恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第三章「激突‼ ヴァニラス対レイガノン‼」・③

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       ※  ※  ※


『──高エネルギー反応を新たに確認。この波形は──』

「・・・いい。言わなくてもわかる」

 テリオの声を遮って、すっかり天井を見やる。

 「灰色の男」がレイガノンと呼んでいたジャガーノートの前に、砂漠を照らすもう一つの太陽が降りて来て・・・その姿を、ネイビーの巨竜へ変えた。

「まさかこんな所でまで貴様と会うとはな・・・No.007・・・」

 吐き捨てるように言って、この心もとない装備でどうするかと思案しかけたその時──

『マスター・・・信じられませんが、あの男、生きてます。四時の方向』

 心臓が跳ねる。言われた通りに振り向くと、確かにヤツの後ろ姿が見えた。

 私達が通ってきたのとは違う横穴へ入っていく・・・と、それと入れ替わるように武装した男たちが数人、こちらへ駆けてくる。

 思わず、歯噛みした。・・・全く。息を吐く暇もない。

 前門の虎、後門の狼──どちらを相手にするか、決断するしかないようだな。

「・・・テリオ。新手を潰しつつ・・・ヤツを追うぞ」

『ジャガノートの方はよろしいので?』

 答えずに、シートに跨った。

 身体には、デカブツどもの起こす震動が伝わってくる。

 新たなジャガーノート──名付けるならNo.009か──と、その前に立ち塞がったNo.007がぶつかり合う様を背にして・・・アクセルを回した。

 ・・・口惜しいが、今の私に、あの戦いに割って入る力がないだけだ。

 決して・・・No.007にわけではない。内心で、自分にそう言い聞かせた。

「猟犬の牙から逃げられると思うなよ・・・行くぞッ‼」

『了解。見せつけてやりましょう』

 テリオも察してくれたようだ。話を蒸し返すこと無く、エンジンを唸らせた。

 ・・・部隊の皆の無事も気にかかる。洞窟が崩落してしまう前に、やる事は山積みだ。

 前方を睨み──太腿のホルスターからM9を引き抜いた。


       ※  ※  ※


「ビンゴ! ここね・・・!」

 ネイトがニヤリと笑って、指を鳴らす。

 洞窟の先──行き止まりに見えた壁の中に、腕時計型端末が金属反応を探知したのだ。

「いよいよ悪者の秘密基地って感じになってきたな・・・」

 ぼやく柵山を尻目に、ネイトは必死に背伸びをしつつ、周囲の壁へ指を這わせる。

 ややあって・・・壁の一部が開き、偽装されていた電子ロックのコンソールが顔を見せた。

「・・・・・・アンタ、まだついてくる気、あるの?」

 第四分隊のみに支給される特殊端末からケーブルを取り出すと、手慣れた様子でコンソールのカバーを外し、中の回路へ差し込んだ。

「当然です。イェール卒のくせに2回も言わないとわからないんですか?」

 あえて生意気に返しながら、柵山は改めて「エレクトリック・ガン」を構えた。

「・・・うっさいわね。ハーバード卒の腰抜けのために2回も訊いてやったんじゃない」

 なおも衰えぬ彼の覚悟を見て、ネイトも肚を決めた。

 コンソールがピー、と音を立てると、目の前の壁が左右に開き、無機質な白い通路が奥に現れた。


「───さぁ、ここからは・・・私の仕事よ」


 再び笑みを浮かべると、彼女は腰の後ろから、アーミーナイフを両手で1本ずつ引き抜く。

 通路の向こうに人影が見えた瞬間──一直線にそちらへ駆けた。

「た、大尉っ⁉」

 小さな体は、あっという間に通路の奥へ。

 そこへ、武装した男が二人現れる。

「警報が鳴ったのはこの扉だ! 不正アクセスで解錠された可能性が──」

 声は、途中で途切れた。接近した150センチの体躯は、男の視界には入らない。

 認識の外から繰り出されたアーミーナイフが、その華奢な体からは想像もできない膂力りょりょくで、男の首を、一振りで

「えっ──」

 突如として同僚の首が飛び、もう一人の男が息を詰まらせた。

 しかし彼もまた、数秒と経たずに、同じ運命を辿る事になる。

 ネイトがもう片方の手に握っていたナイフを、男の顔めがけて投擲。思わずかばった左腕に、長い刀身が突き刺さる。

 そして男が激痛に悲鳴を上げるより早く──たった今、向かいの男の首を飛ばしたナイフが、かばうためにがら空きになった脇腹へと侵入した。

 心臓まで達したそれを勢いよく引き抜くと、ネイトの全身が返り血で真っ赤に染まる。

 あまりにも簡単に、大の男二人を始末してしまった手際を見て・・・柵山が息を呑む。

「これが・・・「対人部隊」の隊長──「荊姫」・・・!」

「・・・・・・フン。怖気づいたかしら?」

 どこか気まずそうに・・・そして寂しそうに、吐き捨てた。

 「これを見ても、アンタは態度を変えずに居られる?」と、言外に問うかのように。

「・・・まさか。少しは頼りになる所もあるんだなと関心しましたよ」

 ばくばくとうるさい心臓を抑えつけて、柵山は膝と一緒に顔でも笑ってみせる。

 たとえ強がりでも──この少女にはと、彼の心がそうさせたのだ。

「・・・・・・・・・フンッ! アンタを殺すのは最後にしてあげるわ。光栄に思いなさい」

 目を合わさずにそう言って、ネイトはアーミーナイフを乱暴に振り、こびり付いた血と肉を刃から落とす。

 振り向きもせずに独りで先行くネイトを、慌てて柵山が追いかけた。
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