119 / 325
第五話「悪魔の手」
第二章「赤き魔弾‼ ヴァニラス絶体絶命‼」・⑨
しおりを挟む叫んだのと、同時だった。
赤い怪獣の尻尾の中央が赤く光ると、筒の部分からオレンジ色のマグマを伴って──大きな溶岩弾が発射されたのである。
注意したのが功を奏したのか、クロは咄嗟に構えていた左腕で顔をかばう。
灼熱の弾丸は腕に当たって砕けて、炎上した礫がクロの足元に転がった。
「やっぱり・・・そういう攻撃か・・・!」
間一髪、顔面への直撃は免れたクロだったが───
『これは・・・かなりまずいかもね』
シルフィの顔から余裕が消える。その視線を追うと、理由は一瞬で理解った。
溶岩弾が直撃したクロの左腕が──既に、融け始めていたのだ。
『クロに似てるからこそ・・・クロにとっては・・・最大の天敵かもしれないね』
さらに──事態はより悪化する。
<・・・コォ──・・・コォ───・・・・・・>
再び息を漏らし、クロを見据えると──
赤い怪獣は、その上体を持ち上げ──二本足で立ってみせたのである。
「なっ・・・⁉」
首元からお腹にかけては黄色みがかった色をしていて、赤い外殻よりも柔らかい質感をしているように見える。
胸の下あたりに、一際赤く発光する部位があった。
立ち上がった怪獣は、扇状の前肢・・・いや・・・「両腕」を、クロに向かって突き出す。
ちょうど「前へならえ」の姿勢だが・・・突き出された腕の先端を見て──背筋が凍った。
その指にあたる部分全てに──「銃口」が付いていたのである。
「にっ、逃げてッ‼ クロッ‼」
次の瞬間──赤い怪獣の両腕から無数の爆発音と共に、溶岩弾の雨が射出され──クロに向かって殺到した。
彼女も予期していたのだろう。右に跳んで、辛くも回避する。
・・・が、しかし・・・それは、初撃に過ぎなかった。
<コォ──・・・!>
赤い怪獣は両腕を構えたまま、クロの動きに追随して体をひねる。
彼女が着地したタイミングを見逃さずに、第二射が放たれる。
ドロドロのマグマの尾を引いて、一発につき直径2メートルはあろうかという灼熱の弾丸の雨あられが、クロの身体を襲った。
<グオオオオオオオオオッッッ‼>
左半身にほとんどの弾が命中──苦悶の声が上がる。
ネイビーの鎧の各所が瞬く間に赤熱し、白煙が上がった。
『速い・・・っ!』
頭の中に焦った声が聴こえる。
シルフィの言う通り、放たれた溶岩弾は、まるで銃弾のように目にもとまらぬ速さだった。
赤い怪獣は、さながら両手に拳銃を持ったガンマンのようだ。
<オオオオオオッッ‼>
しかし、クロもやられてばかりではない。
赤い怪獣が接近してきた気配を感じて、身体を大きくひねった。
尻尾で敵の両腕を打ち払うつもりだ──!
予想は的中したが・・・その標的もまた、クロの攻撃を読んでいたらしい。
<コオォ───・・・ッ!!>
怪獣は、尻尾の動きに合わせて素早く身体を伏せて、再び四つん這いになる。
そして頭上をクロの尻尾が通過していった直後──怪獣は先程と同じように自分の尻尾をサソリのように持ち上げ、がら空きになったクロの背中に狙いを定めた。
「危ないッ‼」
警告も空しく・・・尻尾を振ったせいで身動きの出来なかったクロは、またしても溶岩弾の直撃を受けてしまう。
悲鳴のような咆哮と共に、クロの背ビレが融け始め、背中からも白い煙が上がった。
『・・・あの怪獣・・・クロにとって相性が悪すぎるね・・・』
機敏な動きと手数の多さ・・・そして何より、クロの武器でもあり弱点でもある「高熱」を、あの怪獣もまた自らの武器にしている───
『溶岩の中から出てきたって話も踏まえると・・・果たして、ライジングフィストも効果があるかどうか・・・』
頭の中に、何とも苦い予想が聞こえた。
そうか・・・! 敵が同じ「高熱」を武器にする以上、その可能性もあるのか・・・!
「・・・アイツ、やべぇんじゃねぇのか?」
僕たちの焦った様子が、伝わってしまったようだ。
腕組みをしたカノンが、どこか面白くなさそうに、そう口にする。
「・・・・・・」
シルフィ曰く、まさに今後ろにいる彼女・・・レイガノンが、今までで最も強いという事だったけど・・・今回はあまりに相手が悪すぎる。
カノンの問いかけには答えられず、唇を噛み締めた。
<グオォ・・・・・・ッ⁉>
そこで、よろめきながら立ち上がろうとしたクロが──突然、その動きを止めた。
「ど、どうしたのクロッ⁉」
赤い怪獣は再び立ち上がり、両腕の「銃口」をクロの背中に向ける。
敵を油断させるための作戦か何かかとも考えたが、それにしては様子がおかしい。
するとクロは、その場を動くどころか・・・立ち膝をついたまま、両腕を広げた。
<コォ──・・・!>
不気味な吐息と共に──再び、怪獣の腕から無数の熔岩弾が放たれる。
クロは、悲鳴のような声を上げながらも、ただただ、攻撃を無抵抗に受け続ける。
「──シルフィッ!」
『わかってる・・・!』
僕たちを乗せた球体が、クロの正面に回り込んだ。
すると、そこには──ダークグレイの制服を来た男女が、腰を抜かして、クロを見上げていた。
───クロは、彼らの存在に気付いて、守っていたのか──!
「ひっ、ひいぃ・・・っ⁉」
「な、何が起きてんねや・・・・・・⁉」
制服からして、JAGDの人たちだとは思うが・・・狼狽するばかりで、動けないようだ。
「シルフィ! あの人たちの前に!」
球体が下降し、クロの足下に着地する。
見上げると・・・彼女の体は、全身が熔け始めていた。
砂漠での戦いの時より、更に酷い。
顔の一部まで崩れ始め、ネイビーの鎧が涙を流しているかのようだった。
「あのバカ・・・! 自分がやべぇってのに・・・ッ‼」
カノンがクロの惨状を見て、歯噛みしながら呟いた。
───正直・・・あまりの痛々しさに──直視するのすら・・・辛い。
・・・けど、それでも目を逸らしてはいけない。見届けるんだ・・・彼女の、戦いを・・・ッ‼
「クロッ‼ この人たちは任せて! 反撃するんだッ!」
<グ、オオオォォ・・・・・・ッ‼>
苦痛に耐える瞳と、目が合う。「見ているよ」と必死に訴えかける。
クロは、全身から白煙を上げながら・・・何とか赤い怪獣の方へ振り向いた。
怪獣は手持ちの弾を撃ち終えたのか、ギロリとクロを睨んだまま、直立不動で居る。
仕掛けるなら、今がチャンスだ・・・!
<グオオオオオオオオオオオッッ‼>
満身創痍の身体を左右に振り乱しながら、クロが走る──!
既に全身に浮き上がった模様は右手へと集積し、その輝きを増していた。
ライジングフィストの色は──「白」。全力全開の一撃だ!
「行っけえええぇぇぇっっ‼」
握りしめた拳を振り上げて、クロに呼びかける。
・・・隣で、カノンが息を呑んだのが判った。
<・・・・・・コォ───・・・・・・>
ネイビーの巨体が肉迫しようと突進してきても・・・赤い怪獣は、一向に焦る様子がない。
・・・・・・まさか・・・・・・わざと勝負を仕掛けさせたのか⁉
「くっ、クロッ‼ 一度止まるんだッ‼」
思わず、そう口にしていた。・・・しかし、走り出した巨体はすぐには止まれない。
そこで・・・赤い怪獣が、両腕の甲をクロに向ける。
筒の部分の凹凸同士が噛み合い、両腕は一体となって巨大な「盾」となった。
表面には、筒の部分の先と同じ──火山の火口を思わせる、いくつかの穴がある。
そして、その穴から微かに・・・シュー、という音が聴こえてきた。
「この・・・音は・・・っ!」
・・・・・・間違いない。遊園地でエア遊具を膨らませる時と同じ・・・気体が漏れる音だ。
<コォ──・・・ッ‼>
悪い予感は的中し──「盾」にある穴から、走ってくるクロに向かって──真っ赤に燃える巨大な火炎が放たれた。
体内からガスを噴出して、体温で発火させたんだ・・・!
<グオオオオオオオオッッ⁉>
自分の体長をも超える炎の壁に包まれ、クロの突進が止まる。
成す術もなく、更なる高熱を与えられた彼女は・・・炎が霧散するのと同時に、赤い怪獣の手前で──力なく倒れた。
「クロッ‼ 返事をしてッ‼ クロおおぉぉぉッッ‼」
勝手に溢れた涙を拭う余裕もなく、必死に呼びかける。
しかし、白煙を上げて横たわるその体は、ぴくりとも動かない。
<コォ───・・・>
その仮面の下で、どんな表情をしているのか・・・。
冷徹なる赤いガンマンは・・・倒れたクロに、再びその銃口を突きつけた───
~第三章へつづく~
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる