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サキュバスの平和的解決
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絶対に、上を見ちゃダメよ。
タチアナは警察と白服部隊の全員に固く念を押してから、クリスタルギャラリーの道路向かいにあるビルの屋上へのぼった。
そのビルは八階建てだ。屋上からはほどよい角度でギャラリー七階の会議室の窓が見下ろせる。先ほど犯人が大きな穴を開けた窓だ。
タチアナは、地味な長袖のパンツスーツを思いきりよく脱ぎ捨てた。真っ白な肌が日光を受けて輝いた。
スーツの下には、黒のビキニを身につけている。大事なところをギリギリ隠すのにしか役立っていない、布地のごく少ないビキニだ。
タチアナが念じると、背中に禍々しい黒い翼が現れた。
人間社会で長く暮らしているタチアナは、サキュバス特有の角も翼も自由に出し入れできる。翼は、服を着る邪魔になるので、ふだんは隠してある。
だがやはり、翼を存分にはためかせ、風を打って宙を舞うのは気持ち良いものだ。
タチアナは、ふわりと飛んだ。道路の上空を横切り、足から先に会議室の窓に飛び込んだ。
中はかなり広かった。天井高があるせいで、さらに広く見える。重役会議など限られた用途に使われる会議室なのだろう。一面の壁がディスプレイになっている。床には毛足の長い絨毯が敷きつめられ、高価そうな円卓と椅子がゆったりと配置されている。
立てこもり犯らしい十三人の男たちが、その円卓や椅子に思い思いに腰を下ろしていた。
人質は円卓の真ん中、机に囲まれた床に全員うつ伏せに寝かされていた。頭の後ろで手を組まされている。
黒のピンヒールで、体のバランスをまったく崩さずに着地したタチアナは、そうした室内の状況を一瞬で見てとった。
犯人たちは呆然としてタチアナをみつめていた。
ほぼ裸に近いセクシー美女が、いきなり七階の窓から飛び込んできたのだ。しかも背中に大きな羽を生やしている。場違いどころの話ではない。
驚きと混乱が、どの男の顔にも浮かんでいた。
タチアナはそんな彼らに色っぽく微笑みかけた。
「お兄さんたち、こんにちは~、なんちゃって。うふ」
蜜をまぶしたような甘い声で囁く。かわいらしく小首をかしげて、
「あんたら全員、あたしの餌食よ。せいぜい楽しませてね」
男たちの視線がこちらに釘づけになっているのは、好都合だった。タチアナは一瞬で全員を〈魅了〉することができた。
あとはただ無抵抗な獲物をむさぼるだけだ。
思う存分食べられる。タチアナはぺろりと舌なめずりをした。しかし、お楽しみの前にやらなければならないこともある。
「人質の皆さん。あたしはインターポールのシャポワロフ捜査官です。犯人は全員制圧しました。皆さんはもう安全です」
タチアナは、床にうつ伏せに寝ている人質に向かって呼びかけた。
「ただし! 犯人を無力化するために、いろいろやらなきゃならないことがありますので。しばらく目を閉じて、そのままじっとしていてください。あたしがいいと言うまで目を開けたり、顔を上げたりしちゃいけません。わかりましたね? 何か気になる音が聞こえるかもしれませんが、絶対に見ちゃダメです。うっかり見たりしたら……何年も最悪のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむことになりますよ。これ、本当です」
それから約一時間。人質たちは大変な苦行を強いられることになった。
どうやら、自分たちはもう、生命の危険にはさらされていないらしい。先ほどまでの痺れるような恐怖からは解放された。
代わって直面したのは、好奇心との戦いだ。
「お"お"ぉぉ"お♡♡♡」
「ンォ゙ッッ♡♡ぁ待っ♡♡♡でゅ、出っ……んひっ♡♡♡」
「あ゙っひん♡♡ひい゙っ♡…っやめ…っぅ゙お゙っ♡♡」
おぞましく不気味な男たちの声が延々と続く。
いったい何が行われているのか、人質たちには見当もつかない。
気になってたまらず、薄目を開けて確かめたいという欲求に駆られるが。
「うっかり見たらPTSDに苦しむ」というインターポール捜査官の警告には、妙な説得力がある。
うつ伏せに寝かされたままの人質たちは、目を閉じて、犯人たちの吠え声を聞き続けるしかなかった。
「ひぎぃッ⁉︎ やめ……ッあ⁉︎ あ゛あ゛ぁっ♡♡」
「ふぐぅッッ♡♡ ふお"ぁッッ♡♡ ふぐう"う"うううッッッ♡♡♡」
「だ、だめだ、やめっ、っむ、ふぅぅんッ♡ むぅうん、むぅ゛~~~~~~~ッッッ♡♡♡」
タチアナがようやく満足した頃には、犯人は全員裸に剥かれ、床の上で白目をむいて痙攣していた。
殺す寸前で止めたが、この男たちが再び自分の足で立てるようになるには、数週間かかるはずだ。
トラウマからは一生回復できないかもしれない。たぶん、二度と誰かを抱いたりはできないだろう。
「片付いたわ。人質は無事よ。突入して」
タチアナはスマホに上機嫌な声を吹き込んだ。
そして窓の穴から飛び出し、翼をはためかせて、道路の向かい側のビルまで飛んだ。警官たちと顔を合わせるまでには、さすがに服を着ておかなければならない。
たっぷり精を吸えた上に、大勢の被害者も無事に救出できた。タチアナは満足感に満たされていた。
七月と聡子から感謝の言葉を雨あられと浴びせられ、とても良い気分だった。
なんといっても六十人もの人質を助け出したのだ。あの無礼な署長でさえ、褒めてくれるかもしれない。
タチアナは警察と白服部隊の全員に固く念を押してから、クリスタルギャラリーの道路向かいにあるビルの屋上へのぼった。
そのビルは八階建てだ。屋上からはほどよい角度でギャラリー七階の会議室の窓が見下ろせる。先ほど犯人が大きな穴を開けた窓だ。
タチアナは、地味な長袖のパンツスーツを思いきりよく脱ぎ捨てた。真っ白な肌が日光を受けて輝いた。
スーツの下には、黒のビキニを身につけている。大事なところをギリギリ隠すのにしか役立っていない、布地のごく少ないビキニだ。
タチアナが念じると、背中に禍々しい黒い翼が現れた。
人間社会で長く暮らしているタチアナは、サキュバス特有の角も翼も自由に出し入れできる。翼は、服を着る邪魔になるので、ふだんは隠してある。
だがやはり、翼を存分にはためかせ、風を打って宙を舞うのは気持ち良いものだ。
タチアナは、ふわりと飛んだ。道路の上空を横切り、足から先に会議室の窓に飛び込んだ。
中はかなり広かった。天井高があるせいで、さらに広く見える。重役会議など限られた用途に使われる会議室なのだろう。一面の壁がディスプレイになっている。床には毛足の長い絨毯が敷きつめられ、高価そうな円卓と椅子がゆったりと配置されている。
立てこもり犯らしい十三人の男たちが、その円卓や椅子に思い思いに腰を下ろしていた。
人質は円卓の真ん中、机に囲まれた床に全員うつ伏せに寝かされていた。頭の後ろで手を組まされている。
黒のピンヒールで、体のバランスをまったく崩さずに着地したタチアナは、そうした室内の状況を一瞬で見てとった。
犯人たちは呆然としてタチアナをみつめていた。
ほぼ裸に近いセクシー美女が、いきなり七階の窓から飛び込んできたのだ。しかも背中に大きな羽を生やしている。場違いどころの話ではない。
驚きと混乱が、どの男の顔にも浮かんでいた。
タチアナはそんな彼らに色っぽく微笑みかけた。
「お兄さんたち、こんにちは~、なんちゃって。うふ」
蜜をまぶしたような甘い声で囁く。かわいらしく小首をかしげて、
「あんたら全員、あたしの餌食よ。せいぜい楽しませてね」
男たちの視線がこちらに釘づけになっているのは、好都合だった。タチアナは一瞬で全員を〈魅了〉することができた。
あとはただ無抵抗な獲物をむさぼるだけだ。
思う存分食べられる。タチアナはぺろりと舌なめずりをした。しかし、お楽しみの前にやらなければならないこともある。
「人質の皆さん。あたしはインターポールのシャポワロフ捜査官です。犯人は全員制圧しました。皆さんはもう安全です」
タチアナは、床にうつ伏せに寝ている人質に向かって呼びかけた。
「ただし! 犯人を無力化するために、いろいろやらなきゃならないことがありますので。しばらく目を閉じて、そのままじっとしていてください。あたしがいいと言うまで目を開けたり、顔を上げたりしちゃいけません。わかりましたね? 何か気になる音が聞こえるかもしれませんが、絶対に見ちゃダメです。うっかり見たりしたら……何年も最悪のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむことになりますよ。これ、本当です」
それから約一時間。人質たちは大変な苦行を強いられることになった。
どうやら、自分たちはもう、生命の危険にはさらされていないらしい。先ほどまでの痺れるような恐怖からは解放された。
代わって直面したのは、好奇心との戦いだ。
「お"お"ぉぉ"お♡♡♡」
「ンォ゙ッッ♡♡ぁ待っ♡♡♡でゅ、出っ……んひっ♡♡♡」
「あ゙っひん♡♡ひい゙っ♡…っやめ…っぅ゙お゙っ♡♡」
おぞましく不気味な男たちの声が延々と続く。
いったい何が行われているのか、人質たちには見当もつかない。
気になってたまらず、薄目を開けて確かめたいという欲求に駆られるが。
「うっかり見たらPTSDに苦しむ」というインターポール捜査官の警告には、妙な説得力がある。
うつ伏せに寝かされたままの人質たちは、目を閉じて、犯人たちの吠え声を聞き続けるしかなかった。
「ひぎぃッ⁉︎ やめ……ッあ⁉︎ あ゛あ゛ぁっ♡♡」
「ふぐぅッッ♡♡ ふお"ぁッッ♡♡ ふぐう"う"うううッッッ♡♡♡」
「だ、だめだ、やめっ、っむ、ふぅぅんッ♡ むぅうん、むぅ゛~~~~~~~ッッッ♡♡♡」
タチアナがようやく満足した頃には、犯人は全員裸に剥かれ、床の上で白目をむいて痙攣していた。
殺す寸前で止めたが、この男たちが再び自分の足で立てるようになるには、数週間かかるはずだ。
トラウマからは一生回復できないかもしれない。たぶん、二度と誰かを抱いたりはできないだろう。
「片付いたわ。人質は無事よ。突入して」
タチアナはスマホに上機嫌な声を吹き込んだ。
そして窓の穴から飛び出し、翼をはためかせて、道路の向かい側のビルまで飛んだ。警官たちと顔を合わせるまでには、さすがに服を着ておかなければならない。
たっぷり精を吸えた上に、大勢の被害者も無事に救出できた。タチアナは満足感に満たされていた。
七月と聡子から感謝の言葉を雨あられと浴びせられ、とても良い気分だった。
なんといっても六十人もの人質を助け出したのだ。あの無礼な署長でさえ、褒めてくれるかもしれない。
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