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第五話「悪魔の手」
第二章「赤き魔弾‼ ヴァニラス絶体絶命‼」・①
しおりを挟む◆第二章「赤き魔弾‼ ヴァニラス絶体絶命‼」
「・・・・・・!」
いつも通りの夢を見て──目が覚める。
天井の様子が普段と違う事に気付いて、上体を起こす。
まどろみの中で・・・昨夜は自分の部屋を新入りに譲って、居間のソファで寝た事を思い出した。
カーテンから差し込む光は弱く、身体も何だか硬い。壁掛け時計を見ると、時刻はまだ朝の5時。
慣れない寝床でうまく眠れなかったようだ。
『おはよ~。今朝は随分早いね~?』
「おはようシルフィ。・・・ちょっと早すぎだよね、あはは」
ぼんやりとした頭に、シルフィの声が響く。何となく思考がクリアになった気がした。
水中でそうする魚のように宙空を泳ぎながら、彼女は起き抜けに早速僕の頬をふにふにと突いてくる。
こうされるのにも慣れてきたけど・・・ほんとボディタッチ好きだなぁ。
『二人はまだ寝てるよ~。クロはいつもの感じだと、あと1時間くらいで起きるかな~』
クロと出会って、一ヶ月が過ぎて・・・。
最近になってようやく、彼女に自分の部屋を用意してあげる事が出来た。
元々我が家は部屋が余ってるんだけど・・・なにせ実質僕の一人暮らしで、全ての部屋に掃除が行き届いてるとは言えず、用意するのに時間がかかってしまったのだ。
あまり観ないし居間にもあるから、僕の部屋にあったテレビとDVDは全部移してある。
おかげで、最近のクロはますます知識の習得が早くなったと思う。
・・・まぁ要するに留守番の時間が長いってことだから、それだけ僕が仕事で家を空けがちという事なんだけど。
・・・・・・こんなところばっかり父さんに似ちゃダメだよなぁ・・・。
『どしたの? 朝から暗い顔しちゃってさ』
「え? あ、いや! なんでもないなんでもない! ・・・二人が起きだす前に、ランニング行っちゃおう・・・」
洗面台で顔を洗い、寝癖を整える。
物音を立てないように自室のドアを開けると、カノンはシルフィの言った通り、大きないびきをかきながら寝ていた。
こっそりとクローゼットからランニングウェアを取って、玄関から外に出た。
「ふっ・・・! ふっ・・・! ふっ・・・!」
規則正しいリズムを心がけて、毎朝走り慣れたコースを行く。
いつもより早い時間だけど、この時期になると日の出も早いから、道はしっかりと見えている。
「父さんの後を継いでライズマンになる!」と誓った日から、無理のない程度に続けている習慣。走りながら、頭の中で一日の予定を整理したりする。
僕にとっては大事な時間だった。
『ねぇねぇハヤト~? ・・・カノンのこと、どうしよっか?』
普段、ランニングの最中には話しかけてこないシルフィが、珍しく逡巡までした上で問いかけてくる。
・・・即答は、出来なかった。
昨日、カノンがふてくされてしまった後・・・結局彼女たちは一言も会話を交わす事はなかったようだ。
昼過ぎからのステージを終えて帰宅すると、諦めずに必死に恐竜について勉強しているクロの姿を見て・・・何だか、涙が出そうになってしまった。
カノンの方もお腹は減るみたいで、シルフィの「また倒れてるみたいだよ?」の一言に慌てて晩ごはん作って持っていったけど・・・
食べ終わると、話すことなんてねぇ!とばかりに背を向けられてしまった。
部屋の外で待っていたクロの悲しい顔と言ったら・・・はぁ・・・。
「・・・どうするのが、正解なんだろうね・・・」
走るペースがつい落ちて・・・質問に質問で返してしまう。
レイガノンと戦った時は、クロのワガママに最後まで付き合うぞ!という気持ちでいたし、それは今も変わってない。
でも、今回は・・・僕とクロだけの問題ではなかったんだ。
レイガノン──カノンという一つの生命を預かる準備も覚悟も、僕らには足りなかった。
もし今シルフィが昨日言ったように彼女をゴビ砂漠に返そうものなら、あっという間に空腹で死んでしまうか、よしんばまた永い眠りについてしまうだろう。
彼女が元々棲んでいた時とは違って、現代の砂漠には食料なんてほとんどないのだから。
「僕たち・・・間違った事をしちゃったのかな・・・」
「拾った以上は責任を持つ」──自分でいつも言っている言葉が、自分の胸に突き刺さった。
拾ったポメラニアンは、昨日のうちにいつもお世話になってる施設に預けたけど・・・怪獣となればそうはいかない。
・・・一体、どうしたら・・・・・・
『──ハヤト、また悪い癖が出てるんじゃない?』
「えっ・・・?」
そう言うと・・・わざとだろう。シルフィは僕の視界を右から左へ横切った。
彼女を目で追うと──視線の先には、見慣れた砂浜と、大海原があった。
気付かないうちに、此処まで来ていたらしい。
『「一番大事なのは、相手を知ろうとする事」・・・なんでしょ? そう言ってたハヤトが、相手の話も聞かずにひとりで自分を責めるのは、ちょっとおかし~んじゃない?』
「ッ!」
手を後ろで組んだまま・・・朝ぼらけの海をバックに、シルフィの纏うキラキラとした粒子が景色に溶けた。
『何でも自分で抱え込むのは、キミの悪い癖。「ひとりじゃない」・・・でしょ?』
「・・・・・・ごめん。・・・じゃないね! ありがとうシルフィ!」
本当に、シルフィの言う通りだ。
僕がでしゃばるのは・・・なんて勝手に思ってたけど、クロに任せるだけじゃなく、僕もカノンときちんと話してみようと、そう決意した。
・・・でも、その前に。
砂浜を突っ切り、海岸線の手前へ──嫌な自分を大声に変えて、海に向かって吐き出した。
『・・・ふふっ。うんうん。ハヤトはやっぱりこうじゃなきゃ~』
「バカヤロー!」の声に紛れて、そんな一言が聴こえた気がした。
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