恋するジャガーノート

まふゆとら

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第三話「進化する生命」

 第二章「地底世界の王」・②

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       ※  ※  ※


「・・・・・・」

 無言で、自室の扉を開ける。

 そして後ろ手に扉のロックを閉めると、そのままベッドへ身を投げた。

 行儀が悪いとは判っていても、自分を抑える事が出来なかった。

 ・・・・・・クソっ! やってしまった・・・! 大馬鹿者だ私は! よく考えもせずに事実をそのまま口に出してしまうなんて・・・ッ!

 夢の話をした時の彼の・・・落ち込んだ顔・・・あれは、希望を打ち砕かれた者の顔だ・・・!

 あれでは・・・私がトドメを刺してしまったようなものではないか・・・ッ!

「くぅ・・・ッ!」

 悔しさのあまり、シーツをぐっと掴む。

 ・・・正直に言えば、ハヤトに会えて──私は、舞い上がっていたのだと思う。

 十年間の空白を埋めたかったのだ、きっと。

 別れも言わずに去ってしまった事が、ずっと気掛かりだったのだ。

 柄にもなく、饒舌に身の上話まで・・・サラ相手にだって問わず語りなどした事がないと言うのに!

「・・・・・・」

 唯一の「ともだち」を前にして・・・舞い上がった私は、何とか彼に誠実でいようとして・・・口を滑らせてしまったのだ。

 職業はいつもの癖で偽ったと言うのに。

 ・・・・・・私の半端な覚悟が、ハヤトを傷つけてしまった。

「ハヤト・・・」

 ・・・・・・だが、当たり前ではあるが、彼もまた十年の時を経て変わった・・・と思う。

 昔の彼は、さっきのようにずっと何かを隠し立てるような物言いはしなかった。

 あんなに腰の引けた男じゃなく、あははと困ったように笑うくせに・・・遠慮なしに他人の世界にずかずかと入り込んで──そして、笑顔にしていく・・・

 誰よりも優しく、熱い男だった。

「~~~~~っっ‼」

 ───止めよう。

 自分の失敗で彼を失望させただけなのに、彼を責めようとするなんて・・・

 最悪の責任転嫁だ! 私は意地汚い女だ! 最低だ!

 ・・・どんな時でも、私自身の「目的」のために──絶対に生き残る事だけに全力を注いで来たのに・・・

 今初めて・・・「消えてしまいたい」と・・・そう思っている自分がいる。

「・・・・・・・・・初心うぶか、私は」

 「猟犬」と揶揄される私にも、まだこんな心が残っていたのだな、とどこか他人事のようにも感じる。

 たかが昔の男一人に嫌われただけで、この始末だ。

 とても部下たちには見せられないな・・・と自分の情けなさに辟易したところで、デスクの上に置いてあったイヤホンの鳴動バイブレーションが、今一番話す気になれない相手からの着信を伝えた。

「・・・・・・私だ」

『おはようございますマスター。テリオです』

 ・・・・・・この通話相手A・Iと来たら、名前をつけてもらったのが余程嬉しいらしく、何かに付けて名乗りたがるのが最近の流行と見える。

 最初はかわいい所もあるなと思ったのだが、何度もやられるとウンザリする気持ちの一つや二つは出てくるというものだ。

『ドライブデートは楽しかったですか?』

「なんだその聞き方は・・・間男レンタカーに私の尻を取られたのがそんなに悔しいのか?」

『仰る通りです。どうして私で出かけてくださらなかったのですか』

 喋るからに決まってるだろう。

『と、まぁお約束コントはさて置き、昨日届いたパーツの換装が完了致しました』

「・・・そうか」

 昨日、サラからまた「荷物」が届いたのだ。

 勿論、着陸の際には前回同様揉めた。

 中身は、<ヘルハウンド>の換装パーツ──つまり、「兵装」。

 上層部の承認が降り、<ヘルハウンド>の作戦行動での使用が認められたのをテリオから聞いたのだろう。どこぞの通販のようなスピードでオプションが届けられたのだった。

 承認にあたっては、ワンダーマン支局長が随分口を利いてくれたと耳にした。

 <モビィ・ディックⅡ>が出撃した際に立ち会えなかった事も気に病んでいたし、彼はどうやら見た目通りの好々爺らしい。そのうち頭が上がらなくなりそうだ。

『一通り点検してみましたが、きっと気に入りますよ。「猟犬」の名に恥じぬ逸品揃いです』

「・・・それは何よりだ」

 いつも通りのテリオの声を何となく聞き流し、生返事をしてしまう。

『・・・・・・マスター』

 機械相手に気を遣っても仕方ないと割り切ろうとして──

 どこか寂しそうに呼ばれ、早速後悔する羽目になった。

 ・・・ダメだな。ネガティブな態度は自分も周りも幸せにしない。

『・・・歌でも歌いましょうか?』

「・・・・・・お前が勉強不足なジャンルが何なのかは判った」

 人間を励ますのは人間でも難しい。ましてや、私は輪をかけて苦手だ。

「・・・少しずつ、前に進むしかないのかもな・・・・・・」

 ポツリと、そんな言葉が口をついて出た。

 ずっと抱いてきた気持ちに・・・一つ、ケリを付ける時期が来たという事だろうか。

 しかし、あんな分かれ方をしたままではお互いの気持ちも晴れない。

 どうにかして、彼の記憶を取り戻すのを手伝えないだろうかと思案し始めて──


<ピピピ! ピピピ! ピピピ!>


「私だ」

 短い休みの終わりを告げる音がした。

『隊長! 竜ヶ谷少尉と柵山少尉から通信です!』

 松戸少尉の声が聞こえ、続いて竜ヶ谷少尉の焦った声が飛び込んでくる。

『隊長っ! どんぴしゃだ! まずい事になってる‼』

 声の後ろで、M9ベレッタの発砲音が聴こえた。

「松戸少尉! 第一種戦闘配置を通達! ヘリを用意しろ!」

 ・・・・・・全く・・・泣きっ面に蜂とは、今のような状況を言うのだろうな。

 内心で自分の職業を呪いながら、隊服に袖を通した。

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