恋するジャガーノート

まふゆとら

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第一話「記憶のない怪獣」

 第三章「その手がつかむもの」・②

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「松戸少尉! ワンダーマン支局長に連絡は!」

『も、もちろんしてます! で、でも繋がらないんですっ!』

 JAGDの各支局の支局長は機動部隊には基本的に干渉せず、外部との折衝がメインの仕事になるが、機動部隊長と同じ最高意思決定権を持っていることには違いない。

 施設を案内されている途中に不在とは聞いていたが、よもやこの緊急事態に連絡がつかないとは風向きが悪い・・・!

「くっ・・・わかった。横須賀基地と在日米海軍司令部にも緊急連絡を!」

 時計を見る。時刻は22時30分。

 頭上に過去最大級のジャガーノート、現場判断するはずの隊長は心神喪失、武器使用承認を下す支局長は連絡不能・・・もはや、この基地は正常に作用していない。

 走りながら、並走する中尉に話しかける。

「現時点において、この基地の最高責任者は中尉だ・・・だが・・・」

「私は、少佐に従います」

 最後まで言い切る前に即答される。

 ほぼ同時に、勢いよくドアが開く。潜水艦用ドックへ到着した。

 警報を聞き、事態を確認しようと焦る青い制服たちの姿が目に飛び込んでくる。

「感謝する。・・・・・・松戸少尉。私の端末を施設の全スピーカーに繋げ」

『えっ? はっ、はい! ・・・どうぞ!』

 ふぅ、と一つ息を吐く。覚悟は決まった。意を決し、端末を口に近づける。


『傾注────ッ‼』


 拡大された私の声が大音量で響く。

 声が大きすぎたせいか、キィンと耳障りな音がドックの中にこだました。

 慌てふためいていた整備部員たちが、驚いて一斉にスピーカーに注目する。

『私は明日よりこの極東支局の機動部隊隊長となる桐生茜少佐だ! 現在、この支局の真上に観測史上最大級のジャガノートが出現! 二足歩行する55メートルの化け物だ!』

 周囲からどよめきが聞こえる。当然だ。

 JAGDは世界中に支局があり合計千人を超える局員がいるが、実際に生きているジャガーノートと相見えた事があるのはその中の五十人程度だろう。

 大型のものとなれば尚更、さらに人のいる場所にジャガーノートが出現するなど前代未聞。驚くなという方が無理がある。

『現在、キャンベル隊長もワンダーマン支局長も連絡がつかない状態だ! ジャガーノートは頭上の横須賀海軍施設内を依然進行中! 住民の避難は済んでいないと思われる!』

 どよめきが大きくなる。未知の敵への恐怖が伝播していく。

 だから私は──叫んだ。

『うろたえるなッッ‼』

 再びスピーカーが出力の限界を越えて音が割れ、同時に静寂が訪れた。

 ・・・私は、そもそも隊長の器などではない。運良く生き残って来れただけだ。

 だが、今ここにいる者たちには、震える足で寄りかかるための「何か」が必要だ。

 絶望の暗闇の中に在ってなお、前を向くための──「何か」が。

『この組織にいて「猟犬」の名を聞いた事のない者はいまい! あの噂は本当だ!私はこの手でジャガーノートをほふり! その肉を喰らい! ヤツらの巣の中で生き延びた女だ‼』

 唖然、というのは今私に向けられている表情の事をうのだろう。

 彼らの最も恐ろしい存在が、ジャガーノートから私に変わったのは間違いない。

『予定より早いが、今より私がこの支局の指揮を執る! マクスウェル副隊長は承諾済みだ。敵は未曾有の巨大生物・・・しかし! 我々はその脅威に打ち克つため、人類の最後の砦としてここに居る! そして諸君らには「猟犬」がついている! ジャガーノートですら殺せなかっ
た、不死身の「猟犬」がだ‼』

 正面を見据える。
 ドックにいる全員が、端末に呼びかける私を見ていた。

『だが「猟犬」と言えども独りで勝てる相手ではない! 今こそ! 諸君らの力が必要だ! 人類の明日を守るため、私に協力して欲しい‼』

 一拍置いて、局員たちの雄叫びがドックを揺らした。

 付け焼き刃の演説だったが、少しは響いたらしい。

 再び一つ息を吐き、改めて端末に叫んだ。

『観測したジャガーノートを「No.007ナンバーセブン」とする! 総員ッ! 第一種戦闘配置‼』

「「「イエスッ‼ マムッ‼」」」

 方々から返ってくる声が揃う。

 ジャガーノートより恐ろしい盾を手に入れた戦士たちは、本来の勇気を取り戻し、踵を揃えた。


 ─────さあ、狩りの始まりだ。


「・・・キリュウ少佐・・・あなたは・・・」

 放送を終えると、傍らに立つマクスウェル中尉が話しかけてくる。

 心配してくれているのだろう。

 先程打ち明けた「噂」の内容は、真実半分嘘半分といったところだ。

 しかし、この短時間で恐怖を払拭させるには、敵よりも凶悪な存在が味方にいると認識させるより他なかった。

 今は、一分一秒が惜しい。

 私の醜聞で一人でも多くの命が助かるなら安いものだ。

 ・・・これで嫁の貰い手はゼロだが。 

「止せ。世辞なら後だ。それと、もっと相応しい呼び方があるだろう」

「・・・ッ! はっ! キリュウ隊長!」

 口角を持ち上げ、呼び掛けに応えてみせる。今回はきちんと表情筋が動いただろうか。

「・・・して、ヤツをどのように仕留めるおつもりで・・・?」

 眉をひそめて尋ねてくる。そういえば、説明がまだだったな。

「私の乗ってきた<モビィ・ディックⅡ>は大食らいでな。腹の中に色々と詰めてきたんだ」

「・・・! まさか・・・!」

「そのまさかだ」

 <モビィ・ディックⅡ>の艦尾側に立つ。

 開かれた貨物室には堅強な橋がかかり、その先で、載せてきた「荷物」がその出番を待っていた。

 もしもの時のために出動の準備を優先させておいたのが吉となったな。

出撃るぞ! 第四垂直昇降門リフトゲートを開け‼」
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