恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第三章「激突‼ ヴァニラス対レイガノン‼」・⑥

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「テリオ! スキャニングと熱源探知!」

『完了済みです。次の角を左。長い通路に出ます。500メートル圏内に熱源なし』

 新手を蹴散らし、<ヘルハウンド・チェイサー>で「灰色の男」の後を追っていくと──この無機質な白い通路へと辿り着いた。

 テリオのガイドに従い、右手にM9を握ったまま、ハンドルを左に切る。

 ここに至るまでに十人は撃って来たが・・・まさか誰にも知られること無く、砂漠の下にこんな広さの施設を造り上げるとは・・・

 考えていた以上に、敵の規模は大きいらしい。

 一体どこの国の仕業だ・・・と思考を巡らせていると、通路の終わりが見えて来た。

 奥はアスファルトで舗装された空間になっており、両側には装甲車が数台控えている。

 そして──そのうちの一台に乗り込む、白衣の端が見えた。

「・・・今の、か?」

『さすがにそこまでは何とも』

 優秀だが、万能というわけではないか。

 装甲車が発進するのが見えて・・・迷ったが、追いかける事にした。

 あの「灰色の男」・・・放っておくと、とんでもない事をしでかしそうな気がしてたまらない。

 救出任務が最優先ではあるが、ネイト大尉以下第四分隊に、柵山少尉も付いているのだ。

 ──私は、私に出来る最善の事をしよう。

 舗道のさらに奥がなだらかな勾配になっており、その先から太陽の光が差し込んでいた。

 装甲車が外へ出たのが見えて、その背中を追おうとしたところで──カタカタと、金属の擦れる音が聞こえた。

 目を向ければ、シャッターが降りて通路を塞ごうとしている。

 右手のM9を太腿のホルスターへ戻し、車体後部の「シールド・ブレイカー」を手に取った。

 スピードはそのまま、降りきったシャッターに向けて発砲する・・・まだ足りない。

 連続でスピン・コッキング。三発目を打ち込んだところで、ひしゃげたシャッターの数カ所から明かりが漏れたのが見えた。

 車体へ「シールド・ブレイカー」を戻し、両手でしっかりとハンドルを握る。 

「ヘルメットをしておけよ!」

『冗談がお上手。・・・行きます』

 メーターが振り切れ──車体がさらに加速して───

 ガシャン! と大きな音を立て、シャッターを突き破り外に出た。

 勾配を登り切って砂漠に着地すると、風紋を蹂躙するようにわだちを作って走る装甲車が見えた。

「逃げた事を後悔させてやる・・・!」

 アクセルをフルスロットルに。荒れ地をも容易に踏破する車体は、あっという間に装甲車へ追いついた。

 再び「シールド・ブレイカー」を手に、リアへ向けて発砲。外装がへこむ。

「テリオ。車内に通信は繋げられるか?」

『・・・チャンネルに介入できません。セキュリティがやけに強固ですね』

 ならば、無理矢理にでも

 再装填し、タイヤを狙って発砲・・・ゴムの表面が弾け飛ぶが、なお走り続ける。

「さすがに戦闘用コンバットタイヤか・・・」

 本当はもう少し便に行きたかったが・・・。

 「シールド・ブレイカー」を戻し──代わりに、左手で「ニードル・シューター」を手に取った。

 起爆センサーのモードを「高熱・高エネルギー」から、「衝撃」に切り替える。

 <ヘルハウンド・チェイサー>のスピードを抑えて、少し距離を取り──2発連続で発射。

 ・・・ややあって、数メートル先で爆発が起き、つんのめった装甲車が前転して、天板ルーフパネルから砂地に突っ込んだ。

「・・・さて。ようやくゆっくりお喋りできるな」

 最後まで油断せず、「エレクトリック・ガン」を構えて車体を覗き込むと・・・

「う、うぅぅ・・・」

 運転席に座る武装した男の他には・・・白衣を着たアジア人が一人・・・・・・

 目的の人物がいない事に舌打ちした直後──後方から、プロップローターの回転音が耳に届いて、自分の判断ミスを確信した。

「・・・・・・やられたな」

 音がした方を見やると、地面からせり出てきた発着台から、垂直離着陸機V T O Lが飛び立っていく。

 すると同時に──ひっくり返った装甲車の車載端末が起動し、の声が聴こえた。


『───「共に在れ」』


「ッッ‼」

 「灰色の男」の声に違いない。

 暗号めいた不可解なセリフを聞くや否や、車に乗っていた男たちが我先にと銃を取り出した。

「動くなっ! 抵抗すると──」

 そう言いかけて・・・直後に発砲音が、2つ。

 自分で銃を男たちが、一瞬のためらいも見せずに引き金を引いたのである。

「・・・・・・」

 絶句して、嫌な沈黙に支配された。

 ほんの少し離れたところでは二体のジャガーノートが戦っているはずだが・・・どこか、聞こえるはずの喧騒も遠かった。

『いやはや。してやられました。まさか基地を放棄する羽目になるとは・・・JAGDにも貴女のような優秀な人材がいらっしゃるのですね』

 沈黙を破るように──いや、、「灰色の男」の声が届く。

「・・・せいぜい今は悔しがっていろ。近いうちに、私に捕まっておかなかった事を泣いて後悔するだろう。私より「尋問」が得意な連中が、後に控えているからな」

『フフフ。それは恐ろしい・・・では、捕まらないように逃げ隠れする事にしましょう』

 楽しそうに、男は笑った。

 しかし、その声はどこか乾いている。感情が無いと言うより、生気が感じられないのだ。

 髪や瞳だけでなく──魂すらも、「灰色」───

「・・・・・・貴様は、誰だ」

 陳腐な質問が、口をついて出た。

『────私は、プロフェッサー』

 さらに陳腐な答えが、端末から返ってきた。

「役職ではなく・・・誰だW h o、と訊いている」

『──では、でいきましょう。私の名前は、「プロフェッサー・フー」──』

 どこまでも人をコケにした態度で、男はまた笑った。

『以後、お見知りおきを。それでは、またお逢いしましょう』

「次に私と会った時が、貴様の最期だ」

 そう言って、悔し紛れに装甲車の外装を蹴飛ばそうとして── 

『・・・おっと、言い忘れるところでした。あの基地は、あと15分で自爆します。お仲間を助けるのであれば、急いだ方がよろしいかと・・・では』

 最後にそう言い残すと、車載端末の電源が落ちた。

「・・・・・・本当に・・・ふざけたヤツめ・・・」

 してやられっ放しだが、「灰色の男」──プロフェッサーの言葉が本当なら、自爆までもう時間がない。

「テリオ! 急いで施設へ戻るぞ!」

 慌ただしく<ヘルハウンド・チェイサー>のシートに跨って、来た道を飛ばした。
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