれ。ここまで来たら、隠しておいてもしょうがないか』
視界の淵がきらりと光って、シルフィが姿を見せる。
口ぶりからするに、今の彼女の声はティターニアさんの頭にも響いていただろう。
<・・・! 驚いたわね。感応波を視るのなんていつぶりかしら・・・貴女は?>
『ボクはシルフィ。まぁ、しがないペンダントの妖精・・・ってとこかな』
<・・・永いこと宇宙を旅してるけど、精神域が視えない子は初めてだわ・・・ふふっ。面白いわね。クロとカノンの力を抑えてるのも、貴女の計らいかしら?>
そちらの方もバレていたらしい。・・・ここだけのヒミツにしてもらう事にしよう。
『お察しの通り、ボクの力だよ。本当は姿を見せる気はなかったけど・・・キミ、ハヤトが言うように、悪いヤツじゃなさそうだしね』
<そう言ってもらえると嬉しいわ。もう少し早く気付いてくれたらもっと嬉しかったけど♪>
・・・ティターニアさん、ちょくちょく毒があるというか・・・一言多いんだよな・・・。
<───あっ! そうだ! 良い事思いついちゃった♪>
・・・・・・ついでに、他人に対して遠慮がない。
弾んだ「声」でされた提案は──球体の中でひっくり返るには、十分なインパクトだった。
※ ※ ※
「───クソッ・・・正気か貴様・・・・・・」
<ヘルハウンド>の車体に跨ったまま、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
<わざわざご足労様。悪いわね、アカネ>
「・・・悪いと思うなら、とっととこの星から出ていくんだな・・・!」
悪態をつくが・・・堪えているかは微妙だろう。
ここは、極東支局基地の直上──横須賀海軍施設の外れにある、「フットボール競技場」。
松堂少尉の「再びNo.011の反応が!」という報告に、慌てて駆けつけてみれば・・・先程観覧車の上でそうしていたように、グラウンドのど真ん中で翼長150メートルの化け物がリラックスして待っていたのだ。
肝を潰したこっちの身にもなってみろと言いたい。
・・・いや、言わなくても読まれているはず・・・か。
「ほ、本当に「声」が・・・!」
「・・・マジかよ・・・・・・! 本当にエイリアンだ・・・!」
<グルトップ>で後ろをついてきていたマクスウェル中尉と竜ヶ谷少尉の耳にも、ヤツの鼻に付く台詞が聴こえたらしい。少尉が、構えたFIM92の引き金に指をかけた。
<ちょっと待ちなさい。撃つのは無しよ。人を抱えてるから>
「何ッ⁉」
No.011が顔をくいと動かすと・・・赤い光が二つ、こちらに向かって飛んでくる。
私達の目の前に着陸すると──光は解け、中から武装した男性が現れた。二人とも、気絶しているようだ。
「貴様・・・! この星の動物に危害を加えるつもりはないという言葉は嘘だったのか・・・‼」
<ストップ、アカネ。外傷は与えてないわ。ちょっとマッハで飛んだからびっくりして気絶してるだけ。・・・それと、その子たちはジャガーノートの子供を攫った悪い子たちなのよ>
「ジャガーノートの子供を攫った・・・だと・・・?」
嫌な感覚がして──男たちの服装をよく見てみると・・・その姿には、見覚えがあった。
モンゴルの地下で見た・・・「灰色の男」の仲間たちと同じ格好だ・・・!
<その様子だと、当たりのようね♪ さっきアカネの思考に、薄気味悪い男のイメージと一緒にその子たちと同じ服が視えたから、もしかしたらって思ったのよ。お手柄でしょ?>
「・・・・・・フンッ」
──確かに、ヤツらについての手がかりは、現状ほとんどないと言っていい。
例の地下施設も自爆したせいで完全に砂に埋もれてしまい、調査は難航している。
・・・そもそも、あの男の事だ・・・掘り起こしたところで何一つ手がかりは残っていないという事もあり得る。
奴らの仲間を生かしたまま捕らえたというのは、確かにお手柄だ。
<言っておくけど、殺しちゃダメよ? 命は皆、慈しむべきものなんだから。・・・それと、インドネシアでの件については、隊長のジョーに聞いて頂戴。私から聞くよりそっちの方が信用できるでしょ?>
「・・・・・・貴様、一体何が目的だ・・・」
インドネシアでの一件は、先程、簡単にだが報告を受けている。
・・・No.011が、暴れ回るジャガーノートを不思議な力でおとなしくして、隊員たちを救った・・・と。
<最初から言ってるじゃない。この星で一休みさせて欲しいだけだって>
・・・目的が何であれ・・・こいつの力は、あまりにも大きすぎる。
それこそ──私たちJAGDの存在意義すら───
<さて、そういう事だから。ホームステイ先も見つかったし、街中ですれ違ったら挨拶くらいはして頂戴ね>
「・・・・・・どういうことだ?」
聴かなければならない事は山とあるというのに・・・こめかみを、冷や汗が伝った。
<文字通りの意味よ。とにかく、私は侵略者じゃないって事だけきちんと皆に伝えておいて。それじゃあ・・・またどこかで会いましょう、アカネ>
そう言い残すと──巨大な身体が、光の粒子になって消えて行く。
「ッ・・・⁉ こっ、これはまさか・・・ヴァニラスとレイガノンと同じ・・・⁉」
中尉が驚愕し、声が漏れた。言われてみれば、確かに同様の現象に見える。
そして──制止も聞かずに──二色の翼は、あっという間に景色に溶けてしまった。
「・・・・・・総員、撤収だ」
「「・・・アイ・マム」」
こういうのを、「狐につままれた」と言うのだろう。
───ヤツが開いた雲間から、白んだ空が顔を出していた。
岩陰から先頭に立って出てきた男性が、戸惑いつつもコクリと頷く。
<それと、この悪い子たちはちょっと借りてくわ。JAGDの極東支局に引き渡したいの。友好の証として、ね?>
ティターニアさんは首をちょいと動かして、未だに宙に浮かされたままの男たちを指した。
<それじゃあ私は行くわ。拾った命は、大事にしなさいよ>
・・・既に覚えのある強引さで話を進めたティターニアさんは、二色の翼を大きく羽撃かせ、優雅に夜空へと舞い上がった。
怪獣の親子が、彼女を見送るように鳴き声を上げる。
と、そこで・・・ジョーと呼ばれた隊員が、駆け出し、空に向かって叫んだ。
「まっ、待ってくれ‼ な、名前・・・っ! あなたの名前はっ⁉」
<───「ティターニア」よ。生きてるうちに私に会えた事を、光栄に思いなさい♪>
相変わらず女王様のような物言いだけど・・・どうにも様になっているから憎めない。
振り返りもせずに飛び去る巨大な翼を、球体が追いかけた。
<ハヤト、ついてきてるかしら?>
「は、はい・・・」
見えないはずなのに、こちらの動きを把握しているかのように話しかけてくる。
<そろそろ私の事、信用してもらえたかしら? ・・・貴方の、「力の源」の方に>
「っ!」
どうやら、僕の力でない事はとっくにバレていたらしい。
『・・・やれやれ。ここまで来たら、隠しておいてもしょうがないか』
視界の淵がきらりと光って、シルフィが姿を見せる。
口ぶりからするに、今の彼女の声はティターニアさんの頭にも響いていただろう。
<・・・! 驚いたわね。感応波を視るのなんていつぶりかしら・・・貴女は?>
『ボクはシルフィ。まぁ、しがないペンダントの妖精・・・ってとこかな』
<・・・永いこと宇宙を旅してるけど、精神域が視えない子は初めてだわ・・・ふふっ。面白いわね。クロとカノンの力を抑えてるのも、貴女の計らいかしら?>
そちらの方もバレていたらしい。・・・ここだけのヒミツにしてもらう事にしよう。
『お察しの通り、ボクの力だよ。本当は姿を見せる気はなかったけど・・・キミ、ハヤトが言うように、悪いヤツじゃなさそうだしね』
<そう言ってもらえると嬉しいわ。もう少し早く気付いてくれたらもっと嬉しかったけど♪>
・・・ティターニアさん、ちょくちょく毒があるというか・・・一言多いんだよな・・・。
<───あっ! そうだ! 良い事思いついちゃった♪>
・・・・・・ついでに、他人に対して遠慮がない。
弾んだ「声」でされた提案は──球体の中でひっくり返るには、十分なインパクトだった。
※ ※ ※
「───クソッ・・・正気か貴様・・・・・・」
<ヘルハウンド>の車体に跨ったまま、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
<わざわざご足労様。悪いわね、アカネ>
「・・・悪いと思うなら、とっととこの星から出ていくんだな・・・!」
悪態をつくが・・・堪えているかは微妙だろう。
ここは、極東支局基地の直上──横須賀海軍施設の外れにある、「フットボール競技場」。
松堂少尉の「再びNo.011の反応が!」という報告に、慌てて駆けつけてみれば・・・先程観覧車の上でそうしていたように、グラウンドのど真ん中で翼長150メートルの化け物がリラックスして待っていたのだ。
肝を潰したこっちの身にもなってみろと言いたい。
・・・いや、言わなくても読まれているはず・・・か。
「ほ、本当に「声」が・・・!」
「・・・マジかよ・・・・・・! 本当にエイリアンだ・・・!」
<グルトップ>で後ろをついてきていたマクスウェル中尉と竜ヶ谷少尉の耳にも、ヤツの鼻に付く台詞が聴こえたらしい。少尉が、構えたFIM92の引き金に指をかけた。
<ちょっと待ちなさい。撃つのは無しよ。人を抱えてるから>
「何ッ⁉」
No.011が顔をくいと動かすと・・・赤い光が二つ、こちらに向かって飛んでくる。
私達の目の前に着陸すると──光は解け、中から武装した男性が現れた。二人とも、気絶しているようだ。
「貴様・・・! この星の動物に危害を加えるつもりはないという言葉は嘘だったのか・・・‼」
<ストップ、アカネ。外傷は与えてないわ。ちょっとマッハで飛んだからびっくりして気絶してるだけ。・・・それと、その子たちはジャガーノートの子供を攫った悪い子たちなのよ>
「ジャガーノートの子供を攫った・・・だと・・・?」
嫌な感覚がして──男たちの服装をよく見てみると・・・その姿には、見覚えがあった。
モンゴルの地下で見た・・・「灰色の男」の仲間たちと同じ格好だ・・・!
<その様子だと、当たりのようね♪ さっきアカネの思考に、薄気味悪い男のイメージと一緒にその子たちと同じ服が視えたから、もしかしたらって思ったのよ。お手柄でしょ?>
「・・・・・・フンッ」
──確かに、ヤツらについての手がかりは、現状ほとんどないと言っていい。
例の地下施設も自爆したせいで完全に砂に埋もれてしまい、調査は難航している。
・・・そもそも、あの男の事だ・・・掘り起こしたところで何一つ手がかりは残っていないという事もあり得る。
奴らの仲間を生かしたまま捕らえたというのは、確かにお手柄だ。
<言っておくけど、殺しちゃダメよ? 命は皆、慈しむべきものなんだから。・・・それと、インドネシアでの件については、隊長のジョーに聞いて頂戴。私から聞くよりそっちの方が信用できるでしょ?>
「・・・・・・貴様、一体何が目的だ・・・」
インドネシアでの一件は、先程、簡単にだが報告を受けている。
・・・No.011が、暴れ回るジャガーノートを不思議な力でおとなしくして、隊員たちを救った・・・と。
<最初から言ってるじゃない。この星で一休みさせて欲しいだけだって>
・・・目的が何であれ・・・こいつの力は、あまりにも大きすぎる。
それこそ──私たちJAGDの存在意義すら───
<さて、そういう事だから。ホームステイ先も見つかったし、街中ですれ違ったら挨拶くらいはして頂戴ね>
「・・・・・・どういうことだ?」
聴かなければならない事は山とあるというのに・・・こめかみを、冷や汗が伝った。
<文字通りの意味よ。とにかく、私は侵略者じゃないって事だけきちんと皆に伝えておいて。それじゃあ・・・またどこかで会いましょう、アカネ>
そう言い残すと──巨大な身体が、光の粒子になって消えて行く。
「ッ・・・⁉ こっ、これはまさか・・・ヴァニラスとレイガノンと同じ・・・⁉」
中尉が驚愕し、声が漏れた。言われてみれば、確かに同様の現象に見える。
そして──制止も聞かずに──二色の翼は、あっという間に景色に溶けてしまった。
「・・・・・・総員、撤収だ」
「「・・・アイ・マム」」
こういうのを、「狐につままれた」と言うのだろう。
───ヤツが開いた雲間から、白んだ空が顔を出していた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる