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第一話「記憶のない怪獣」
第一章「星の降った日」・③
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「・・・ハヤ兄ぃ、ほんとに大丈夫? 具合悪いなら送るよ?」
うんうんと唸っていると、みーちゃんに本気で心配されてしまう。
すかさず大丈夫だよと返事をしつつ・・・このままにするのも気持ち悪いし、素直に皆に聞いてみる事にする
「えっと・・・いま誰か・・・「たすけて」って言った?」
当然ながら、今はそんな緊迫した状況下ではないわけで・・・皆きょとんとしてしまう。
「えっ? 私は何も聞こえなかったけど・・・」
「あたしも特に。山サンは?」
「わ、私も言ってない。・・・ち、ちなみにさっきつらいって言ったのは、体調の話じゃなくて、ハヤトくんの肉体の神々しさに対して脳がショートしてしまったというかですねその」
「誰も聞いてねぇぞ~山田ぁ~!」
「うっさい桜井‼」
・・・この二人は、放っておくとすぐケンカしちゃうんだよなぁ・・・・・・
あはは・・・と無意識に困った笑いが出たところで、ハルがこちらに向き直る。
「まぁ山田の暴走はともかく、俺も何も聞こえなかったけどな」
そして、ハルは顎を擦ってから・・・何かを思いついた素振りをした。
「・・・ハヤト。お前、普段から犬猫を拾い過ぎて、ついに助けを求める動物の声が聞こえるようになったんじゃねーか?」
「いやいやいや・・・さすがにそれは──」
「ありえる!」
「ついにっスか」
「ハヤトくんすごい・・・!」
否定しようとした所で周囲から納得の声が相次いで、思わずズッコケてしまう。
「いや出来ないからねっ⁉」
「いや~! さすがは「宇宙人」だな!」
「ちょっ・・・! もぉ~! それ本当にやめてってば~!」
・・・十年前、記憶喪失になった後──
二週間も失踪してたのに、衰弱する事もなく帰って来られたはいいけど・・・
なにせ多感な小学六年生たちの輪の中にそんな状態で飛び込まなきゃいけなかった僕は(自分の中ではまだ五年生だったけど)、「宇宙人にチップ埋め込まれてきた」と友達からからかわれ──
気付けば噂が独り歩きして、「宇宙人そのもの」という事になっていたのだ。
もちろん、あくまでいじりの範疇だったし、クラスの委員長というカタブツじみた肩書きの僕をからかいたかったのもあるとは思う。
でも、当時は結構辛かったんだよなぁ・・・噂の発端は目の前の彼なんだけど・・・・・・
「・・・思い出したら、ちょっとムカムカしてきた」
「えっ」
ちょっとした仕返しをしようと・・・じとりとした目つきでハルを睨んだ。
「あっ、お兄ちゃん地雷踏んだ」
「明日も仕事っスからね~程々に。止めないケド」
「レディ~~ファイッ‼」
お決まりの流れを察して、女性陣がさっとその場から離れ──ハルとボクの周りに即席のリングが出現する。
・・・地面は砂浜だし、少し派手なヤツでもいっか。
「いやちょっまっ──」
ハルが逃げようと立ち上がると同時に、僕は後ろを向く。
何もしてこない事にハルが油断したその刹那・・・僕は腰を思い切りひねって、右脚を大きく振り上げて飛び上がる。
そして、右の太腿がハルの肩に乗った直後、お尻をクンッ!と振ると、勢いにつられて持ち上がった左脚が反対側の肩に乗り、両脚が首をロックした。
「受身とってね?」
「うおあああああああ~~~ッ‼」
振り子の要領で、首ごとハルの上体が放り出される。
咄嗟の事ながら前転して首を守り背中で着地するあたり、長年の特訓の成果が見て取れた。
「決まったァ~~~~‼ 見事なフランケンシュタイナーだァ~~~‼ 腰のひねり! 技の入り! 全てが美しいぃ~~‼ 卓越した練習時間が織りなす技の芸術! 磨き抜かれた至高の御業! 此処! 横須賀の地に今! 新たな伝説が誕生したァ~~~~‼」
「あはは・・・ありがとう山田さん」
山田さんのアツい実況が入る。
恥ずかしいけど・・・実は結構嬉しい。
ちなみにこの動きはステージ用に背中で着地しやすいように投げてるから、正確には脳天をマットに叩きつけるフランケンシュタイナーとは違う技なんだけど、投げる直前までは一緒だからそこはご愛嬌。
山田さんもわかった上で・・・いや、この熱の入り様を見てると・・・どうなんだろう・・・?
「ちくしょ~! ・・・でも思いっきり倒されたのにあんま痛くねぇのがすげぇ~~」
「もちろん優しく投げたのもあるけど、ハルの受け身がうまいからだよ」
「昔はずっと練習に付き合ってたせいか、久々に技食らうと懐かしい気持ちになるんだよな。ちょっと嬉しいと言うか・・・」
「えっ・・・お兄ちゃんってそういう・・・?」
「いや! 違ぇけど! 気持ちいいとかではねぇけど! ほら、ハヤトもケガしないようにやってくれるし! アトラクションの一環みたいな感じだって!」
「あははっ。それは光栄だね・・・っと」
「っと・・・って・・・みぎゃああああああああ‼」
寝転がったままのハルの腕をとって、一回転して倒れ込みながら、両腿で二の腕を挟み込む。
同時に右脚で首を上から(もちろん優しく)抑え込み、腕を掴んだまま上体を背中側に倒した。
所謂、腕ひしぎ十字固めというヤツだ。
「痛い痛い痛い‼ ロープロープ‼ ってかこの技ステージ映えしないだろぉー‼」
「もちろん。だから、ハルにしかかけないよ」
「まずかけんなよ‼」
「あれ~? 嬉しいんじゃないの~?」
「嬉しくねーよ‼」
涙目で「地味で痛いヤツって最悪のパターンじゃんかぁ‼」と悲痛な叫びを上げるハル。
兄の姿を見て大笑いするみーちゃん。
砂浜を叩いてカウントを取り出す山田さん。
薄く笑って「元気っスねぇ」と口にしながら新しいタバコに火を点けるサキ。
・・・流星群を見に来たはずなのに、もう誰も星の事なんて気にしちゃいなかった。
でも──それでいいんだ。皆が笑顔でいられる事が、一番大事だ。
明日も、明後日も、そのまた明日も、ずっとずっと・・・。
永遠がない事なんて知っているけれど、それでも、当たり前のようにこんな日々が続くって、僕は心から信じている。
ひときわ輝く流れ星が、僕たちの見ていない夜空で涙のように光った。
※ ※ ※
ココハ、ドコ・・・?
アツイ・・・アツイ・・・カラダガ、アツイ・・・・・・
ナニモミエナイ・・・キコエナイ・・・
アツイ・・・アツイ・・・・・・イタイ・・・イタイ・・・
・・・・・・ワタシハ、ダレ?
イタイ・・・アツイ・・・クルシイ・・・・・・
『ダレカ─────タスケテ』
うんうんと唸っていると、みーちゃんに本気で心配されてしまう。
すかさず大丈夫だよと返事をしつつ・・・このままにするのも気持ち悪いし、素直に皆に聞いてみる事にする
「えっと・・・いま誰か・・・「たすけて」って言った?」
当然ながら、今はそんな緊迫した状況下ではないわけで・・・皆きょとんとしてしまう。
「えっ? 私は何も聞こえなかったけど・・・」
「あたしも特に。山サンは?」
「わ、私も言ってない。・・・ち、ちなみにさっきつらいって言ったのは、体調の話じゃなくて、ハヤトくんの肉体の神々しさに対して脳がショートしてしまったというかですねその」
「誰も聞いてねぇぞ~山田ぁ~!」
「うっさい桜井‼」
・・・この二人は、放っておくとすぐケンカしちゃうんだよなぁ・・・・・・
あはは・・・と無意識に困った笑いが出たところで、ハルがこちらに向き直る。
「まぁ山田の暴走はともかく、俺も何も聞こえなかったけどな」
そして、ハルは顎を擦ってから・・・何かを思いついた素振りをした。
「・・・ハヤト。お前、普段から犬猫を拾い過ぎて、ついに助けを求める動物の声が聞こえるようになったんじゃねーか?」
「いやいやいや・・・さすがにそれは──」
「ありえる!」
「ついにっスか」
「ハヤトくんすごい・・・!」
否定しようとした所で周囲から納得の声が相次いで、思わずズッコケてしまう。
「いや出来ないからねっ⁉」
「いや~! さすがは「宇宙人」だな!」
「ちょっ・・・! もぉ~! それ本当にやめてってば~!」
・・・十年前、記憶喪失になった後──
二週間も失踪してたのに、衰弱する事もなく帰って来られたはいいけど・・・
なにせ多感な小学六年生たちの輪の中にそんな状態で飛び込まなきゃいけなかった僕は(自分の中ではまだ五年生だったけど)、「宇宙人にチップ埋め込まれてきた」と友達からからかわれ──
気付けば噂が独り歩きして、「宇宙人そのもの」という事になっていたのだ。
もちろん、あくまでいじりの範疇だったし、クラスの委員長というカタブツじみた肩書きの僕をからかいたかったのもあるとは思う。
でも、当時は結構辛かったんだよなぁ・・・噂の発端は目の前の彼なんだけど・・・・・・
「・・・思い出したら、ちょっとムカムカしてきた」
「えっ」
ちょっとした仕返しをしようと・・・じとりとした目つきでハルを睨んだ。
「あっ、お兄ちゃん地雷踏んだ」
「明日も仕事っスからね~程々に。止めないケド」
「レディ~~ファイッ‼」
お決まりの流れを察して、女性陣がさっとその場から離れ──ハルとボクの周りに即席のリングが出現する。
・・・地面は砂浜だし、少し派手なヤツでもいっか。
「いやちょっまっ──」
ハルが逃げようと立ち上がると同時に、僕は後ろを向く。
何もしてこない事にハルが油断したその刹那・・・僕は腰を思い切りひねって、右脚を大きく振り上げて飛び上がる。
そして、右の太腿がハルの肩に乗った直後、お尻をクンッ!と振ると、勢いにつられて持ち上がった左脚が反対側の肩に乗り、両脚が首をロックした。
「受身とってね?」
「うおあああああああ~~~ッ‼」
振り子の要領で、首ごとハルの上体が放り出される。
咄嗟の事ながら前転して首を守り背中で着地するあたり、長年の特訓の成果が見て取れた。
「決まったァ~~~~‼ 見事なフランケンシュタイナーだァ~~~‼ 腰のひねり! 技の入り! 全てが美しいぃ~~‼ 卓越した練習時間が織りなす技の芸術! 磨き抜かれた至高の御業! 此処! 横須賀の地に今! 新たな伝説が誕生したァ~~~~‼」
「あはは・・・ありがとう山田さん」
山田さんのアツい実況が入る。
恥ずかしいけど・・・実は結構嬉しい。
ちなみにこの動きはステージ用に背中で着地しやすいように投げてるから、正確には脳天をマットに叩きつけるフランケンシュタイナーとは違う技なんだけど、投げる直前までは一緒だからそこはご愛嬌。
山田さんもわかった上で・・・いや、この熱の入り様を見てると・・・どうなんだろう・・・?
「ちくしょ~! ・・・でも思いっきり倒されたのにあんま痛くねぇのがすげぇ~~」
「もちろん優しく投げたのもあるけど、ハルの受け身がうまいからだよ」
「昔はずっと練習に付き合ってたせいか、久々に技食らうと懐かしい気持ちになるんだよな。ちょっと嬉しいと言うか・・・」
「えっ・・・お兄ちゃんってそういう・・・?」
「いや! 違ぇけど! 気持ちいいとかではねぇけど! ほら、ハヤトもケガしないようにやってくれるし! アトラクションの一環みたいな感じだって!」
「あははっ。それは光栄だね・・・っと」
「っと・・・って・・・みぎゃああああああああ‼」
寝転がったままのハルの腕をとって、一回転して倒れ込みながら、両腿で二の腕を挟み込む。
同時に右脚で首を上から(もちろん優しく)抑え込み、腕を掴んだまま上体を背中側に倒した。
所謂、腕ひしぎ十字固めというヤツだ。
「痛い痛い痛い‼ ロープロープ‼ ってかこの技ステージ映えしないだろぉー‼」
「もちろん。だから、ハルにしかかけないよ」
「まずかけんなよ‼」
「あれ~? 嬉しいんじゃないの~?」
「嬉しくねーよ‼」
涙目で「地味で痛いヤツって最悪のパターンじゃんかぁ‼」と悲痛な叫びを上げるハル。
兄の姿を見て大笑いするみーちゃん。
砂浜を叩いてカウントを取り出す山田さん。
薄く笑って「元気っスねぇ」と口にしながら新しいタバコに火を点けるサキ。
・・・流星群を見に来たはずなのに、もう誰も星の事なんて気にしちゃいなかった。
でも──それでいいんだ。皆が笑顔でいられる事が、一番大事だ。
明日も、明後日も、そのまた明日も、ずっとずっと・・・。
永遠がない事なんて知っているけれど、それでも、当たり前のようにこんな日々が続くって、僕は心から信じている。
ひときわ輝く流れ星が、僕たちの見ていない夜空で涙のように光った。
※ ※ ※
ココハ、ドコ・・・?
アツイ・・・アツイ・・・カラダガ、アツイ・・・・・・
ナニモミエナイ・・・キコエナイ・・・
アツイ・・・アツイ・・・・・・イタイ・・・イタイ・・・
・・・・・・ワタシハ、ダレ?
イタイ・・・アツイ・・・クルシイ・・・・・・
『ダレカ─────タスケテ』
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