恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
上 下
86 / 325
第四話「蘇る伝説」

 第二章「復活の雷王‼ 古代からの目覚め‼」・⑤

しおりを挟む
 唸りを上げて、<ヘルハウンド・チェイサー>の車体が前進する。
 バイクを片手で駆りながら、二の腕の装備取付用織帯P A L S ウ ェ ビ ン グから閃光手榴弾をもぎ取る。

 ──前方に、ぼんやりと光る目玉の大群が見えた!

<ガアアッ! ガアアッ!>

 忌々しい鳴き声を聞いたところで、閃光手榴弾を投げつける。数秒の後、炸裂。

 洞窟内が瞬きの間だけ照らされる。視認した限りでは、手前にまず十体。

 トカゲどもの悶絶する声をBGMに、続けて前方に照明装置を投げ、光源を確保。

 照らされた奥の空間には、今見えるだけでも二十体。洞窟内を文字通り埋め尽くしている。

 No.008と共に姿を見せた「大型種」はおらず、見慣れた「小型種」のみのようだ。

「テリオ! 壁は走れるか!」

『傾斜角40度まででしたら』

 返事を聞きながら、左手を動かそうとして──

 一瞬の逡巡の後、右手でフットペダルの後ろに備え付けられた「シールド・ブレイカー」の方を手に取った。

 片手で扱うにはやはり少し重いが、「ニードル・シューター」の爆発で洞窟を崩落させるより良いだろう。

「蹴散らしながら群れの後ろへ回り込む!」

 左手でしっかりとハンドルを握る。
 操縦はテリオに任せて、射撃に集中する。

 目を潰した先頭のNo.005どもに、まずは一撃!

 散弾銃ながら施条ライフリングがあり、弾道は安定している。

 発射された弾丸は瞬く間に目標へ到達──炸裂すると、無数の小型弾が、目前まで迫っていたNo.005たちを一瞬で挽き肉に変えた。

 磁力で制御・・・と言っていたはこの事か。通常の散弾銃と違い、発射されてから拡散するまで間隔がある。

 散弾というより、クラスター弾と言うべきだな。

 二度手間ではあるが、これなら自分で放った弾丸にバイクで突っ込んでいく心配はないというわけか。

 車体がひとりでに左の壁へハンドルを切る。No.005たちは仲間の死体を踏み越え、なお前進を続けていた。

「・・・?」

 その動きに、違和感を覚える。が、考えるより先に体が動いていた。

 親指と人差し指以外の三指でループ・レバーを下ろしながら、指の付け根を基点に銃身を回転させる──「スピンコッキング」を行う。

 銃身が一回転してレバーが元の位置に戻ると、次弾が装填された。

 本来であれば、レバーを上下させればポンプアクションと同じ要領で装填が可能だが、今は片手が塞がっている。

 故に、面倒であっても片手で装填するにはスピンコッキングをする必要があるのだ。

 洞窟の壁側斜面を削るように走りつつ、もう一撃。

 黒と茶色の列の一部が、次の瞬間には赤に染まる。すかさずスピンコッキング。

 排出された空薬莢が、ヘルメットの右側を掠って風にさらわれて行った。

『初めてにしては見事な腕前。昔おひとりで練習されてたのですか?』

「おい貴様なぜ今「おひとりで」と言ったんだ答えろ」

 ハンドルから手を離して群れに突っ込せてやりたい気持ちを抑えつつ、バイクを駆る。

 と、そこで、No.005の列の終わりが見えた。残りは五十といったところか。

 回り込んで一度停車し、その黒光りする背中たちを見据える。

「───やはり、

 思わずそう呟いたところで、左耳から柵山少尉の声が届いた。

『隊長! そ、その・・・機銃掃射を行ったのですが・・・No.005が、こちらに目もくれずに、通り過ぎて行きます・・・!』

 予想通りの報告が届いて、意図せず眉間に皺が寄ったのが判った。

 No.005は、その旺盛過ぎる食欲から、エサと見れば一も二もなく襲いかかるのが習性なのだ。

 組織立った動きをしようが、その本能に逆らっている様子など今まで見た事もない。

 だが、今の一団は──まるで──

「・・・まるで、地震を予知して逃げ出す動物のようだった」

『動物の地震予知能力を含む、俗に謂う「宏観異常現象」については、明確な因果関係は未だ立証されていません。・・・ですが、僕も同意見です。何か、嫌な感じがします』

 柵山少尉の見解を聞いて、背筋に流れた汗が殊更冷たく感じた。

 ジャガーノートであっても、自然には勝てない・・・という事だろうか。

 ・・・・・・いや、そう決めつけるには、まだ違和感がある。

 今のNO.005たちの様子は・・・言い表すなら、むしろ──

「恐ろしい何かから、逃げ出しているかのような───」

 自分らしくない予想が口を吐いて出たのと、ほぼ同時。視界が、揺れ始めた。

「ぐぅっ! まさか本当に地震の前触れだったのか・・・⁉」

 揺れはどんどん大きくなる。

 左耳からは第四分隊の隊員たちがパニックに陥る声と、それを何とか落ち着かせようとする柵山少尉の声とが入り乱れていた。

 そこで、嫌な音が耳に届く。洞窟の天井に、亀裂が入った音だ。

「まずい──ッ!」

 揺れに足を縛り付けにされ、身動きがとれないまま──崩れた天井が降り注ぎ始めた。

 落石で照明装置が壊れたのか、視界が真っ暗になる。

『マスター。非常に危険な状態です。防御姿勢を』

 身体を地面に投げて伏せ、声を張り上げてスピーカーに呼びかけた。

「───柵山少尉! 私に構わず任務を果たせッ‼」

 そして、その直後───
 ヘルメット越しに脳が揺さぶられた感覚がして、意識が途絶えた。


       ※  ※  ※


 ─────────『ハヤ・・・ト・・・・・・』


「ッッ⁉」

 まどろみの中──名前を呼ばれて、飛び起きた。

 今の「声」は・・・・・・アカネ・・・さん・・・・・・?

「! ハヤトさん・・・おはようございます」

 こめかみに汗が流れたのを自覚したところで、クロが笑みを浮かべて話しかけてくる。

 瞼をこすれば、隣のテーブルで怪しい笑みを浮かべながら執筆を続ける山田さんと、彼女のパソコンを覗き込む皆が見えた。
 ほんの少し、うたた寝してしまっていたらしい。

「あ・・・あの・・・ハヤトさ・・・あ、あぅ・・・うえぇ・・・!」

「あっ! ご、ごめんクロ! お、おはよう‼」

 ついつい「声」に気を取られて、クロに返事をし忘れていた。

「ひくっ・・・お、おはようございます・・・!」

 寂しがってる子を放っておくなんて・・・僕とした事が・・・!

「・・・は、ハヤトさん・・・大丈夫ですか・・・? その・・・顔色があまり良くないような・・・」

「えっ? い、いや・・・何でもないんだ・・・」

 手を振って否定した。
 ・・・けど、今の「声」・・・どうにも気にかかる。

 アカネさんの事を考えて幻聴が・・・って事なら(恥ずかしすぎるけど)別にいい。

 ・・・でも、今のはただ名前を呼ばれただけじゃなくて──
 まるでクロと出逢った時と同じように────

『ハヤト、ほんとに大丈夫~?』

 シルフィまで心配して声をかけてくる。僕・・・そんなに顔色悪いのかな・・・?

「・・・ちょっと、休もうかな」

 少し迷ったけど・・・折角のオフだし、素直に休息を取る事にする。

 思えば、今朝からドタバタがあったし、それでなくても最近は大事件に巻き込まれっぱなし。
 ついでにアカネさんの心配まで勝手にしてるんじゃ、疲れるのも無理ないか。

「クロ、まだみんなと話してく?」

「いえ・・・ハヤトさんと・・・一緒に、います」

「わかった。それじゃあ、帰ろっか」

 聴こえた「声」の正体を疲れのせいにして──
 盛り上がる仲間たちに、「お先に」を伝えるため、イスから立ち上がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

処理中です...