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第三話「進化する生命」
第三章「明日への一歩」・⑦
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※ ※ ※
「・・・・・・なんという・・・事だ・・・」
目の前で繰り広げられている光景に、驚きを禁じ得なかった。
No.006を葬ったあの技を弾かれ、痛恨の反撃を受けたにも関わらず──
それを逆手に取り、捨て身の戦法に打って出るとは・・・・・・。
「やはり・・・No.007・・・貴様は・・・他のジャガーノートとは違う・・・」
自分でも言語化出来ない複雑な感情を自覚しながら──二体のジャガーノートを、正面に据え、一つ──息を吐いた。
矮小な人間に出来る──精一杯の抵抗をするために。
「──やるぞッ‼ テリオッ‼」
テリオの言う所の「最後の武器」を──使う覚悟が、決まった。
『了解──担架アーム、展開します』
<ヘルハウンド>の燃料タンクのすぐ横の部分が展開し、黒い台のようなものが出てくる。
ここに砲身をセットしろと言う事か・・・一人で持つにはきつい重量だが、歯を食い縛りながらどうにか持ち上げ・・・砲身の付け根を担架台へ下ろした。
すると、台の両側が跳ね上がり、砲身がしっかりと固定される。幾分か、保持するのが楽になった。
上から見れば、砲身と<ヘルハウンド>の車体が十字に交差している状態だ。
台座の根元が可動し、上下左右に照準を調整できるようだが・・・強度を考えてなのか、かなり軸が固く、取り回しに難がある。
車体がバイクスタンドを支えにして傾いている関係上、自然と砲身は上を向くため、巨大ジャガーノートを狙いやすくはあるのだろうが・・・やはり、実用性には乏しい。
しかし、今はこれが──最後の切り札だ。
『メイザー粒子、充填開始──』
リアボックスの各部が、メイザー光線と同じ水色の光を放ち始める。
するとそれに合わせて、「メイザー・ブラスター」後部の弾倉──いや、粒子貯留槽とでも呼ぶべきか。これもまた同様に光り始め、どんどんその光量を増していく。
『両輪ロック、固定装置セット──』
ガチン、と音がして、前後の車輪の中央部分が内側に入り込んだ。閂でもかけたのだろう。
次いで、車体右側のサイドカウルの一部が展開し、中から杭のようなモノが勢い良く飛び出し、地面に刺さった。
『チェンバー内、正常加圧中 ──』
キィーン、と聞き慣れない音を立てて、砲身の根元にまで水色の光が達し始める。
最後部の粒子貯留槽を、左脇を通して背中側に逃がし・・・
左手を上向きに手前のレバーを、右手を下向きに砲身の中腹にある奥のレバーを、それぞれ握る。
──正面で繰り広げられている戦いは、まさに、最終局面を迎えていた。
No.008の左の爪を融かし切り、その身体がようやくNo.007から離れる。
口の端から泡を吹き、血の涙を流すNo.008───
全身の発熱を抑えきれず、身体が融け始めているNo.007──
お互い、次の一撃が──最後だ。
「・・・・・・」
狙うタイミングと──狙う場所は、決まった。目標までは、目測200メートル。
そして再び──No.007の右手が光った。既に腕からは、ボタボタと融けた身体が零れ落ちている。
満身創痍の身体を乱暴に奮い立たせながら、目の前の敵に掴みかかった。
No.008も、鋭い牙を食い縛り、姿勢を低くして、その突進を待ち構える
『最終セーフティ、解除───マスター、撃てます』
右耳に、合図が届く。右の人差し指で──引き金を、引いた───
「ぐッ・・・! うぅぅ・・・・・・ッッ‼」
直後、凄まじい反動と、光と熱とが、身体を襲う。
超圧縮されたメイザー粒子は、水色を纏った光の矢と化し・・・亜光速に達する一瞬で──
No.008の右の掌を、正確に撃ち抜いた。
<ガッ────>
遅れて、激痛が走った事だろう。風穴の開いた右手に気を取られ、防御が疎かになる。
<グオオオオオオオオオオオオッッ‼>
その隙を見逃すはずもなく──No.007の光る右手が、No.008の胸元を捉えた──!
ジュウと音を立て、瞬時に皮膚のタンパク質が灼かれる。
No.007は体内に食い込んだ右手をさらに押し込んで、山の斜面へNo.008を叩きつけた。
<オオオオオオオオオオオッッッ‼>
No.007の体表に現れた赤いラインが、右手へと殺到していく──
No.006との戦いの時には観察できなかったが、自身の熱を右手から敵に送り込んでいるのか・・・ッ‼
小さな太陽とも言うべきNo.007から直接熱が伝おうものなら──それは、体内で火山の噴火が起きるのと同義だ。
体中の血液はマグマのように煮え滾り、瞬時に蒸発。
膨れ上がった体積は火砕波動と化して──その身体を、内側から木っ端微塵に破壊する──!
<ガゴオオオオオオアアアアアアアア─────ッッ‼>
断末魔の叫びが聴こえ───No.008の身体は、凄まじい音を立てながら爆発四散した。
飛び散った燃える肉片は火山弾のように降り注ぎ──夜の畑を、灯籠のように照らした。
<・・・・・・・・・>
声もなく──戦いを終えたNo.007の身体が光の粒子となって、夜空へと消えた───。
「・・・・・・借りは返したぞ、No.007・・・」
複雑なままの内心を上書きしようと、そんな台詞が口をついて出た。
そしてその直後・・・ボン!と音を立て、「メイザー・ブラスター」の各部から、グレーの煙が上がった。
とてもじゃないが、冷却しているようには見えない。
「・・・・・・えっ?」
『お疲れ様でした。マスター。いやぁ、まさしく最終兵器。大活躍でしたね』
目の前でもくもくと煙を上げ続ける最終兵器を見て、思わず眼輪筋がピクリと動いた。
「・・・・・・まさかこれ・・・・・・一発しか撃てないのか?」
『えぇ。言ってませんでしたか? 威力は<アルミラージ>をも凌ぐ超圧縮メイザー光線を射出するんです。このサイズにまで縮小出来た事が既に奇跡ですよ』
・・・・・・<ヘルハウンド>の採用条件に、もう一つ除外項目を加わえる決意をした所で、左耳からマクスウェル中尉の声が聴こえた。
『隊長! No.005たちが・・・撤退していきます・・・!』
ボスがやられて、手下は退散か・・・逃がすのは惜しいが、現状を鑑みれば追跡は困難だろう。
ふと夜空に目を向ければ、救援ヘリのナビゲーションライトが近付いてくるのが見えた。
・・・・・・両肩にどっと疲れが来て・・・・・・思わず、ため息が出た。
「・・・・・・なんという・・・事だ・・・」
目の前で繰り広げられている光景に、驚きを禁じ得なかった。
No.006を葬ったあの技を弾かれ、痛恨の反撃を受けたにも関わらず──
それを逆手に取り、捨て身の戦法に打って出るとは・・・・・・。
「やはり・・・No.007・・・貴様は・・・他のジャガーノートとは違う・・・」
自分でも言語化出来ない複雑な感情を自覚しながら──二体のジャガーノートを、正面に据え、一つ──息を吐いた。
矮小な人間に出来る──精一杯の抵抗をするために。
「──やるぞッ‼ テリオッ‼」
テリオの言う所の「最後の武器」を──使う覚悟が、決まった。
『了解──担架アーム、展開します』
<ヘルハウンド>の燃料タンクのすぐ横の部分が展開し、黒い台のようなものが出てくる。
ここに砲身をセットしろと言う事か・・・一人で持つにはきつい重量だが、歯を食い縛りながらどうにか持ち上げ・・・砲身の付け根を担架台へ下ろした。
すると、台の両側が跳ね上がり、砲身がしっかりと固定される。幾分か、保持するのが楽になった。
上から見れば、砲身と<ヘルハウンド>の車体が十字に交差している状態だ。
台座の根元が可動し、上下左右に照準を調整できるようだが・・・強度を考えてなのか、かなり軸が固く、取り回しに難がある。
車体がバイクスタンドを支えにして傾いている関係上、自然と砲身は上を向くため、巨大ジャガーノートを狙いやすくはあるのだろうが・・・やはり、実用性には乏しい。
しかし、今はこれが──最後の切り札だ。
『メイザー粒子、充填開始──』
リアボックスの各部が、メイザー光線と同じ水色の光を放ち始める。
するとそれに合わせて、「メイザー・ブラスター」後部の弾倉──いや、粒子貯留槽とでも呼ぶべきか。これもまた同様に光り始め、どんどんその光量を増していく。
『両輪ロック、固定装置セット──』
ガチン、と音がして、前後の車輪の中央部分が内側に入り込んだ。閂でもかけたのだろう。
次いで、車体右側のサイドカウルの一部が展開し、中から杭のようなモノが勢い良く飛び出し、地面に刺さった。
『チェンバー内、正常加圧中 ──』
キィーン、と聞き慣れない音を立てて、砲身の根元にまで水色の光が達し始める。
最後部の粒子貯留槽を、左脇を通して背中側に逃がし・・・
左手を上向きに手前のレバーを、右手を下向きに砲身の中腹にある奥のレバーを、それぞれ握る。
──正面で繰り広げられている戦いは、まさに、最終局面を迎えていた。
No.008の左の爪を融かし切り、その身体がようやくNo.007から離れる。
口の端から泡を吹き、血の涙を流すNo.008───
全身の発熱を抑えきれず、身体が融け始めているNo.007──
お互い、次の一撃が──最後だ。
「・・・・・・」
狙うタイミングと──狙う場所は、決まった。目標までは、目測200メートル。
そして再び──No.007の右手が光った。既に腕からは、ボタボタと融けた身体が零れ落ちている。
満身創痍の身体を乱暴に奮い立たせながら、目の前の敵に掴みかかった。
No.008も、鋭い牙を食い縛り、姿勢を低くして、その突進を待ち構える
『最終セーフティ、解除───マスター、撃てます』
右耳に、合図が届く。右の人差し指で──引き金を、引いた───
「ぐッ・・・! うぅぅ・・・・・・ッッ‼」
直後、凄まじい反動と、光と熱とが、身体を襲う。
超圧縮されたメイザー粒子は、水色を纏った光の矢と化し・・・亜光速に達する一瞬で──
No.008の右の掌を、正確に撃ち抜いた。
<ガッ────>
遅れて、激痛が走った事だろう。風穴の開いた右手に気を取られ、防御が疎かになる。
<グオオオオオオオオオオオオッッ‼>
その隙を見逃すはずもなく──No.007の光る右手が、No.008の胸元を捉えた──!
ジュウと音を立て、瞬時に皮膚のタンパク質が灼かれる。
No.007は体内に食い込んだ右手をさらに押し込んで、山の斜面へNo.008を叩きつけた。
<オオオオオオオオオオオッッッ‼>
No.007の体表に現れた赤いラインが、右手へと殺到していく──
No.006との戦いの時には観察できなかったが、自身の熱を右手から敵に送り込んでいるのか・・・ッ‼
小さな太陽とも言うべきNo.007から直接熱が伝おうものなら──それは、体内で火山の噴火が起きるのと同義だ。
体中の血液はマグマのように煮え滾り、瞬時に蒸発。
膨れ上がった体積は火砕波動と化して──その身体を、内側から木っ端微塵に破壊する──!
<ガゴオオオオオオアアアアアアアア─────ッッ‼>
断末魔の叫びが聴こえ───No.008の身体は、凄まじい音を立てながら爆発四散した。
飛び散った燃える肉片は火山弾のように降り注ぎ──夜の畑を、灯籠のように照らした。
<・・・・・・・・・>
声もなく──戦いを終えたNo.007の身体が光の粒子となって、夜空へと消えた───。
「・・・・・・借りは返したぞ、No.007・・・」
複雑なままの内心を上書きしようと、そんな台詞が口をついて出た。
そしてその直後・・・ボン!と音を立て、「メイザー・ブラスター」の各部から、グレーの煙が上がった。
とてもじゃないが、冷却しているようには見えない。
「・・・・・・えっ?」
『お疲れ様でした。マスター。いやぁ、まさしく最終兵器。大活躍でしたね』
目の前でもくもくと煙を上げ続ける最終兵器を見て、思わず眼輪筋がピクリと動いた。
「・・・・・・まさかこれ・・・・・・一発しか撃てないのか?」
『えぇ。言ってませんでしたか? 威力は<アルミラージ>をも凌ぐ超圧縮メイザー光線を射出するんです。このサイズにまで縮小出来た事が既に奇跡ですよ』
・・・・・・<ヘルハウンド>の採用条件に、もう一つ除外項目を加わえる決意をした所で、左耳からマクスウェル中尉の声が聴こえた。
『隊長! No.005たちが・・・撤退していきます・・・!』
ボスがやられて、手下は退散か・・・逃がすのは惜しいが、現状を鑑みれば追跡は困難だろう。
ふと夜空に目を向ければ、救援ヘリのナビゲーションライトが近付いてくるのが見えた。
・・・・・・両肩にどっと疲れが来て・・・・・・思わず、ため息が出た。
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