恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第一章「来訪」・⑦

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<ジョー。この怪獣・・・ジャガーノートは、自分の子供を取り返そうとしていただけで、本来はおとなしい子なの。倒そうとしたら私が許さないからね>

 岩陰から先頭に立って出てきた男性が、戸惑いつつもコクリと頷く。

<それと、この悪い子たちはちょっと借りてくわ。JAGDの極東支局に引き渡したいの。友好の証として、ね?>

 ティターニアさんは首をちょいと動かして、未だに宙に浮かされたままの男たちを指した。

<それじゃあ私は行くわ。拾った命は、大事にしなさいよ>

 ・・・既に覚えのある強引さで話を進めたティターニアさんは、二色の翼を大きく羽撃かせ、優雅に夜空へと舞い上がった。

 怪獣の親子が、彼女を見送るように鳴き声を上げる。

 と、そこで・・・ジョーと呼ばれた隊員が、駆け出し、空に向かって叫んだ。

「まっ、待ってくれ‼ な、名前・・・っ! あなたの名前はっ⁉」

<───「ティターニア」よ。生きてるうちに私に会えた事を、光栄に思いなさい♪>

 相変わらず女王様のような物言いだけど・・・どうにも様になっているから憎めない。

 振り返りもせずに飛び去る巨大な翼を、球体が追いかけた。

<ハヤト、ついてきてるかしら?>

「は、はい・・・」

 見えないはずなのに、こちらの動きを把握しているかのように話しかけてくる。

<そろそろ私の事、信用してもらえたかしら? ・・・貴方の、「力の源」の方に>

「っ!」

 どうやら、僕の力でない事はとっくにバレていたらしい。

『・・・やれやれ。ここまで来たら、隠しておいてもしょうがないか』

 視界の淵がきらりと光って、シルフィが姿を見せる。

 口ぶりからするに、今の彼女の声はティターニアさんの頭にも響いていただろう。

<・・・! 驚いたわね。感応波テレパシーを視るのなんていつぶりかしら・・・貴女は?>

『ボクはシルフィ。まぁ、しがないペンダントの妖精・・・ってとこかな』

<・・・永いこと宇宙を旅してるけど、精神域クオリアが視えない子は初めてだわ・・・ふふっ。面白いわね。クロとカノンの力を抑えてるのも、貴女の計らいかしら?>

 そちらの方もバレていたらしい。・・・ここだけのヒミツにしてもらう事にしよう。

『お察しの通り、ボクの力だよ。本当は姿を見せる気はなかったけど・・・キミ、ハヤトが言うように、悪いヤツじゃなさそうだしね』

<そう言ってもらえると嬉しいわ。もう少し早く気付いてくれたらもっと嬉しかったけど♪>

 ・・・ティターニアさん、ちょくちょく毒があるというか・・・一言多いんだよな・・・。

<───あっ! そうだ! 良い事思いついちゃった♪>

 ・・・・・・ついでに、他人に対して遠慮がない。

 弾んだ「声」でされた提案は──球体の中でひっくり返るには、十分なインパクトだった。


       ※  ※  ※


「───クソッ・・・正気か貴様・・・・・・」

 <ヘルハウンド>の車体に跨ったまま、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。

<わざわざご足労様。悪いわね、アカネ>

「・・・悪いと思うなら、とっととこの星から出ていくんだな・・・!」

 悪態をつくが・・・こたえているかは微妙だろう。

 ここは、極東支局基地の直上──横須賀海軍施設の外れにある、「フットボール競技場」。

 松堂少尉の「再びNo.011の反応が!」という報告に、慌てて駆けつけてみれば・・・先程観覧車の上でそうしていたように、グラウンドのど真ん中で翼長150メートルの化け物がリラックスして待っていたのだ。

 肝を潰したこっちの身にもなってみろと言いたい。

 ・・・いや、言わなくても読まれているはず・・・か。

「ほ、本当に「声」が・・・!」

「・・・マジかよ・・・・・・! 本当にエイリアンだ・・・!」

 <グルトップ>で後ろをついてきていたマクスウェル中尉と竜ヶ谷少尉の耳にも、ヤツの鼻に付く台詞が聴こえたらしい。少尉が、構えたFIM92スティンガーの引き金に指をかけた。

<ちょっと待ちなさい。撃つのは無しよ。人を抱えてるから>

「何ッ⁉」

 No.011が顔をくいと動かすと・・・赤い光が二つ、こちらに向かって飛んでくる。

 私達の目の前に着陸すると──光は解け、中から武装した男性が現れた。二人とも、気絶しているようだ。

「貴様・・・! この星の動物に危害を加えるつもりはないという言葉は嘘だったのか・・・‼」

<ストップ、アカネ。外傷は与えてないわ。ちょっとマッハで飛んだからびっくりして気絶してるだけ。・・・それと、その子たちはジャガーノートの子供を攫った悪い子たちなのよ>

「ジャガーノートの子供を攫った・・・だと・・・?」

 嫌な感覚がして──男たちの服装をよく見てみると・・・その姿には、見覚えがあった。

 モンゴルの地下で見た・・・「灰色の男」の仲間たちと同じ格好だ・・・!

<その様子だと、当たりのようね♪ さっきアカネの思考に、薄気味悪い男のイメージと一緒にその子たちと同じ服が視えたから、もしかしたらって思ったのよ。お手柄でしょ?>

「・・・・・・フンッ」

 ──確かに、についての手がかりは、現状ほとんどないと言っていい。

 例の地下施設も自爆したせいで完全に砂に埋もれてしまい、調査は難航している。

 ・・・そもそも、あの男の事だ・・・掘り起こしたところで何一つ手がかりは残っていないという事もあり得る。

 奴らの仲間を生かしたまま捕らえたというのは、確かにお手柄だ。

<言っておくけど、殺しちゃダメよ? 命は皆、慈しむべきものなんだから。・・・それと、インドネシアでの件については、隊長のジョーに聞いて頂戴。私から聞くよりそっちの方が信用できるでしょ?>

「・・・・・・貴様、一体何が目的だ・・・」

 インドネシアでの一件は、先程、簡単にだが報告を受けている。

 ・・・No.011が、暴れ回るジャガーノートを不思議な力でおとなしくして、隊員たちを救った・・・と。

<最初から言ってるじゃない。この星で一休みさせて欲しいだけだって>

 ・・・目的が何であれ・・・こいつの力は、

 それこそ──私たちJAGDの存在意義すら───

<さて、そういう事だから。ホームステイ先も見つかったし、街中ですれ違ったら挨拶くらいはして頂戴ね>

「・・・・・・どういうことだ?」

 聴かなければならない事は山とあるというのに・・・こめかみを、冷や汗が伝った。

<文字通りの意味よ。とにかく、私は侵略者じゃないって事だけきちんと皆に伝えておいて。それじゃあ・・・またどこかで会いましょう、アカネ>

 そう言い残すと──巨大な身体が、光の粒子になって消えて行く。

「ッ・・・⁉ こっ、これはまさか・・・ヴァニラスとレイガノンと同じ・・・⁉」

 中尉が驚愕し、声が漏れた。言われてみれば、確かに同様の現象に見える。

 そして──制止も聞かずに──二色の翼は、あっという間に景色に溶けてしまった。

「・・・・・・総員、撤収だ」

「「・・・アイ・マム」」

 こういうのを、「狐につままれた」と言うのだろう。

 ───ヤツが雲間から、白んだ空が顔を出していた。
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