恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第三章「激突‼ ヴァニラス対レイガノン‼」・②

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「・・・私・・・わからないです・・・約束・・・できるかどうか・・・」

 クロは俯いたまま、声を震わせている。

 きらりと光る雫が、彼女の足下へ零れた。

 ──それでも──涙が止めどなく溢れ出しても──クロは、顔を上げてみせた。

「・・・でも・・・ハヤトさんの「ともだち」を守りたい気持ちも・・・! 悪い事してない怪獣を倒したくもない気持ちも・・・! ・・・どっちも・・・本当の気持ちなんです・・・っ!」

 真っ直ぐに、シルフィを見つめ返して、答える。

「だから・・・ワガママだってわかってます・・・! けど・・・っ! やる前に諦めるなんて・・・したくないです・・・! 私にも・・・出来る事があるかもしれないから・・・っ‼」 

 涙を拭いながら、クロが叫んだ。

 すると、溜息を吐いて──シルフィが、微笑む。

『・・・ふふっ。ほんとーに・・・ハヤトに似てきたね、クロ』

「そ、そうかな・・・?」

 口ではそう言いながら、シルフィと初めて出会った時の事を思い出していた。
 確かに、同じような事を言ったっけ。自ずと出てくる言葉が似てしまうなんて、不思議な感覚だ。

 ・・・ただ、同時に複雑な気持ちにもなる。

 クロには、自分を大切に欲しいと、そう願っているのだ。でも一方で、彼女の意思は尊重してあげたい。

 ──僕もまた、ジレンマの中に居た。

『キミの覚悟ワガママはわかったよ、クロ。しょ~がないから、ボクも精一杯協力してあげる。キミが死なないように、ね』

 なんだかんだ言って、シルフィもクロには甘いようだ。

「! し、シルフィさん・・・!」

 クロが感激のあまりシルフィを両手で抱きかかえ・・・というか、包み込む。

『熱いって~~クロ~~蒸し焼き妖精になっちゃうよ~~』

「す、すみませんっ!」

 慌てて離すと、シルフィが宙返りして、ふわりと舞う。

 次いで、オレンジ色の光がその胸の結晶から放たれた。

『さっ、準備はいい? キミの戦い、見せてもらうよ・・・クロ!』

「はいっ! ・・・えっと・・・ハヤトさん・・・!」

「・・・うん! クロ、お願い!」

 彼女が頷き──その身体が光となって、地上へと飛んでいく。

 足下へ目を向けると、洞窟の崩落も落ち着いたように見える。

 アカネさんは自分のバイクと何か話している様子で、ケガはないみたいだ。

「・・・僕たちも行こう!」

『はいは~い』

 ひとまず安心だろうと判断して、シルフィに声をかける。

 球体がぐんぐん上昇し、地上へ出ると・・・

 目をくような太陽の輝きが届いて、思わず目を細めた。

 ここは、砂漠だったのか・・・!

 熱や衝撃が球体に届かないのはわかっているけど、それでも途端に体感温度が上がった感覚に陥る。

 一面の砂景色に面食らっていると──

<グルオオオオォォォォ────ッッ‼>

 背後から、その凶暴さを隠そうともしないドスのきいた轟音が聴こえる。

 古代より蘇ったという怪獣──レイガノンだ。

 水しぶきを飛ばす犬のようにその巨体を震わせると、体表についた砂埃が落ちて、本来の若草色の鱗が露わになる。

 背中には、黄色のラインに縁取られた黒い甲羅を背負っていた。

 尻尾までの全長は100メートルを超えているだろう。

 見た目は恐竜のトリケラトプスに似て、頭の後ろには盾装飾フリルがある。

 しかし、その目付きはとても草食恐竜とは思えない程鋭く、眉間の先にある全てをめ付けているようにすら見えた。

 そして、何より目を引くのは──甲羅と同じ装飾の、頭から生えた巨大な二本の角だ。

 長さ30メートルほどあるそれが、人で言う前頭筋にあたる部分から雄々しくそそり立っている。

 頭を振り乱しても、遠心力で揺らされる事無く、直線のラインを保ち続けているのを見るに・・・凄まじく強靭な筋肉によって支えられているに違いない。

 思わず息を呑んだところで──頭上の太陽にも負けない輝きを伴って、白い光がレイガノンの前に現れる。

 質量を持った光は形を変えて、体長55メートルの怪獣──ヴァニラスの姿を成す。

 熱砂の戦場に、二体目のジャガーノートが静かに舞い降りた。

<───ルルルルアアアァァッ!>

 瞬時に、目の前の怪獣を「敵」と見定めたようだ。レイガノンの目付きが鋭くなる。

 負けじとクロも相手を睨み返し、グルル、と喉を鳴らした。

 そして・・・戦いの幕が、切って落とされる───

 両者の距離は目測300メートル・・・先に沈黙を破ったのは、レイガノンの方だった。

<グルルルアアアァァァ───ッッッ‼>

 咆哮で、地表の砂塵が震えて踊る。まるで、すぐ近くで雷が鳴ったかのような衝撃だ。

 レイガノンは顎を引いて、二本の巨大な角を槍のように前方へ突き出す。

 右の前肢で地面を何度も掻くと、その度に鼻息が荒くなり、呼吸のスピードが上がっていく──!

「来るよ! 気をつけてっ!」

 口にした直後──再びの咆哮と共に、レイガノンは前肢で地面を強く叩く。

 それを合図に、クロに向かって真っ直ぐ突進した!

 四つの肢が砂を柱のように巻き上げながら、巨体がクロへと迫る───

<グオオオオオオオオオォォォォッッ‼>

 応えるように、クロも吼えた。姿勢を低くすると、突進を受け止めようと身構える。

 小細工なしの、正面衝突──!

 クロはなおも重心を下にして、突き出されたレイガノンの角を掴んだ!





 しかし、クロの巨体と腕力を持ってしても、その猛進は止まらない──!

 抑え込もうとする掌と、押し切ろうとする角とが擦れて、オレンジ色の火花が散った。

<グオオォォ・・・ッッ‼>

 クロが思わず苦悶の声を上げる。マンタの怪獣の突進とは、重さが桁違いのようだ。

 角を掴んだままで──後ろへ200メートルは押し切られただろうか。

 必死の踏ん張りの甲斐あって、ようやくレイガノンの突進が止まった。

 ・・・が、安心したのも束の間。レイガノンは巨大な角ごと、その頭をブンブンと振り回す。

 腕の自由を取られそうになったクロが、掴んだ手を離すと──

 頭を下げたレイガノンはその隙を突いて、がら空きになったクロの両脇の下に、巨大な角を差し込んだ。

「ま、まさか・・・っ!」

<グルルルアアアアアアアァァァッッ‼>

 悪い予感が当たって──

 レイガノンは驚くべき事に、、クロの巨体を放り投げてしまったのである!

<グオオオォォォォ───>

 数万トンはあるネイビーの身体が宙を舞って──1キロほど先の砂山へ墜落した。

 すぐ側には、赤みがかった岩石地帯・・・もしも、落下位置がもう少しずれていたら・・・

 恐ろしい想像に、思わず背筋が凍った。

『・・・どうやら、怪獣じゃないみたいだね』

 シルフィが、苦い顔をして呟いた。

『こないだの爪の怪獣みたいに、戦いに慣れてる感じじゃないけど・・・野性的な戦いのカンというか、センスがある。今までクロが相手にしてきた中で・・・一番強いかも』

 恐ろしい見立てが、頭の中に響いた。

 あのガラムキングより・・・さらに強い怪獣だって・・・⁉

 クロがようやく背ビレを地面から抜いて立ち上がる。

 身体をふらつかせ、まさにグロッキーと言った様子だが──そんな状態の彼女目掛けて、レイガノンが容赦なく突進してくる!

「クロッ! 危ないっ‼」

 声が聞こえたのか、ハッとした顔をするクロ。

 同じ事を繰り返しても仕方ないと踏んで、次は身体を大きくひねり、尻尾をムチのように振り回す。

「なっ──‼」

 タイミングも完璧。直撃コースだったが──

 レイガノンは、馬が柵を乗り越えるかのように、その巨体で跳躍ジャンプした!

 尻尾を躱し、そのままの勢いでクロに飛びかかる。

 超重量の身体で、クロを踏みつけにし、覆いかぶさった。

 駄々っ子のように暴れるレイガノンの体をどかそうと、必死に藻掻くが・・・

 背ビレが砂山に刺さってしまっているのもあり、クロはなかなか立ち上がる事が出来ない。

「頑張って・・・! クロ・・・!」

 応援する事しか出来ない歯がゆさを感じながら──拳をぐっと握りしめた。
 
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