恋するジャガーノート

まふゆとら

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第一話「記憶のない怪獣」

 第一話・プロローグ

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◆プロローグ


「わぁっ! 流れ星だ!」

 ──これは、記憶だ。幼い頃の。





「ねぇ知ってる? 流れ星って、隕石なんだよ!」

 夢の中で僕は、隣に立つ女性に得意げに知識を披露する。

『へぇ、そうなの』

 子供の頃は、星が好きだった。

「夜空の星って、ずーっと昔の光が届いてるんだよ!」

『へぇ、そうなの』

 夜になると空いっぱいに訪れる、不思議な世界。

 キラキラと光るもう一つの海に、僕は憧れにも近い感情を抱いていた。

 けど、それ以上に──

「・・・この星のどれかが、お母さんなのかな」

 その正体の何たるかを知っていてもなお、心のどこかで信じたかったのかもしれない。

 星になったと告げられた母さんが・・・いまだこの世界のどこかにいると。

 星になったなら、会いに行けばいいのだと。

 そのために──母さんがいなくなってからは余計に熱心に、星の事ばかり勉強していた。

 

『お母さんに、会いたい?』

 女性がこちらに向き直って、僕に問う。
 その顔はもやがかって、目鼻があるかどうかすら判別できない。

「うん。会いたい──会いたいよ」

 それは、本当に純粋な願い。

 憧れたあの背中に、もう一度追い縋りたかった。懐かしいあの温もりの中へ、今一度帰りたかった。

『そのためなら、何でもする?』

 それは、夢だ。叶わない夢だ。
 でも、この時の僕は、間違いなく本気だったと思う。

「うん! もう一度・・・お母さんに会えるなら!」

 もう、何度も何度も見た夢だ。この後のセリフは分かっている。

『そう。それじゃあ、目を閉じて──』
 
 ───そして、目を閉じた僕が次に目を覚ますのは、病院のベッドの上。

 僕が「誰かと会うために」出ていったっきり戻らなくなってから二週間後、家の近くの砂浜で倒れていたところを発見されたと、後から聞いた。

ケガもなく、無事に帰ってこれたけど、目が覚めた僕からは──母さんが死んでから一年間の記憶が、全て失くなっていた。 

 幼い頃、僕がの・・・唯一覚えている記憶が、この夢だ。

 この女性が誰だったのかは、今でも分からない。全く知らない人だった気もするし、とても大切な人だった気もする。

 十年間、毎日のように見ている夢。

 飽き飽きするほど繰り返されながらも、いつも肝心なところは真っ暗闇な視界の向こう側。

 もどかしさにさいなまれながら、十年前の僕は言われるがままに目を閉じる。


 いつもと同じ夢の、
 いつもと同じ終わり方───




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