恋するジャガーノート

まふゆとら

文字の大きさ
2 / 325
第一話「記憶のない怪獣」

 第一話・プロローグ

しおりを挟む




◆プロローグ


「わぁっ! 流れ星だ!」

 ──これは、記憶だ。幼い頃の。





「ねぇ知ってる? 流れ星って、隕石なんだよ!」

 夢の中で僕は、隣に立つ女性に得意げに知識を披露する。

『へぇ、そうなの』

 子供の頃は、星が好きだった。

「夜空の星って、ずーっと昔の光が届いてるんだよ!」

『へぇ、そうなの』

 夜になると空いっぱいに訪れる、不思議な世界。

 キラキラと光るもう一つの海に、僕は憧れにも近い感情を抱いていた。

 けど、それ以上に──

「・・・この星のどれかが、お母さんなのかな」

 その正体の何たるかを知っていてもなお、心のどこかで信じたかったのかもしれない。

 星になったと告げられた母さんが・・・いまだこの世界のどこかにいると。

 星になったなら、会いに行けばいいのだと。

 そのために──母さんがいなくなってからは余計に熱心に、星の事ばかり勉強していた。

 

『お母さんに、会いたい?』

 女性がこちらに向き直って、僕に問う。
 その顔はもやがかって、目鼻があるかどうかすら判別できない。

「うん。会いたい──会いたいよ」

 それは、本当に純粋な願い。

 憧れたあの背中に、もう一度追い縋りたかった。懐かしいあの温もりの中へ、今一度帰りたかった。

『そのためなら、何でもする?』

 それは、夢だ。叶わない夢だ。
 でも、この時の僕は、間違いなく本気だったと思う。

「うん! もう一度・・・お母さんに会えるなら!」

 もう、何度も何度も見た夢だ。この後のセリフは分かっている。

『そう。それじゃあ、目を閉じて──』
 
 ───そして、目を閉じた僕が次に目を覚ますのは、病院のベッドの上。

 僕が「誰かと会うために」出ていったっきり戻らなくなってから二週間後、家の近くの砂浜で倒れていたところを発見されたと、後から聞いた。

ケガもなく、無事に帰ってこれたけど、目が覚めた僕からは──母さんが死んでから一年間の記憶が、全て失くなっていた。 

 幼い頃、僕がの・・・唯一覚えている記憶が、この夢だ。

 この女性が誰だったのかは、今でも分からない。全く知らない人だった気もするし、とても大切な人だった気もする。

 十年間、毎日のように見ている夢。

 飽き飽きするほど繰り返されながらも、いつも肝心なところは真っ暗闇な視界の向こう側。

 もどかしさにさいなまれながら、十年前の僕は言われるがままに目を閉じる。


 いつもと同じ夢の、
 いつもと同じ終わり方───




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...